2014年 12月 04日

11月歌会報告

〈二〇一四年十一月かばん関西オンライン歌会〉

〈参加者〉
安部暢哉・あまねそう・雨宮司・新井蜜(かばん/塔)・有岡真里(購読)・有田里絵・岩崎陸(購読)・小野田光・ガク(ゲスト)・紀水章生(中部短歌会/塔)・黒路よしひろ(ゲスト)・小坂井大輔・小松才恵子(ゲスト)・佐藤元紀・杉田抱僕・蔦きうい(玲瓏)・とみいえひろこ・福島直広・不思議童子・ふらみらり・文屋亮(玲瓏)・兵站戦線(かばん/塔)・茉莉(ゲスト)・三澤達世・山下りん(ゲスト)


雨宮さんから提示されたお題は「あたたかい」。今回初めて参加された方も含め、にぎやかで濃密な歌会になりました。こうもひとりひとりの読み方とは違うものかと毎回思わされます。


〈あたたかいひと〉
或る点に触れないきみのやさしさはこの胸に咲くあたたかい霜  小野田光
冷えた手で繋ぎあってもあたたかい「いつも」を違う角度で見れば  小坂井大輔
あたたかなふくら脛だな冷え性のわたしと彼の恋の温度差  黒路よしひろ

一首目。霜は、痛い。「あたたかい霜」という矛盾した表現によって、あえて「或る点に触れない」ことのやさしさが述べられています。下句で美しく的確に、まさに霜のような一抹のさびしさが表現されている一首。心象と読んだ人が多数。「触れない」ことは、やさしさでしょうか。
二首目。それをあたたかく感じるか冷たく感じるかは、結局のところ関係性次第。自分から視点を少し変えて見てみるということの難しさに気付くきっかけとなった一首。下句がやや説明的すぎるのでは、という意見も。ところで、このあたたかさは二人の間で共有されているのでしょうか。
三首目。自由詠でも、主体が女性の歌を詠まれていた黒路さん。意外な比喩にリアリティがあるという意見、「ふくら脛」に触れたのであろう関係を描くことでその親密さをにおわせる描き方が上手という意見。その温度差の描き方がパターン化しているのではという意見も。「わたし」はもう、冷めてしまっているのでしょうか。

温かい手の人だったと思い出すつまずく母の手を取った時  あまねそう
冬の夜の小鍋独酌ながながと四方の嵐をあたたかく聴く  佐藤元紀
あたたかな瞳の君が星になる うつむきません追ひ続けます  有岡真里

一首目。つまずいた母に思わず手を差し出した〈瞬間〉を捉えることで、母の手のぬくもりの〈記憶〉がぐっと主体と読み手に迫ります。「温かい手」と主体の間での、その瞬間までの距離感も胸を衝く、巧みな歌。抑えた筆致にさまざまな感慨を託しています。
二首目。「あたたかく聴く」ことができるのはあたたかい人。ひとりきりでいるときにこそ隠せない、人間の芯の部分にある〈あたたかさ〉が感じられる、魅力ある一首。「四方の嵐」と対比させたことで浮かび上がる静けさや情緒が余韻をのこします。
三首目。多くの人が「星になる」を手がかりに挽歌として鑑賞しました。相聞、あるいは目標とするような人への強い憧れが伝わります。下句の前向きな姿勢や一途さを評価した人、「追ひ続け」るという覚悟にやどる情念がそれほど伝わってこないという人。「なる」という時間を含んだ表現に、切実さがこもっているよう。

〈あたたかい食事〉
あたたかいかぼちやスープが飲みたいとメールを流す宇宙船から  新井蜜
あたたかなスープの香る夢だつた思ひ出せない誰かの名前  文屋亮
ぐつぐつと煮込んだおでん火をとめてゆっくり冷ましまたあたためる  福島直広

一首目。宇宙という隔離された空間で、日常生活のぬくもりの象徴ともいえるスープを求める。その人間くささが、宇宙の壮大さとの対比になっています。もっとSF心をくすぐる単語が入っていればよかった、「メールを流す」という表現が複数名への一斉メールの気配がして上手、という意見も。
二首目。誰しも、目覚めたときにあれは何だったかなという夢をみたことがあるはず。そんな夢の余韻が三句目までほんのり香り、四句、結句で現実に引き戻されます。そこに流れるドラマの完成度の高さや旧仮名の雰囲気が魅力的。「誰か」を軸に想像が広がりました。
三首目。なんということはない情景描写のなかに生活の実感が丁寧に描かれている、印象的な一首。よく煮えてゆくさまが人の心の有り様を思い起こさせもします。おでんだけの描写によってその奥にある物語が次々に広がっていくという意見、もう少し違う視点からアプローチしてみてもよかったのでは、との意見も。

