かばん関西歌会

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2012年 08月 07日

7月歌会報告

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二〇一二年七月かばん関西メーリングリスト歌会

[参加者]あまねそう、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、塩谷風月(レ・パピエ・シアンⅡ、十谷あとり(日月)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、三澤達世、山下一路

今回の兼題は「働く・働き」。生きる根本にかかわるテーマならではの広がりを見せました。

グーグルの地図十一枚プリントし納品先のルートを作る  雨宮司

Googleマップのおかげで本当に便利になりましたが、プリントアウトして貼り合わせるのは、地道な手作業ですね。大切な納品先、入り組んだルートを想像させてくれます。地図の枚数は動くかもしれません。

側溝に落とした陰を引きだすとgood jobと言われたりする  山下一路

不思議な感じ、不気味さや寂しさを読み取った方の多い歌でした。陰が何なのかという点に議論が集中し、バーチャルな出来事だろうか、自分の人格の陰の部分を表しているのだろうか、と一同頭をひねりました。かつて自分が捨てたごみを自治会の一斉清掃で掘り起す羽目になり、不気味なものの象徴である陰、自分の精神のかげりと再びご対面したあげく、町内の奥さんからお礼を言われる、という掘り下げた読みもありました。

素粒子のあおいはたらき未明五時むかしが薫る冷えたポルトを  蔦きうい

素粒子、あおい、未明、冷えた、と冷たい印象の言葉が並ぶ雰囲気に評価があつまりました。ヒッグス粒子発見のニュースの後でもあり、時事詠としての側面があるのだろうかという意見も。かなをカナにしても雰囲気がでるのでは、という
改作案も挙がりました。

働くといふ壁のまへ息ひそめ白々しくも爪伸びし朝  冨家弘子

「壁」は、職に就くことの難しさ、働くに働けないもどかしさ、労働を徒労に感じてしまう気持ち、各人それぞれの読みがありました。上句、下句ともに抽象的な表現なのが、各人の読みが大きく異なる原因になったように思います。

病む床で<働く>を詠むへだたりにすこし笑って浅い眠りへ  三澤達世

動的な歌が並ぶなか、静かな世界を描いた歌。「少し笑って」の含みは、自嘲なのか、あきらめの気持ちなのか。働くことに必要以上のあこがれや引け目を感じさせない明るさが感じられる、という意見もあれば、病気の人にこんな思いをさせる社会こそ病気だ、という真剣な憤りも。ご心配をおかけしましたが、大分回復しました。

天の埃指でぬぐひて本棚に『はたらくくるまずかん』を戻す  十谷あとり

「天」は、本を立てた場合、上に見える切り口の部分を指します。埃をぬぐって本棚に戻す慈しむような行為を、図鑑自体への愛着ととった方もあれば、図鑑の持ち主だった子供との過ぎ去った時間への追憶、と受けとった方もありました。仕事中の図書館司書、という読みは、兼題「働く」に忠実です。

通勤の自転車羨【とも】しOLがまたぐサドルに僕はなりたい  黒路よしひろ

下品だが憎めないなど、明るい率直さが評価されました。江戸川乱歩の『人間椅子』を連想された方も。結句の軽さと「羨し」という端正なトーンのばらつきが気になる方、結句「僕はなりたい」は宮沢賢治のような言い回しであると感じる方、鉛筆やまくらならなってみたいと思ったことがある方、十人十色の感想は歌にほどよい隙があるからでしょうか。

さて、ここからは自由詠です。こちらも力作が集まりました。

草を食むきりんのやうなクレーンの群けぶりをり雨の港に  紀水章生

「クレーン=きりん」の見立てはありがち派と、見立ての素晴らしさを評価する派に分かれました。情景を丁寧に読んだ静かな歌です。歌の流れに無理がなく、雨の港へ視界が広がっていくような、気持ちのよさがあります。結句の倒置も効果的。

雨粒は涙を知らない雨音は雨に打たれたモノの悲しみ  ガク

雨だれのせつなさは、雨の側ではなく、打たれた側に存在するのです。観念的な一首でありながら、作者の悲痛、憂鬱が伝わってきます。モノ、と仮名で表記していることで乾いた印象を与える、季節感のあるアイテムや地名など具体を入れてみると寄り添って読めそうだ、という指摘も。

起きられぬ朝を乗り切る糧としてきなこ揚げパンひとつ購う  あまねそう

ささやかな生活の実感の描写が共感を集めました。「きなこ揚げパン」の生活感をはじめとして、言葉の斡旋が効いていて、ほのぼのした丁寧な歌です。そばにいてあげるから、寝ててもいいよ…という甘くささやく御仁も現れました。

昼下がり車内に切れた輪ゴム落つ今まで何をまとめてきたの  有田里絵

本来あるべきでない場所に、唐突に落ちている輪ゴムの違和感とさみしい佇まい。何をまとめてきたか不明なところが、余韻を生んでいます。作者は支えきれない心の問題に直面しているのではないか、という更なる読み込みも。各人、普段は気に留めない、輪ゴムの「束ねる力」に思いを馳せました。

くちびるのやわらかさだけは覚えてる三年遅れで届いた訃報  塩谷風月

思春期の恋愛だったかもしれませんし、それほど深い付き合いではなかった女性かもしれません。訃報が三年遅れで届くほど遠い存在となってしまった彼女を思う気持ちの切なさ。どこか夢の世界をさまよっているような趣があります。

本当に暑い時期の歌会でしたが、どんな歌にもがっぷり取り組んでいく皆様の力強さを感じます。ここには紹介しきれない、熱の入った大量のコメントを読んでみたい方は、関西MLへご登録ください。(三澤達世記)
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by kaban-west | 2012-08-07 12:54 | 歌会報告


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