2016年 05月 07日
かばん関西四月オンライン歌会記 かばん関西オンライン歌会 二〇一六年四月 【参加者】雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、伊庭日出樹(購読)、うなはら紅(購読)、泳二(ゲスト)、ガク(講読)、黒路よしひろ(ゲスト)、酒井真帆(未来)、塩谷風月(未来/レ・パピエ・シアンⅡ)、雀來豆(ゲスト)、十谷あとり(日月)、杉田抱僕(ゲスト)、足田久夢(玲瓏の會/購読)、とみいえひろこ、福島直広、ふらみらり、ミカヅキカゲリ(計十七名) ※所属表記なしは「かばん」正会員。 今月の歌会は、進行役の十谷あとりさんの提案で、「いちご摘み」という形式を取りました。「いちご摘み」とは、前の歌から任意の一語をもらって、歌を詠み繋げていくというもの。参加者の感想として、「一つの歌から、色々な異なる発想の歌が生まれていくという楽しさを味わうことができた」、「元歌の作者と魂のふれあいができた」という声があったように、連歌の愉しみが味わえる面白い歌会、スリリングな歌会となりました。 歌会参加者は、十七人。詠まれた短歌は、二百八首。この歌会記では、全ての詠草を掲載することはできませんので、次のような形で、一部を紹介することにします。 A.連想の部:「いちご摘み」の連続によって、次々と読み繋がれていった作品の事例 B.異想の部:一つの短歌を基に、異なる作者の異なる発想によって詠まれた作品の事例 C.その他、印象に残った作品 なお、「いちご摘み」の出発点になる最初の歌は、東直子さんの次の歌をお借りしました。 (出典:『かばん』二〇一六年三月号) うつくしい灰色の背よ百年をうたいつづけて透けるとびらに 以下、四月歌会の詠草を紹介します。 A.連想 (「いちご摘み」の連続によって、次々と読み繋がれていった作品) A-1.最初に引用するのは、東直子さんの歌を基に詠み繋がれた五首。摘まれた言葉は、順に、「背」→「坂」→「イチモクサン」→「いない」→「桜」。摘まれながら言葉は生き続け、別の歌に詠まれてゆく。幸せな転生というべきか。では、摘まれなかった言葉はどこへ行くのだろう。こちらも、水面下で密かに同じように流れ続けていると考えるのは、ロマンチックに過ぎるだろうか。 うつくしい灰色の背よ百年をうたいつづけて透けるとびらに 東直子 → 父の背に触れた記憶を探してる桜咲き初む坂をくだりて 塩谷風月 → いちもくさん黄泉平坂【よもつひらさか】駆け上り桃へと到る伊弉諾尊【いざなぎのみこと】 雨宮司 → 覚えてる? イチモクサンがここにいたことを今はいないことを 杉田抱僕 → いないいない風に散る桜にまかれ いないいないあなたの前から 泳二 → 決断のときかもしれぬひよどりが桜のはなを食べながら鳴く 新井蜜 A-2.同じく、東直子さん→塩谷風月さんの歌の流れから詠み繋がれた十二首。 先の五首(A-1)と対照するとき、おなじ源流の匂いがするか、それとも遠く離れた支流になっているだろうか。どちらにしても、連歌の愉しさが流れの中によく表れていると思う。 うつくしい灰色の背よ百年をうたいつづけて透けるとびらに 東直子 → 父の背に触れた記憶を探してる桜咲き初む坂をくだりて 塩谷風月 → B4の鉛筆走るメモ帖に残る記憶があなたのすべて うなはら紅 → 電脳の記憶の蜜の味しめてのちのこころは虫のごとしも 足田久夢 → 気に掛かることば引っ提げ湿り気を与ふる朝に粗き脈動 うなはら紅 → 命脈を保つ為には血族の中からひとり人質を出せ 雨宮司 → 紅のわが地の果ての涯に立ち血族守るに独り吼ゆべく うなはら紅 → 沈黙の果てにコトリと音をたて君は小さき茶碗を置きぬ 泳二 → コトリとう女店主のミャオロンズ黄砂に古き歌の混じりて とみいえひろこ → 砂糖楓【メイプル】シロップ舐めつつ空を見あげれば黄砂のなかに浮かぶsaucer 新井蜜 → 「ホットケーキにメイプルシロップ」詞を書いた穂村弘の黒ぶち眼鏡 雨宮司 → この夜のすべての澱を呑みこんだように大きな黒犬がいる 雀來豆 → 黒犬は朝の匂いにわだかまる瞳の中に誰を呼ぶのか うなはら紅 B.