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2012年 05月 07日
[平成二十四年四月かばん関西歌会・歌会記] 今回の兼題は若葉の「若」。この漢字を使っていればどの様な慣用読みでも良しとした。難しかったのか出足は不調だったが、最終的には十名が、題詠十首・自由詠十首、計二十首の詠草を投歌した。また、選歌・コメントには一名増の計十一名が熱い思いを記して下さった。 ■参加者 雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月)、蔦きうい(購読/玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、那由多(選歌のみ)、野埜百合、紀水章生(中部短歌会/塔)、三澤達世 ■兼題「若」の部 〈頂上対決〉 桜咲く薪能にて金色【こんじき】の業ゆらめかす般若の瞳 雨宮司 7点 ひととせをまた旧りぬれば花の下野鯉の鰭は若らかに揺る 十谷あとり 8点 片や実力よりもムラッ気が先に立つへっぽこ歌人・雨宮。片や毎月の如く完成度の高い作品を詠み続ける実力派・十谷氏。ムラッ気が恐ろしい方向に作用し、共に大多数の支持を集める激戦となった。「幽玄だ」「まとまりがある」といつにない高評価の雨宮作品。「格調高い」「目に浮かぶようだ」など、コンスタントに評価を集める十谷作品。互いの作品に加点するという状況の中、双方一歩も引かない展開に。決着をつけたのは、最後に選歌した三澤氏の1点だった。 〈若さって、〉 エッチなるDVDに保存されこのまま若くあれ椎名りく 黒路よしひろ 3点 風邪やねとおずおず諮る若先生が過去をつよがる鰈のタトゥ 蔦きうい 2点 「シタモサバン」若いふたりの遅ごはん「明日も朝番」「お箸ちょうだい」 冨家弘子 1点 人を待つ時間の岸辺 若かつたあの頃ならば駆けだしてゐた 紀水章生 5点 一首目。毎月エロス歌に挑戦している黒路氏。今回は「エッチなる」という言葉に評価が集まった。「俗に過ぎる」との辛い評もあったが、「妙な可笑しさがある」「男の子なら一度は通る道」など、好意的な評が多かった。ちなみに、椎名りくはAV女優らしい。 二首目。「若先生」よりも、「鰈のタトゥ」に衆目の関心が集まった。「蝶の間違いでは」「鰈とは珍しい」との意見が出る中、「若先生」と「タトゥ」とのギャップへの言及も少なからず見られた。 三首目。「シタモサバン」の謎に全員が挑む展開に。「解からない」と頭を抱える者も少なからずいる中、第四句「明日も朝番」を食事しながら話した時の声をそのまま表記したのでは、という見解が優勢に。 四首目。「時間の岸辺」という表現に対し、「既視感がある」「歌のイメージが分散する」という評も見られた一方で、「主題に合っている」「年齢をある程度重ねた者の歌とすると深みがある」など、高評価もあった。 〈表現いろいろ。〉 一昨日も食べたセットのコーヒーをアイスに変えて若夏のカフェ 三澤達世 3点 しんぷから与えれらえたるキスの味死刑若しくは無期懲役 ガク 1点 若王子【にやくわうじ】から銀閣寺肩よせて西田幾多郎思索しし径【みち】 野埜百合 2点 花のあと正しく若葉ひろがりぬ1たす1が4になった日 有田里絵 1点 一首目。「若夏」に高評価が集まるものの、辞書に載っていない点を気にする者もいた。若夏とは沖縄で季節を表す言葉らしい。カタカナの多さへの指摘もあったが、軽い調子に合っていると肯定的に捉えられた。 二首目。「神父」か「新婦」か。どうやらどちらにも掛けているらしい。結婚が死刑宣告だとはまた古風な。