2014年 11月 08日

10月歌会報告

 かばん関西二〇一四年一〇月オンライン歌会記

〈参加者〉安部暢哉、あまねそう(選歌のみ)、雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有岡真里(飛聲/購読)、有田里絵、小野田光、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、小坂井大輔、小松才恵子(ゲスト)、酒井真帆、佐藤元紀、十谷あとり(日月)、杉田抱僕、蔦きうい(玲瓏)、とみいえひろこ、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線(かばん/塔)、茉莉(ゲスト)、山下りん

≪兼題「料理」≫
 蔦氏の指定で、必ず料理名を詠み込むことが作歌の条件となった。豪華な料理から親しみのある料理まで、幅広いメニューが揃い、盛会となった。

月蝕が始まつてゐる(別れには)とつてもミネストローネな夜だ  新井蜜
くびすじは生ハム春巻あしゆびは南瓜のニョッキ秋の深窓  蔦きうい
シウマイのウは鮮やかにスルーされ意義も唱えずユに身を隠す  小坂井大輔

 新井作品。月蝕の赤とミネストローネの赤が愛や別れの孕む狂気と合っている、豊穣と月蝕との対比は不気味ですらある、との鮮烈な肯定の一方で、( )の必然性はあるのか、ミネストローネを食べたことがないから理解できない、等の意見もあった。蔦作品。比喩の大胆さに全てがかかっている、エロティックな作風の読後感が心地良い、との意見が目立つ一方、「秋の深窓」で終わる構成には疑問も出された。小坂井作品。「異議」を「意義」としてしまうケアレスミスもあったが、「シウマイ」に巻き込まれた音に対する共感は多かった。「シウマイ」の表記は店が「旨い」を商品に籠めたいと願った結果だったという裏話も。余談だが、「未来」の加藤治郎氏がツイッ ター上でしきりと「シウマイ」を呟いていたのは公然の秘密である。

頬打たぬ雨が流るる窓のむこう傷付けたのだろうサラダ冷ゆ  とみいえひろこ
あっそうだ一人だったな 筑前煮のごぼうだけが残っているから  杉田抱僕
具を入れず毎朝作るオムレツで祇園精舎の鐘から逃げる  酒井真帆

 とみいえ作品。中途半端な冷えになったサラダと共に、傷つけた他者を待っている様子が共感を呼ぶ。雨の効果への指摘も多数集まった。今回初参加の杉田作品。作中主体が苦手とする牛蒡のみが残った様子の雄弁さに意見が集中する。そこから二人でいることの意味に言及する者、多し。酒井作品。日常の繰り返しにはうんざりする、それでも生きることの確かさは確認せずにはいられない、と理解を示す者がいる一方で、オムレツと祇園精舎の鐘との関連が解からない、と悩み続ける者も多かった。

出汁かをるおでん白滝ここちよい歯触りたのし小雨の桂  有岡真里
お互いの出身星を教えあい地球風味のおでんをつつく  黒路よしひろ
ガルビュールに赤唐辛子二本入れとろ火のままにおまへとの冬  佐藤元紀
半球の黄色い海が揺れる朝カシャカシャカジュ-僕はエリンギ  福島直広

 おでん二題。まずは有岡作品。匂い、舞台、リズム感の全てが心地良いという絶賛や、「たのし」の背後に誰かとの会話を読み取る見解があった。そこまで共感しなくても、歌の上品さや、ミスマッチ感覚の妙を指摘する者もいた。黒路作品。SF風味の設定に想像力を喚起する者、多数。異なる星の異文化同士が交流する様子が素晴らしい、日本国内でも千差万別なおでんの味が「星」「地球」といった壮大な言葉とのギャップに上手く収まっている、等、スケールの大きさにはほぼ全ての者が共感を示していた。シャイなのでこの様には語らえない、という意見も。高得点歌。
 佐藤作品。ガルビュールとは、フランスの、豚肉と野菜ベースのスープのこと。鼻につく寸前の格好良さに心を掴まれる者や、「冬」がじんわり効いてくると言う者がいた。一方で、どこかキャッチコピーめいていると感じる者もいた。福島作品。「カシャカシャカジュー」に足を掬われる者が続出。普通に読むと玉子でオムレツを作る擬音だと判るのだが、「カジュー」がアマゾン流域にある果物と同音である為に悩まされる者もいた。やはり約束事は守ってほしい。

いつまでも理解できないカレー丼受け皿変えて済むものでなし   有田里絵
端的に「好き」とそらにはうろこ雲カレーライスにサワークリーム  兵站戦線
昼休みカレーライスは冷え冷えと帰るあてなき主【あるじ】を待てり  ガク
団地中カレーが香る夕暮れを振り切ってゆく家出少年  小松才恵子

