2007年 11月 07日

10月歌会報告

◆◆◆ かばん関西10月歌会記 ◆◆◆

今月の兼題は「続」、歌会係は十谷さんでした。お題の通り詠草は続々と十谷さんへと提出され、歴代最多と思われる盛況ぶり。総勢13人から、兼題には34首、自由詠には29首もの歌が集まりました。また歌会当日は会場隣のシャガール展を見ての吟行詠も行われました。よって今回の歌会記は二本立て。

◇◇◇ 2007年10月オンライン歌会 ◇◇◇

<参加者>天昵 聰、雨宮司、有田里絵、石川游、大澤美枝子、笹井宏之(購読・未来)、十谷あとり(日月・玲瓏)、関川洋平、蔦きうい(玲瓏)、福田貢一、山下りん(ゲスト)、山田航、棉くみこ

<兼題の部>
アイテムを明確に使う派と、自身の内面や普遍的イメージだけで詠む派とに分かれた感がある。

☆すすむほど遠ざかりゆく夕映えの続きをそっと水筒にしまう  棉くみこ

アイテム派の一番人気だった歌。「水筒」でノスタルジーを高めた巧みさに感嘆の声が集中。歌会当日、実際に目にした風景をもとにした歌だと伺いましたが、その感動を一人でしまわずに歌に詠んで下さって、感謝です。

☆続編が待ちきれなかったあのときの阿呆のままで駆け出してみる  棉くみこ

これも評価が高かった歌。「阿呆」の効果を感じた人、多数。

☆飽き性で短気でむら気なあなたでも続いているの私は偉い  山下りん

内面派の一番だった歌。結句の堂々とした歌いっぷりに共感する人 (主に女性?)と、気圧されつつも同意してしまう人(主に男性?) と半々。どちらにしても潔さ、力強さは皆が認めるところです。

☆路地裏に蝋石の○続いてく一歩一歩に夏を残して  天昵 聰

今回ご参加二回目の天昵さん。遊びの実体験から「蝋石の○」に郷愁の念をそそられた人、多数。○印にゼロ(=終わり)を読みとる意見が印象的。

☆ぼくの知らないどこか遠くを見続けるあなたのまぶたを見たいとねがう  山田航

今回初のご参加、山田さん。「まぶた」と限定した点が感傷的な雰囲気をうまく表しているという意見あり。上句の緩やかで大きな視点に対して、下句の、ごく小さなまぶたをクローズアップする歌い方が合うかどうか、という声も。

☆続々と相聞ばかり届けられ古今編者はあわてふためく  雨宮司

読書家の作者ならではの作品。現代の出版社にも置き換えられそうな、コミカルな場面を想像させてユニーク。編者自身への相聞歌ばかりだったとしたらどうだろう、などと後から思うのでした。

☆父の妻のふるさとを過ぐ秋雨の花しろじろと散りゐる神戸  十谷あとり

意味深な詠い出しに惹き付けられた人、多数。秋雨と神戸の取り合わせや、叙情的風景に心理を乗せる歌い方に、同じく読書好きな作者のセンスを感じる。以前「だれか旧かなで詠んでくれないかな~」と言われていたのを「散りゐる」を見て思い出しました。

☆たまご屋へ来た啄木がたまご屋になった卵はももいろの秋  蔦きうい

真似の出来ない作風とコメントで毎月光る蔦さん。たまご、啄木、ももいろのリズム感に好印象。「夕方の店先にある卵?赤たまご?」 「啄木の三行書き短歌との関係は?」など、歌会でも想像を楽しんだ歌。

☆いつもその続きをみせぬ愛人の影をうみだす太陽であれ  関川洋平

先月に続き二回目のご参加の関川さん。この歌の人間関係にはクエスチョンを提示する人が多かったが、何らかの切実さを感じた人、多数。作中の主体を本妻だと捉える説が有力視されている。

☆つづくのかどうかは夢のフロントに封書にて問い合わせください  笹井宏之

毎回やわらかな拡がりを見せる笹井さんワールド。こんなフロントがあったら問い合わせてみたいという人、多数。時間のかかる「封書」 が支持を得たのは、夢だから?私は実際も手書き派です。

<自由詠>

☆からっぽってひとのかたちをしていたのそこだけ風が三度低くて  山下りん

「三度」を気温と読む人と、和音の三度と読む人とがいた。前者は好意を持って惹かれ、後者はよりシュールなイメージを受けていた。どちらにしても不思議(コメントにこの言葉を使った人が三人!)な世界に惹かれた人、多数。

☆あたらしいペンをにぎって座るとき秋の夜長もとなりに座る  有田里絵

キーボードの時代に手で書く楽しさに共感する人、多数。コメントから万年筆の話題になり、ラミー、ペリカン、モンブランの名前が出た。今夜はあなたも、手書きで一筆いかがでしょう?

