2015年 04月 07日

3月歌会報告

< かばん関西 二〇一五年三月オンライン歌会 >

[参加者]あまねそう、雨宮司、新井蜜(かばん、塔)、有岡真里(ゲスト)、有田里絵、岩井曜(小松才恵子改め・ゲスト)、岩崎陸(購読)、オカザキなを、小野田光、ガク(ゲスト)、黒路よしひろ(ゲスト)、小坂井大輔、佐藤元紀、酒井真帆、杉田抱僕、蔦きうい(玲瓏)、とみいえひろこ、ぱん子(ゲスト)、福島直広、不思議童子、ふらみらり、兵站戦線(かばん、塔)、三澤達世、山下りん(ゲスト)

 今回有田さんから出されたお題は、「は」から始まって「る」で終わる歌。自由詠はなし。計7点の持ち点制で、一首につき2点まで入れることができる。点は使い切らねばならない。波乱の予感の中、二十四首が集まった。

浜辺へと打ち寄せひかる波に濡れうつすらひらくきみの唇 新井蜜 【7点】
ハンカチを忘れたきみはびしょびしょの両手伸ばした幽霊になる 有田里絵 【9点】
はてさてと問われるままに川向こうご先祖様がいっぱいの春 岩崎陸 【9点】
「は」ではじめ「る」で終わる歌詠めという恋文めいた指令のめーる 黒路よしひろ 【5点】

 一首目。上句の幻想的な感じが唇の艶やかさを一層生みだす、圧倒されて無心になった時の呆然とした唇は素敵だ、等の好意的な評価が目立つ。一方で、動詞が多い、エロス感としては手垢がついている、等の指摘もあった。二首目。よくある情景を幽霊にまで飛躍させた点が好評を得る。一方で、あるある感だけで終わってしまってはもったいない、生の言葉に乏しい気がする、等の反論もあった。三首目。のほほんとした歌いっぷりとおおらかな気持ちにさせる点が評価される。一方で、上句が分からないという意見もみられた。四首目。お題を逆手に取った内容と「恋人めいた指令」という表現が好評だった。「めーる」のひらがな表記には賛否両論があった。

はるかなり家族生活いまにして思ひいづるは彼のなゐの夜 兵站戦線 【3点】
歯無しゆえ今日も小さく赤ん坊の口先尖ってぴよめいている オカザキなを 【7点】
はだかとは怜悧な服罪いたさをもきもちよさをも預け目を見る 蔦きうい 【3点】
ハイチュウの歯ごたえが好き目を閉じて食べさせあえばほら春が来る 岩井曜(小松才恵子改め) 【4点】

 一首目。特定の震災に限定せずに普遍性を見出す評や、地震の時に頼りとなる家族がいない喪失感を評価する意見があった。一方、上句からは切実さが感じられない、「はるかなり」と「彼の」は重複していないか、等の反論も多かった。二首目。「ぴよめいている」という表現に高評価が集まる。「歯無しゆえ」が粗く、説明っぽいという意見もあった。三首目。第二句の「怜悧な服罪」の硬さと、それとは対照的なひらがな表記。評価は二分された。熟語の硬さを必然と見る者、逆に散文的と感じる者が、それぞれの意見を開陳した。四首目。いやらしさが増幅され、奇妙な歪みが感じられる、素直な詠みぶりがいい、擬似キスを思わせる確信犯、等の評価がある一方で、結句を「好き」 という 感情だけで語ろうとするのは安直ではないか、という意見もあった。

はしきやし炎かつかつ焼き尽くす時もろともおまへを抱き締むる 佐藤元紀 【2点】
はみ出してしまう、しまうよ つかれきて春を告げくるラジオを捨てる とみいえひろこ 【7点】
春雨の向こうに見える雪の山屹度あえるねあんでるたある 福島直広 【8点】

 一首目。「はしきやし」とは「愛おしい」を意味する古語。普段はお目にかかれない言葉を使いこなしながらも下句のリズムが整わなかったのを惜しむ声、多数。女性性というイデアを抽出したいのではないか、という意見もあった。二首目。何がはみ出すのか。全く不明ながらも切迫感からの疲労の結果としてなら理解できる、という声が多かった。一方、何故ラジオを捨てるのかという意見も多かった。三首目。だんだん呪文めいてくるという意見が出るほど、下句に破壊力がこめられた短歌。七七で読むべきか、六八で読むべきか、塚本邦雄が生きていたら喜びそうな意見が百出した。ちなみに、一部で記されていた「アンデルタール人」は実在しません。