「若しくは」は確かに、言われてみるまではなかなか思いつかない用法。 第三首。若王子という地名を使い、哲学者・西田幾多郎ゆかりの哲学の道を導きだす手法はなかなかのもの。……だったが、「思索しし」が文法的に間違っているのが大きな減点対象に。短歌はやはり、ひと言が恐ろしい。 第四首。下句の謎に論点が集中した。はて、「1たす1が4」とは? 事情を知っている者は家族が増える様をある程度容易に想像できたようだが、言語表現は多くの者に伝えられてこそのもの。元のかたちそのままでは、少し伝わりづらいと思う。 ■自由詠の部 自由詠は小党乱立の感があった。比較的評価の高かった詠草を掲載する。敢えて評は載せない。皆様もあれこれ推察してみてほしい。 非対象のセーター一枚畳みかね首をかしげる夫を眺むる 三澤達世 6点 ※歌会終了後、作者から「非対象」は「非対称」の誤変換だったとの申し出があった。 春の疎林くすぐりながら飛びまがふしじふからお前に話がある 十谷あとり 5点 酸欠の金魚のやうに水滴のつたふガラスの空へ貼りつく 紀水章生 4点 死してなお謀殺説が口の端にノーマ・ジーンの長き夕影 雨宮司 4点 少年が伏目のおくで醸すのはピアノ教師の秘せるきたかぜ 蔦きうい 4点 冷蔵庫に桃の缶詰冷やしあるあなたの好きなわたしの好きな 野埜百合 4点 今月も盛会だった。詠草を出して下さる皆様の協力があって初めて成立する会なので、こうやって歌会が成立し続けていることには感謝しなければならない。興味を持たれた方は、よろしければ一度参加していただきたい。必ず、何か得るものがあると断言できる。お待ちしています。(雨宮司・記) 2012年 04月 01日
![]() [参加者]雨宮司、有田里絵、伊井平助(選歌のみ)、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、那由多、野埜百合、三澤達世 今回の兼題は『てん』と読む文字一文字(以上)を詠み込むという難題でしたが、動物の「貂(テン)」や「点取占い」など、年度末のお忙しい時期にもかかわらずさまざまな『てん』を持ち寄って、12名の方が参加してくださいました。 以下に、兼題『てん』の投稿歌を紹介していきたいと思います。 ・春雷やしまいわすれた雛壇のうらで愁いを紡ぎいる貂 蔦きうい 幻想の一首だろうか。はたまた剥製や襟巻きの貂であろうか。 読み手によってさまざまな解釈が出たが、妖怪としての側面も持つ貂という動物の魅力と相まって高得点を得た一首。 自分も生きて行く限り何処かでこの貂のように愁いを背負ってしまうのだろうとのセンチメンタルな感想も。 ・くろしおはてんてんてんまりてんてまり鳴らし停車す春の待つ駅 紀水章生 紀州線の「特急くろしお」を詠った一首。くろしおの車内チャイムに流れる「鞠と殿様」の長閑さが結句の「春の待つ駅」とマッチして素敵だ。 列車名のひらがな、歌詞のひらがながあたたかく、明るくて気持ちいいなど、かばん関西には電車好きが多かったこともあり好意的な評が集まった。 ・ベランダの凪と「・・・」(てんてんてん)を聴くひとりあそびの咳の夜には 冨家弘子 「・・・」(てんてんてん)という思いきった表現が読み手の想像を刺激する歌。 そこに病床の寂しい気持ちを読み取る者や、波と波の間の静寂を楽しむ気持ちを感じ取る者などもいた反面、凪は夜のイメージではないような気がするとの違和感や、「ベランダの凪」という表現の性急さを惜しいとする意見も出た。 ・子供らの取り出だしたる一日の点取占いめいた断片 三澤達世 占いとも言えないような断片的な言葉で書かれる「点取占い」のように、子供たちが語る一日の出来事を親のあたたかな視点で詠んだ歌。 