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かばん関西歌会

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2016年 10月 07日

8月歌会報告

かばん関西二〇一六年八月オンライン歌会

【参加者】(敬称略、五十音順、表記なしは「かばん」所属)
雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、岩崎陸(ゲスト)、うにがわえりも、泳二(ゲスト)、小野田光、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、雀來豆(未来)、杉田抱僕(ゲスト)、足田久夢(玲瓏/購読)、土井礼一郎、とみいえひろこ、ふらみらり、ミカヅキカゲリ

 日本全国が猛暑を覚悟していた八月初め、今回の進行役の岩崎陸さんから出された兼題 は「針」。歌会後、岩崎さんは「痛み、それもきらきらしたもの」を求めていた、と吐露されていた。針という言葉から私たちが感じたものは何だったのか。各コメントの後に、それぞれの針を明記してみた。
 レコードに刻み込まれたオーボエの息継ぎまでを針は拾いぬ  泳二
レコード針という細くするどいもので、聞き逃してしまうような微細なものを拾い上げる緊張感がいい。そして、そこまで集中して音楽に聴き入る作者の姿も、歌の通底音になっている。(レコード針)
 小径ゆくみたいにランウェイをあるく針の視線を刺した衣裳で  小野田光
 針のような視線さえ衣装にして、小径を歩くような軽い足取りで歩くモデルの強さを感じる。モデルの軽快さと息をつめたような見る側の鋭い視線の対比が面白い。(針の視線)
 嘘発見器の針のごと妻のゆびさき振れたのち枝豆をとり  土井礼一郎
 内容が面白くて物語性がある。指先、枝豆など、映像が目に浮かんではらはらさせる。最後を「とり」と連用形にすることで、物語の続きを連想させるという指摘もあ った。(嘘発見器の針)
 奥つもの名張壮士【なばりをとこ】の釣り針に餌もつけずに釣られし我は  黒路よしひろ
 〈わが背子は何処行くらむ奥つもの〉(萬葉)からの本歌取り(足田氏より)とのこと。餌などなくても恋に落ちてしまうこともある。黒路氏はときどき女になりきった歌を詠まれるが、どうしてわかるのー、とのけぞるぐらい女性の心情をすくい取るのが上手だと思う。恋する心に男女の区別はないってことか。(釣り針)
 ししゅう針ぷつりと刺せばあふれ出す音律のなか糸をくぐらす  ふらみらり
 針をさした穴から音律が溢れるというイメージに高評価を得た。くぐらせるものは糸でなくてもよいのでは、という意見もあった。(ししゅう針)
 病まずには生きてゆけな い注射器に血は赤黒くほとばしりつつ  佐藤元紀
 注射器の中の赤黒い血に自分の生命力を見いだしている。病をもっていることも、生命の原動力になっているのではという、一読すると負のイメージなのに読み込むと生命賛歌になるとは面白い。(注射器)
 待ちおれば古いミシンの針のごと慌たただだし行き交う人の  雀來豆
「慌たただだし」という表現でミシンの動き(雑踏の動き)を上手く表せているという意見と、技巧的に感じる、という見方もあった。人混みの行き交う足下の様子の中に、ミシンの騒々しい無機質で非情な感じを見いだす感性がすばらしい。(ミシン針)
 釣り針は祈りに似てるピノキオは鯨のなかでよく眠れたの?  杉田抱僕
 つり針そのものが祈る人の形に似 ているのだろうか。釣りをするときも祈りに似た状態になると思う。そういう釣り=祈りの中でピノキオが浮かんできたのかもしれない。釣り針、鯨、ピノキオの連想だろうか。ピノキオのインパクトが強すぎる感もある。(釣り針)
 つらぬける針やわらかに内奧【ないおう】を抉りくるゆえ知らんぷりする  ミカヅキカゲリ
 針でえぐった人物がいるのか、流れ弾のようにたまたま突き刺さり、えぐられたのかまでは表されていないが、前半の痛々しい内容から、「知らんぷり」という強がっているけどどこかかわいい表現への飛躍が魅力ある。(つらぬいてきた針)
 結婚を促すようにとんとんと眠る恋人に毫針【ごうしん】をうつ  うにがわえりも
 本当に鍼灸師が恋人に針を打ったのか、 何かの比喩だろうか。恋人が男なのか女なのか、また作者の性別次第で、読み手は怖いと感じたり、共感したりほのぼのしたりで、視点によって味わいがくるくる変わる。(毫針)
 それからはほんとうのことだけを言う胸に小さな針をしまって  とみいえひろこ
 針は何の比喩だろうか。本当のことを言うときにちくりとさすための針をしまっておくのか嘘をつくことで自分を守っていたもののことかという鋭い読みもあった。観念的な歌であるため、解釈の範囲が広い。(胸の裡の小さな針)
 針めどに糸を通してやることが子どもの役目だつたあの頃   新井蜜
 目が悪くなってきた肉親のために糸を通してあげるという、誰もが一度は経験のあるようななつかしさ。今は針を持つ人が減り、 また糸通し器のような便利なグッズも売られているので、よけいに戻ってこない過去を感じる。(縫い針)
 だますなら釣針を口に掛けるまで水の中から引き上げるまで  雨宮司
 塚本邦雄の〔馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ〕を連想された人が複数いて、作者も意識していたと後述されていた。最後までだましきったのなら、それは見事と言えるし、だまされた方も救いがある。(釣り針)
 行く君がアンダースローで投げ上げた針よ雨中にはればれと散れ   岩崎陸
 アンダースローという言葉に魅せられた人が多数。わたしは「はればれと散れ」という表現も気持ち良く感じた。別れの時のさびしさとすがすがしさが同居している感情が、動きのみで表されている 。雨の中で光る針が美しい。(別れ)
 いつも思うことだか、題詠は、一つの言葉から出てくるイメージが、各人全然違うことが楽しい。

最後に高得点だった自由詠を紹介する。

わたくしが生きるためには手助けが不可欠なゆえ火星を想う  ミカヅキカゲリ
猛暑日のおまへが欲しい百本の青唐辛子に穴あけてゐる  佐藤元紀
ひき際が綺麗でしたね花束はどこかで燃えて香りをはなつ  小野田光
                                (記/ふらみらり)


by kaban-west | 2016-10-07 09:22 | 歌会報告


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