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2007年 08月 23日

第50回短歌研究新人賞 佳作

  最後の樹    雨宮 司

霧深い見渡すばかりの平原に巨樹の灰色の翳が聳える

高く高く成層圏を突き抜けろ黒き沃野に根付く世界樹

数十万、数百万の時を経て巨樹には種々の生命【いのち】が宿る

樹は鳥を虫を獣を産み育て二足獣らを最後に産んだ

ヒトという名を与えられ火を覚え二足獣らは樹を去ってゆく

一面の黒々とした森の木をヒトは切り倒し住まいを造る

松明を投げつけたのが始まりか諍い昂じ家々燃やす

火には火を油も使えヒトたちの争い事は際限もなく

焼き払い棲まう獣を狩り尽くし大いなる森は見る影もなし

古い樹を忘れられない人もいるお許しあれと巡礼続く

なぜあんなよぼよぼの木にすがるのか誰でもいいから倒してしまえ

始源の樹に鉈を振るえど薄皮が傷つくだけで弾き返される

鳥は啼き獣は枝を駆け登り虫は木の葉をつづれ織りにす

火をかけよこの世で最後の樹木ならそれ相応の饗応をせよ

この大樹だけは残してくださいと巡礼者たちが樹をとり囲む

流血は避けねばならぬがやむをえぬ巡礼者どもに火矢を射かけよ

沈黙のうちに巡礼者は倒れ骸の上から油が撒かる

僕たちはどこで間違えたのだろう最後に射られた巡礼者が言う

樹を覆う苔は業火に少しずつ黒く焼け焦げ剥がれ落ちゆく

熱塊が万緑豊かな枝々を強く激しくもぎ取ってゆく

世界樹の炎は平原へと及び城郭までも燃やしにかかる

ぴき、とのみ破滅の序奏は一瞬で紅蓮の世界に巨木を誘【いざな】う

しゅわしゅわと幹の裂け目から水分が泡立ちながら黒くなりゆく

秋の火は地上で最後の巨樹を焼き四方に種子【たね】を飛ばしていった

燃えさかる紅蓮の炎の中に咲く紫色の花に見とれた

枝々が散らす花粉はたちまちに激しい炎に焼かれてしまう

天覆う塵に月も星も隠れ炎のみが世界樹を点【とも】す

焼け焦げた数多【あまた】の死体は黒く朽ち最後の巨樹に吸い取られゆく

空を舞う種は大いなる海を越え未開の土地にそっと降り立つ

表面を焦がし尽くした地球樹の暗き幹より葉は萌え出づる

     (太字5首、「短歌研究」2007年9月号に掲載)

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by kaban-west | 2007-08-23 09:35 | こんなところに出ました
2007年 08月 22日

第50回短歌研究新人賞 最終選考通過作

   口女 ――水をわたる     十谷あとり

クレヨンが紙をはみ出る勢ひに海へ海へと伸びる大阪

四貫島島屋春日出つばくらめ大根一本百円の路地

有限会社山本莫大小玄関の金の成る木の鉢枯れやまず

自転車の沈む河口を渡る鳥口笛のやうに鳴く鳥もゐた

   メリーゴーラウンド

ふりむけばとほざかるのにゆくてにはいつもわたしを待つ母のかほ

父は無言に立ち上がりたりわたくしの見えぬところで母を撲つため

さかのぼる曳船いくつ運河にも流れはありぬ見えがたきまで

   安治川トンネル

歩行者の渡れぬ橋のまた一つ掛かりて向かう岸は遠のく

おん あい と口ひらくこそかなしけれ鯔の群れあの中のわたしだ

口女(くちめ)より生るるは口女吾子の唇(くち)にみづかね色のピアスは光る

         (「短歌研究」9月号 全30首より10首掲載)

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by kaban-west | 2007-08-22 09:39 | こんなところに出ました
2007年 08月 06日

7月歌会報告

◆◆◆ かばん関西 歌会記 ◆◆◆平成19年7月 オンライン歌会

【参加者】雨宮司、笹井宏之(購読・未来)、十谷あとり(日月・玲瓏)、蔦きうい(玲瓏)、福田貢一、山下りん(ゲスト)、棉くみこ、有田里絵

◆兼題「古いもの なつかしいもの」

今回の兼題には、素材として、古典の時代のものを使うか、自分が体験した懐かしいものを使うかに分かれた。
素材の選び方も作者に寄って様々で、バラエティーに富んでいた。

