かばん関西歌会

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カテゴリ:歌会報告( 151 )


2014年 05月 05日

4月歌会報告

【かばん関西4月オンライン歌会記】

参加者は左記のとおりです。〈参加者〉18名
雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有岡真里(飛聲/購読)、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、せがわあき(ゲスト)、蔦きうい(玲瓏)、とみいえひろこ、那由多、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線(かばん/塔)、茉莉(ゲスト)
※所属記載の無い方は「かばん」正会員。

兼題の部での高い評価を与えられたのは
※うたの初句・(作者名/姓のみ・点数)
いとしいしと(文屋:9)凧の糸(紀水:6)あほやなは(せがわ:6) むすびめを(とみいえ:6) ゆき違う(福島:6)  

◎ 兼題の部(「いと」を入れること)
01秘めたままいとしいとしといふこころ高瀬川へと散りゆく桜  
有岡真里  (5点)
□ 「戀」⇒「いとしいとしといふこころ」。初句と下の句とはよく響き合っています。「秘めたまま」(完了) 「散りゆく」/『戀』 あまやかな情動にみとれるばかりです。

02 冷たいと言はれたことを思ひだし生駒の山に沈む陽をみる      新井蜜    (3点)
□ 「冷たい」の程度の差によって作者の「思ひ」の表出も変化するでしょう。『たまたま、「思ひだし」たまでの話だよ』的な感傷の空気感を感じます。『そう、思いたければ思やイイ』と、言いたかったのか?

03 いと、いととおかしうつくしもの尽くし清少納言『枕草子』       雨宮 司    (1点)
□意味は通じるが、「いと」と「し」の羅列では、それでどうした・・・ということも、判らない。「いと」が「をかし」、「うつくし」に前接しているのだろうか?このうたの云わんとしている「をかし」の正体は連作で見せて欲しいところです。

04 いとけなき頃の夢見ぬ七たりのかず数へねど亡き妻笑まひき     兵站戦線   (4点)
□ よくある夢の話です。「七たり」一人、二人、みたりから七たりと云いたかったのです。「ななにん」と書く方が親切かもしれません。夢の中では時間は止まっているようです。

05 今日中にメールしないと腐りそうスマートフォンに乗せた言葉が    サカイミチカ  (4点)
□ 「腐る」と「腐れる」、「腐りそう」と「腐れそう」、「腐らない」と「腐れない」前者は五段で、後者は下一段。 両者に意味の差違はなし。「腐る」とは利用価値がなくなることですね。「腐りそう」に生々しさを感じます。わざと寝かせる情報もありますが。

06 わが寝息たれかは聴かむ東雲を待つともなしに鶏頭のあお      蔦きうい    (1点)「いと」の所在は、ここ。「鶏頭」⇒「けいとう」。
□ 青鶏頭と云う植物を知っていることがまず脱帽です。周りの自然の中に詩の素材を見つけることは、大いなる「見つけ」と云えます。「健やかな寝息」と「鶏頭のあを」とを対峙させる自然体がいい。結句の「あお」は正しくは「あを」、蛇足ですが。時制からのしばしの離脱のようなムードが漂います。

07 短いと思いませんか五線譜の裾模様なる白いスカート        有田里絵      (4点)
□ 「五線譜の裾模様なる白いスカート」の方に目が点の釘付けのようで、主題の「スカートの丈の長さ」には話が弾みませんでした。作者は少なくとも、そちらが気になったようです。

08 繋ぐ手がほしいななんて迂闊にもわたしの気持ち知らずにあなた  黒路よしひろ(3点)「いと」の所在は、ここ。「繋」 「いとへん」。
□ 作中主体は、彼からの決定打を待ち望んでいる。「迂闊にも」が、利いています。彼はとっくに見破っている。「わたし」の焦れを楽しんでいるようです。

09 ゆき違う人の流れを受容れて暮れる水都に灯かりが浮かぶ     福島直広   (6点)
「いと」の所在は、ここ。「水都」 「すいと」
□ 大阪が、人間の哀しみや欲望のすべてをなにもかも、受け容れてくれるような懐の深さがあるように思います。

10 むすびめをさがしつづけるひとがふと泣くときそっと糸風【いとかぜ】は吹く  とみいえひろこ     (6点)
□ いとかぜ(糸風)という呼び名、はじめて聞く言葉ですが違和感なく素敵な言葉です。日本では風の表現が2,000を超えるそうですが。「ふと」「そっと」の配置に「くどさ」の指摘も。「むすびめ」には、結び目論という数学理論があるそうです。

11 服につく糸屑みたいな執着心からまりからまれからみあいいきる   那由多   (1点)
□ 初句だけが5音であとすべてが一音づつ字余りですのでせめて結句を七音にしたらと思います。「からんでいきる」・・。ですが作者の狙い目もそこ?ドロドロ、ごろごろ感を出したいのかもしれません。定型への反抗でしょうか。

12 今日もまた苦しみの糸紡ぎつつ春と戯る【たわむる】うたかたの夢  ガク   (3点)
□ 「春と戯る」の視点を「今」という時間をどう反映したらいいのか。 「退屈さとおもしろさ」という軸にある作者の肯定感と自尊感情はことばの展開に自信を与える。ニヒリズムでは、現代は括れません。

13 濃紫の糸のえにしのふかぶかと暮れなづむ世をおまへに生きむ  
佐藤元紀  (5点)
□ 「濃紫・・・暮れなづむ」というラインと、「暮れなづむ・・・生きむ」というラインが交差しています。「おまへ」という人称代名詞が妻、愛人を当てるのなら相聞、「濃紫の糸のえにし」なら言挙げと見ます。

14 あほやなはいとしと同義わかるやろ頭を撫でる手のやさしさで  
せがわあき  (6点)
□ 「同義」という漢語だけが浮いています。「あほ」や「ばか」の使い方で東西の感覚の違いといわれますが、その典型でしょう。どちらかの連れ合いに説明している情景では。

15 自分史のタイトル決めて章立てに迷っていると、もうバスが来た    ふらみらり  (3点)
□ 実景かもしれませんが、「迷っていると、もうバスが来た」人生の次のステージに移らねばならない情景に、選のポイントがありました。

16 凧の糸ゆるめてしまつた悔やんでももうわからないどこかの空へ    紀水章生   (6点)
□ 失恋の歌なら「糸ゆるめて・・・・・わからない」は、厳しい現実です。こちらの歌会での読解は「相聞をまづ疑え」が基本です。それからユーモア。

17 いとしいしと、と唱へつつゆく火口まで 狂へるほどの恋はなかつた 文屋亮  (9点)
□ 初句、標準語では「愛しいしと」なのですが、九州弁(ただし一部)では「ひ」は、「し」に変換されます。つまり、「愛しい人」なのです。「火口まで」は「愛しい人」に還ってゆくのです。実は、かつて苦しいほどの恋をしたのです。

※ 自由詠の部での高得点歌
飾られたままの女雛は切れ長の目をみひらいて夜を見てゐる
(新井 蜜:11)  
金平糖ほどの昏さを乗せたまま片目をつむる男が居たり 
(とみいえひろこ:9) 
饅頭に似てゐる赤子が禅問答の答へのやうに大の字になる    
(文屋 亮:7)
 やがて来るきみが天使であることを拒絶する日思ひて背を撫づ  
(せがわ あき:6)

※ 関西エリア以外からも参加しています。どうぞお気楽に・・。 
花の縁 珍しがりの犬の縁                (文責:兵站戦線)
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by kaban-west | 2014-05-05 21:33 | 歌会報告
2014年 03月 31日

