2014年 01月 07日
かばん関西2013年12月オンライン歌会記 〈参加者〉あまねそう、雨宮司、有岡真里、有田里絵、伊庭日出樹(購読・詠草のみ)、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀(詠草のみ)、十谷あとり(日月)、鈴木牛後(購読)、せがわあき(選歌のみ)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、那由多、福島直広、ふらみらり、兵站戦線 かばん関西2013年12月オンライン歌会は、参加者19名、兼題「白」18首、自由詠17首という盛会になった。高得点歌から抄出していく。 ■兼題「白」 石段の窪みにたまる水を飲む白猫半ら冬の陽に透く 十谷あとり ・兼題では最高得点歌。情景が目に浮かぶようというコメントが多く、概ねわかりやすい一首として流されているが、もう少し掘り下げて鑑賞しても良いかも知れない。事実、わかりやすいと評される割に結句については解釈が割れている。 蒸籠からくすんだ顔を出す殻を割り黄と白の命いただく サカイミチカ ・次点歌。温泉玉子という言葉を使わずに表現したことの面白味と「命いただく」という表現への共感があった。他方、大袈裟過ぎるという意見も。 新鮮な寒気にのった雪の香に鼻腔をひらき我白くなる あまねそう ・「新鮮な寒気」「雪の香」という表現への支持が多数あったが、わかりにくいという意見も。結句についても「我」の必要性や「白くなる」の表現について異論もあった。 光のみ燦々と降る道をゆく君は真白に包まれている 雨宮司 ・抽象的過ぎて情報量が足りず情景を確定できない、という意見が複数あった。結婚式を連想した人が多数ではあるが、雪と捉えた人も何とも捉えきれない人も居て、一考を要するだろう。 漂白剤くぐった白いタオルのよう大人の前ではいい子になる子 ふらみらり ・前半の比喩が、賞賛されるか相応しくないとされるかでコメントは二分された。大人であるコメンテーター諸氏の子供への見方がいろいろ出てきて面白かった。 巣の下に死んでしまつた雛を見たけふ予報官はま白のスーツ 紀水章生 ・二つの情景の結びつけ方で読みが様々に分かれた。特に下句になんらかの象徴を見ようとする意見が複数あり、それが「慶事」「死」「日常」など全く方向性が割れた。短歌は揺るがないことが一番と言われるが、こういう歌も面白いと個人的には思う。勿論、読者を惹きつける何かを持っていることが大前提ではあるが。 バスタオルにくるまれし赤ん坊苺大福のやふに見えたり 那由多 ・情景としては微笑ましいが、破調について、また文法についての難を示す意見が複数あった。 シロちゃんと呼ばれてるけど本当はシロちゃんじゃないうちのしろいぬ 福島直広 ・報告、只事歌という指摘、また「呼ばれている」とすべき等。幾つか意見は付いたが、感触的には概ね好評な歌となった。 並木道肉まんほんわり湯気の中潔らな八重歯冬と伝へる 有岡真里 ・体言止めの連続をスライドショーのようと肯定的に捉えるか羅列的と捉えるか分かれた。また破調表現に対して、結句に対しても難を示されたが、前歌と同様情景的には好意的に捉えられている。 しろししろししろしきしまのぬばたまのやまとしまねの闇こそしらね 佐藤元紀 ・本気の遊び心が面白いと賛辞を送る人と、わかりにくいと難を示す人に分かれたが、魅力ある歌であることについては概ね一致しているようだった。 ■自由詠 青ざめた景色を呑んで雨粒はつぎつぎまるくなって弾ける 冨家弘子 ・自由詠最高得点歌。表現が斬新である、情景が鮮やかである等の評価。点を入れていない評も概ね好意的であったが、上句と下句の印象の差に違和感を感じる人もいた。 とりもどしたいのはじぶん風の夜は鍋焼きうどんの半熟たまご 紀水章生 ・次点歌。上二句のひらがな表現が好評。「半熟たまご」については様々な解釈があった。他方、上二句とその下との繋がりに難を示す意見も複数。 いつの日か君とあはなむうたかたのゆふべののちの野ににほひつつ 佐藤元紀 ・「死」「後朝」「エロス」等、様々なイメージを惹起している。全体的に淡い表現を良しとするか難とするか。上句が大袈裟という意見も。 冬尺が林を独り飛び急ぐ小春日和の昼下がりには 雨宮司 ・冬尺のイメージをどう捉えるかで印象が微妙に異なっているようだ。世間にあまり馴染みの無い存在を歌に使う場合は、もし写生であっても知らない読者には実感の無い想像に頼ってもらうしかなく景としては難しいところ。だからと言って使うのを控えた方が良いとは思わないし、むしろこういうことが短歌の面白さのひとつとも思える。 色のなき空【くう】の在り処に凛々と響くかのごとゆふぐれの水 兵站戦線 ・幻想的で美しいと賞賛される反面、捉えどころが無くきれいに仕上げようとし過ぎている等の指摘も。夕方の雨という具象に言及した人は一人だけ。色即是空に絡めて解釈する人も複数。 生ビール六本だけをカゴに積み自転車の爺ニヤリと渡る 鈴木牛後 ・表現にもうひとひねり欲しいという意見が複数。銘柄を明記した方が景がはっきりするという意見も。「渡る」については横断歩道という意見と、渡し船という想像もあった。(大阪市内には市営の渡し船が複数個所、現在も運行している) 埋められた川の方よりきれぎれに降り過ぐ時雨光るともせず 十谷あとり ・情景を捉えきれないという意見が多かった。大阪という土地柄(川を埋めて道にしたところが多数存在する)に言及した人も複数。 あの手紙読めなくなったコーヒーをかばんの中でぶちまけたから ふらみらり ・「手紙」の内容についてヒントが無く解釈が広がった。それも作者の狙いかも知れない。シンプルで説明に落ちているという評もあるが「手紙」という言葉ひとつでこれだけ世界が広がるのは力なのかも。 ましまほし活用形を唱えてもきっとうたなど詠まぬきみたち サカイミチカ ・作中主体を教師と捉える人が多かった。共感を言う人もいれば、口語短歌を詠む歌人が多い現在にはそぐわないという意見も。 かばん関西MLの現時点での登録アドレス数は九十一あり、今回の歌会の表立った参加者の率は、全体の二十パーセントになる。この数字を多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるだろう。ただ、単純計算では参加者の四倍の沈黙の読者がいるわけで「読む」ということも参加のひとつの形だとしたら、こんな大規模な歌会はなかなか無い。華々しい発展より継続こそを金と思い、今後もこのささやかな、しかししぶとい歌の場を繋いで行きたい。(塩谷風月 記)
by kaban-west
| 2014-01-07 18:20
| 歌会報告
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