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2011年 12月 30日
かばん関西十二月歌会報告 [参加者]雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、那由多、三澤達世、山下りん(ゲスト) 兼題は「冬の食」。歳末諸事あわただしい中、十名の方がご参加下さり、美味しそうなものがたくさん並ぶ歌会となりました。互選上位作品は左記の通りです。 ・食【とう】ぶれば掌に粉雪を残しけるラムネを冬の菓子と思へり 十谷あとり ・聖護院大根よりも子の頭大きくなりて師走はじまる 有田里絵 ・理不尽な指令のくだる双六を家族で囲み月蝕を待つ 三澤達世 ・朝しぐれ小鍋のホットオレンジがさざめき迫る休め休めと 蔦きうい ・変な骨しくさりおってと言いながら河豚屋の若衆は白身をさばく 雨宮司 ◇話題となった一首 ・紅色の鎧引き裂き白き身を喰えば巌に砕け散る波 ガク ガクさんのこちらの歌の食材が何かで話題が沸騰しました。みなさんは何を連想されるでしょうか。 雨宮さん「蟹か伊勢海老か」 紀水さん「伊勢エビかな。クイズみたいですね」 山下さん「鯛のことでしょうか(違ってたらどうしよう)」 黒路さん「蟹のことであろうか?」 三澤さん「ホヤですね」 わたしも蟹を連想していました。甲殻類という読みが多かったのは、関西在住の読み手が多かったからかもしれません。 今年一年もたくさんの方と歌会をご一緒することができました。ありがとうございます。二〇一二年もどうぞよろしくお願いいたします。(十谷あとり 記) 2011年 11月 01日
かばん関西十月歌会 報告 [歌会参加者]あまねそう(詠草のみ)、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト 詠草のみ)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月/玲瓏)、月下桜(コスモス 選歌のみ)、蔦きうい(玲瓏)、那由多(ゲスト)、野間亜太子(詠草のみ)、ひろこ(ゲスト 選歌のみ)、文屋亮(玲瓏)、三澤達世 [いちご摘み参加者]雨宮司、ガク、紀水章生、黒路よしひろ、こまつかおり、十谷あとり、月下桜、那由多、ひろこ 今回の兼題は進行係担当の雨宮司さんご出題の「虫」。「奇をてらわず常識を踏まえても充分にいい歌が詠める」との出題者のコメントのもと、十二名が正面から「虫」と向き合い、兼題の部二十八首、自由詠の部十八首、合計四十六首を出詠しました。まず兼題の部より作品をいくつかご紹介いたします。 ・商店のしぼんだ浮き輪 蝉しぐれ 三浦半島 8月20日 あまねそう 夏の終わりの寂しさを、地名を含めた具象を並べることによってうまく描きだした歌。三浦半島という地名が効果的、全体の調べや下句のハ音の並びが気持ちいい、との評がありました。 ・放射能を恐れて過ごししこの夏の窓より一度だけ見たるホウジャク 文屋亮 放射性物質への不安に窓を開けることもできず、かといってクーラーをつければ節電が気になり……と、心の晴れない二〇一一年の夏を振り返った歌。ホウジャク(蜂雀=スズメガの一種)という、地味ながら身近な虫を斡旋したところに作者の観察眼の確かさが感じられます。 ・金粉が舞い立つように川面【かわも】へと揺れては動く蚊柱の夕 雨宮司 風情のある情景を切り取った作品。上句の直喩がよい、細かい表現がよいとの評を集めました。結句「夕」での体言止めや、ふりがなの必要性、動きの表現が忙しいのでは、と、表現に関する意見も出されました。 ・あめんぼの作る波紋に揺れている世界はどこか歪なかたち 黒路よしひろ あめんぼの小ささから、世界の大きさへと広げてゆく手法がよいと好感を呼び、互選八点を集めました。水面の歪さや世界の歪みに、何か象徴的なものを感じるとの評も。 ・闇出でて月の光を呼吸する野に鈴虫のこゑ響きたり 紀水章生 月の夜に鳴く鈴虫という、古くから詠みつがれてきた題材に正々堂々と向き合い、歌いおさめた作品。静かな描写がよい、奇をてらわず丁寧にまとめているとの読みが出されました。初句は「闇に」とした方がよいのではという意見もありました。 ・ゴキブリを捻り潰したあの人の目を見て少し怖くなる夜 那由多 今回の兼題に(害虫の歌ばかり出ていたらどうしよう)と、いささか不安もあったのですが、ゴキブリの歌が二首だけでほっとしました。閑話休題。ゴキブリよりも怖ろしいのはヒト?という一光景を切り取った歌。「叩き潰す」ではなく「捻り潰す」としたところから「あの人」ひいては人間の中に潜む凶暴性が伝わってきます。 ・月光に輝く病棟繭のごと内に消えゆく魂もあり ガク 安部公房の「赤い繭」を月夜に置き換えたかのような一首。病棟の中で、湯の中でほどかれる繭玉のようにすーっと消えてゆく魂があるとしたら、と、想像力を刺激されました。繭のように内に消える魂とはどういうことかわかりづらい、繭と魂の消失という組合せは相応しくないのではという意見もありました。 ・山葵香の生ハムランチ秋晴れのクスコ濠町蜻蛉亭にて 蔦きうい ことばを自在に遊ばせて世界を構築した歌。生ハムに山葵、秋晴れとクスコ、濠と蜻蛉という取り合わせもお洒落。ただ下句の情景は虚構味が強すぎて想像が追いつかず、読み手を置いてきぼりにする傾向も。長崎オランダ村、志摩スペイン村のように、どこかにクスコ村があるのかもしれません。 ・秋晴れに何も干さない銀の竿戻っておいで昨日のとんぼ 有田里絵 とんぼとに呼びかけるやさしさが素直に伝わる作品。無骨なステンレスの物干し竿も「銀の竿」と呼べば実に詩的。童謡「赤とんぼ」を彷彿とさせる、とんぼとの心の交歓がすてき、切ないところがよいとの評が出されました。 自由詠より、作品の一部のみご紹介いたします。 ・よく晴れた選挙の朝だドッグランを公約にする候補は無視で 三澤達世 ・台風にベランダ並ぶ生首を次に備えて1 部終へり 野間亜太子 ・届いている未来を投げ捨て生きる日々魚座の私は泳いで生きる 那由多 ・偽りのすがたを映す鏡からちひさな星のかけらを拾ふ 紀水章生 また、歌会進行の合間に、メーリングリスト上で「いちご摘み」を行い、九名の方から四日間で三十一首の作品をお寄せいただきました。 おかげさまでこの秋より新しいお仲間も増え、メーリングリスト歌会もますますにぎやかになってまいりました。また年末年始にオフライン歌会も催したいと考えております。どなた様もご参加いただけますので、どうぞお気軽にお問い合せ下さい。 かばん関西歌会が、これからもずっと、参加者のみなさんにとって、歌うモチベーションや刺激を得られる場、そして何より気持ちよく歌を楽しめる場でありつづけるよう、参加者のみなさんとともに盛り上げていきたいと思っております。(十谷あとり) 2011年 10月 06日