3月歌会報告

かばん関西二〇一四年三月歌会記

参加者
あまねそう、雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有岡真里(購読/飛聲)有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、塩谷風月(シアンの会)、せがわあき(ゲスト)、辻愛由菜(ゲスト)、蔦きうい(玲瓏)、とみいえひろこ、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線(かばん/塔)、山下りん(ゲスト)

今月の兼題は「音」です。ほーら耳を澄ませてごらん、春の足音はすぐそこに…いやいやメンバー増えたのでこんなところに文字数割いている場合ではないのです。ほんじゃあトップはこの方~。

雪融けにさばしる滝の轟きを啼鳥のほか聞くものはなし  雨宮司
詠み継がれてきたクラシックな表現ながら「さばしる」の響きが美しい、日本画を見ているような清らかな調べが高評価を得た。まるで深山に静かに訪れる春の足音が聞こえてくるようだ。

鳴る神の音のとよめる虫出しの風にも著き佐保姫の歌  兵站戦線
「虫出しの春雷が響くなか、春の女神とされる佐保姫の歌が風にのって聴こえてくる」と言う解釈だろうか、理屈抜きに全体の雰囲気が好み、と絶賛された反面、知識は見事だし技巧もあるがそこで止まってはいないか、との意見もあった。春に向かう躍動感ある動きがよく出ている。

傘をうつ雨音だつたふたりして最後に聞いた二月の音は  新井蜜
別れの歌のようで、二月の最後というだけの意味にもとれる。そこに「情景と時間に広がりがあって良い」とか「二人の状況が分からない」等と、意見が分かれた。ふたりしてという表現はさらっとふたりでとした方が好み、との意見もあった。

縦笛の音で還ろう音楽と国語があればよかった頃に  サカイミチカ
縦笛の音がどことなく時間をさかのぼる魔法のようでしみじみとした郷愁がある。手がかりもないのに「国語」はここで必要だっただろうか、結句の「頃」はひらがなにした方がころころと音楽がながれていたでしょう、と言う意見もあった。

カリンバの音【ね】に流さるる冬の鳥 異国の風に身をそがれゆく  紀水章生
カリンバと冬の鳥の組み合わせの意外性が魅力のある一首だ。どこか物悲しいカリンバの音が異国の風のように響いている、その風に誘われながらも、渡り鳥は旅を続けるのだ。

声が聞きたい着信だけが許されたあの日の欠片震わせてみる  山下りん
「あの日の欠片」がせつない、ちょっと気障かなという意見もあった。「初句の衝動に突き動かされる感じがいい、私ももっと若いころに短歌に出逢っていればこんな歌を詠んだだろうか、あのまま突っ走ってもよかったのにな。作者さまはどうぞ突っ走ってください」…誰のコメントかは秘密だ。

秒針が眠れぬ焦りを加速する夜明けが迫る復ただメーデー!  有岡真里
秒針の刻む音で眠れぬ夜のヒリヒリとした焦燥感を表した感性が素敵な一首だ。結句の「復ただメーデー!」の解釈に苦慮する参加者も多かった。「復た」とわざわざ難しい表記にする必要があったのか、やメーデーは遭難信号なのか、労働者の祭典なのか、と言うように意見が分かれた。

ビビンバドンビビンバドンビビンバドンカンカンカン貨物列車だ  福島直広
さあこいつをどう処理するか、自分が歌会記係の時にこんな歌詠むんじゃなかった、と後悔の念に苛まれつつ。破調もここまで徹底するといっそすがすがしい、これはもうオノマトペの勝利、だとか「カン」は四回にした方がおさまりが良かった、やけくそみたいな作り方、目が疲れる、面白いけどわからない。等と評価は二分した。ちなみに五票中、女性陣からは無票だった。

枝先に枯れながらゐる古き葉を切り落とす音響く日溜まり  せがわあき
上句がやや冗長かという意見もあったが、しずかな冬の休日の光景が目に浮かぶ。ぽっかりとした思考の空白、それがしあわせなのだ。枝先に枯れながらも残った葉に視点を持ってきた感性が素敵な一首だ。

午後10時喋り続けた子が夫の帰宅の音にやうやく眠りぬ  文屋亮
「夫」は「つま」と読むのだろうか、女性陣から多くの共感を得た一方で男性陣からは「パパの話はつまんないから、寝るにかぎるわっ」等のちょっと切ないコメントが多かった、日常の平凡なひとコマが上手く切り取られている。時刻を漢数字にして「続けし」にしたらもっとすっきりとしたかも知れない。「夫が帰ってきた、と思うなりいつも眠くなるのはわたしです。」(とみいえ)

八時前確かめてから歩き出す身重の妻の鍵かける音  有田里絵
歩き出すのは主体なのか妻なのか、状況が分かりづらい部分もあるが鍵の音を背中で聞きながら会社へと向かう夫の、身重の妻を気遣う気持ちが素直に表現されている。優しい気持ちになれる歌だ。

ほんとうの愛とは何ぞ今晩のいびきは父のそれに同じで  辻愛由菜
誰のいびきなんだ!という点に様々な意見が交わされた。親子なのか夫婦なのか、もしくは複雑な夫婦間なのか。そして導きだされた結論は「新婚時代はいびきさえ可愛く思えていたのに、年を経るごとに単なる騒音でしかなくなる、愛はすべてに勝るのです。(でも長く続かない)」(ガク)ということだった。

耳鳴りはほこりとほこりがぶつかって騒ぐ音だと教えてくれた  ふらみらり
「誰が?」「そうなのか!」「それで?」「本当か!?」等読み手が思わず反応してしまう楽しい歌だ。単純な歌なようで、教えてくれたのはどんな人なんだろう、と景色の奥を見ると広がっていくようだ。「真っ黒黒すけが耳の中で騒いでいる光景が浮かんできた。(それはそれで困るけれど)」とは再びガク氏。

鈴をつけた靴を履いてる女だろう夜半の小路を遠ざかりゆく  塩谷風月
上句が不思議な世界を醸しだしていて、音だけで外の気配を感じ取ってる状況がうまく表されている。これは好きな女のことを思ってる時に通った猫なんだ、という意見もあった。下句にもうひといき深い描写があればよかったか。

聞ききやと己に逼る衣更着の川風つよきおまへの空音  佐藤元紀
「おまへ」は鳥なのか、妄想の中の異性なのか。「己」と「おまへ」、世界が限定されているのに、歌が読み手のなかで広がっていくのが不思議だ。「聞ききやと」がオノマトペにもとれると言う読みもあった。調べが美しく余韻があるが、少し流れが堅かったか。

ね、春の雨音があるぬばたまのわたしはひとり海鳴りを聴く  とみいえひろこ
「ね、」と誰かに呼びかけるような始まりに皆が魅きこまれた。わたしの中の深い闇の部分に海鳴りが響いていて、孤独感の海中に浮遊しているようだ。それが隠されている魅力なのかも知れない。枕詞であるぬばたまが何にかかっているのかが分からないとの意見もあった。

LED照らす棚ではタラの芽がラップ透かして春を奏でる  ガク
タラの芽の芽吹きを春の音として捉えた感性が素敵だ。リズミカルで躍動感のある表現に
春の訪れの喜びが感じられる。結句の「春を奏でる」がやや月並みだったか。

一呼吸おいて鳴り出すオルガンのように歩めり京島の春  あまねそう
「一呼吸おいて」の比喩がとても良い、や四句目までの表現にしびれた等、高評価が集まった。かばん関西は多くは関西在住なので京島にあまりピンとこない参加者も多いなか、兼題の部最高得票歌となった。