花の香のかすかに匂う川べりに君と二人でうずくまる夜 ガク 【5点】
花びらを朝露に濡れてひらきをり春の吐息に紅梅めざむる 有岡真里 【3点】
花筏ひとひら食べた深海魚眠りは遠く燐光の夜 雨宮司 【12点】

 花三首。一首目。賀茂川だろうか。懐かしさを感じる者、情景に自然に溶けこめると言う者、川べりの部屋でのひとコマではないかと言う者などがいた。一方、自然に読めすぎている、妄想ではないか、なぜかべたな感覚がある、という意見もあった。二首目。「すけべえ」「べったりエロス」との評が出る。それほど堅実な花の歌ということか。花はエロスを内包する旨の指摘もあった。三首目。幻想的な作風をどう捉えるかで評価は割れた。花筏と深海魚との意外な取り合わせに美を感じる者と、細部の齟齬に違和感を覚える者。おまけに花筏は二種類の意味に分かれる。点はとれたが課題も残った。

母親に叱られている子ども見て知らずと母に子どもにもなる ふらみらり 【3点】
半月のひかりを受けてくちびるが(進めない、戻れない)ふるえる 酒井真帆 【11点】
はげしさにしがみつくよりほかなくてあえぐまもなくびりびりはてる 不思議童子 【7点】

 一首目。こういう状況をよくみるが確かに自分もこうなっている、まだ整理できる気がするが詠まれた感情は静かな共感を誘う、との肯定的な批評があった。一方、下句の表現の甘さを指摘する意見も目立った。二首目。男女の関係が背景にあるのか。表現技巧が全体の調子に合っている、心中語が初句と呼応して感傷を生んでいる、( )内が葛藤や花占いの様だ、との評があった。目立った否定のない短歌だった。三首目。アダルト短歌、心をつかまれるのは並んだ言葉の激しさだけではない、等の好意的な評価があった。そのままの感じが強い、常套句で構成されている、図式的に見える、等の批判が目立った。

初めての夢をみつけた夜だから一人で寝るの幼いフール 杉田抱僕 【3点】
初めての手づくりマヨネーズであえる新じゃが好きのきみが来る夜 小野田光 【4点】
はじめての半袖日和に届きおり「件名:キリンレモン」のメール あまねそう 【15点】
はじめての思い忘るなただ一度一度きりなり君の春来る 山下りん 【5点】

 「初めて」四首。一首目。加点した人もしなかった人も、フールとは何かという問いを発するのは変わらなかった。海外の童話の様だ、夢を言葉で説明できるぐらい成長したのでは、夢を見つけたのならもはやフールではない、等の意見が目立った。二首目。破調だが好ましく感じられる、「きみが来る」からこその初々しさが楽しい、マヨネーズを手作りにするこだわりがいい、という肯定的な意見が目立った。恋人に初めてふるまう料理ではないかという推測、多数。三首目。初夏らしい爽やかな短歌という評価が大勢を占めた。「キリンレモン」の語の爽快感は日本人でないと解からないのでは、という意見もあった。今月の最高得点歌。四首目。思春期か、生の一回性か、人生の節目 でのエ ールか。決定的な読みが出ないまま、区切れの必然性がない、リフレインの効果が感じられない、上から目線、具体的な何かが読み取れるヒントがほしい、等の批判があった。

張り出した窓に積まれたぬいぐるみこちらを向いて色褪せている 三澤達世 【10点】
張りぼてのわたしは他人の目をすっと定型にしてはにかんでいる 小坂井大輔 【10点】
刃物をも心にかくす15歳が泣く甥のあしを丹念にみる ぱん子 【1点】

 一首目。ノスタルジーを覚える者、色褪せたぬいぐるみにせつなさを感じる者、心の底を見られていると感じる者、視線に怖さを感じる、等の意見が目立った。背景事情が一切書かれていない為、飾った人がどうなったのか案じる意見もあった。二首目。「張りぼてのわたし」「他人の目をすっと定型にして」という表現に共感の声が集まる。自身の感情よりも他者が世界をどうみているかを想像しているのでは、歌詠みとしての視線をシニカルに表現している、苦しさを感じる、なつかしい感情、等の意見が目立った。一方で、意味のとりにくさを指摘する評もあった。三首目。思春期を上句のように表現したのにしびれる、という好意的な評があった。詠み手の視点が定まらない気がする 、作者 の意図が甥に害を加えたいのか泣く原因を除きたいのかどちらにも取れてしまう、助詞はある程度除いてもいいのでは、上二句の表現が露骨、等の指摘もあった。

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 (雨宮司・記)
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by kaban-west | 2015-04-07 20:02 | 歌会報告


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