♪♪♪ かばん関西九月歌会記 ♪♪♪ 今月のお題は「私の秋」としました。自分にとっての秋を歌にしてみよう、という意図です。 参加者八名全員が提出数の上限まで詠んで送って下さったので、 兼題は二十四首、自由詠は十六首も集まりました。まさに大豊作! 久しぶりに参加して下さった方もあり、怒濤の取りまとめ作業に肩が痛くなりながらも、 歌会を続けていてよかったとしみじみ感じる秋の夜となりました。 <参加者> あまねそう、雨宮司、有田里絵、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月/玲瓏)、蔦きうい(玲瓏)、紀水章生(中部短歌会/塔)、三澤達世、山下りん(ゲスト、選のみ) それでは兼題の部から参ります。今月は票数が比較的ばらけているため、多めにご紹介します。 作者名の後のかっこ内は(票数・・・選歌者)です。 ♪ 兼題の部 ・・・ お題「私の秋」 ♪ ☆リビングの時計止まりて夜になるそれもいいよと虫の声する 有田里絵 (一票...山下) 前半は事実そのまま、後半は虫ではなく作者の心の声であることが明らかで、読後感が弱まってしまった。この歌ですが、我が家のリビングの時計が実際止まったのです。電池を入れる暇はあったのにこの状況も面白いなと思ってそのままにしていた日の夜、虫がたくさん鳴いていたので詠んだ歌です。どうせならぐいっと作中主体に引き付けて「それもいいよと腹の虫鳴く」としても良かったかな、と今にして思うのでありました。 ☆背後からおかまほられた自動車の姿せつなき秋の夕暮れ 黒路よしひろ (一票・・・三澤) 「おかまほる」という動詞を知ればブラックな漫画のような切なさが沁みてくる。秋の夕暮れに必然性はないだろうけれど、夕陽に照らされる愛車のへこみを見てがっくりする作中主体が目に浮かびます。この度は御愁傷様です、しかしお怪我がなくて何よりですと申し上げたいです。それにしてもどんな自動車でしょう。具体的車種を入れるとしたらみなさん何を選びますか。私ならシルバーのレガシーにします。 ☆月の面に繊き雲梯 錆止めの真赭塗りゆく天人三人 十谷あとり (一票・・・紀水) 美しい、けれど難しい、そういった声が寄せられた歌。私は漢字を見ただけで難しくなってしまったが、語彙が一段飛び抜けているこの作者ならではの歌。「繊き(ほそき)」、「雲梯(うんてい)」は長い梯子の意、「真赭(まそお、まそほ、ますお、ますほ)」は赤い色の土の意で、桃色の彩度を落とした感じの色。調べずにイメージがはっきり浮かぶ人は少ないだろう。「月の夜に陸橋の錆び止めを塗る作業をしている人が三人いた。その陸橋が月にちょうど架かっているように見えて、三人の天人がいるようだった」ということかと私は推測するのです。歌は「三人」で終わっていますが、一字空けにより「雲梯」に主眼があることを示していると思われます、どうでしょう。夜間作業で遊具の雲梯にペンキを塗っている様子と読む意見もありました。 ☆キャラメルの小函にかくそ秋にだに峰をうつむくママのなみだを 蔦きうい (二票・・・黒路、十谷) キャラメルとママとの取り合わせに文字通りの甘さを感じる。その甘さを良いと捉える人とそうでない人とに意見が分かれた。片仮名モチーフに目がいきがちだが、他の部分にも工夫が凝らされていて、作者の個性が際立つ。ハイキングのお供に持参したキャラメルの箱を子供が求めるたびに小さなリュックから出し入れしてやる母親を見て詠んだのかもしれない。だとすれば、涙は、山道をどんどん行く我が子が転ばないよう足元を見ながらついていくとき、その成長に感動してぽろりと流れたのだろうか。ママに山を眺める余裕を与えてくれないほど健脚なお子さん。これからも健やかに、大きくなあれ。 ☆秋の夜の寄せてはかへす波の背をすべりゆきたり月のひかりは 紀水章生 (三票・・・あまね、十谷、黒路) 一読して素直に美しいと感じる歌。秋、月夜、波。