2009年 02月 03日

1月歌会報告

[二〇〇九年一月かばん関西オンライン歌会]

参加者 天昵聰、雨宮司、有田里絵、笹井宏之(購読/未来)、十谷あとり(日月/玲瓏)蔦きうい(玲瓏)、文屋亮(玲瓏、選歌のみ参加)、松山真実(購読)、山下りん(ゲスト、選歌のみ参加)、山田航〔五〇音順〕

お題は「自動」「地図」。選歌発表直前に、笹井氏の訃報が届く。享年二十六歳。俊英のあまりにも若い死に、しばし瞑目。彼岸への一路平安を祈りつつ、本稿を執筆している。

A4のコピー用紙に描かれたアイスランドに降る雪の影 笹井宏之

知る限りでは笹井氏の遺作となる。初参加当時と較べると、具象の扱いに長け、より自然で叙情もより深く湛えるようになっている。深められた白のイメージに共感する者も多かった。合掌。

耳の大きな男古書肆に地図を購ひ角を曲りて埃と消えつ 十谷あとり

緻密な舞台設定とミステリアスな終わらせ方への賛辞が多数。ここにきてまた一段と腕前を上げてきた感がある。

ピンクよりブルーが好きという少女地球の色に染まっているね 有田里絵

下句がやや凡庸だが単語の連なりが気に入った、最近の女子小学生はピンクより水色が好きという子が多い、など、活発な意見が出された。意見の源となるのは歌が豊かな証拠。

心臓は勝手に動いて勝手に止まるレンドルミンは夢への薬 天昵聰

お題に対するモチーフの切り取り方が面白い、生に対する独特な諦念を持っているのかもしれない、など、作者の着眼点に関する評が多かった。

白地図を展げ未踏の地を目指すやうにボタンは外されてゆく 山田航

性愛の場面と受け止める点で皆の意見が一致。エロスに嫌らしさがないという意見も相次ぐ。

とっぷうが狼藉する日の散歩にはグリコビスコと小春分布図 蔦きうい

「とっぷう」の「狼藉」、「小春分布図」「グリコビスコ」など、言葉の選択や造語に強烈な説得力を感じる者が多かった。いつも小道具を使うのが上手い。

いつか見た風景みたいな白地図に若草色をぬっていくひと 松山真実

荒削りながら、白地図と若草色との色彩感の逆転に好感を持った人が多かった。期待のルーキーの誕生か。

自動ドアタッチ式だと気づかずにやや間の抜けた数秒を待つ 雨宮司

共感する者、多数。みんな失敗してるんですね。「やや」に作者の優しさを感じる、という評もあった。う~ん、正確を期しただけだったんですが。

最後に、自由詠から何首か紹介したい。

後ろ髪はねさせたまま走り来る白いコートの幼なのぬくみ 有田里絵

噴水に腰かけ授乳してゐたる女はみづのつばさをまとふ 山田航

ゆたかなる髪、紺色のオペラグラス ここにはまもりたいものばかり 笹井宏之

きみの目のなかをおよいでいるさかな ぼくを見ていた だから見つめた 松山真実

ロッカーを蹴り倒したらロッカーがカリスマになるロッカーは蹴るな 雨宮司

くちびるに髪を触れしめ橋のうらがはのひかりをみつめゐるひと 十谷あとり

空間の制約を解消してしまうのがネットの強み。思えば、笹井氏が華々しく登場したのもネット上だった。ネット空間を縦横に泳いだ氏に、この文章を献花に代えて捧げたい。 (雨宮司 記)
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by kaban-west | 2009-02-03 23:08 | 歌会報告


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