個人的にはもうすこし高く評価されてもよかった一首だと思うが、読み手の「点取占い」に対する認知度の違いで票が分かれてしまったようだ。 ・点字にて会話する子の描く街画用紙の上あふれるクレヨン ガク 障害と共に生きる子のたくましさを、溢れんばかりのクレヨンで描いた街の絵を通して表現した一首。 下の句のまとめ方が少し安易に感じるとの意見や、視覚障害の子どもならばそこに「あふれるクレヨン」には留まらない何かがあるはずで、「あふれる」では迫力不足ではないかとの指摘も。 ・輪転機回れよ回れゴシップにおどらされるは読み手か我か 雨宮司 栗木京子氏の「観覧車回れよ回れ…」の歌の本歌取りか。ユーモアのある作風を評価する意見がある一方、もと歌に位負けしているのではとの厳しい指摘もあり、歌会後に推敲した「ゴシップにおどらされるは輪転機回れよ回れ読み手も我も」という歌が披露された。 ・東京へ引っ越しますという人の空気入れあり自転車置き場 有田里絵 春という旅立ちの季節の影響もあってか多くの共感を得、9票を集めた最高得点歌。 関西在住の詠み手が東京に抱くほんのりとしたコンプレックスのようなものが匂って感じられるとの指摘も。 十谷氏による、人がいろんなものを忘れてゆく春だなあとのコメントが印象に残った。 ・教室に都会のかおり漂わせ転校生のミナコ現る 黒路よしひろ 転校生ミナコの登場を、少女漫画のサブタイトル的なインパクトを狙って詠んだ一首。 「ミナコ現る」が「ゴジラ出現」のようにインパクトがあり、だから初めて教室に入るといつもみんながやや迎撃態勢を取っていたのだと納得してしまった、という自身の子供時代の転校生生活を思い出す方もいた。 ・天婦羅の海老になる夜一人分の体温纏って身体を捩る 那由多 ひとり寝のわびしさに身を捩る姿を海老に、一人分の体温を纏うという感覚を天麩羅のころもに譬えて魅力ある一首。 そこから身をよじるようなつらい出来事を感じ取る者や、カフカの「変身」を連想する者もいて読みが広がった。また、一言ずつの言葉は面白いが、すべて繋がると追ってゆくのがつらくなるとの指摘も。 ・足の折れた天使のためにこひびとがあたためなほす蹼のスウプ 十谷あとり 蹼は「みずかき」と読む。「こひびと」が誰のこひびとなのか。天使か、作者か。また天使の恋人同士なのか、一方は人間なのかなど、この不思議な雰囲気の作品を読み解こうとする評で盛り上がった。静謐な感じのするスレンダーな身体で表現された宗教絵画のようとの意見も。 蹼のスウプという具象を活かすには、天使ではなくて人間を使ったほうがいいように思うとの指摘もあった。 ・天国の恋しき人に見すために植ゑしあさがほ天上の青 野埜百合 天国の恋人に見せるために植えた青い朝顔の品種、「ヘヴンリー・ブルー」を詠んで魅力的な一首。 「天」という字が二つ入っているがそれがむしろより一層歌の世界を引き立てているように思う、など好意的な評がある反面、「恋しき」が読者にとっては言い過ぎなように感じられるとの指摘もあった。また、「見す」は連体形で「見するため」とするべきでは?との指摘に、歌会後、この「ために」は接続詞として使ったのだとの作者の解説があった。 つづいて、自由詠の高得点歌も数首紹介しておきます。 ・青空にリボン結わえているように子らのつないだ両手は上に 有田里絵 ・ところでと娘が云ったところでね幽霊買うて春昼烈日 蔦きうい ・湖岸より静かになだれ落ちる霧しろいかなたの水鳥の影 雨宮司 ・篁【たかむら】が袖ひるがえし天駆ける六道の辻春一番に ガク 以上、かばん関西三月歌会報告でした。 (黒路よしひろ/記) 2012年 03月 09日