オーソドックスな取り合わせでありながら詩的で、心地よさを評価するコメントが目立った。波ではなく月の光がすべると詠んだ点など、細かな点が叙情性を高めている。二句目まではよくある表現なのだが、音読すると全体のリズムが良い。ひらがな使いが視覚的にも滑らかさを添えてくれます。 ☆稲の穂が乾いた匂いたてる夜祭りの屋台ちりちりと照る 雨宮司 (四票・・・紀水、山下、十谷、あまね) これも画像を見ているかのような叙景歌。「ちりちり」がどんな灯りを表現しているのか想像をふくらませるコメントが多く寄せられた。カンテラ、アセチレンランプ、線香花火、虫の声、発電機など。しかしながらどのコメントもこの歌からはややレトロなお祭り、一昔前の秋祭りを思い描いたようです。稲穂の乾いた匂いがどんな匂いかすぐに分かる人は多くないと思うのですが。前半と後半で違う事柄を同じ比重で出してしまっているという鋭い意見もあった。 ☆登場はにぎにぎしくて秋口に人知れず去る冷やし中華は 三澤達世 (四票・・・雨宮、蔦、山下、紀水) 冷やし中華の去り際に釘付けになった人が多数。そういえばそうだなあという発見の歌ですが、発見の対象が冷やし中華だなんて絶妙。どこにでもある街角の中華料理店の貼り紙かもしれないし、家族のリクエストに応じて真夏はしょっちゅう作っていたのに最近作っていないなあという感慨かもしれない。「にぎにぎしくて」が語彙そのままの意味と同時に、歌全体も盛り上げていて、冷やし中華のひえひえ感が際立つ。日常の中でくすりと笑えるのっていいですね。 ☆秋の日は七竿乾くと晴天に必ず思う祖母の口癖 三澤達世 (四票・・・あまね、蔦、十谷、有田) 祖母の思い出が気持ちよい秋晴れの空に導かれるという爽やかな歌。実際に洗濯をする身になればこの口癖の嬉しい気持ちがよくわかります。「必ず思う」の部分に対して、他の箇所に比べて説明的で必要性が少ないという意見もありましたが、祖母への懐かしい思いが伝わります。次の秋晴れの日には、私もこの口癖を思い出しながら洗濯物をたくさん干してみよう。万年洗い物嫌いを救ってくれそうだ。 ☆「奉納」を「未納」と書きし町長の噂にぎわう秋祭りかな あまねそう (四票・・・蔦、三澤、雨宮、山下) 内容の面白さについ惹き付けられてしまう一首。思わず笑ってしまう人が多いだろう。事実かどうかを問わず素直に楽しめるのは、祭りそのものについてはほとんど触れず読者に任されているからではないか、というコメントが寄せられました。みんなが知っていることは言わずに独自性を追求した結果、成功した歌、と言えそうです。まあ、この町長が本当にいたら、次の選挙でやっぱり落選してしまうのでしょうか。 ☆たたまれる海の家々眺めおりいるべき人のいないさみしさ あまねそう (四票・・・三澤、雨宮、紀水、山下) 初句「たたまれる」が印象的な歌。そのぶん結句の「さみしさ」が安易に見えてしまうという意見があった。 この「たたまれる」が廃業という意味なのか、秋なのでまた来年という意味なのかは不明だが、すっきりした読後感に好感を持つ人が多かったようだ。今、海が出てくる歌を読むと、どうしても津波に遭った地域を思ってしまいます。地球は七割が海。どこの海に行っても、この海が東北の海にもつながっているのだと感じる心を持ち続けたいと思います。 兼題は以上です。 続いて自由詠から、おひとり様一首ずつご紹介します。 ☆ミニトマト転がりゆけり厨辺の日暮れまぢかの床の暗がり 紀水章生 (五票・・・あまね、雨宮、山下、蔦、十谷) ☆まろやかな暑さで風がぬけてゆく朝一番のやくも号待つ あまねそう (四票・・・蔦、十谷、三澤、黒路) ☆ iPhoneでなめこを採ってiPhoneでゾンビを育てて暮らしています 三澤達世 (三票・・・有田、あまね、雨宮) ☆いとおしいきもちがあってあたたかいからだがあってはじまる朝 有田里絵 (三票・・・紀水、蔦、山下) ☆ぐわらんと末期の叫びを奏でつつ鐘撞き堂が野分に倒る 雨宮司 (一票・・・三澤) ☆地蔵会の供物みつしり積まれたり裸のこどもひしめく如く 十谷あとり (三票・・・雨宮、有田、山下) ☆こんがりと日焼けした肌見せつけて君は無敵の笑顔を返す 黒路よしひろ (一票・・・あまね) ☆ネバダ州カレの実家の萬屋【よろずや】の庭うら無人駅のこおろぎ 蔦きうい (二票・・・三澤、有田) 以上です。 今まで何度も歌会係を担当してきましたが、今月は本当に実りの秋に相応しい歌会でした。 編集作業も歌会記も今までより時間がかかりました。作業前は格闘の予感におののきましたが、 始めるとだんだん楽しくなってきて家事が適当になってしまう始末。 でもこの歌会を続けることで、かばん関西のみなさまに喜んでいただけると信じています。 今後も、乞うご期待!です。(有田里絵/記) 2011年 10月 05日
![]() [当日参加者]雨宮司(詠草のみ) 有田里絵 黒路よしひろ(ゲスト) 十谷あとり(日月)[選歌のみ参加者]那由多 三澤達世 九月二十五日(日)、奈良市高畑町にて吟行を催しました。近鉄奈良駅よりバスで移動、志賀直哉旧居と国指定史跡の頭塔(ずとう)を見学、その後カフェにて作歌。バスで奈良県文化会館へ戻り、フリースペースにて吟行詠の朗読を行いました。時間の都合上、また参加者が少なかったため、当日その場での選歌は省き、後日メーリングリスト上で選歌を行いました。作品の一部をご紹介いたします。 〈志賀直哉旧居にて〉 ・あいさつを続けるかばん肩にかけニットの女性ならみちを行く 有田里絵 ・志賀直哉旧宅をわが書斎にし暫し短歌の友と語らう 黒路よしひろ ・北に向きひとつ清しく置かれけり湯飲みの跡の残る文机 十谷あとり ・子供らはいくつか穴を開けたろう葉書並べたようなるしょうじ 有田里絵 〈頭塔にて〉 ・萩の花しなだれかかる寺院には足をのばさず頭塔へと行く 雨宮司 ・玄昉の頭を埋めた墓だよと語れどだれも頭塔を知らず 黒路よしひろ 〈カフェ たかばたけ茶論にて〉 ・たかばたけ茶論の庭に文豪を気取れば秋の風は爽やか 黒路よしひろ ・灰色の曖昧模糊が身震ひしカフェのテラスに犬となるまで 十谷あとり 当日は好天に恵まれ、秋風の中、日常を離れ歌に集中する時間を持つことができました。かばん関西ではこれからも、吟行を含め、歌を楽しむ企画を行ってまいりたいと存じます。次回のオフライン歌会は十二月を予定いたしております。くわしくはkansai@kaban-tanka.jp まで、メールにてお気軽にお問い合せ下さい。(十谷あとり 記) * 写真:志賀直哉旧居のサンルーム 2011年 08月 30日
![]() 〈参加者〉雨宮司、有田里絵、黒路よしひろ(ゲスト)十谷あとり(日月/玲瓏)蔦きうい(玲瓏・選歌のみ)紀水章生(中部短歌会/塔)三澤達世[五十音順] 今回のお題は「身体」。具体的な部位のみを詠んでもいいということで、百家争鳴の感を呈することとなった。混迷のレースから抜け出したのはどの作品か。類似の主題を選んだ短歌はそれぞれどの様な評価を受けたのか。また、今回初参加の紀水氏の短歌の行方は如何。乞う御期待。 〈エロス対決〉 変形は出来ないけれど合体は出来るよ夜のらぶらぶマシン 黒路よしひろ 1点 ガードする間もなく熱くなる胸をひとりのために開く夜もあり 有田里絵 2点 片やキッチュでポップな作風で乾いた感性を前面に押し出した短歌。