〈かばん関西二月歌会 歌会記〉
[参加者]天昵聰、雨宮司、有田里絵、白辺いづみ、月下燕(購読)、蔦きうい(玲瓏 選歌のみ)、福田貢一(北摂短歌の会)、文屋亮(玲瓏)、松山真実(購読)、山下りん(ゲスト)、山田航、十谷あとり(日月/玲瓏)
今回は総勢十二人で、合計四十二首の歌を読むという、ボリュームのある歌会となりました。個人的に印象に残った歌をご紹介します。
○兼題の部 「生」
私とは生命線の交わらぬこいびとの手をなぞるぬくもり 月下燕
錯誤するものの一つとしてだけに受け取る学生集会のビラ 天昵聰
さみどりの布生地を裁つ左手に揺れるポプラの葉影もみどり 山田航
どこまでも君に向き合う顔上げて花かんざしの教える春よ 山下りん
いつまでも生ぬるいからひとくちも含まれぬまま座りておりぬ 有田里絵
くすぐったいみたいだアムールヒョウの子の誕生を聞くカーテンさわさわ 白辺いづみ
生き物の満ちるにほひに西日さす子どもの部屋の水槽ひかる 文屋亮
好きも嫌いも黙つてぎゆつと包み込め生春巻に透ける香菜【シャンツァイ】 十谷あとり
○自由詠
校庭につむじ風見ゆさらばさらばさらばとヘリコプターが過ぎゆく 山田航
アルパカの目つきでガムを噛む女おもむろにかばんから本を出す 雨宮司
「ほんにゃほんにゃおりゃ知らねえ」と唄いたる植木等は大衆の原像 福田貢一
スイッチを切れば互いは暗闇に吸収されるだけの半身 松山真実
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一月に笹井宏之さんが旅立たれたあと、新しい季節が巡ってこようとしています。今回の兼題「生」は、笹井さんへの祈りをこめて、天昵聰さんが選んで下さいました。感謝も、悲しみや悼みも、少しずつ歌にして、天に供えるしかないのかもしれません。
A4のコピー用紙に描かれたアイスランドにふる雪の影 笹井宏之(かばん関西一月歌会詠草より)
目覚めない君のラストは真っ白な雪化粧という最高の歌 山下りん
言葉無き歌引き連れて流星の様なあなたのさよならでした 山下りん
星という星との距離をしみじみともう痛みさえ傍らに無い 山下りん
歌会にあの風は吹かないけれどROM派になっただけですよねえ 有田里絵
(十谷あとり)