 カレー四題。有田作品。海外には器を変えただけで呼称が変わる料理があるのだろうかという疑問や、うどん屋や蕎麦屋で食べるのがカレーライスと全く別物であることを許せるかどうかで作品への共感度が変わるという指摘があった。ちなみに、カレールーを出汁で溶くのがカレー丼の通例である様だ。兵站戦線作品。「端的に」が効いていると捉える意見が多かった。うろこ雲がいわば非在の存在ではないかという疑問や、「うろこ雲」で美味しそうに思えるという意見もあった。詰めこみ過ぎでイメージが分散するという見解も。ガク作品。冷えたカレーのわびしさ、寂しさへ共感を寄せる意見、多数。無人の部屋を連想した者が大半だったが、そうなった状況が解からな いと言う者や、カレーを用意したのは誰だったのかと悩む者もいた。続いて小松作品。家出少年とカレーの匂いの対照の妙に感じ入る者が大半を占めた。カレーを家の象徴と見立て、それを振り切ってゆく家出少年の決意の強さに思いを馳せる者が少なからずいた。高得点歌。

何ひとつ果たせぬ一日夕の餉のかきたまの雲も掬ひそこねて  十谷あとり
定番という暖かさになり栗ごはん食卓に盛るお茶碗四つ  山下りん
発光ダイオードには敵【かなわ】ぬも三色丼【さんしょくどんぶり】食卓を明るうす  茉莉
蜜からめ大学芋となるはずが飴の膜張り抜糸地瓜【パースーチィクァ】  雨宮司

 十谷作品。「かきたまの雲」の非力さに共感する者と、逆に力強さを得た者に大きく分かれた。明日は頑張れそうなユーモアを感じた者や、「雲も掬いそこねて」私を救いそこね、そこに在ることで多くの人を救っている、という読みもあった。高得点歌。次に山下作品。「定番」をどう捉えるかで評価が大きく分かれたが、概ね家庭的な雰囲気を享受している様だった。茉莉作品。時事詠としての側面も持つ唯一の短歌。アイデア倒れになった感もあるが、平和な情景に好感を抱く者は多かった。何を以て三色とするかは各者各様。海鮮系と肉・玉子系に大別できる様だった。雨宮作品。凝りすぎて興を削いでいる、正直なところ違いが判らないという意見が多く寄せられた。 狙いをシビアにし過ぎたか。滑稽さを評価する者もいた。

薄焼きの嘘はお嫌い? 重ねれば胸焼け だけど美味ミルフィーユ  小野田光
ジンジャーマンクッキー作るこの子にもやがて出てゆく理由ができる  文屋亮
ドーナツを六コ食べたいきさつを鏡の中の美容師語る  ふらみらり
ハルカスにふたり下界をながめつつタピオカ抹茶ミルクをなめる  紀水章生

 小野田作品。嘘を恋愛の一部と認めるか否か。見解は割れたが技量は買う人が少なからず存在した。「嘘」がどこに係るのか疑問視する意見や、演出過剰ではないかという苦言もあった。文屋作品。第三句以降の率直な諦念への共感が非常に強かった。人型のクッキーを子供が焼いて食べたり他者にあげたりする行為に冷静な怖さを感じる者や、出ていく理由を書かないのがいいという指摘もあった。高得点歌。ふらみ作品。視点の面白さへの言及、実話っぽいとの指摘があった。第二句六音の字足らずの是非を問う意見が集中し、数の上では圧倒的に七音にした方がいいという結論になった。紀水作品。ハルカスは日本一の高さを誇るビルの名。特権的な視点を持ち、贅沢だが 天上のものではない物を飲まずに「なめる」。エロスと退屈と不穏が渦巻いている。

≪自由詠≫

一部をピックアップしてみた。制約を解かれた自由な空気を、ぜひ味わってほしい。

秋の空気切り出せば薄荷のかをりして星は光をきりきり絞り  文屋亮
十三夜ひと月経てばその分の残りの時間短くなれり  安部暢哉
ひとひらになりて押さるるままふっと見えなくなった秋の青空  とみいえひろこ
チャーシューのおまけぐらいじゃ止まらない失恋に泣く僕のなみだは  黒路よしひろ
いまは亡き尾のさびしさに耐へかねて人は生きたり樹上の夢に  兵站戦線
我はまだざわざわとして曼珠沙華五十の道やただただ赤く 山下りん
空ふさぐ飛行機の腹あおぎ見てこれなら届くと背伸びする路地  ふらみらり
だれにでも優しいところが好きだけど同んなじ理由で死ねとも思う  小坂井大輔
冬を急ぐいのちにまかせ狩りゆかむおまへのはだのはやきもみぢを  佐藤元紀
高架下のシャッター開き秋の日にあたたまりゆくあまたの柩  十谷あとり
体温の届く範囲は縄張りです侵入したら私にします  杉田抱僕
薄野をゆびからませて巡礼すグラナダかんのんグラナダかんのん  蔦きうい
(雨宮司・記)
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by kaban-west | 2014-11-08 20:19 | 歌会報告


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