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かばん関西歌会

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2013年 01月 07日

12月歌会報告

■2012年12月かばん関西オンライン歌会記■

☆参加者・あまねそう・雨宮司・有田里絵・ガク(ゲスト)・川村有史・紀水章生(中部短歌会/塔)・久真八志・黒路よしひろ(ゲスト)・十谷あとり(日月)・蔦きうい(玲瓏)・冨家弘子(ゲスト)・内記・福島直広・ふらみらり・ブルー(購読・選歌のみ)

 十五名が参加した十二月の歌会。集まったコメント、原稿用紙にして実に百十二枚分とあいなりました。壮絶と申せばよいでしょうか。腹をかかえて笑ったり、涙で字が霞んでしまったり、ちょっとムラムラきたり、大河小説を一晩で読んだごとくの充実した読後感をもちました。この興奮を体験せずに人生は語れません。みなさんもぜひ、かばん関西へ。
 ではまず兼題「家のなかの空間」からご案内しましょう。

●床の間のない家に住む子どもらは滝の掛け軸めくりにめくる  有田里絵
床の間がない家に住んでいる子どもが親の実家への里帰りして、めずらしい床の間の掛け軸にいたずらをしたのでしょう。子供のはしゃぐ足取り、歯を見せた笑顔が目に浮かびます。「めくらずにいられるか!」との強い共感も。また、床の間がないので壁に掛け軸をかけたのでは、とも解釈できますね。

●愛を告げよ 百何十何人目かにつぶれるイナバ物置 それでも  久真八志
百人乗っても大丈夫なイナバ物置でさえもつぶれるのだ、愛などというのもつぶれて当たり前のものだ、それでも、告げよ、愛せよ、という強烈なメッセージに多くの人が驚嘆しました。特に「それでも」の強さに注目した人、多数。イナバ物置は、絶対というものはないんだということの暗喩との説も。

●うつうつと眠れぬ夜をやり過ごすベッドサイドの小説を手に  雨宮司
眠れぬ夜のじりじりとした感覚が伝わってきます。共感できる、すごい好きという感想の反面、個性がないという意見が多数をしめました。小説では軽症、小説以外のものにすべき、具体的な小説の題名やジャンルを入れるべき、夜より朝がいい、自分の場合はビールだ、など議論百出でした。

●小春日の鉄階段にうづくまり猫の卵を孵す猫あり  十谷あとり
もしかしたら猫も卵を孵すかもしれないと思わせるような不思議さが、穏やかで押し黙ったような小春日和には感じられますね。鉄階段というひんやりとした言葉に、孤独感や疎外感を読み取った人も。猫の卵という発想には、違和感を感じた人や、そんな猫は愛したくないという意見もありました。

●寝室に迷い込みたる蚊を潰すたぶんこの血はABかB  あまねそう
ABかBであることの根拠に話題が集まりました。ひとつ屋根に暮らす血の持ち主への憎しみを感じた人、迷い込んだ蚊そのものの性格がABかBなのだという人、蚊に恋人を奪われた男を想定した人、この血は自分のものだと主張したB型の読者。歌に関係ない血液型論まで飛び出しました。

●冷えびえと桃色のみず染みてゆく二段目奥の紅生姜は姉の  冨家弘子
「姉の」という字余りが賛否両論でしたが、いずれにせよ姉に歌の焦点が絞られています。字余りが姉の生活感をより増幅させている、マイ紅生姜を持ってる姉が素敵、エロチックでセクシャル、敢えてとってつけたような姉におかしみがある、姉への想いを感じて怖い、など様々な姉像が出されました。

●日向くさいあなたが去ってひたひたと手水の底にカリブの霧笛  蔦きうい
手水とカリブの霧笛の関係について、猫のトイレをカリブ海にみたてた説、カリブこそが作者である説、恋人と別れて人生に迷った作者から零れた涙の水説、地球の裏側から霧笛が聞こえてくるトイレ説。悲しいこころを冷静な目で見つめている自分を感じた人のほか、唐突で理解できないという感想も。

●床下の奥にイタチが抜けた穴覗けば遠く森が広がる  黒路よしひろ
不思議だけど微笑ましいファンタジーや昔話の始まりを感じさせ、郷愁にかられますね。この森からトトロを想起した人が複数いました。穴とは、大人になっても持ち続けている、夢への憧れなのでしょう。小さな穴から広がる未知の世界に惹かれました。イタチの目で風景を味わっているという意見も。

●便座にも指紋認証システムを付くる我ゆえ笑ひものなり  川村有史
自分を突き放してしまっているところに強い疎外感を感じますね。そんな作者(主体)に対して、自分を大切にして欲しい、天然だけど魅力的な性格、他人が使えないトイレは困る、トイレ以外でも自分専用が欲しい、肛門認証でウォシュレットピンポイント攻撃して欲しい、などの声が寄せられました。

●一対の白いカップに満たされた紅茶はきつとまだ温かい  紀水章生
別れ話のような入り込んだ話の最中でしょうか。多くの人が「きっと」という言葉を手掛りに登場人物の心理を推測していました。温かな紅茶のもつ幸福感とは対極にある淋しさ、紅茶にしか気が行かないほど冷めている気持ちなどのほか、二人以外の者が入り込む余地は無いほど甘い関係という意見も。

●水の星タン生まれてはタン砕け散るタン ステンレスタンタタク  福島直広
シンクの排水溝に流れていく泡や水のきらめきの様子に、タンという擬音語を挿入した歌でしょうか。定型に収めながらリズムを打つことに職人芸を見た人、生活のなかに詩・死と生・エロスが躍動していることに驚いた人もいました。リズムについては、心地よさに賛否がわかれました。

●飽きたって 毎晩押し入れ潜り込みニヤリ「おやすみ、のび太くん」とか  ふらみらり
ニヤリしているのがドラえもんなのか、作者(主体)なのか、判断が二分されました。前者の意見の代表が、ドラえもんの笑みには愛がこめられているというもの。後者の代表が、ドラえもんのマネをする家族をあきれながら眺めているというものでした。「飽きたって」の解釈も千差万別でした。

●引き出しの星屑踏み分け探し出す開けてはならぬパンドラの箱  ガク
引き出しをかき回す感じを星屑踏み分けと表現しているのでしょうか。その混沌のなかにあるパンドラの箱。パンドラの箱そのものに「開けてはならぬ」という意味があるので、四句不要の意見が多数ありました。屑といえども星、光りものには気をつけたいという、星屑に焦点をあてた感想もありました。

●一杓の水さす君の白い手に胸がざわつく小間での一期  内記
 美しい女性との茶室での一期に胸がざわつく、その仄かな恋心を詠って素敵な一首ですね。静かな場での視覚が鋭敏に凝縮されている、張りつめた空気の中にざわつく胸のギャップがいいなど、感覚的に魅せられた人、多数。「君」を茶の湯の宗匠のあととり娘と想定した人もいました。

 自由詠から高得点歌のみ紹介します。
●エコ謳うエディオンの灯は煌々と師走を照らし吾を消し去る  福島直広
●空 黒い鳥たちが去り湯気のようにゆっくり動く灰色の 冬の  冨家弘子
●楓【ふう】の影あはく伸びきて一脚の椅子のごとしも冬芝のうへ  十谷あとり
●Gメールに移行済ませたママ友のややシステム化された文面  有田里絵
●川沿いのマンション群はひっそりと縦を揃えて光を放つ  あまねそう

                          (蔦きうい/記)

by kaban-west | 2013-01-07 11:08 | 歌会報告


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