自由詠の部も一部紹介したかったのですが、今月も大盛況のため割愛します。完全ノーカット版で読みたい方は是非メーリングリストへ。

福島直広:記
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by kaban-west | 2014-03-31 23:58 | 歌会報告
2014年 03月 12日

梅春江之子島歌会報告

かばん関西歌会 梅春江之子島歌会報告

[参加者]雨宮司 有田里絵 ガク(ゲスト) 黒路よしひろ(ゲスト) サカイミチカ 塩谷風月(シアンの会 詠草のみ) 十谷あとり(日月) 辻愛由菜(ゲスト) 蔦きうい(玲瓏) とみいえひろこ 福島直広 ふらみらり 他お二方

二月二十三日(日)、大阪府立江之子島文化芸術創造センターに於いて、かばん関西恒例のオフライン歌会をとり行いました。
今回は初参加の方お二人を含め、遠近より十二名の参加者が集まりました。
歌会前半は詠草集をもとにした選歌・互評。後半は一人当たり十分間のフリートークを行いました。自歌自註、作歌において現在抱えている課題、過日奈良県で行われた穂村弘さんの講演の話題、また短歌とは切っても切れない〈恋愛〉についての意見交換など、刺激的な話題が飛び交い、脳が気持ちよくシャッフルされました。

詠草の一部をご紹介いたします。

・空の青白妙の雪墨の雲あかねむらさき彩へる大和  ガク
・東京できみが育てた依怙地さが春の茶室の床にぽつりと 蔦きうい
・消費期限明朝となる食パンのかさつきファンデーション乗らぬ肌  サカイミチカ
・担当医「まずは化粧を買いましょう」保険が効くなら考えましょう  雨宮司
・真夜中に取り残されて溢血の痕なぞってもいつか消えるの  辻愛由菜
・助手席で朝から唐揚弁当を食う相棒が尚且つワキガ  福島直広
・目は濡れた傷ですときにぱっくりと開いて生に染められている  とみいえひろこ
・あけるなる わたしがいつかめにたどるひかりのたねのためのぬばたま  十谷あとり
・大道に門無きゆえに惑いたり音なく緩みゆく濁り酒   塩谷風月
・雪だるまつれて帰ろうヒロさんはもういないって目で見てわかる  有田里絵
・優しさをこんな場所でも使ってくる面白くないのよあなたの愛撫   黒路よしひろ

日頃なかなか会うことのできない歌の仲間と顔を合わせ、歌について心おきなく語り合うことができました。ご参加・ご協力下さいましたみなさまに感謝いたします。
今後も継続的に開催を予定しております。  (十谷あとり 記)
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by kaban-west | 2014-03-12 18:32 | 歌会報告
2014年 03月 03日

2月歌会報告

かばん関西2月オンライン歌会

[参加者]雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、塩谷風月(レ・パピエ・シアン2)、十谷あとり(日月)、蔦きうい(玲瓏)、とみいえひろこ、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏、選歌・評のみ)、兵站戦線(かばん/塔)、三澤達世(選歌・評のみ)

今回は兼題「空想上の生き物」のみで行われました。提出された詠草は十四首。いつもに比べて少ないように思えますが、もしも同じ人数が自由詠も提出していたならば二十八首とものすごい数になるので、今回も大盛況と言ってよいでしょう。提出歌と寄せられた意見は以下のようになっています。

ドラキュラのきらいな臭いあれなんて食べ物だっけ(君の口から)   黒路よしひろ
「君」と主体の関係性で読みが別れた歌。敢えて直球で「にんにく臭いよ」と言わないのか、そういう冗談が許せる関係なのか、言うのにそれくらいの機微が必要なのか。もう少しパンチが欲しい、結句の詰めが甘い、という意見も。

夕焼けが開聞岳を焦がしたらミーヨミーヨとイッシーが鳴く  福島直広
こちらは未確認生物である池田湖のイッシーがモチーフ。海を恋しがっている(作者談)というユニークな鳴き声と具体的な上句の情景の美しさ、そして未確認生物ゆえのロマンが溢れる歌です。下句はもう少し大げさな描写でも良かったのでは、という声も聞かれました。

背広姿の河童と銀座行く俺はあぶないのかあやふいのかそれとも    佐藤元紀
高得点歌。日常と非日常の狭間にいるような不思議な雰囲気、下句の破調でも「あぶない」「あやふい」でまとまった韻律に評価が集まりました。更に一歩踏み込んで、続く言葉を想像する方、河童を狂っている現実の象徴と読む方もいました。

チョーク持つ手がとまるときそのひとは光源氏のおとがひ想ふ   とみいえひろこ
兼題を大きく解釈して、架空の人物である光源氏を詠み込んだ歌。学校での一場面ではありますが、下句の具体的な描写によって現実から想像の世界に移行する過程が生きています。おとがひの意味するものや、主体とそのひとの距離感から結句の断定に疑問を呈する方もいたようです。

新月に尾羽絡まり逃げまどう迦陵頻伽の声ぞ悲しき   ガク
仏教において極楽浄土に住んでいるとされる半人半鳥をモチーフにした歌。上句と下句の繋がりが気になるものの、実際にその美声が聞こえてきそうな画そのものの美しさに惹かれた方が多かったようです。

雪女居並ぶように見えてくる美魔女コンテストには行かない    有田里絵
最近は年代の高い美女を「美魔女」と呼ぶ向きがあるのですが、終わりの儚い雪女と組み合わせることで意味深なものを感じさせています。歌としては理屈っぽいという意見もありましたが、それと同じぐらいに、流行り言葉である「美魔女」についてのコメントが多く見られました。

会えぬふたりなれば無用のねたみ悶々と湿原をねむれるモスラ    蔦きうい
賛否両論のみられた上句の変則的なリズム、ネガティブな単語の連続の中に現れるモスラ。不気味なおかつ圧倒的な存在感で高得点をかっさらっていきました。「ふたり」が会えない間に湧き出てくるマイナスの感情をどこかユーモラスに描いているようです。

いなづまで電気ネズミに襲われるような悦楽灼けつくほどに   サカイミチカ
こちらは子どもたちに人気のゲームキャラクター。なのですが、あえて固有名詞を出さなかったことで倒錯的な大人の一面が強調された歌。濃い単語のオンパレードということもあり、いわゆる「つきすぎ」状態になっているという指摘もありました。

核実験しのぎを削る代償にハナアルキ絶えゴジラ生まれる    雨宮司
ハナアルキとは、鼻行類という核実験で絶滅した架空生物群のこと。核実験で生まれたゴジラと絡ませることで強烈な毒を持った風刺歌となりました。核とゴジラの結びつきはやや安直ではないか、上句にもう少し鮮烈なものが欲しかったという方も。

会ひたふて顔よせたふて首のびてろくろッ首になりてたまひき    ふらみらり
畳み掛けるようなリズムと重々しい文語、そしてとどめのろくろッ首と尊敬語で狂気じみた情念を描ききった歌。独特の言い回しには評価が集まりましたが、結句の文法が気になるとの意見も多かったようです。

切れ長の目のユニコーン脚をあげ絵はがきの青をぬけてきさうに   紀水章生
幻想世界を上句で描きながらも、下句の「絵はがき」で見事に現実世界へ着地させた歌。ともすればポエジー過多になりそうなユニコーンというモチーフを現実的に描いた点に評価が集まりました。結句についてはありふれたところに落ち着いてしまった印象も。

人間の心にあれしあやかしの影に怯えて魑魅をはぐくむ    兵站戦線
誰にでもある疑心暗鬼や心の闇を魑魅に託し、古風に、そして確かな筆致で描いた歌。リズムも美しいです。「あれし」は「生れし」か。読み手に歌意がすっと入ってくる心地よさもあるが、それゆえもう一歩踏み込んで欲しかったという意見もありました。