[平成二十四年二月かばん関西オンライン歌会記] <参加者> 雨宮司・有田里絵・ガク(ゲスト)・紀水章生(中部短歌会/塔)・黒路よしひろ(ゲスト)・十谷あとり(日月)・蔦きうい(玲瓏)・冨家弘子(ゲスト)・那由多・野間亜太子・野埜百合・文屋亮(玲瓏)・三澤達世・山下りん(ゲスト、選歌のみ) 有田さんが出題された「角」が、みなさんの琴線をびしばしヒットしたのでしょう。参加者十三人を数える空前絶後の大盛会となりました。また、五首選ぶのは本来楽しいことのはずですが、今回は苦痛にすら思えるほどハイレベルな歌が集まりました。七万字超の膨大なコメントを編集された有田さん、お疲れ様でした。 【生物の一部としての「つの」】 ●落とし角を拾ふつかの間すれ違ひ見失ひしは春の神さま 十谷あとり ●ふれたれば角ひつこめる蝸牛小さきものは葉とともに揺る 紀水章生 ●和三盆の馥る切手を売つてゐる壱角獣が憶ふ少女は 蔦きうい お題「角」が節分の鬼からの連想でしたので、やはり生物の「つの」がまず発想されましょう。最高得点歌の一首目、鹿が落した角をひろう間に軽やかに通り過ぎた春、そこに温かみ、ユーモラスと同時に畏怖、敬虔を感じるとの評も。二首目は、何気ない情景に落ち着きと優しさが感じられて魅力的な歌。三首目、和三盆が馥る切手のイメージが美しい歌。他に一角獣もう一首、鹿の角もう一首、鬼一首ありました。 【物質の形状としての「かど」「かく」】 ●バレンタイン前夜のキッチンそわさわと「角が立つつてどういふことなの」 文屋亮 ●対なれど重なり切らぬ間柄三角定規の太めがわたし 有田里絵 ●角部屋のハウスクリーニング料金が少し高いと知り初める春 三澤達世 ●二丁目の角で足踏み朧月は満ち欠けをもう一巡待たむ 野埜百合 ●角砂糖溶かして笑う私には闇を飲み干す勇気もなくて 那由多 ●角氷琥珀にとけて露となる君の言葉がにじむ一刻 ガク ●角瓶が分相応とハイボール作る傍から飲み干している 雨宮司 一首目、料理に不慣れな女の子の姿が微笑ましい歌ですが、「そわさわ」という擬態語に賛否両論。二首目、二人の関係を三角定規にたとえたのが手柄、女性に共感者多数ありました。三首目、面白い素材をただポンと投げ出した歌いぶりが人生の機微を表現していると好評。四首目、「角で足踏み」というのが綺麗で心に染みる歌ですが、破調が足踏みや満ち欠けを表現しているとの高度な解釈も。五首目、この勇気とは何か、「清濁併せ呑むだけの度量」「人の気持ちの裏側を受け入れる度量」との鋭い指摘も。六首目、にじんだ「言葉」が何だったのか、「露となる」が失恋を想起させるという意見の反面、恋のはじまりを感じた人も。七首目、淋しげな大人の男の静かな魅力をうたった一首。今回は他にもお酒の歌が多かったですね。他に街角二首、道路の角が一首ありました。 【人間の心性の象徴としての「かど」「つの」】 ●今宵またヒト科のメスが角を出すところを見たり酔いの眼【まなこ】で 黒路よしひろ ●角【つの】であるところの毛玉むしる母 茜の空はどこまでも静か 冨家弘子 ●ものの角やはらぐるごとく雪ふりつむ護岸工事の蛇篭のうへに 十谷あとり 「角」を心情の比喩として捉えた作品もありました。一首目は怒りの発露として「つの」を使っていますが、意外にユーモラス、やわらかいとの意見も。二首目、いらいらする母親の情念を角に託して鬼気迫る、茜の空がその狂気を象徴しているとの指摘も。最高得点歌の三首目は直接心性を表現してはいませんが、「私の中にも積もってほしい」等、精神的なものをやわらげるという解釈が三人いました。 