☆ふとミルクきらした朝は飛行船が麦の畑におとす憂愁  蔦きうい

南欧、北米、国籍不詳のどこか等、読み手がそれぞれ舞台を想像してコメントを寄せていた。単語の組み合わせの妙に惹かれた人、多数。

☆好き好きに具を詰め込んで三角に我が家のごちそう中華粽は  大澤美枝子

いつも美味しくほのぼのした歌でおなじみの大澤さん。和気あいあいと家族で料理をする様子が伝わる。今回はこの中華ちまきのレシピを届けて下さいました。食べたくなった人、おそらく全員。

☆思ひつめたやうに何かをじっと待ってゐる汚れた服の斎藤由貴の夢   福田貢一

斉藤由貴と言う固有名詞の選択を評価する人、多数。ドラマを見ていなかった人にも彼女の「待ってゐる」イメージが伝わる。

☆場違ひな処に来しと青シート敷きてわたしの居場所はここよ  石川游

もう一人の初参加、石川さん。自分の存在を示そうとする歌意(コメントにも歌を詠み続けようとする気持ちが感じられました)好意的に感じる人、多数。「青シート」の具体が生きている。

☆桐の葉は地の面に落ちぬ金属の太鼓ばわんと鳴るきらめきに  十谷あとり

映像のように場面を思い浮かべさせるオノマトペが巧み。今回も桐、 郁子と植物の使い方に特徴のある十谷さん。当日は柘榴をお土産に持ってきて下さいました、ごちそうさまです。大量の詠草とコメントのとりまとめ、本当におつかれさまでした!


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◇◇◇ 2007年10月28日 吟行詠 ◇◇◇

会場の隣、奈良県立美術館にてシャガール展が開かれていました。各自で絵画鑑賞の後、会場にて詠草をまとめ、選歌と意見交換をしました。ゲスト参加して下さった大橋さん、ありがとうございました。

<参加者>雨宮司、有田里絵、大橋謙次(ゲスト)、十谷あとり、棉くみこ

☆うわのそら青空の下独りきりうわのそらだし独りきりだし  大橋謙次

重複について意見が分かれるものの、ひらがな使いと口語体が素直で好感を持ちます。

☆チクタクと音を鳴らす針の先電池をぬいて「時間よ止まれ」 大橋謙次

秒針そのものよりも時間の経過が気になって電池を抜かずにいられない心理。

☆惹かれずにいられなかった「母と子」はきみの生まれた年に描かれた  有田里絵

自身の姿に重ね合わせて絵を見ている。「きみ」は子ともパートナーとも読める。

☆あなたさえ立ってくれればそれでいい妻亡き後のさかさまの家   有田里絵

実際の絵は逆さまの家の上にシャガールの妻が浮き上がっています。 先立たれた強い哀しみ。

☆魚(サカナ)一匹皿一枚にのせられて吊るされて楽しヴィテブスクの店  棉くみこ

天秤を詠んだ歌。店の賑わいが感じられて楽しい。地名の語感にもリズムがある。
(註:ヴィテブスク・・・シャガールの生まれ故郷の町の名)

☆色のなき世界で人が再会す会いたい気持ちに偽りのなく  棉くみこ

版画も何点か展示されていました。モノクロにしかない魅力も確かにあります。

☆窓のごとくあかるくひらく油絵に黙し近づく短靴少女  十谷あとり

ショートブーツの少女だそうです。「あかるくひらく」で、色使いが伝わる歌。

☆文末よりことばを食みて寄り来る白山羊つひにわれと目のあふ   十谷あとり

結句で少しどきりとさせられます。シャガールの描く動物の目には特徴がありますね。

☆ゴルゴダの丘で磔刑に処さるるは顔も定かならぬきりすと  雨宮司

実際の絵です。「きりすと」を平仮名にすることで「定かならぬ」が生きている。

☆シャガールの緑は生命(いのち)の謂(いい)らしい 太陽となり燦と輝く  雨宮司

緑や赤は印象的な使われ方をしていました。赤ではなく、緑の太陽に惹かれる歌。

吟行詠草は全部で39首が集まりました。その場で詠んで選歌をする緊張感が吟行の良さのひとつですが、シャガールや金木犀に包まれて余韻のある歌会となりました。司会進行と転記の十谷さんをはじめ、みなさんお疲れ様でした!   (有田里絵)


(画像:2007年10月19日付讀賣新聞夕刊より)
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by kaban-west | 2007-11-07 14:01 | 歌会報告


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