☆湯上りのモモレンジャーがあきらめた恋を茶の間で万華鏡へと  蔦きうい
1票(笹井)

コメントが多く寄せられた歌。取り合わせの妙は好評だったが、結句が不明という意見も。恋を昇華させようとしているのではという説が出た。

☆わが恋ひし年上の乙女輝きて天橋立荘厳の極み  福田貢一
1票(雨宮)

語句の重複を指摘する意見はあるものの、恋愛の思い出の舞台として天橋立を持ってきたのがうまいという声あり。

☆あなたはもうピアニカケース こんこんといつまでも空色のねむりを   笹井宏之
5票(福田、十谷、蔦、有田、山下)

コメントの多さもピカイチだった歌。「ピアニカケース」「空色」の語句に美しさと物悲しいイメージが溢れ、高い評価が寄せられた。作者本人を歌ったのではないかというシュールな読みもあった。

☆放課後のオルガンの影はしずまりてコロッケの包み紙を破りぬ  棉くみこ
5票(福田、蔦、有田、山下、笹井)

「影」をオルガンの音だと読む説と、手の動きだという説が出た。オルガンなら小学校だけど、放課後にコロッケを食べるの?という面白い指摘も。詳細は不明だが参加者それぞれが想像を膨らませた歌。

☆児童書の棚にピッピとモモがいる素通りできず触れる背表紙    有田里絵
2票(棉、笹井)

「ピッピとモモ」の出てくる題名を知っている/いないに関わらず、実際に手に取るわけではなく背表紙に触れるという行為に共感が寄せられた。

☆名作アニメの再放送に流れてたパルナスの店も今はもうない 雨宮司
1票(福田)

「パルナス」の固有名詞だけで郷愁を感じる読み手が多数。結句の表現の仕方がありがちだという指摘も。

☆ほんのすこし命をおわけいたします 月夜の底の紙ふうせんへ   笹井宏之
3票(十谷、蔦、山下)

洗練されたイメージの世界に評価が集まった。大人のメルヘンであるという読み、「息=生き」という指摘に納得。

☆どのノートの隅にも書かれ青空へつながっていたRCサクセション  棉くみこ
4票(福田、雨宮、十谷、有田)

懐かしさと青春の爽やかさを存分に感じさせてくれた歌。 「青空へ」つながる素直な明るさに引かれる声も多かった。

◆自由詠

☆でんじろう先生がゐるこの街に手をつなぎあふ電信ばしら   十谷あとり
3票(棉、山下、笹井)

「手をつなぎあふ」で先生の人柄をうまく伝えている。

☆にぎやかなカードゲームがそこここで始まるらしい紫陽花の道  山下りん
3票(福田、棉、有田)

ゲームを楽しむ子供の声と花の明るさがマッチしていると評価された。

☆灼光の渦巻星雲人類はどこから来たのだろうと人麻呂  蔦きうい
1票(福田)

歌意が不明だという声はあったが、「渦巻星雲」の面白さに好感を持った人も多数。祖国に帰らなかった人麻呂と、人類を対比しようとする声も。

☆約束に次という字がない日には一輪の薔薇を咲かせてほしい  山下りん
3票(十谷、蔦、有田)

ロマンチック。恋愛の歌を正面から詠めるということに、好感と同時に少しの羨望を示す声があった。

☆ブラインド指にたはめて離すときけものの耳の小さきはたたき   十谷あとり
4票(雨宮、有田、山下、笹井)

結句の意味とイメージをすんなりつかめるかどうかで意見が分かれた歌。ブラインドの動きが耳の動きに似ているという発見には好印象。

☆かすかにゆらめく炎浮かび上がる太子の眼かっと見開く   福田貢一
1票(笹井)

炎が太子に見えたという発見の歌。現在形が効果を発揮している。初句を定型に揃えるほうがいいという意見も。
                        (有田里絵)
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by kaban-west | 2007-08-06 12:54 | 歌会報告