2016年 02月 06日

1月歌会報告

かばん関西オンライン歌会 二〇一六年一月

【参加者】あまねそう、雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、岩井曜、岩崎陸(購読)、泳二(ゲスト)、ガク(講読)、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、雀來豆(ゲスト)、十谷あとり(日月)、杉田抱僕(ゲスト)、土井礼一郎、とみいえひろこ、浜田えみな(購読)、福島直広、ふらみらり、兵站戦線(購読)、ミカヅキカゲリ、村本希理子(計二十一名)

※所属表記なしは「かばん」正会員。

二〇一六年最初のオンライン歌会。進行のあまねそうさんから出された兼題は、「境界・さかい目」。様々な視点で「境界・さかい目」をとらえた歌が集まった。

月蝕の悲しき夜に妹は羊とともに国境を越ゆ 新井蜜

国境の町まで手をつないで行こうたとえ国境なんてなくても 泳二

信号の向こうがわから校区外 知らない人がたくさん住んでる ふらみらり

まずは国境をテーマにした二首。一首目。月蝕、夜、羊、国境という言葉の繋がりに、幻想的なイメージを感じた人が多数。二首目。国境を自分たちを制限するものとしてとらえ、それをものともしない若さが心地よい。一首目、二首目とも「国境」が本来持つ切実さが感じられないという指摘があり、日本で「国境」を詠むことの難しさを考えさせられる。三首目は国境に比べるとだいぶ身近な校区内/校区外の境界を詠った。「小学校の短歌作ってきなさいという宿題で『作ってきました』みたいな感じ」(福島)という素朴さの中に、世界の多重性への理解や未知のものへの恐れも読み取れる。

天と地の境界線が溶けるとき荘厳なる陽が面【おもて】を上げる 雨宮司

結界に降り立つ神の御名ぞこそ流るゝ沙の果てに住む者 兵站戦線

境界をダイナミックに詠った二首。一首目、初日の出を連想させる雄大な情景に圧倒される。「境界線が溶ける」「陽が面を上げる」という表現にも工夫があり、壮大な世界を支えている。二首目。神々しい、ファンタジーのようという意見が多数。抽象的で歌意が読み取りにくいという意見がある中で、神を暗喩としてとらえ「砂漠の中のオアシス(生きていられる範囲=結界の内側)で生活していて、そこにふらと訪れた生き物(トカゲとか)の命に神を想起する」(杉田)という読みも面白い。

うすらいのレシートを受けとり捨つ ひる ゆえなき僕のしごとの区切り とみいえひろこ

C勤の焼成工程北の窓月の光が稜線描く 福島直広

労働にまつわる境界二首。一首目、高得点歌。コンビニで昼食を買ってレシートを受け取るのが毎日の仕事の区切りになっている様子を詠ったものか。「会社・仕事の時間(あるいは社会の時間と言った方が正確なのか)に自分の生活が規定されていくつまらなさ」(土井)など、労働の合間の些細な違和感が、感情的にならずに淡々と描かれているのが好ましい。二首目、こちらも高得点歌。「C勤」「焼成工程」という言葉の馴染みのなさ、硬質な音の響きが仕事の緊張感を際立たせ、下の句との対比を鮮やかなものにしている。

なぜ夜と朝のあわいを縫うように現われるのか海の記憶が 雀來豆

静寂と喧騒の間に朝顔の蕾ぼそっと開かれてゆく あまねそう

ページから顔を上げればバイク音新聞は落ち明日が今日に 杉田抱僕

日はすでに逢魔が時に傾きて行く人揺らぐ六道の辻 ガク

去年【こぞ】今年ゆくすゑすべてぬばたまの夜すがらまはしてゐるシュレッダー 佐藤元紀

時間の境界五首。一首目。倒置法を効果的に用い、夜と朝の境界に現れる「海の記憶」に読み手を導く。「夜と朝のあわいを縫う」という表現もユニーク。二首目。肝である「ぼそっと」というオノマトペは賛否が分かれたが、ひそやかな感じに魅力を感じた人も多数。「『ぼそっ』かなあ、う~ん、と思って翌日読み返してみたら『ぼそっ』が合ってるような気もしてきた。」(福島)三首目。夜通し読書や仕事に没頭していた人が、新聞配達の音で我に返り、日付が変わったことに気づく。新聞が「落ちる」ところにリアリティを感じる、下の句はやや詰め込み過ぎ、といった意見が見られた。四首目。こちらは昼から夜への境界を詠った一首だが、夕日を受けて揺らぐ人影を六道に迷い込む姿のようにとらえ、この世とあの世の境界にも重ねているのが魅力的。五首目。年越しにシュレッダーをまわすシュールさが好評。「ぬばたまの夜」と「シュレッダー(で裁断された紙)」の黒白の対比も面白い。

「彼氏から借りたみたいなサイズ感」ジェンダーレスなセーター売れる  有田里絵

男女の境界一首。男性の草食化など、実際に男女の境界が曖昧になっていることの表れという読み方がひとつ。一方で、「彼氏から借りた」ことを自慢したい感性はむしろジェンダーを強く意識しているという読み方もあった。

皮膚と皮膚ふれあう場所を国境とみなして僕の血は引き返す 土井礼一郎

名も知らぬ隣人の歯を磨く音で眠りにつける冬の真夜中 岩井曜

ここからは我のエリアと引かれたる姉妹喧嘩の紐が揺れをり 黒路よしひろ

剃刀をかほに圧し当てわたくしのりんかく ちよつとしつかりしなさい 村本希理子

自己と他者との境界四首。一首目。境界を「超える」のではなく「引き返す」ところに意外性、物足りなさを感じた人が多数。しかしそれゆえ、人と人が理解し合う難しさは切実なものとして迫ってくる。二首目。日頃無関心な隣人を身近に感じる、境界が曖昧になる瞬間を詠ったものだが、 防音を心配する声が多かった。三首目、小さな姉妹の微笑ましい情景だが、所有意識や自我の目覚めとも取れるだろう。結句の「紐が揺れをり」がもたらす余韻も心に残る。四首目、高得点歌。剃刀を顔に圧し当てるという日常的な行為を、自分という不確かなものの存在を確かめる行為としてとらえた視点が見事。


ここまでという線までを全力で先のないことしてみたかった 浜田えみな

最後に若さを感じる一首。歌意の読み取りづらさはあるものの、「フロンティア精神に満ちた短歌」(雨宮)、「『全力』でなにかに打ち込むという経験は年を取るほど減ってくるように思えて、たとえ歌の中であってでもそんな感性を持てるこの作者が少し羨ましくもある。」(黒路)という評もあり、新しいことを始めようという年初にふさわしい一首のように思う。

新しいことを始めたいという方は、ぜひかばん関西へ。年齢・性別・職業・居住地不問の自由な集まりです。興味を持たれた方はお気軽にメールでお問い合わせください。

(岩井曜/記)
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by kaban-west | 2016-02-06 22:59 | 歌会報告


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