かばん関西歌会

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2011年 10月 06日

9月歌会報告

♪♪♪  かばん関西九月歌会記  ♪♪♪

今月のお題は「私の秋」としました。自分にとっての秋を歌にしてみよう、という意図です。
参加者八名全員が提出数の上限まで詠んで送って下さったので、
兼題は二十四首、自由詠は十六首も集まりました。まさに大豊作!
久しぶりに参加して下さった方もあり、怒濤の取りまとめ作業に肩が痛くなりながらも、
歌会を続けていてよかったとしみじみ感じる秋の夜となりました。

<参加者> あまねそう、雨宮司、有田里絵、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月/玲瓏)、蔦きうい(玲瓏)、紀水章生(中部短歌会/塔)、三澤達世、山下りん(ゲスト、選のみ)

それでは兼題の部から参ります。今月は票数が比較的ばらけているため、多めにご紹介します。
作者名の後のかっこ内は(票数・・・選歌者)です。

♪ 兼題の部 ・・・ お題「私の秋」 ♪

☆リビングの時計止まりて夜になるそれもいいよと虫の声する  有田里絵
(一票...山下)

前半は事実そのまま、後半は虫ではなく作者の心の声であることが明らかで、読後感が弱まってしまった。この歌ですが、我が家のリビングの時計が実際止まったのです。電池を入れる暇はあったのにこの状況も面白いなと思ってそのままにしていた日の夜、虫がたくさん鳴いていたので詠んだ歌です。どうせならぐいっと作中主体に引き付けて「それもいいよと腹の虫鳴く」としても良かったかな、と今にして思うのでありました。


☆背後からおかまほられた自動車の姿せつなき秋の夕暮れ    黒路よしひろ
(一票・・・三澤)

「おかまほる」という動詞を知ればブラックな漫画のような切なさが沁みてくる。秋の夕暮れに必然性はないだろうけれど、夕陽に照らされる愛車のへこみを見てがっくりする作中主体が目に浮かびます。この度は御愁傷様です、しかしお怪我がなくて何よりですと申し上げたいです。それにしてもどんな自動車でしょう。具体的車種を入れるとしたらみなさん何を選びますか。私ならシルバーのレガシーにします。

☆月の面に繊き雲梯 錆止めの真赭塗りゆく天人三人   十谷あとり
(一票・・・紀水)

美しい、けれど難しい、そういった声が寄せられた歌。私は漢字を見ただけで難しくなってしまったが、語彙が一段飛び抜けているこの作者ならではの歌。「繊き(ほそき)」、「雲梯(うんてい)」は長い梯子の意、「真赭(まそお、まそほ、ますお、ますほ)」は赤い色の土の意で、桃色の彩度を落とした感じの色。調べずにイメージがはっきり浮かぶ人は少ないだろう。「月の夜に陸橋の錆び止めを塗る作業をしている人が三人いた。その陸橋が月にちょうど架かっているように見えて、三人の天人がいるようだった」ということかと私は推測するのです。歌は「三人」で終わっていますが、一字空けにより「雲梯」に主眼があることを示していると思われます、どうでしょう。夜間作業で遊具の雲梯にペンキを塗っている様子と読む意見もありました。

☆キャラメルの小函にかくそ秋にだに峰をうつむくママのなみだを  蔦きうい
(二票・・・黒路、十谷)

キャラメルとママとの取り合わせに文字通りの甘さを感じる。その甘さを良いと捉える人とそうでない人とに意見が分かれた。片仮名モチーフに目がいきがちだが、他の部分にも工夫が凝らされていて、作者の個性が際立つ。ハイキングのお供に持参したキャラメルの箱を子供が求めるたびに小さなリュックから出し入れしてやる母親を見て詠んだのかもしれない。だとすれば、涙は、山道をどんどん行く我が子が転ばないよう足元を見ながらついていくとき、その成長に感動してぽろりと流れたのだろうか。ママに山を眺める余裕を与えてくれないほど健脚なお子さん。これからも健やかに、大きくなあれ。

☆秋の夜の寄せてはかへす波の背をすべりゆきたり月のひかりは   紀水章生
(三票・・・あまね、十谷、黒路)

一読して素直に美しいと感じる歌。秋、月夜、波。オーソドックスな取り合わせでありながら詩的で、心地よさを評価するコメントが目立った。波ではなく月の光がすべると詠んだ点など、細かな点が叙情性を高めている。二句目まではよくある表現なのだが、音読すると全体のリズムが良い。ひらがな使いが視覚的にも滑らかさを添えてくれます。

☆稲の穂が乾いた匂いたてる夜祭りの屋台ちりちりと照る   雨宮司
(四票・・・紀水、山下、十谷、あまね)