片や与謝野晶子ばりの浪漫路線で抒情を表に出した短歌。好対照な作品の競演となった。「変形もできるのでは」「釣り○カ日誌かと突っ込みたくなる」と酷評される一方で「エロスもこれぐらい蒸留されるといい味になる」「どろどろとしたいやらしさがないところが好き」と高評価も受ける黒路作品。「『開く夜もあり』で全体が弛んでしまった」「ユーモアには勝てない」と評されながらも「女は胸で恋をするのか」「恋というのはガードする間なんてない」と確実に点を稼ぐ有田作品。結果は頭ひとつの差で有田氏が競り勝ったが、どちらに軍配が上がってもおかしくない名勝負だった。 〈ラジオ体操対決〉 身体の発育うながす逓信省【ていしんしょう】ラジオ体操のみ生きのびる 雨宮司 無点 逆光のラジオ体操長くながく伸びたる影は海へと届く 十谷あとり 3点 ラジオ体操の由来を軸に据えた短歌と、ラジオ体操の情景を叙情的に捉えた短歌。いずれ劣らぬ……、と言いたいところだが、趨勢は一方的だった。「上句がPRのようで下句とつき過ぎ」「上句が説明的」と上句の不備を指摘される雨宮作品。一方で「夏特有の長い影が非常に印象的」「結句に少年たちの姿と海の夏の無限の可能性の融合を感じさせる」など、好印象が相次ぐ十谷作品。「位置関係が曖昧」という指摘を受けつつも、圧倒的な力量の差を見せつけ、十谷氏の勝利となった。 〈ナスの尻〉 黒光りする曲線の艶めきてまがつたナスの尻あまた見ゆ 紀水章生 2点 今回初参加の紀水氏。「今回、見立ては選ばない」との意見もある中、篤実に写生句を詠んだ。「丁寧すぎる描写が少々説明っぽい」との指摘はいいとして、「みんな同じ服装をしている就活の女性たちを想像した」という妄想系の意見まで飛び出す混乱の中、「眼前のナスに徹底しても面白かったのでは」「ナスの尻という表現が独自のテイストを作り出している」との好意的・建設的な評もしっかりと押さえ、無難な船出となった。 〈焦燥〉 血管を見つけられない看護師の額に浮かび始める焦燥 三澤達世 4点 今回の最高得点歌。「具体的に情景が想像できる」との肯定的な意見もあるなか、肯定しつつも「焦燥」の語が何とかならないかという意見が相次いだ。瑕が解かっていながら点を集められるのは、潜在的な短歌の力が強い証拠。 続いて自由詠を一名一首ずつまとめて紹介いたします。 かぶとむしゼリーは虫の食べ物よ今日三度目の説明をする 三澤達世 5点 しゃっくりを百回したら死ぬという今まだ二十五回目だけど 黒路よしひろ 無点 ソンシツとカタカナ書きができぬ子が増えているらし ンンシシ・ソソツツ 雨宮司 1点 翳りある午後のひととき抱きかかへ花より花へとうつりゆく蝶 紀水章生 2点 砂洲公園のどけからまし堤防の外の四海波静かなりせば 十谷あとり 1点 ただいまの声聞いてからコーヒーをアイスにするかどうか決めよう 有田里絵 1点 今回は突出した短歌が少数あり、それらを追う短歌への票が分散するという傾向が顕著にみられた。悔しいが、実力のある短歌にはその感情もこめて素直に頭を下げねばなるまい。なお、今回の対決は当初から意図して為されたものではなく、偶然類似題の短歌が送られてきた結果、編者が仮想対決を行なった結果だと付記しておく。いずれは追われる立場になりたいという思いを籠めつつ、今回はここでペンを置きたいと思う。 (雨宮司・記) * 写真は有田家の収穫、白ゴーヤーです。(十谷) |
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