かばん関西歌会

kabanwest.exblog.jp
ブログトップ
2008年 02月 05日

1月歌会報告

◆◆◆ かばん関西1月歌会記 ◆◆◆

【参加者】天昵 聰、雨宮司、有田里絵、笹井宏之(購読・未来)、十谷あとり(日月・玲瓏)、蔦きうい(玲瓏)、山田航、棉くみこ

有田さんより出された今回の兼題は「乗り物」。以下、(1)どのような乗り物が(2)どのように詠み込まれたのか という点に着目して、8人の参加者のそれぞれ工夫を見てみたい。

1)どのような乗り物を選んだのか

まず、兼題に提出された15首すべての歌から、乗り物あるいは乗り物を連想させる言葉をピックアップしてみよう。

テイルランプ 自転車 カブ 猫車 ワイパー 船、免許証、車用信号、四駆、銀翼、バルーン、ちん電、路面電車、準急、チャリ

ごらんの通り、直球というよりは変化球できた人が多かった。乗り物そのものというよりも、乗り物に付随しているものや固有名詞、短縮形など、題へのアプローチの仕方に工夫がみられた。一方で少ないながらも「自転車」「船」等の直球を選んだ人もいて、歌そのもので勝負することの大切さを感じることもできた。
また、ジェットコースターやゴーカートのような遊戯の乗り物は登場せず、もし小中学生などがこの題で歌を詠んだとしたら、さらにバリエーションが増えたのではないだろうかなどと考えをめぐらせた。

2)どのように詠み込まれたのか

 それでは各詠草を取り上げながら、どのように乗り物が登場しているのかを(1)の内容を踏まえて見ていきたい。

○恋愛のシーン

 駅、空港、さらには5回点滅するブレーキランプなど、交通機関や乗り物を恋愛の舞台として登場させているドラマやポップスをよく見聞きする。「移動する」という乗り物本来の目的が「別れ」を表現するのに合っているからなのだろう。では、短歌はどうなのか。今回提出された詠草のなかにも恋愛をイメージさせる歌があったが、直接別れを詠ったものはなかった。ステレオタイプになるのを避けた結果かもしれない。

 君を背にカブで汀へ青春といふ悪酔ひを醒めてたまるか   山田航

 ワイパーをそがれゆく雨キャンセルをした約束がゴトリゴトリと  棉くみこ

 悲しみでみたされているバルーンを ごめん、あなたの空に置いたの 笹井宏之

 一首目。「青春」を「悪酔い」としたところが絶妙との意見あり。「カブ」という素材選びに対しても好意的な意見が多かった。「カブ」によって、青春の場面がよりリアルに描かれている。
 二首目。約束した相手が恋人とは限らないと思うが、憂鬱な恋愛の一場面を連想させる歌である。約束という抽象的なものを物体であるように「ゴトリゴトリ」と表現したのが素晴らしいとの意見があった。一方で、「ワイパーにそがれゆく雨」の表現に対して適切かどうかの疑問も出た。
 三首目。「ごめん、あなたの」に切なさを感じる一首。「あなた」は置かれていることを喜んでいるのではないかという捉え方も出された。題は「乗り物」であるので、「バルーン」は気球を意味するのではないかとの読みがあった。「あなた」そのものが作中主体の乗り物だと捉えると、ちょっとSweetになりすぎるか。

○日常の風景

 交通社会という言葉があるように、現代では交通手段としての乗り物が生活に欠かせないものとなっている。とはいえ乗り物自体は昔からあり、舟、籠、馬車、汽車、飛行機など時代に応じて発達してきた。乗り物はその時代時代をあらわすキーワードなのかもしれない。

 霜枯のとなり町まで自転車で村上春樹句集を買いに  蔦きうい

 北風を裂く銀翼の音がいま数秒遅れでわたしに届く   雨宮司

 みんな誰かにかかりあふひと準急の窓に付箋を貼るごとき雨  十谷あとり

一首目。「自転車と句集の取り合わせが漫画チックでおもしろい」「春樹と句集が似合わないのにしっくりくるのは角川春樹のせいである」「『霜枯』『春樹』の対比が効いている」という様々なコメントが付いた。いろいろな視点で読むことができる一首である。
 二首目。飛行機であろうか。「北風」「銀翼」の言葉から、透き通った空気感がよく伝わってくる。旅客機が飛ぶような時代だからこそ詠める歌である。古典、近代とは違った現代独特の感覚ではないか。
 三首目は今回の最多得票を得た一首。まず「準急」がリアルで絶妙であるという意見が多数あった。また「付箋を貼るごとき雨」の比喩にも好意的なコメントが寄せられた。心象~実景への移し方も巧く、準急のやるせなさがよくあらわれている。

○成長の過程

 「何の乗り物を運転できるようになるか」という変化は、すなわち人間の成長そのものではないだろうか。三輪車が自転車に、自転車が自動車に、やがては免許証を返上してシルバーパスをもらう。小学校では自転車教室が、教習所では「交通社会の一員として」とお説教をされる。そのような成長をテーマにした歌があった。

 七歳までおねしょしていた弟が四駆のステアリングを握る   有田里絵

 免許証は大人のあかし車用信号の赤で止まるうれしさ  天昵 聰

 一首目。ベタな感じがするとの意見がある一方で、「四駆」はあこがれの象徴で、成長の具合がいきいきと描かれているという好意的な意見も。ステアリングを握るというところにF1やラリーにも通じるワクワク感がある。
 二首目。共感を得た人が多数いる一方で、「大人のあかし」と言い切れるかどうかという意見もあった。

 今回は、題の幅の広さが作者の工夫の余地を広げ、読みごたえのある力作がそろっていたように思う。最後に自由詠の高得点歌を二首あげておく。

 冬、小雨 ビルの無認可保育園そとをみているそとをみている  有田里絵

 ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください  笹井宏之

(天昵 聰 記)
[PR]

by kaban-west | 2008-02-05 20:47 | 歌会報告


<< 2月歌会 吟行詠草      12月歌会報告 >>