かばん関西歌会

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2012年 04月 01日

3月歌会報告

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[平成二十四年三月かばん関西オンライン歌会記]

[参加者]雨宮司、有田里絵、伊井平助(選歌のみ)、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、十谷あとり(日月)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、那由多、野埜百合、三澤達世

今回の兼題は『てん』と読む文字一文字(以上)を詠み込むという難題でしたが、動物の「貂(テン)」や「点取占い」など、年度末のお忙しい時期にもかかわらずさまざまな『てん』を持ち寄って、12名の方が参加してくださいました。
以下に、兼題『てん』の投稿歌を紹介していきたいと思います。

・春雷やしまいわすれた雛壇のうらで愁いを紡ぎいる貂  蔦きうい
幻想の一首だろうか。はたまた剥製や襟巻きの貂であろうか。
読み手によってさまざまな解釈が出たが、妖怪としての側面も持つ貂という動物の魅力と相まって高得点を得た一首。
自分も生きて行く限り何処かでこの貂のように愁いを背負ってしまうのだろうとのセンチメンタルな感想も。

・くろしおはてんてんてんまりてんてまり鳴らし停車す春の待つ駅  紀水章生
紀州線の「特急くろしお」を詠った一首。くろしおの車内チャイムに流れる「鞠と殿様」の長閑さが結句の「春の待つ駅」とマッチして素敵だ。
列車名のひらがな、歌詞のひらがながあたたかく、明るくて気持ちいいなど、かばん関西には電車好きが多かったこともあり好意的な評が集まった。

・ベランダの凪と「・・・」(てんてんてん)を聴くひとりあそびの咳の夜には  冨家弘子
「・・・」(てんてんてん)という思いきった表現が読み手の想像を刺激する歌。
そこに病床の寂しい気持ちを読み取る者や、波と波の間の静寂を楽しむ気持ちを感じ取る者などもいた反面、凪は夜のイメージではないような気がするとの違和感や、「ベランダの凪」という表現の性急さを惜しいとする意見も出た。

・子供らの取り出だしたる一日の点取占いめいた断片  三澤達世
占いとも言えないような断片的な言葉で書かれる「点取占い」のように、子供たちが語る一日の出来事を親のあたたかな視点で詠んだ歌。
個人的にはもうすこし高く評価されてもよかった一首だと思うが、読み手の「点取占い」に対する認知度の違いで票が分かれてしまったようだ。

・点字にて会話する子の描く街画用紙の上あふれるクレヨン  ガク
障害と共に生きる子のたくましさを、溢れんばかりのクレヨンで描いた街の絵を通して表現した一首。
下の句のまとめ方が少し安易に感じるとの意見や、視覚障害の子どもならばそこに「あふれるクレヨン」には留まらない何かがあるはずで、「あふれる」では迫力不足ではないかとの指摘も。

・輪転機回れよ回れゴシップにおどらされるは読み手か我か  雨宮司
栗木京子氏の「観覧車回れよ回れ…」の歌の本歌取りか。ユーモアのある作風を評価する意見がある一方、もと歌に位負けしているのではとの厳しい指摘もあり、歌会後に推敲した「ゴシップにおどらされるは輪転機回れよ回れ読み手も我も」という歌が披露された。

・東京へ引っ越しますという人の空気入れあり自転車置き場  有田里絵
春という旅立ちの季節の影響もあってか多くの共感を得、9票を集めた最高得点歌。
関西在住の詠み手が東京に抱くほんのりとしたコンプレックスのようなものが匂って感じられるとの指摘も。
十谷氏による、人がいろんなものを忘れてゆく春だなあとのコメントが印象に残った。

・教室に都会のかおり漂わせ転校生のミナコ現る  黒路よしひろ
転校生ミナコの登場を、少女漫画のサブタイトル的なインパクトを狙って詠んだ一首。
「ミナコ現る」が「ゴジラ出現」のようにインパクトがあり、だから初めて教室に入るといつもみんながやや迎撃態勢を取っていたのだと納得してしまった、という自身の子供時代の転校生生活を思い出す方もいた。

・天婦羅の海老になる夜一人分の体温纏って身体を捩る  那由多
ひとり寝のわびしさに身を捩る姿を海老に、一人分の体温を纏うという感覚を天麩羅のころもに譬えて魅力ある一首。
そこから身をよじるようなつらい出来事を感じ取る者や、カフカの「変身」を連想する者もいて読みが広がった。また、一言ずつの言葉は面白いが、すべて繋がると追ってゆくのがつらくなるとの指摘も。

・足の折れた天使のためにこひびとがあたためなほす蹼のスウプ  十谷あとり
蹼は「みずかき」と読む。「こひびと」が誰のこひびとなのか。天使か、作者か。また天使の恋人同士なのか、一方は人間なのかなど、この不思議な雰囲気の作品を読み解こうとする評で盛り上がった。静謐な感じのするスレンダーな身体で表現された宗教絵画のようとの意見も。
蹼のスウプという具象を活かすには、天使ではなくて人間を使ったほうがいいように思うとの指摘もあった。

・天国の恋しき人に見すために植ゑしあさがほ天上の青  野埜百合
天国の恋人に見せるために植えた青い朝顔の品種、「ヘヴンリー・ブルー」を詠んで魅力的な一首。
「天」という字が二つ入っているがそれがむしろより一層歌の世界を引き立てているように思う、など好意的な評がある反面、「恋しき」が読者にとっては言い過ぎなように感じられるとの指摘もあった。また、「見す」は連体形で「見するため」とするべきでは?との指摘に、歌会後、この「ために」は接続詞として使ったのだとの作者の解説があった。

つづいて、自由詠の高得点歌も数首紹介しておきます。

・青空にリボン結わえているように子らのつないだ両手は上に  有田里絵
・ところでと娘が云ったところでね幽霊買うて春昼烈日       蔦きうい
・湖岸より静かになだれ落ちる霧しろいかなたの水鳥の影    雨宮司
・篁【たかむら】が袖ひるがえし天駆ける六道の辻春一番に   ガク

以上、かばん関西三月歌会報告でした。

(黒路よしひろ/記)
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by kaban-west | 2012-04-01 23:08 | 歌会報告


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