はいいろのとりのかたはねぬれてありひとなきはまのゆきのおもてに   十谷あとり
全てひらがなによる表記、謎めいた「はいいろのとり」により、読む人ごとに情景の解釈が多様となった歌。哀切なものは各人共通して読み取れたようですが、もう少しはっきりした軸になるものが欲しかったと思う方もいたようです。

立春の碧きみ空を一瞬にチャンスグネアが覆い尽くせり    新井蜜
「チャンスグネア」は作者の空想から生まれた羽虫のような生き物。定形の縛りの大きい短歌ということもあり上手く参加者に伝わらなかったようですが、青空を覆い尽くす謎の生物そのものの異様さは伝わっていたようでした。連作の中に含まれると活きるかもしれません。

紙面の都合上、「多様な解釈」等ぼかさざるを得なかった表現があります。そこのところをもっと読みたい方、遠方だけど歌会には参加したいという方、新しいメンバーも増えて一層活発になったかばん関西MLに是非お問い合わせくださいませ。(サカイミチカ/記)
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by kaban-west | 2014-03-03 18:29 | 歌会報告
2014年 02月 03日

1月歌会報告

かばん関西2014年1月オンライン歌会

[参加者]あまねそう、雨宮司、新井蜜、有岡真里、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、塩谷風月(レ・パピエ・シアンⅡ)、十谷あとり(日月)、鈴木牛後(購読)、せがわあき、蔦きうい(玲瓏)、とみいえひろこ、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線、三澤達世

 今回の題詠は「温」。寒さ増す季節に参加者21名が拾い上げた「温」を紹介したい。

緑濃き蛇の岬に温風の稀ならざるを誰か知るらむ  兵站戦線

 「蛇の岬」が実際の地名なのか、何かの比喩、あるいは創作されたものかわからないという意見が多かったが、そこから想像をふくらませる手がか りになっている。

温石【おんじゃく】を胸の谷間にそっと抱く乳をふふますことはなけれど  雨宮司

 「温石」「ふふます」という語彙に惹かれる読み手が多数現れた。この歌をエロスと読むか、切ない、哀感、あるいは乾いた明るさなのか、味わい方に各人分かれた。

温室のガラスの世界に揺れてゐる春へみぬちで羽化することば  紀水章生

 最高得点歌。「~ぬち」は「~の中」という意味だが、「みぬち」の意味について質問が続出した(わかる人はわかってらっしゃる)。温室の中で育つことばという、心象風景を幻想的にとらえた歌。

ハーブティーゆず茶とチャイをはしごして温まったってひとりなんだし サカイミチカ

 さびしそうだけど孤独を楽しんでいて、ぼやいてるけどほ どよく脱力していて、一人の自分を客観視してうまく描写している。    

あたたかい星をめざして(ぼくの手を離さないこと)方舟に乗れ  新井蜜

 ( )の使い方が効果的で、アニメや少女漫画、SF小説のような世界に惹かれた感想が多かった。(ぼくの手を離さないこと)という台詞が好評だったが、男性陣には「手をはらいのける」「命令口調」「オットコマエ」と、気障に感じる人もいるようだった。

「ウイスキー、ホットで一つ」肩の雪払う人影低き声にて  ガク

 かっこよさが出来すぎのようでもあるが、作り上げた感のむんむんする人物像が面白い。バーの様子を思い描く感想もあり、それぞれに妄想できる歌。

ふるえつつ二年参りの足を止めすする甘酒沁みる思い出  有岡真里

 甘酒が情景をよみがえらせるアイテムとして作用している。思い 出の具体例を挙げるなどして、より深みと手ごたえのある歌になる余地がある。

手のぬくみ手のおおきさに比例せず吾子の両手が背中を包む  有田里絵

 平易なことばを使って、親の気持ち、子どものいたいけな様子を再現させたあじわい深い歌。親が子どもに頼ることもある。視点が冷静なことも情景の魅力を引き出している。

ポスターのをんなのうなじ目でたどる湯けむりの中きみが消息  せがわあき

 色っぽくレトロな雰囲気を醸し出している。「ポスター」と「きみ」とがどう結びつくかわからない、これが混浴ならつじつまが合うなど、自由に世界をふくらませられた。

スナックの二階の炬燵ママさんの姉とふたりで七ならべ。ねえ  蔦きうい

 「スナックの二階」「ママさんの姉 」など、作りこんだ道具立てに妄想をかきたてられる。最後の「ねえ」が後を引くかんじで、次の展開を匂わせてぞくぞくする。

夜に優しいひとの足のうらやわらかく地べたの温み知り抜くように  とみいえひろこ

 いつも優しい人なのか、夜になると優しくなるのかで、下句の解釈が変わってくる。視点が面白いという意見も複数あった。

冬ざれた川面を玻璃にひからせる薄い夕日のわずかな温度  三澤達世

 冬のはりつめた空気を、夕日を映す川が乗せている情景が目に浮かぶ。「冬ざれ」「玻璃」などのことばの使い方で、空気の純度の高さをよみがえらせている。

平らなる水面破り飛び込めば温き衣が身にからみつく  ふらみらり

 飛び込んだのは温水プール、寒中水泳、あるいは投 身自殺?など、何に飛び込んだのかわからないという意見が多かった。「温き衣」も、衣服なのか、水なのか、「彼氏といちゃいちゃした後の熱気」(蔦きうい氏)など、混乱がみられた。

水槽におでこくっつけ熱冷ます体温何℃だろうこのクラゲ  あまねそう

 くらげの見た目のかわいらしさと水槽におでこをくっつける愛らしさがうまく呼応している歌。穂村弘さんの歌を連想させるとした方が2名いた。

みどりごを抱きて野獣になれる妻を君は微温湯のやさしさで包む  文屋亮 

 みどりご、妻、きみ、そして作者の位置関係を考察するコメントが多かった。「微温湯」を「ぬるま湯のようなやさしさ」「緊張や刺激のない生活の比喩」という見方もあった。

せつなさに豆炭あんか抱きしめて眠 れば恋の低温火傷  黒路よしひろ

 「せつなさ」「抱きしめて」「恋の」と特定の路線を想起させる言葉が並ぶが、「豆炭あんか」「低音火傷」が甘くなりすぎるのを防いでいる。

冬の樹の幹の日影に身を寄せてこころの和毛ふくらませをり  十谷あとり

 冬の木陰で丸まっているのではなく「日影とは日光のこと」(作者より)。うららかな日向で春を待つ小動物に、人間社会から逃避する人物を連想した評もあった。

ブラックが胃に染む午後の三時頃、オーレも微糖も吐く息は白  福島直広

 飲み物の色に関係なく、吐く息は白いということか。その日によって飲むものを変えた定点観測。「三時頃」の「頃」の使い方を疑問視する声もあった。

かさねこし別れの果てのうつそみを暁月夜の 湯にしづめけり  佐藤元紀

 文語調が功を奏している。そのため、「別れ」ということばが生々しく浮きあがってくるが、それが作者の狙いなのか。

雪雪雪雪降る夜に手をつなぐ二人のあいだの雪あたたかく  鈴木牛後

 雪を強調して温かさを表現する描き方が新鮮。こういう経験をしたかった。

もう二度と逢えないきみと思ってたてのひらに融けるひとひらの雪  塩谷風月

 現代社会ではどんな所にも情報の網は広げられている、「二度と逢えない」は現実的ではないという意見があった。フォークソングや同名の小説など、既存の作品を連想させるが、もう一歩踏み込めば作者ならではの世界観が出来る。