これも画像を見ているかのような叙景歌。「ちりちり」がどんな灯りを表現しているのか想像をふくらませるコメントが多く寄せられた。カンテラ、アセチレンランプ、線香花火、虫の声、発電機など。しかしながらどのコメントもこの歌からはややレトロなお祭り、一昔前の秋祭りを思い描いたようです。稲穂の乾いた匂いがどんな匂いかすぐに分かる人は多くないと思うのですが。前半と後半で違う事柄を同じ比重で出してしまっているという鋭い意見もあった。

☆登場はにぎにぎしくて秋口に人知れず去る冷やし中華は   三澤達世
(四票・・・雨宮、蔦、山下、紀水)

冷やし中華の去り際に釘付けになった人が多数。そういえばそうだなあという発見の歌ですが、発見の対象が冷やし中華だなんて絶妙。どこにでもある街角の中華料理店の貼り紙かもしれないし、家族のリクエストに応じて真夏はしょっちゅう作っていたのに最近作っていないなあという感慨かもしれない。「にぎにぎしくて」が語彙そのままの意味と同時に、歌全体も盛り上げていて、冷やし中華のひえひえ感が際立つ。日常の中でくすりと笑えるのっていいですね。

☆秋の日は七竿乾くと晴天に必ず思う祖母の口癖   三澤達世
(四票・・・あまね、蔦、十谷、有田)

祖母の思い出が気持ちよい秋晴れの空に導かれるという爽やかな歌。実際に洗濯をする身になればこの口癖の嬉しい気持ちがよくわかります。「必ず思う」の部分に対して、他の箇所に比べて説明的で必要性が少ないという意見もありましたが、祖母への懐かしい思いが伝わります。次の秋晴れの日には、私もこの口癖を思い出しながら洗濯物をたくさん干してみよう。万年洗い物嫌いを救ってくれそうだ。

☆「奉納」を「未納」と書きし町長の噂にぎわう秋祭りかな   あまねそう
(四票・・・蔦、三澤、雨宮、山下)

内容の面白さについ惹き付けられてしまう一首。思わず笑ってしまう人が多いだろう。事実かどうかを問わず素直に楽しめるのは、祭りそのものについてはほとんど触れず読者に任されているからではないか、というコメントが寄せられました。みんなが知っていることは言わずに独自性を追求した結果、成功した歌、と言えそうです。まあ、この町長が本当にいたら、次の選挙でやっぱり落選してしまうのでしょうか。

☆たたまれる海の家々眺めおりいるべき人のいないさみしさ   あまねそう
(四票・・・三澤、雨宮、紀水、山下)

初句「たたまれる」が印象的な歌。そのぶん結句の「さみしさ」が安易に見えてしまうという意見があった。
この「たたまれる」が廃業という意味なのか、秋なのでまた来年という意味なのかは不明だが、すっきりした読後感に好感を持つ人が多かったようだ。今、海が出てくる歌を読むと、どうしても津波に遭った地域を思ってしまいます。地球は七割が海。どこの海に行っても、この海が東北の海にもつながっているのだと感じる心を持ち続けたいと思います。

兼題は以上です。
続いて自由詠から、おひとり様一首ずつご紹介します。

☆ミニトマト転がりゆけり厨辺の日暮れまぢかの床の暗がり   紀水章生
(五票・・・あまね、雨宮、山下、蔦、十谷)

☆まろやかな暑さで風がぬけてゆく朝一番のやくも号待つ    あまねそう
(四票・・・蔦、十谷、三澤、黒路)

☆ iPhoneでなめこを採ってiPhoneでゾンビを育てて暮らしています  三澤達世
(三票・・・有田、あまね、雨宮)

☆いとおしいきもちがあってあたたかいからだがあってはじまる朝   有田里絵
(三票・・・紀水、蔦、山下)

☆ぐわらんと末期の叫びを奏でつつ鐘撞き堂が野分に倒る    雨宮司
(一票・・・三澤)

☆地蔵会の供物みつしり積まれたり裸のこどもひしめく如く  十谷あとり
(三票・・・雨宮、有田、山下)

☆こんがりと日焼けした肌見せつけて君は無敵の笑顔を返す  黒路よしひろ
(一票・・・あまね)

☆ネバダ州カレの実家の萬屋【よろずや】の庭うら無人駅のこおろぎ   蔦きうい
(二票・・・三澤、有田)

以上です。

今まで何度も歌会係を担当してきましたが、今月は本当に実りの秋に相応しい歌会でした。
編集作業も歌会記も今までより時間がかかりました。作業前は格闘の予感におののきましたが、
始めるとだんだん楽しくなってきて家事が適当になってしまう始末。
でもこの歌会を続けることで、かばん関西のみなさまに喜んでいただけると信じています。
今後も、乞うご期待!です。(有田里絵/記)
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by kaban-west | 2011-10-06 09:49 | 歌会報告


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