異想 (一つの短歌を基に、異なる作者の異なる発想によって詠まれた作品) B-1.福島直広さんの作品を基に詠まれた四首。「あるでんて」という言葉の響きを受けた杉田さん、ふらみらりさん、「窓」のイメージをふくらませた新井さん、泳二さん。それぞれ、あっというまに違う世界へ連れて行ってくれる。短歌の世界というのは、いったい幾つあるのだろうかなどと思う。 四階の窓をのび太が飛んでゆく茹であがりつつあるあるでんて 福島直広 → あるでんての冷製ぱすたすすりつつ録画のたもりにこたえる真夏び 杉田抱僕 教室の窓から見える大平【おおひら】の中腹に咲く山桜花 新井蜜 飛び降りを防止するため本校の全ての窓は嵌め殺しです 泳二 くたくたもアルデンテだと言いきれるあなただから明日は晴れね ふらみらり B-2.泳二さんの作品を基にした四首。四人の作者の視点の違いが面白い。こちらも、いま同じ場所に立っていた短歌が、瞬時に遠くの世界まで飛んでいけることを見せてくれる。 沈黙の果てにコトリと音をたて君は小さき茶碗を置きぬ 泳二 →あけぼのの夢の出口に歌を置く夢の歌集は未完なれども 新井蜜 新しいお茶碗買って豆ごはん炊いて小さな春の贅沢 杉田抱僕 コトリとう女店主のミャオロンズ黄砂に古き歌の混じりて とみいえひろこ 沈黙の果てに文明交差点小さな口は白い糸吐く うなはら紅 C.その他、印象に残った歌 戀人の睫毛ふれあふ春の日の昼の緊急地震速報 新井蜜 →携帯の地震速報くらくらと俺の裸体に目眩がするぜ 黒路よしひろ ※戀人の睫毛→地震速報→俺の裸体と、二首にまたがるイメージが見事に一周してきっちりと着地してしまうという、不思議な連関が面白い。 そうやってまた空豆をポケットにルーズな星に憧れている 福島直広 →空豆を口に含んでテレビ見る君の親指爪が伸びてる ガク ※空豆と星、空豆とテレビと親指の爪、いずれも独特で且つ絶妙の組み合わせだと思う。 山崎が奏でるギターにかき消され淡い想いは霧に紛れる いばひでき →撃ち抜いた犯人【ほし】の太腿踏み躙る映画に似合う霧つて感じ 足田久夢 ※突如登場するギター、霧、銃撃、映像感覚のあふれるこの二首。異彩を放っていました。 (でも寂しい)ひかりの梯子登りきり見下ろすきみの生まれた街を 酒井真帆 →この街に呼びかけてみる春の午後ふあーっと桜ひかりの梯子 うなはら紅 ※「ひかりの梯子」という美しい言葉で繋がった二首。しかし、酒井さんの作品、()の中に入った「でも寂しい」という初句の力に、思わず震えそうになりました。 深々とかなしい胸を思うとき桜の在り処をめぐる蛾のおと とみいえひろこ ※とみいえさんのこのとてつもなくかなしい歌には、実は、十谷あとりさんと、ミカヅキカゲリさんの、とてつもなく美しい歌が連なっています。十谷さん、ミカヅキさんの作品は、作者の意向で今回の歌会記には不掲載となりましたが、いつか改めて公開されるのを待ちたいと思います。 (雀來豆、記)
by kaban-west
| 2016-05-07 13:11
| 歌会報告
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