【自由詠の高得点歌】 ●冬空に太つた天使が八百万土俵入りするところ雪まくところ 文屋亮 ●呟いた文句を蹴って帰りみち年寄りの犬と月に聞かれた 冨家弘子 ●ひつじ柄パジャマの子らを抱きしめたら何も数えぬうちに眠れた 有田里絵 ●ファンシーな奴が落としたファンシーな造花が庭でいつまでも咲く 三澤達世 最高得点歌の一首目、太った天使を力士にみたてたユニークな発想に多くの読者が仰天し、歌の力を称えた大傑作。二首目、冴えない孤独な感じ、よるべない心象が表れていてせつない歌、犬と月が詩情あふれるとの感想も。三首目、キュートで愛らしい歌のなかに、抱きしめることは抱きしめられることに通じるという感触を得た読者もいました。四首目は「ファンシーな奴」に話題沸騰、おもわず住みたくなるような生活感に共感が集まりました。 (記/蔦きうい@四月から講読予定) 2012年 02月 03日
かばん関西一月オフライン歌会報告 [参加者]雨宮司 有田里絵 黒路よしひろ(ゲスト) 十谷あとり(日月) 一月二十九日(日)、大阪市中央区のボタン店事務所にてオフライン歌会を行いました。2012年上半期の歌会運営の打ち合わせ、特別企画の経過報告、歌会とプチ朗読会を行いました。歌会の互選上位歌は左記の通りです。 ・英文法正誤問題解き終えてバツが五つのわたくしなりき 有田里絵 ・秘密裏にすべては進む比類なき僕の「明るい家族計画」 黒路よしひろ 朗読会では、雨宮さんが穂村弘『にょにょっ記』、有田さんが『福田かおりさんの小さなおしゃれのアイデアノート』、十谷が『伊東静雄詩集』・絵本『てぶくろ』をそれぞれテキストとして使用しました。三名が他者のテキストを朗読する中、黒路さんは自作短歌の連作を熱を込めて披露して下さいました。自作を声に出して読むことの大切さをあらためて感じました。またこのような機会も設けていきたいと思います。 今回は会場に、蔦きういさん(玲瓏)が、お子様と一緒にお立ち寄り下さるというサプライズがありました。いつもメーリングリストで歌について意見を交わしている方と、実際にお会いして親交を深めることができ、とてもうれしかったです。 次回のオフライン歌会は五月頃を予定しております。(十谷あとり 記) 2012年 02月 03日
[平成二十四年一月かばん関西オンライン歌会記] 〈歌会参加者〉雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月)、月下桜(コスモス)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、那由多、文屋亮(玲瓏)、三澤達世 今回の兼題は進行係担当の不肖・雨宮の出題「松」。「必ず題を詠みこむこと」というコメントの下、十二名が兼題と向き合い、兼題の部二十一首、自由詠の部十一首、計三十二首の盛会となった。まず兼題の部から作品をいくつか紹介しよう。 〈松子って、誰。〉 ・云ひたきを云ひて脹るる五體なら引き倶しい行け松子絢爛 十谷あとり 3点 短歌のイメージに合う松子が誰なのかが読みの重要な争点となった。多くの者が「嫌われ松子の一生」の主人公だと主張する中、ひとり雨宮が「マツコ・デラックスでしょう」。コメント発表後の十谷氏のタネ明かしは、マツコ・デラックス。だって結句を英訳すれば、そのまんま名前になっちゃう。原文って重要ですね。 〈歌枕対決〉 ・末の松山やはり津波は越えざりきと多賀城の人【ひと】声を強くす 文屋亮 3点 ・来ぬ人を松浦【まつら】の姫の一途さに『万葉集』の頁を閉じる 雨宮司 無点 片や百人一首であまりにも有名な歌枕となった「末の松山」。片や万葉集の佐用姫伝説の舞台となった「松浦」。好対決になるかと思いきや、結果は一方的に。