2011年 06月 13日
♪♪♪ かばん関西五月歌会記 ♪♪♪ 今月のお題は、気持ちよく空を泳ぐ鯉のぼりにちなんで「のぼる」。 この兼題に十五首、自由詠に十首の歌が集まりました。 選歌は詠草提出時よりお二人増えて、とても読み応えのあるコメント集になりました。 <参加者>雨宮司、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月/玲瓏、選歌のみ)、 蔦きうい(玲瓏、選歌のみ)、野埜百合、三澤達世、有田里絵 では、兼題の部からご紹介します。 ☆一斉に「上り下りの舟人が」しらべを何に例うべきかな 雨宮司 滝廉太郎作曲の『花』を元にした歌。歌意がつかみにくいので意見は分かれたが、 歌詞の通り「眺めを何に」ではなく「調べを何に」としているので、 作者がこの歌を聴いていると読む意見が正解だろうか。 特別な固有名詞がなくてもしっかり春の歌になっている。 ☆大人への階段のぼりゆく人のふくらはぎ染む初夏の日射しよ 有田里絵 「ふくらはぎ」以外はありきたりな言葉であるという指摘が多かったが、 全体の調和を評価する意見が目立った。私自身もあっさりしすぎたと感じている。 実景は、小学校高学年の女の子がデニムショートパンツで駅の階段をのぼっていった場面。 曇りの日だったので日射しはなかったが、成長期の脚がきれいだったので詠んだ。 ☆ながむしとらいさま怖しと語る婆斜面を登りぜんまいを摘む 三澤達世 今回の最高得点歌。「ながむし」は蛇で「らいさま」は雷。 ぐるぐるまいたゼンマイは、蛇のとぐろにも雷太鼓の渦巻きにも通じる。 日本昔話のような雰囲気と表記を揃えた面白さに高評が集まった。 ばさばさした白髪で皺深い手にゼンマイを握りしめたお婆さんが山にいたら、 それがいちばん怖いかもしれない。 ☆空き缶の転がる音の際立ちて妙にしずかな上りの電車 三澤達世 同じ作者で、電車が好きそうな人たち(だと思う)に人気のあった歌。 的確な描写がなされているのでリアリティーがある。 よくある語、よくある場面でも読み手を惹き付ける歌になりうるという好例。 ☆学歴といふ山のぼり頂上にたちてここからスタートとしる 野埜百合 語句の重複や結句のまとめ方に指摘はあったが、すんなり納得できる内容の歌。 誰もが受験勉強や学歴社会といった言葉を思い出すだろう。 頂上なんてあるのかなと思いつつも、のぼれるものならのぼってみたほうが良かったのかな、 などと、今更ながら感じる。ところで我が子にはのぼってほしい?いや、わからない。 ☆竹野内豊【たけのうちゆたか】は優【まさ】るモチベーション踏み台昇降はや二月【ふたつき】に 野埜百合 同じ作者の歌。票はなかったもののインパクトがあるので熱いコメントが寄せられた。 歌の主眼は「正統派二枚目俳優に憧れ、長く厳しいダイエットにいそしむ女性(への共感)」だそう。 ああ、もう夏は目前。毎年のことながら冬太り解消を想定していたのに。 ☆浮かれたるわれは天まで昇りたり君に告白されてひととき 黒路よしひろ 結局のところ天まで昇っていられたのは「ひととき」だった作中主体に同情してしまう歌。 でも、がくっと膝をつくような可笑しさが漂う。男性の詠んだ歌だとすぐに感じるのは、 こんな迷惑な告白(と言えるのだろうか)をするのは男性を手玉に取るタイプの 女性だけだと思われるからである。・・・と書いている私にも、 身に覚えが全くないとは言えない。ともかくファイト! 続いて自由詠をおひとり一首ずつご紹介しておきます。 ☆横浜の古池さんによく似てる便所の壁のシミが気になる 黒路よしひろ ☆指先に発電所あるやもしれず君に触れなば君焦がさまし 野埜百合 ☆睡蓮の若い芽吹きが続々と巻物めいた葉を開かせる 雨宮司 ☆初めての電気スタンドわれだけの灯りがいつもあるということ 有田里絵 ☆色白の少年だった弟に行きつけのスナックがある不思議 三澤達世 歌は、作者の手を離れると自由に泳いでいってしまいます。 読み手は勝手に深読みすることもしばしばですが、それはそれで楽しいものです。 これからも自由に歌をつないでまいりましょう。(有田里絵/記)
by kaban-west
| 2011-06-13 09:14
| 歌会報告
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