〈あたたかい日〉
あたたかく虫歯が疼きそうな日を振り向くんじゃないお前の道だ  雨宮司
あたたけく陽気なるかと疑へば秋時雨来てもはら去りゆく  兵站戦線

一首目。言われてみればたしかに、あたたかい日には長年の虫歯が疼きそう。前半と、後半の大仰さのミスマッチが面白い一首。あたたかさは傷に沁みる。その傷を表面には見えず本人にだけ甚大な痛みを与える虫歯に喩えたところが良かったのでしょう。ときどき登場する歯医者ネタに盛り上がりました。
二首目。去りゆくのはあたたけき陽気か、秋時雨か。いな、去りゆくのは自分。季節の移ろいや今いる場所、関わっている人たちから降板するのかもしれません。初句の連用形、「疑へば」という強い言葉が気になります。とはいえ、美しい正仮名にうっとりさせられました。

〈あたたかい言葉〉
暖かい話をいつも求めつつ歩き続ける冷たき街を  安部暢哉
無言でもあたたかいんだ君の吐く白い息だけずっと見ている  ふらみらり
温かき言葉と英語のflowerの綴り忘れぬ我でありたし  茉莉

一首目。「冷たき」により、主体にとっての「暖かい話」の必要性が引き立っていますが、ストレートすぎる言葉の対比にやや拙さが出たのでは。「歩き続ける」ことは生きることとして鑑賞でき、「暖か」さを求めながらも、都会の孤独を生きるメランコリーが立ちのぼります。
二首目。冬のあたたかな相聞として鑑賞した人、二人の恋をあくまでも個人的に感じとっている切なさを鑑賞した人に分かれました。いずれにしても「無言」が効いており、逆光に輝く「白い息」を際立たせています。情景が目に浮かぶような一首。
三首目。「flower」の綴りがきれい。その単語にまつわる記憶を大切にしたいのでしょうか。「flower」の原義は「最良の部分」とのことですが、なぜ「flower」なのか?そこをどう捉えるかが、どう鑑賞するかの鍵になったようです。「我」というまとめ方が少し安易では、という意見も。

〈あたたかい場所〉
あの日から帰らぬつばめ此処よりもあたたかき地に戯れるのか  小松才恵子
セーラほど不幸じゃなくてもこんな日は暖かい部屋に迎えてほしい  杉田抱僕
午後九時を過ぎても店はあたたかいモスジーバーの笑顔も置いて  紀水章生

一首目。「つばめ」を実際の燕と読んだ人、「若い男性の恋人」と読んだ人に分かれました。燕の旅立ちを詠んだ歌であれば上句の説明調と「あの日」の思わせぶりが気になります。恋人へのうらみごとを詠んだ歌なら、下句の趣き深さが光ります。未練を残しつつも諦めて見送る、「あたたか」な眼差しも滲むよう。
二首目。セーラとは「小公女セーラ」のことでしょう。セーラはその不幸ゆえに暖かい部屋に迎えられているけれどわたしは…という心情。この微妙な格差的抒情という着眼点の鋭さ。辛いことのあった一日を、コミカルにさらっと表現するという余裕が感じられます。「こんな日」がやや甘いという意見も。
三首目。「モスジーバー」とはモスバーガーの高齢店員のこと。高齢者が笑顔や「あたたかい」という言葉とともに描かれるという着眼点が魅力的。人工的な明るい空間の中で働く高齢者の光景からは、未来的な不思議な味わいも。笑顔は固定できないため、結句の「置いて」には違和感も。

〈あたたかい情景〉
リコーダー奏でる生徒らのゆびは重なりあってきっとあたたか  有田里絵
吸いこんだときにひゅう、ってくるでしょう。あたたかいままじゃだめな、煙ね。  とみいえひろこ
あたたかく触れし汽笛もゆきゆきて 記憶響きぬ星の停車場  岩崎陸