 今や例年にない参加者数で盛り上がっているかばん関西のオンライン歌会。興味 を持たれた方、参加してみませんか。その後、年に数回行われるオフラインにも参加して、自分の中で組み立てたキャラとのギャップによる衝撃と感動を味わってほしい。ぜひ!(ふらみらり記)
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by kaban-west | 2014-02-03 18:27 | 歌会報告
2014年 01月 07日

12月歌会報告

かばん関西2013年12月オンライン歌会記

〈参加者〉あまねそう、雨宮司、有岡真里、有田里絵、伊庭日出樹(購読・詠草のみ)、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀(詠草のみ)、十谷あとり(日月)、鈴木牛後(購読)、せがわあき(選歌のみ)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、那由多、福島直広、ふらみらり、兵站戦線

かばん関西2013年12月オンライン歌会は、参加者19名、兼題「白」18首、自由詠17首という盛会になった。高得点歌から抄出していく。

■兼題「白」

石段の窪みにたまる水を飲む白猫半ら冬の陽に透く  十谷あとり

・兼題では最高得点歌。情景が目に浮かぶようというコメントが多く、概ねわかりやすい一首として流されているが、もう少し掘り下げて鑑賞しても良いかも知れない。事実、わかりやすいと評される割に結句については解釈が割れている。

蒸籠からくすんだ顔を出す殻を割り黄と白の命いただく  サカイミチカ

・次点歌。温泉玉子という言葉を使わずに表現したことの面白味と「命いただく」という表現への共感があった。他方、大袈裟過ぎるという意見も。

新鮮な寒気にのった雪の香に鼻腔をひらき我白くなる  あまねそう

・「新鮮な寒気」「雪の香」という表現への支持が多数あったが、わかりにくいという意見も。結句についても「我」の必要性や「白くなる」の表現について異論もあった。

光のみ燦々と降る道をゆく君は真白に包まれている  雨宮司

・抽象的過ぎて情報量が足りず情景を確定できない、という意見が複数あった。結婚式を連想した人が多数ではあるが、雪と捉えた人も何とも捉えきれない人も居て、一考を要するだろう。

漂白剤くぐった白いタオルのよう大人の前ではいい子になる子  ふらみらり

・前半の比喩が、賞賛されるか相応しくないとされるかでコメントは二分された。大人であるコメンテーター諸氏の子供への見方がいろいろ出てきて面白かった。

巣の下に死んでしまつた雛を見たけふ予報官はま白のスーツ  紀水章生

・二つの情景の結びつけ方で読みが様々に分かれた。特に下句になんらかの象徴を見ようとする意見が複数あり、それが「慶事」「死」「日常」など全く方向性が割れた。短歌は揺るがないことが一番と言われるが、こういう歌も面白いと個人的には思う。勿論、読者を惹きつける何かを持っていることが大前提ではあるが。

バスタオルにくるまれし赤ん坊苺大福のやふに見えたり  那由多

・情景としては微笑ましいが、破調について、また文法についての難を示す意見が複数あった。

シロちゃんと呼ばれてるけど本当はシロちゃんじゃないうちのしろいぬ  福島直広

・報告、只事歌という指摘、また「呼ばれている」とすべき等。幾つか意見は付いたが、感触的には概ね好評な歌となった。

並木道肉まんほんわり湯気の中潔らな八重歯冬と伝へる  有岡真里

・体言止めの連続をスライドショーのようと肯定的に捉えるか羅列的と捉えるか分かれた。また破調表現に対して、結句に対しても難を示されたが、前歌と同様情景的には好意的に捉えられている。

しろししろししろしきしまのぬばたまのやまとしまねの闇こそしらね  佐藤元紀

・本気の遊び心が面白いと賛辞を送る人と、わかりにくいと難を示す人に分かれたが、魅力ある歌であることについては概ね一致しているようだった。

■自由詠

青ざめた景色を呑んで雨粒はつぎつぎまるくなって弾ける  冨家弘子

・自由詠最高得点歌。表現が斬新である、情景が鮮やかである等の評価。点を入れていない評も概ね好意的であったが、上句と下句の印象の差に違和感を感じる人もいた。

とりもどしたいのはじぶん風の夜は鍋焼きうどんの半熟たまご  紀水章生

・次点歌。上二句のひらがな表現が好評。「半熟たまご」については様々な解釈があった。他方、上二句とその下との繋がりに難を示す意見も複数。

いつの日か君とあはなむうたかたのゆふべののちの野ににほひつつ  佐藤元紀

・「死」「後朝」「エロス」等、様々なイメージを惹起している。全体的に淡い表現を良しとするか難とするか。上句が大袈裟という意見も。

冬尺が林を独り飛び急ぐ小春日和の昼下がりには  雨宮司

・冬尺のイメージをどう捉えるかで印象が微妙に異なっているようだ。世間にあまり馴染みの無い存在を歌に使う場合は、もし写生であっても知らない読者には実感の無い想像に頼ってもらうしかなく景としては難しいところ。だからと言って使うのを控えた方が良いとは思わないし、むしろこういうことが短歌の面白さのひとつとも思える。

色のなき空【くう】の在り処に凛々と響くかのごとゆふぐれの水  兵站戦線

・幻想的で美しいと賞賛される反面、捉えどころが無くきれいに仕上げようとし過ぎている等の指摘も。夕方の雨という具象に言及した人は一人だけ。色即是空に絡めて解釈する人も複数。

生ビール六本だけをカゴに積み自転車の爺ニヤリと渡る  鈴木牛後

・表現にもうひとひねり欲しいという意見が複数。銘柄を明記した方が景がはっきりするという意見も。「渡る」については横断歩道という意見と、渡し船という想像もあった。(大阪市内には市営の渡し船が複数個所、現在も運行している)

埋められた川の方よりきれぎれに降り過ぐ時雨光るともせず  十谷あとり

・情景を捉えきれないという意見が多かった。大阪という土地柄(川を埋めて道にしたところが多数存在する)に言及した人も複数。

あの手紙読めなくなったコーヒーをかばんの中でぶちまけたから  ふらみらり

・「手紙」の内容についてヒントが無く解釈が広がった。それも作者の狙いかも知れない。シンプルで説明に落ちているという評もあるが「手紙」という言葉ひとつでこれだけ世界が広がるのは力なのかも。

ましまほし活用形を唱えてもきっとうたなど詠まぬきみたち  サカイミチカ

・作中主体を教師と捉える人が多かった。共感を言う人もいれば、口語短歌を詠む歌人が多い現在にはそぐわないという意見も。

 かばん関西MLの現時点での登録アドレス数は九十一あり、今回の歌会の表立った参加者の率は、全体の二十パーセントになる。この数字を多いと見るか少ないと見るかは意見が分かれるだろう。ただ、単純計算では参加者の四倍の沈黙の読者がいるわけで「読む」ということも参加のひとつの形だとしたら、こんな大規模な歌会はなかなか無い。華々しい発展より継続こそを金と思い、今後もこのささやかな、しかししぶとい歌の場を繋いで行きたい。(塩谷風月 記)
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by kaban-west | 2014-01-07 18:20 | 歌会報告
2013年 12月 07日

11月歌会報告

かばん関西二〇一三年十一月歌会記

[参加者]あまねそう、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、鈴木牛後、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線

今回の兼題は、蔦さんのご提案で「“はっ”と思ったこと」。それぞれの「はっ」を踏まえながら読み進めていきたい。

朝ぼらけ鏡のなかに我と似たごま塩頭の老人が見ゆ ガク

老いてゆく自分に対する「はっ」。鏡を見て「はっ」とすることは多くの方にあるのではないだろうか。皺だったり肌荒れだったり、ほうれい線であったり。共感する意見が複数ある中、既視感があり歌としてはもうひとひねり欲しいという意見もあった