社会性をさり気なく織りこませた文屋氏に対し、「来ぬ人を松浦」は藤原定家が既に使っていると、チェックの甘さを指摘される雨宮。帰趨は明らかであった。 〈高得点歌〉 ・海鳴りの底にたゆたうひと妻の名を松風が運び去りにき 蔦きうい 7点 ・雪うさぎ松葉のひげを自慢げに陽だまりのなか吾子と跳ね飛ぶ ガク 6点 ・遠回しに言われて母を問う夕べ松いつまでもとんがっている 冨家弘子 6点 ・宿題で松ぼっくりがいるという娘と日暮れの歩道を探す 三澤達世 6点 ・この松はおまえにやると爺ちゃんに言われ戸惑う幼き僕は 黒路よしひろ 5点 一首目。津波に架空(と思われる)の事象を織りこませ、詩情のたゆたう、否、漂う短歌となった点に評価が集まった。「ひと妻」がポイントだという指摘もあった。 二首目。雪で作った兎か本物の兎かという点で見解は分かれたものの、楽しそうな一首だという点では衆目が一致した。どっちなんでしょうね。 三首目。なぜ「母に」ではなく「母を」なのかという意見が散見された。「母の死が暗示されている」、「母に会いに行く」など、様々な説が出された。下句に関しては、「全体の統一感を損ねている」との厳しい評がある一方で、気持ちが的確に表されているとの好意的な評も目立った。 四首目。「音がすぽすぽ壺にはまる」との意見も出るほど、自然に情景が流れている。親子の微笑ましい様子に心を和ませる意見も多く、順当な上位入りとなった。 五首目。盆栽か庭木かで見解が分かれたものの、祖父の孫に対する情と、唐突に松を譲られた孫の戸惑いに、理解や、感覚のずれを楽しむ意見が目立った。なお、作者によれば、本当は祖父ではなく祖母に言われたとのこと。 自由詠より、一部の作品を紹介いたします。 ・新幹線のりばに入れば新幹線だけしかこない白い車両の 月下桜 3点 ・音楽が好きで良かった同じ朝に起きても異なる歩幅で歩く 那由多 1点 ・後悔はもうしたくない朝イチにコピー用紙の束しならせる 有田里絵 5点 ・傾いたワインの角度を修正すトロッコみたいに危なつかしい 紀水章生 2点 一首目。奥村晃作氏のただごと歌を髣髴とさせる短歌。白い車両だけしか走らない路線区間は限られている、という指摘もあった。 二首目。「異なる歩幅で歩く」で夫婦生活の危機を連想する者、多数。違いを認めつつ互いに歩いていく、という連想は、実は非常に少なかった。ちなみに作者は「これは夫婦について詠んだ歌ではなく、音楽によって自分の様変わりしない日々の景色が様々に変化していく……」という自分自身の経験を元に詠んだあくまで個人的な歌である、と言っている。 三首目。朝から気を張って仕事に向かう姿が、様々な方から好感をもって迎えられた。具体的な内容の手がかりが欲しい、との指摘もあった。 四首目。ワインやトロッコを描いているようで、実は関係性の危うさを描きたいのではないか、また、この世の中は危なっかしいものに満ちている、という読解が相次いだ。中には、ワインセラーが自宅にあるのでは、という豪快(?)な読みも。 おかげさまで、かばん関西のメーリングリスト歌会も盛況を保っています。常識をわきまえている方ならば、どなた様も御参加いただけますから、どうぞお気軽にお問い合わせください。 モチベーションの維持は意外に大変なものですが、かばん関西では詠草やコメントの作成を面白がる気風が古くからあり、みんなで盛り上げていこうとする空気で満ちています。これからもこの気風を楽しむ人々であふれる場であり続ける様、現状に驕ることなく、しかし遊び心を忘れずに、皆で活動を続ける所存です。 (雨宮司) |
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