一首目。高得点歌。いかにも体温の高そうな子どもたちの、たくさんの動く「ゆび」に焦点を絞った具体的な描写で懐かしさや音の「あたたかさ」がストレートに伝わります。「ゆびは重なりあって」がどういう状況なのかが分からない、「ら」で焦点がぼけるという意見も。
二首目。若い女性の台詞なのか、全体的にただよう〈ぬるさ〉、感覚的な描写による分かりにくさが、解釈に幅を持たせておもしろいと受け入れられました。「あたたかいままじゃだめ」なものとは、メンソールの煙草?恋愛?人生?句読点は必要だったでしょうか。
三首目。『銀河鉄道の夜』や『銀河鉄道999』を想像した人が多数。大らかな空間の広がりに流れる、寂しく優しいSFのような世界観が魅力的という意見、雰囲気のいい言葉にプラスアルファがあればという意見が、一字あけが歌の流れを削いでいるのではないかという意見も。

もそもそと枇杷咲く季節あたたかなカフェオレボウルに添える指先  三澤達世
タイトルは「あたたかな地図」くつしたに浸す檸檬であなたを歩く  蔦きうい
荒磯に打ち上げられた暖かい魚の肌は波に崩れぬ  ガク

一首目。こちらも高得点歌。「もそもそ」という見事なオノマトペが季節と呼応して呼び込むあたたかさ、「指先」への着地が魅力的。一つ一つの言葉が確かな印象を持たせ、それが結びついて一首をなしています。「枇杷」「カフェオレ」「指先」。名詞が複数あり、ポイントがぼやけてしまったという意見も。
二首目。「あたたかな地図」=「あなた」ととれば、主体が「あなた」を「くつしたに浸す檸檬」で歩くことになります。独特の修辞の魅力からさまざまな想像と疑問が広がりました。地図を見ながら歩くように、私の知らないあなたをひとつづつ探して歩くのだ、と人生を読み取った人も。「くつしたに浸す檸檬」が難解過ぎたよう。
三首目。生命というサイクルを大きな視点で描いたからこそ現れる美しさが印象的です。情景を淡々とかつ鮮やかに切り取った一首。「崩れぬ」に生き物の持つ宿命的な無常観が宿ります。ここでは「温」ではなく「暖」が使われており、「暖」の対義は「寒」。「寒い魚の肌」は成立しないのではという意見も。

失って/すべてが冷めた世の中で/落ちる涙が/ただあたたかい  不思議童子
脱ぎたての暖かき繭並びたるいつか旅立つ君らのベッドに  山下りん

一首目。自分の涙以外に暖かいものがないという絶望。分かち書きが新鮮で、心情が素直に述べられているため、切実さや真実がこもっているようです。全体的に観念的な世界、類型にはまっている感がある、分かち書きの効果は果たしてあるのか、という意見がありました。
二首目。高得点歌。親が子を見守る視線でしょうか。新生児室の風景ととらえた人も。眠る子を繭と捉えた気付き。そしていつかは手放さなければならない、そこに息づく不安感が一首の中にまとめられています。三句目の連体形はベッドに連なってしまいます。結句の字余りのだらしなさも気になりました。



無理矢理ジャンル分けして紹介しましたが、「あたたかい」という言葉にまつわるイメージは、本来ジャンル分けできないものなのでしょう。さまざまな要素が作用し合って醸し出すもの。それでも、「あたたかい」とは既に固定したイメージを持つ言葉。それをどこまで、どういう風に広げるのか、裏切るのか、発見するのかが鍵だったようです。今回の歌会は宇宙的な広がりがある歌が多かったという意見もありました。

自由詠より高得点歌を五首紹介します。

「日曜が少し多めのカレンダー置いていますか? 売り切れですか……」  あまねそう
白衣着たオヤジが布施から乗って来た551の豚まん提げて  福島直広
ギザギザが急にいとしいものになる心拍数の山がきれいだ  有田里絵
まな板が嫌いな従姉にひっそりと贈る肉斬り鋏はピンク  蔦きうい
湯気白き眼鏡にふたり箸をとめ笑う師走の町のうどん屋  小松才恵子

さまざまな歌やコメントに触れることができました。

(記:とみいえひろこ)
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by kaban-west | 2014-12-04 00:20 | 歌会報告


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