あまつそらそらみつやまとの国いちめんあなぬばたまの花鳥風月 佐藤元紀

古語のならびに「はっ」、花鳥風月を愛でる余裕もなくなっている今に対する「はっ」。コメントを寄せた参加者がそれぞれの角度で「はっ」とさせられた一首。定型をややはずしているにも関わらずリズミカルで、ひらがなのやわらかさも好印象だった。枕詞が二つあり、その意味を問う声もあった。

ああそんなところにあなたベランダの花をしづかに照らす三日月 紀水章生

「あなた」イコール「三日月」ととるのか、二句切れと読むのかで解釈に違いがあった。前者であれば弱々しいであろう月の光に「はっ」としたのだろう。後者で読んだ参加者からは「なんちゅうエロス」との意見もあり、概ね肯定的な意見であった。どちらにせよ甘美な一首である。

短冊におかわり自由の朱い文字琥珀に光る甘酢見つめる 福島直広

料理店の一場面に好感を持った参加者が多く、「甘酢の深い琥珀色から、食堂の辿ってきた歴史のようなものも感じられ」るという好意的な意見がある一方で、何に「はっ」としたのかについては見解が分かれた。「朱」と「琥珀」の取り合わせなのか、「甘酢」が「おかわり自由」だと思ってしまったのか、「甘酢」があったことそのものなのか。

月が今どこにあるのかすぐ当てるきみの前世はかぐや姫かも 有田里絵

「月」の在り処をすぐに当ててしまう相手と「かぐや姫」が一致したときに「はっ」としたのだろう。ほほえましさや視点のおもしろさを感じる参加者が多かった一方で、展開がベタではないかという意見もあった。男性が女性に対して詠んだ歌とも読めたが、作者名が分かると親が娘を詠っているとも読める。

ぼんやりと児に乳ふくませてゐるうちに雪は里にも降りてしまひき 文屋亮

今回の兼題の部で最も得票した一首。「降り積もる時間の流れが、雪のしずかな風情と呼応してとてもいい歌だと思います。気付いたら真っ白になっていた、という雪の特徴が、気付いたら大きくなっていた、と思わされる赤ちゃんをも表しているようです」との評がこの一首を的確につかんでいる。気付きとははまさに「はっ」である。

同列の短詩同列の人格嵌めたきこころ鋳型の違ひ 兵站戦線

「同列の短詩」は、歌会に並ぶ短歌を指すのか、短歌と俳句の違いを指すのか、読み手によって解釈が分かれた。自分の心を表すための「鋳型」に違いがあることに「はっ」としたのだろう。より広く見れば、短詩だけではなく、音楽、絵画、散文、心の表現方法は様々。なぜ短歌を選んでいるのかがそれぞれに問われているように思う。

朝靄のなかを歩ける我もまた他者から見れば朧ろなる人 雨宮司

「朝靄の中の朧ろなる人々を見て、他者の視点から眺めた自分自身もまた同じく朧なる存在なのだろうと感じた感性が素敵だ」との評の通り、他者を通して自分を振り返る時に「はっ」とさせられる場面には多くの方が共感できるだろう。「現代の人間関係の希薄さ」を指摘した評もあった。

ああそうか彼が怒った事の由 時間の層の向こう側見て ふらみらり

その時には気づかなかった「彼が怒った」理由。時間がたって、「はっ」と気づいたのだろう。時間の経過を「時間の層」と喩えた点に惹かれた参加者が多かった。初句の「ああそうか」に対して、お題に対してストレート過ぎるという意見と、腑に落ちた感じがあり題意にそぐわないという違う角度からの指摘があった。

亡き父と同じ一癖あると知り月も地球もかすかな楕円 鈴木牛後

自分では気づかない癖。自分の癖に気づいただけでも「はっ」とするのに、ましてや父と同じ。「月」と「地球」を自分と亡父に重ねている点に評価がある一方、上の句と下の句のつながりや、「癖」を「楕円」のゆがみに喩えている部分について分かりにくいとの指摘もあった。三句切れにしてはどうかとの意見も。

死のうかとおもったでしょうかこうやって幼いわたしに添寝して母も、昔 冨家弘子

幼子に添い寝をしつつ、自らが子であったときの母子関係をふりかえり「はっ」としている。それが「死のうかとおもったでしょうか」というやや恐怖感を伴う気づきであったため、より「はっ」としたのだろう。結句の字余りについては、より「はっ」とさせられるという好意的な意見と、効果が分からず整理したほうがよいとの意見に分かれた。

蛍とは棲み家を変えるものらしい水の淵から冬の街へと サカイミチカ

イルミネーションを見て蛍のようだと気づき「はっ」とした作者。一首から喚起される映像の美しさを評価した参加者がいる一方で、蛍は雪のたとえともとれる点や、冬と蛍が結びつきにくいとの意見もあった。「水の淵」と「冬の街」が文字上でも韻の面でも見事な対比になっているのは技ありである

なぜ横に座ってくるの見も知らぬおじさんとぼくペアルック 黒路よしひろ

同じ服を着ているおじさんを見て「はっ」。ましてや隣に座る「はぁ……」。これは確かに嫌だという共感を持った参加者が多かった。結句の字足らずについては「いい意味での間抜けさを感じられてほほえましい」との意見と、「結句の字足らずの投げやり感がちょっとひっかかりました」との意見に分かれた。字余り字足らずについて、参加者が共通して効果的との評をすることが少なく、やはり難しい試みであると思う。

日本史のノートに記す名はどれも覚えなければならぬ死人【ルビ:しにびと】 あまねそう

暗記すべき人名がすべて亡くなった人であることに気づいて「はっ」。視点のおもしろさはあるものの、「そういえばそうだ」というところで止まってしまうところも課題であろう。「死人の名を憶えなければならないという圧迫感」や「覚えたくなくなる」との感想もあった。

眼のなかのなまえ舐めたら甘苦いあなただったの 秋を駆けだす 蔦きうい

スウィートでありかつビターでもある恋に気づいて「はっ」としたのだろうか。スウィートなだけではない恋をしてしまうことについての「はっ」かもしれない。解釈が難しいという評が多くあった。「甘酸っぱい夏の恋ではなく、甘苦い大人の恋のはじまりですね。すてき」との好意的な意見もあった。

今回はお題が難しく詠草提出がギリギリになってしまったとの声も複数聞かれた。歌会記をまとめるにあたり参加者のコメントを読み返してみたが、歌を詠む際にはお題と向き合っているものの、読みになると「何にはっとしたのか」という部分の読みが少ないことに気づいた。題意に沿った読み方をするかあくまで一首独立したものとして読むか。題詠の難しさを様々な面で感じた十一月歌会であった。(あまねそう記)

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by kaban-west | 2013-12-07 17:43 | 歌会報告
2013年 12月 07日

10月歌会報告

かばん関西二〇一三年十月歌会記

[参加者]あまねそう、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、川村有史、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、十谷あとり(日月)、鈴木牛後、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線、三澤達世

