〈かばん関西三月歌会 歌会記〉
[参加者] 安部暢哉(選歌のみ)、雨宮司、天昵聰、有田里絵、岩本久美(購読)、十谷あとり(日月/玲瓏)、月下燕(購読)、蔦きうい(玲瓏 選歌のみ)、福田貢一(北摂短歌の会)、文屋亮(玲瓏)、美里和香慧、山田航、山下りん(ゲスト)
今回のお題は、文屋亮さまからいただきました「いとこ」。親や兄弟姉妹よりも淡い関係は、歌に生命を吹き込むにあたって相当な困難があったことと思います。
《身体》
●ばあちゃんの死んだ夜には正座するいとこの足の指を見ていた 月下燕
「足の指」が絶妙なリアリティ。身近な死に直面した心理をうまく描ききって、今月の最高得点を獲得した歌です。
●芸能人にいとこがいると自慢するあの子の赤い舌のさきっちょ 美里和香慧
「赤い舌のさきっちょ」が、どうも嘘つきらしい「あの子」に鮮烈な形象を与えています。「いとこ」でなければ成り立たない歌。
《結婚と出産》
●親の意に染まぬ男と結婚する所だけ似てイトコとわたし 文屋亮
よくありそうと納得できる類似点。きっぱり、さっぱりした人物像に好感がもてます。
●八月にいとこができる大輪の向日葵ひとつ心にひらく 有田里絵
いとこの誕生をうれしく待ち遠しく思うわくわくした気持ち。その喜びを向日葵にたくして読み込んだ点が秀逸。
《集まる》
●同じ苗字のこども五人【いつたり】ぎこちなく指に抜きあふスペードのA 十谷あとり
兄弟にはない微妙な居心地の悪さ。権力や悪役を象徴するスペードAという札がそれをうまく表現しています。
●いとこの数をかぞえていたらひもぐつにぶつかって右へ左へ右へ 岩本久美
何かの会合でのユーモラス、またはシュールな情景。「ひもぐつにぶつかって」がよくわからないという意見も。
自由詠のなかから何首か紹介します。
●触れないでいることがそう溢れ出るキモチとキモチで満ち足りる道 山下りん
●置き去りにされたぼくらはいつまでも屋上に辿り着けないままに 山田航
●荒川を日がなポカポカさんぽするトタン工場【こうば】のてんぽにあわせ 天昵聰
●方代の嘘と真を知りたくて「こんなもんじゃ」を十三回読む 福田貢一
●鳥影を映してもなお静かなる湖面を風はかすかに揺らす 雨宮司
(蔦きうい 記)