かばん関西歌会

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2013年 12月 07日

10月歌会報告

かばん関西二〇一三年十月歌会記

[参加者]あまねそう、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、川村有史、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、十谷あとり(日月)、鈴木牛後、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線、三澤達世

今回の兼題は「商売」。各人とも毛色の違う作品を繰り出し、視野の広い歌会となりました。

<かたちのないものを売る>

すぐにひらきたくなります あなたから買いたいひとがもう、待ってます 川村有史

ひらくのは、歌集だろうか、魚だろうか、お財布だろうか、それともエロティックな歌なのだろうか。何を購っているのかわからないながらも、丁寧な作りに高評価だった歌。

売るための声と目である愛撫され引き摺り出された恋情もまた 冨家弘子

こちらも芸能人を詠んだものか、それとも大人のエロスなのか、読みが分かれました。大人のエロスと読んだ場合、結句が類型的である感が否めません。

<社会派はむずかしい>

実のとこ何がウリかはわからない消費増税国を売るのか 兵站戦線

歌への直接の批評よりは、個々の考えにコメントが偏りました。そのなかで、初句で、ところの「ろ」が省略されているため、リズムが切れてしまう、意味はとれるが結句が性急である、という冷静な読みも。

<場所の風情>

片隅に春夏冬二升五合【あきないますますはんじょう】の墨書を貼った居酒屋で飲む 雨宮

春夏冬二升五合【あきないますますはんじょう】という語句の面白さや、雰囲気のある居酒屋を描き出した点に評価があつまる一方、結句が物足りないという意見も。

焦がれおうて満たぬさだめの雛と騎士 淀屋の軒に吊るされており 蔦きうい

雛と騎士の取り合わせに違和感を感じる方もいて、豊かなドラマを見出す方もいて。店先のひとこまの切り取り方の妙が光ります。読み込まれた地名も抒情を添えています。

駅そばの出汁と女将の温度にてしばし忘れる外界の白 サカイミチカ

北国の駅のそば屋、温かい湯気、出汁のかおりの描出には評価が集まりました。「女将の温度」が表現を急いだきらいがあり、違和感を抱かせたり、読みを迷わせる結果となりました。「にて」「外界」は説明的であり、ぬくまった雰囲気から遠ざかってしまうのではという指摘も。

<個人商店対決>

佐藤亀商店の戸は開かぬまま日に褪せてゆくビスコの包み あまねそう

時の経過の象徴のように色褪せていくビスコの包みの描写に評価が集まりました。いかにも昭和の個人商店らしい店名は、風情があってよいという方、過剰を感じる方も。

人の声に応へ出で来る榊本豆腐の媼つねに手を拭く 十谷あとり

商売の一場面を活写しています。淡々とした描写ながら、媼の存在感、つめたい小さな手が立ち上がるようです。上句が少し説明しすぎかもしれない、という意見も。

<社会の隅々まで金銭の授受は介在する>

病院の会計待ちの長い列こんなに治りたい人がいる 有田里絵

「治したい」ではなく「治りたい」と表現したところに妙があります。上句の具象と下句の発見と驚きへの流れが自然に結びついています。散文的ではありますが、表現の必然を感じます。

保険売る男の薄き唇に見とれておれば横にゆがめり ふらみらり

立て板に水のように喋る保険屋の話をぼんやり聞いている感じ。見慣れない生き物の顔を見ているような気持ちになっていったのではないか、唇へのフェティッシュやそこはかとないエロス、死を取り扱う職業の不気味さを受け取った方も。「横にゆがんだ」は主語を迷わせるかもしれません。

チケットを売るためではなく弾くことは芸術に殉ずるため、と若きピアニスト 文屋亮

内容以前に破調、語句の整理について意見が集まりました。若い芸術家の気概は感じるが意外性に乏しい、いっそチケットを売るためと韜晦してくれた方がかっこいいとも。

商いの道を愛していた父は最後に自分の記憶を売った 鈴木牛後

認知症の家族を読んだ歌と解釈する読者と、SF的設定として読んだ読者に分かれました。前者の読みであれば、記憶を無くしていく父の姿をこのように描くことで納得しようとする切なさ、人間の業や無残が響きます。


<ザ・職業詠>

っしゃ行こか「ア メ フ テ キャ ピ キャ、チェックヨシ!」七つ道具を携え走る 福島直広

七つ道具がなんだかは具体的にわからないながらも、音の面白さの魅力や臨場感を受け取った方あり、わからないことで疎外されたように感じる方もあり。作者より、消防設備業に必要な道具だという種明かしをしていただきました。

電器屋の美香ちやんはいま空にゐるエアコン取り付け工事の難所 紀水章生

男性の多い仕事場であるエアコン取り付け工事の現場で働く女性を描いた、生き生きとした歌です。「空にゐる」で主体は亡くなっているのかもしれない、高所の表現として大げさではないかという意見もありました。

<売買するのはコンテンツ>

うつそみの身をさらしゆく生業はブログの文字に冬を鬻げり 佐藤元紀

結句は「春を鬻ぐ」のもじりであり、歌に灰色のトーンをもたらしています。ブログに自分の生活を綴り、切り売りするようなあり方に寂しさを感じています。「うつそみの身をさらしゆく生業」を主体の職業として受け取り、読み迷う方も。

楽をしてお金儲けがしたいですたとえば短歌つくって売って 黒路よしひろ

上句に対して配置される下句の内容に驚き、これは歌人というあり方に対する批評であろうかという意見もありましたが、正直笑ってしまった、無理、身も蓋もない本音が心地よい等、歌の内容に素直に寄り添った読みが集まりました。

<天気の良い秋の一日>

黄昏にあくびする猫電柱に夢売りますのかすれた活字 ガク

夢売ります、と猫の取り合わせ、歌に漂う雰囲気が素敵です。売られているものを字義通り夢と考える方、ピンクちらしに変換して受け取る方、豊かな読みを誘いました。夢売ります、の部分に括弧を付けた方が分かりやすいかも、という具体的な指摘も。

移動性気団が運ぶ透明な空気の中で花屋が開く 三澤達世

移動性気団という言葉の選択に評価が集まりました。結句は賛否あり、個々の花屋に対する感情によって読みが変わった感じがします。「空気の中で」は「空気の中に」でいいかもしれない、という具体的な指摘もいただきました。「透明」はつきすぎな感があるかもしれません。

<自由詠の部>

高得点歌を紹介します。

駆け巡る枯野求めて横向きのおまへをつらぬいてゐる御堂筋 佐藤元紀
あれは梅田あれは十三あれは毛馬よるにぐるりと囲まれて橋 冨家弘子
星さがしさまよふ画面にあらはれた遊星歯車機構の図面 紀水章生
ひとりでは悩まず電話してください(ただし職員勤務時間に) サカイミチカ
青空に真白き線が伸びゆくを子は喜べり背をそらして 文屋亮

今回、兼題の歌に返歌ならぬ美しい散文を付けてくださった方もいらっしゃいました。紙面の都合でご紹介できないのが残念です。読んでみたいと思った方は、ぜひ関西MLへご参加ください。

三澤達世記

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by kaban-west | 2013-12-07 17:40 | 歌会報告


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