今回の兼題は「商売」。各人とも毛色の違う作品を繰り出し、視野の広い歌会となりました。

<かたちのないものを売る>

すぐにひらきたくなります あなたから買いたいひとがもう、待ってます 川村有史

ひらくのは、歌集だろうか、魚だろうか、お財布だろうか、それともエロティックな歌なのだろうか。何を購っているのかわからないながらも、丁寧な作りに高評価だった歌。

売るための声と目である愛撫され引き摺り出された恋情もまた 冨家弘子

こちらも芸能人を詠んだものか、それとも大人のエロスなのか、読みが分かれました。大人のエロスと読んだ場合、結句が類型的である感が否めません。

<社会派はむずかしい>

実のとこ何がウリかはわからない消費増税国を売るのか 兵站戦線

歌への直接の批評よりは、個々の考えにコメントが偏りました。そのなかで、初句で、ところの「ろ」が省略されているため、リズムが切れてしまう、意味はとれるが結句が性急である、という冷静な読みも。

<場所の風情>

片隅に春夏冬二升五合【あきないますますはんじょう】の墨書を貼った居酒屋で飲む 雨宮

春夏冬二升五合【あきないますますはんじょう】という語句の面白さや、雰囲気のある居酒屋を描き出した点に評価があつまる一方、結句が物足りないという意見も。

焦がれおうて満たぬさだめの雛と騎士 淀屋の軒に吊るされており 蔦きうい

雛と騎士の取り合わせに違和感を感じる方もいて、豊かなドラマを見出す方もいて。店先のひとこまの切り取り方の妙が光ります。読み込まれた地名も抒情を添えています。

駅そばの出汁と女将の温度にてしばし忘れる外界の白 サカイミチカ

北国の駅のそば屋、温かい湯気、出汁のかおりの描出には評価が集まりました。「女将の温度」が表現を急いだきらいがあり、違和感を抱かせたり、読みを迷わせる結果となりました。「にて」「外界」は説明的であり、ぬくまった雰囲気から遠ざかってしまうのではという指摘も。

<個人商店対決>

佐藤亀商店の戸は開かぬまま日に褪せてゆくビスコの包み あまねそう

時の経過の象徴のように色褪せていくビスコの包みの描写に評価が集まりました。いかにも昭和の個人商店らしい店名は、風情があってよいという方、過剰を感じる方も。

人の声に応へ出で来る榊本豆腐の媼つねに手を拭く 十谷あとり

商売の一場面を活写しています。淡々とした描写ながら、媼の存在感、つめたい小さな手が立ち上がるようです。上句が少し説明しすぎかもしれない、という意見も。

<社会の隅々まで金銭の授受は介在する>

病院の会計待ちの長い列こんなに治りたい人がいる 有田里絵

「治したい」ではなく「治りたい」と表現したところに妙があります。上句の具象と下句の発見と驚きへの流れが自然に結びついています。散文的ではありますが、表現の必然を感じます。

保険売る男の薄き唇に見とれておれば横にゆがめり ふらみらり

立て板に水のように喋る保険屋の話をぼんやり聞いている感じ。見慣れない生き物の顔を見ているような気持ちになっていったのではないか、唇へのフェティッシュやそこはかとないエロス、死を取り扱う職業の不気味さを受け取った方も。「横にゆがんだ」は主語を迷わせるかもしれません。

チケットを売るためではなく弾くことは芸術に殉ずるため、と若きピアニスト 文屋亮

内容以前に破調、語句の整理について意見が集まりました。若い芸術家の気概は感じるが意外性に乏しい、いっそチケットを売るためと韜晦してくれた方がかっこいいとも。

商いの道を愛していた父は最後に自分の記憶を売った 鈴木牛後

認知症の家族を読んだ歌と解釈する読者と、SF的設定として読んだ読者に分かれました。前者の読みであれば、記憶を無くしていく父の姿をこのように描くことで納得しようとする切なさ、人間の業や無残が響きます。


<ザ・職業詠>

っしゃ行こか「ア メ フ テ キャ ピ キャ、チェックヨシ!」七つ道具を携え走る 福島直広

七つ道具がなんだかは具体的にわからないながらも、音の面白さの魅力や臨場感を受け取った方あり、わからないことで疎外されたように感じる方もあり。作者より、消防設備業に必要な道具だという種明かしをしていただきました。

電器屋の美香ちやんはいま空にゐるエアコン取り付け工事の難所 紀水章生

男性の多い仕事場であるエアコン取り付け工事の現場で働く女性を描いた、生き生きとした歌です。「空にゐる」で主体は亡くなっているのかもしれない、高所の表現として大げさではないかという意見もありました。

<売買するのはコンテンツ>

うつそみの身をさらしゆく生業はブログの文字に冬を鬻げり 佐藤元紀

結句は「春を鬻ぐ」のもじりであり、歌に灰色のトーンをもたらしています。ブログに自分の生活を綴り、切り売りするようなあり方に寂しさを感じています。「うつそみの身をさらしゆく生業」を主体の職業として受け取り、読み迷う方も。

楽をしてお金儲けがしたいですたとえば短歌つくって売って 黒路よしひろ

上句に対して配置される下句の内容に驚き、これは歌人というあり方に対する批評であろうかという意見もありましたが、正直笑ってしまった、無理、身も蓋もない本音が心地よい等、歌の内容に素直に寄り添った読みが集まりました。

<天気の良い秋の一日>

黄昏にあくびする猫電柱に夢売りますのかすれた活字 ガク

夢売ります、と猫の取り合わせ、歌に漂う雰囲気が素敵です。売られているものを字義通り夢と考える方、ピンクちらしに変換して受け取る方、豊かな読みを誘いました。夢売ります、の部分に括弧を付けた方が分かりやすいかも、という具体的な指摘も。

移動性気団が運ぶ透明な空気の中で花屋が開く 三澤達世

移動性気団という言葉の選択に評価が集まりました。結句は賛否あり、個々の花屋に対する感情によって読みが変わった感じがします。「空気の中で」は「空気の中に」でいいかもしれない、という具体的な指摘もいただきました。「透明」はつきすぎな感があるかもしれません。

<自由詠の部>

高得点歌を紹介します。

駆け巡る枯野求めて横向きのおまへをつらぬいてゐる御堂筋 佐藤元紀
あれは梅田あれは十三あれは毛馬よるにぐるりと囲まれて橋 冨家弘子
星さがしさまよふ画面にあらはれた遊星歯車機構の図面 紀水章生
ひとりでは悩まず電話してください(ただし職員勤務時間に) サカイミチカ
青空に真白き線が伸びゆくを子は喜べり背をそらして 文屋亮

今回、兼題の歌に返歌ならぬ美しい散文を付けてくださった方もいらっしゃいました。紙面の都合でご紹介できないのが残念です。読んでみたいと思った方は、ぜひ関西MLへご参加ください。

三澤達世記

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by kaban-west | 2013-12-07 17:40 | 歌会報告
2013年 12月 07日

9月歌会報告

9月かばん関西オンライン歌会記

 

あまねそう、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、サカイミチカ、佐藤元紀、塩谷風月(シアンの会)、十谷あとり(日月)、鈴木牛後、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、福島直広、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線、三澤達世

 

今月の兼題は「空」。9月の空は夏から秋へ、この時期だからこそのナイスアタックなお題でございます。今回は各々の兼題、自由詠の、より得票数の高かった方の歌をチョイスしてみました。それでは皆さん、詠って下さい♪♪♪

 

兼題の部「空」

 

空想の彼女とふたり朝焼けを見ました僕は泣いていました 黒路よしひろ

 空想の彼女にせつなさを感じる、夕焼けでなく朝焼けなのが良い、応援したくなる等の好意的な意見が多かった。何故泣いていたのか分からないとの指摘もあった。

 

水色と言わずにきみは空色と好きな帽子について話した 有田里絵

空色の帽子なのか、空色と帽子の二つの話題なのかつかみにくいとの意見もあったが、頭にのせる帽子と「空」の結びつきが心地よいと好評だった歌。 こだわりを持つきみを、見守る視線の温かさがよく伝わっている。

 

思ってたより心もち青い空ぼくとおデートしてみませんか 福島直広

上の句の言い回しが面白いとの評価の反面、おデートに「歯切れが悪い、気持ち悪い」や「可愛らしい、憎めない」等、賛否が分かれた。「実際に言った事は有りません」(作者談)断!

