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かばん関西歌会

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2010年 06月 04日

5月歌会報告

かばん関西五月歌会記

[参加者] 雨宮司、有田里絵、岩本久美(ゲスト)、十谷あとり(日月/玲瓏)、三澤達世

今回は、コンパクトな参加人数でしたが、参加された皆様から気持ちのこもったコメントをいただき、熱い歌会となりました。

さて、今回の兼題は「建物の記憶」です。ひとは建物に包まれ、建物の気を受けながら生きている、と十谷さんよりお題をいただきました。建物を観察された方、自身の記憶を遡られた方に二分されました。

賃貸に暮らし続けて三十年かたつむりにも住まいのあるを 有田里絵

きれいにまとまっていて、素直な共感をよびました。独立した住まいへの憧れです。かたつむりのユーモラスさがいい。三十年の賃貸暮らしの思い出のあれこれを、歌で見てみたいような気がします。

築百年の洋館に入り患者なることを忘れてスリッパをはく 岩本久美

存在感がありすぎて気圧されるような、魅入られてしまうような建物が病院である、というおかしみ。作中の人はスリッパにはきかえながら、「ははぁ~」って天井や壁を見回していそうです。立派さについて具象があるとリアリティが違ってきたのでは、という意見も。

初めての部屋はピンクの傘の下園児ら集いしゃがみこむ午後 有田里絵

雨の日に、傘の下にしゃがみこむ子供たち。幸福な記憶です。子供にとっての初めての部屋、自分だけの空間は、たしかに傘の下かもしれません。ピンクが効果的。

銭湯のお化け煙突また一本街の隠れ家ごと消えてゆく 雨宮司

昔ながらの光景が、消えてゆくのはさびしいですね。「街の隠れ家」に議論が集まりました。煙突を引き立てるために、隠れ家を出さず、銭湯だけに焦点をしぼったほうが良くなるのでは。どこかよそごとっぽい、という意見もありましたが、「自身のことを詠みにくいのと同じく、住み家というのは半ば自分の分身のようで詠みにくい」と作者より。

妣の家は紫陽花の家笹のいへ猫がこつそり仔猫産む家 十谷あとり

歌うようなリズムのよさ。紫陽花、笹、仔猫、ときに静謐でときに楽しげで、満ち足りた庭に人生をかさねているようにも感じられます。豊かな暗がりに猫がこっそり仔猫を産んでいく家。実際に住まれたことのある家だそうです。高得点歌でした。

朝練に駆け出していく子を送り校舎の冷えた空気をおもう 三澤達世

思わず深呼吸したくなる歌。教室にかばんを置いたら、ダッシュで校庭へ。生徒がまばらな早朝の学校のひんやりした空気。結びの「おもう」より、お母さんの歌でしょうか。

続いて、自由詠です。

さまざまな欲や祈りが込められた子らの名前をエクセルに打つ 三澤達世

「欲」というのがえげつない、我が子の名前に欲を込める親はいない、という意見がありました。一方、心のきれいな子に育ってほしい等という「願い」も、客観的には「親の欲」かもしれない、とも。具体的な名前の文字がいくつか、歌の中に出て来ると、なおリアルなのでは。

「惚れました」と言いつつ天から落ちてくる生ぐさ仙人いらっしゃいませ 雨宮司

やけに味わいのある歌、ユカイである、どんな仙人?等々、各人楽しく読んだ歌でした。唐突な久米仙人の登場は、建物→久米寺→仙人という連想?という推理も。

フラミンゴの背中に影を落としつつ春の雲みな東【ひんがし】へゆく 十谷あとり

高得点歌です。動物園でしょうか。飛べないフラミンゴの頭上を流れ続ける雲。カラフルながらちょっとしんみりした風景です。一読、ふわーっとした気持ちになります。広い空、ゆっくりながれる雲、大気の動きを目で見るようで、壮大。

かばん関西歌会は、関西限定ではありません。たくさんのご参加をお待ちしております。(三澤達世@関東在住 記)

by kaban-west | 2010-06-04 09:58 | 歌会報告


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