 

マグリットの青空の下ふたりとも消えちまふまで愛しあはうぜ 佐藤元紀

 マグリットの描く鮮やかな青空の下、消えてしまうまで愛し合う二人の儚さが美しい、下の句のロックバンドのような雰囲気との組み合わせも歯切れ良く決まっている。

 

屋上のパーキングには「空」とあり空であるゆえ青く光りぬ  あまねそう

青空のすがすがしくすかーんと突き抜けた感じが心地良い。説明的だったり少々理屈っぽいと言う意見もあったが、そのままの情景にも「ああ、そうか。そうなのだ。」と思わずうなずいてしまえる歌だ。

 

掬っても空に消えゆく涙砂指のあわいを抜けすきとおる 兵站戦線

涙砂とは造語だろうか、上質の歌謡曲みたいにずしんとくる言葉だ。涙のこぼし方の描写が美しい、との評価の反面で、陶酔している歌謡曲のよう、もう少しあっさりして良いのでは、との意見や、上の句と下の句が矛盾しているとの指摘もあった。 

 

暗黒の虚空を全て脱ぎ捨ててウルトラマンは地へと降り立つ 雨宮司

暗黒、虚空の意味の重複を指摘されたが、兼題「空」でウルトラマンの登場シーンを詠んだところに個性が感じられる、上の句の「こ」と「す」の連鎖が心地好くあとを引く。

 

空に声突き上げ走り出しそうな私の肩を私がおさえる ふらみらり

声を突き上げる、という表現が目をひく今月のふらみワールド。衝動に駆られる自分とそれをおさえる自分、私の中の二人の自分のせめぎ合いが快感にも思えてしまう。もう字余りだとか気にしないのだ。

 

ラバウルの空から祈る君の子よ星辰無限うらうら育て 蔦きうい

祈っているのは戦死した父親なのか、との読みが多かったが、わが子とは言わず君の子と言う微妙な距離感からか、前々回から続く未亡人と大佐シリーズか、と読む者もいた。下の句に強い愛が感じられる一首だ。

 

空き箱に詰めし書籍を探したれば「ありがとう」とふ手書きの栞 塩谷風月

兼題に対して「空き箱」の発想が新鮮な一首、思いの伝わらなかった恋人なのか、友人かはたまた我が子なのか、話が出来すぎかと言う意見もあったが、妄想でおかわり三杯はいける歌だ。

 

テーブルにはみ出しているクレヨンのそらいろ雨の季節が近い 三澤達世

はみ出したそらいろが何かメッセージのようで、そのそらいろを見て、梅雨の近づきを感じる母親の感性こそが、子供への愛情なのである。お昼寝中の子供は今、空色でなく「そらいろ」の夢を見ているのだ。

 

空いちまいめくれば次に紫のかかった傷が顔を出す 痒い 冨家弘子

 青空からトワイライト、夜に至るまでの過程を一気に詠みあげた美しい一首。結句の「痒い」が独自の境地に達している。「密室のバンドエイド!!それか心の傷をカバーしてる透明の絆創膏??」とはふらみワールド的解釈。

 

くらげくらげ なみに揉まれてかぜに吹かれ遠いお空に消えてゆきます ガク

 ふわふわと空を漂うくらげに違和感はなく、寧ろ儚ささえも感じてしまう。海から空へと飛躍していく展開についていけないとの意見もあった。ここだけの話だが、昔の恋人に「あんたくらげみたいだから」とふられた事から生まれたくらG…ではない、歌だった。

 

自由詠の部

 

ひと月に一度は同じ話してふたりでひとつの暦と暮らす  鈴木牛後

下の句のふたりでひとつの暦と暮らすという表現が、多くの共感集めた。ふたりで同じ時を刻んでいこうという思いにほのぼのとした暖かさが感じられる。ひと月に一度という距離感も二人で築いた間合いなのだろう。

 

横ざまに積まれゆくとき自転車は無数の傷の集積となり  十谷あとり

「横ざま」、「無数の傷の集積」という響きの美しさが高評価を集めた。無表情に撤去作業を進めていく作業員。鉄のぶつかり合う音は、感情を持たぬ自転車の叫びなのだ。

 

蛍火が冷たいなんて思へない狂ふがごとくもつれ飛ぶ夜  紀水章生

錯乱したかのような蛍の乱舞に情念が感じられる、誰もが共感できる一首となった。上の句の表現には、「詠むときに自分の感慨は隠しておいて、写生に徹したい」との意見もあった。

 

新しい仲間も増えて、益々パワーアップしていくかばん関西です、メーリングリストには毎月膨大なコメントが押し寄せてきます。関西在住な必要はありません、まずはメーリングリストへお越しやす、熱い熱いコメントがあなたを待っています。

 

                              (福島直広・記)


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by kaban-west | 2013-12-07 16:50 | 歌会報告
2013年 09月 28日

初秋江之子島歌会報告

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かばん関西歌会 初秋江之子島歌会報告

[参加者]雨宮司 有田里絵 ガク(ゲスト 詠草のみ) 黒路よしひろ(ゲスト) サカイミチカ 塩谷風月(シアンの会) 十谷あとり(日月) 田中素奈(ゲスト) 蔦きうい(玲瓏) 冨家弘子 福島直広 ふらみらり

九月八日(日)、大阪市西区の江之子島文化芸術創造センターにてオフライン歌会をとり行いました。
今回オフライン歌会に初参加して下さったのは、サカイミチカさん、田中素奈さん、冨家弘子さんのお三方。二回目のふらみらりさんも加わり、ここ数回で次々と新しい仲間をお迎えして、出席者十一名という賑やかな歌会となりました。
今回は吟行ではなく、事前に用意した詠草を当日互選・批評する型式とし、帰省のおみやげや手作りのパンなど差し入れを美味しくいただきながら、真剣に楽しく読みを分かち合いました。
詠草の一部をご紹介いたします。

・ステップに落ちたプリクラ踏みしだく人数えればみんな革靴  サカイミチカ
・聴覚が雨に溶けゆくしょびしょびとやむあてもなく降り継ぐ中で  雨宮司
・はろばろと別れたひとの子をあやす漁村ほしくずラヂオ汐騒  蔦きうい
・もっともっともっとしずかな夕暮れに流れついてホラ貝として居る  冨家弘子
・四貫島の〈バッカス〉に行けば会えるとふどんな星でも呑み込むをとこ  十谷あとり
・塾のバス土曜の暮れを走りゆく地蔵盆にも止まってあげて  有田里絵
・びりびりと皮膚が帯電してるから浮遊している言葉が痛い  ふらみらり
・ギギギギと言いながらひとは燃えるのかはだしのゲンに教わった夏  塩谷風月
・夏なのでええ夏なので言いますが「基本的には谷間は好きです」  福島直広
・夕焼けに紺がじわりとしみわたり世界の終わり三日月光る  ガク
・エロっちい本をひろったカズくんがぼくらの秘密基地の隊長  黒路よしひろ
・ここにいていいんだよって包まれる感触に酔う君との別れ  田中素奈

次回のオフライン歌会は二〇一四年二月頃を予定いたしております。



画像は蔦きういさんによる「阿波座大研究」散策マップです。

(十谷あとり 記)
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by kaban-west | 2013-09-28 18:29 | 歌会報告