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2007年 10月 24日

新人歌人作品集  十首+エッセイ

面接行    雨宮司

地元民十一名と異邦人一名のため列車は走る

約束の時間にバスは着けぬから一本早めて散歩をしよう

正装は夏向きといえど蒼天の下では毛皮とほぼ異ならず

街道から工業団地への道は急勾配とS字が続く

歩道埋める葛はつぎつぎ紫の花房立てて微風にそよぐ

面接官はいたって気さくな人である肚(はら)の内など読めたものでない

面接のために準備をしておいた台詞(せりふ)は結局言う機会なく

一時間一本のバスに乗り遅れ一時間弱を緑の中で

鬱蒼と呼ぶには遠い木の下に立派な神社がひとつ鎮座す

蒸し暑さにペットの中身飲み干せば行きどころない汗が流れる



■最近、衝撃を感じた現代短歌

将来は大きな大きな歯車になってにっぽんを動かす夢  穂村弘  「短歌研究」平19・5

最近の穂村の歌を読んでいると、その変貌ぶりに面喰らう人も多いのではなかろうか。意表をつく表現は背後に隠れ、代わりに、高度成長期以降の様子がゆったりとしたユーモアに彩られて詠まれる。正直なところ、このスタンスでノスタルジーが詠まれるとは思っていなかった。掲出歌はそれらの中でも比較的時代の空気が解りやすいものである。

                       (「短歌研究」2007年11月号掲載)

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by kaban-west | 2007-10-24 09:15 | こんなところに出ました
2007年 10月 23日

新人歌人作品集  十首+エッセイ

土曜日の点景   十谷あとり

古き曲流れてゐたり柘榴の実笊に盛りたる木の実の店に

紙の耳は波打つ浜辺海のなき町を廃品回収車過ぐ

皺おほく入り組む貌をもつ犬の歩み来てわれとすれ違ひたり

石畳に雨は降りそむ 石に落つる雨ははるかな海を呼ぶ音

にはか雨避けむと並ぶひと、ひと、犬、世界遺産の瓦の下に

飼い主に従ひ空を仰ぐ犬 雨宿りとは何かも知らず

何願ひし痕跡ならむ溶けのこる蝋に重ねて灯(ともし)を献ず

落雁の舌に消えゆくつめたさよ母が死んだらきつと淋しい

菊人形花のひしめく衣ひきこの世にあらぬ人ばかり佇つ

歯を磨けョ! カトちゃんの笑顔見てしのちテレビを消せば夜は暗かりき



■最近、衝撃を感じた現代短歌

街ゆけばマンホールなど不安なるものの光をいくたびも踏む   佐藤佐太郎 『天眼』

佐藤佐太郎の、日課の散歩の中から詠まれた歌。写実詠と呼ばれる歌も、幻想的な前衛短歌も、それを醸成したのは作者が生きた現実の日々である。短歌というのはつくづく、日常から生まれる文学だと思う。わたしはわたしの日常の中で、こころ動かされる何かを見つけては、歌を書く。歌い続けるために必要なのは、諦めないことだけなのだ。きっと。

                       (「短歌研究」2007年11月号掲載)

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by kaban-west | 2007-10-23 09:35 | こんなところに出ました
2007年 10月 08日

連歌○盛夏から初秋へ・蜻蛉の章の巻

県知事が立つ夏色の始球式  司

  飛び出せ青春若気のいたり  観音

盆休み 帰省ラッシュでゆらりゆらり  真筆

  風船の飛ぶ世界の彼方  貢一

チムチムニーはるか頭上を傘は行き  司

  メリーポピンズ気取りで掃除  里絵

『西遊記』満員の中げんなりし  貢一

  気になる人がなぜオアシスに  きうい

玉とけば芭蕉の招く汝(なれ)も風  あとり

  風鈴聞きしラムネ色の恋  観音

微炭酸に恋してるんだ誰もみな  りん

  有馬の湯へと秀吉も行く  司

長女踏み一つ足りない六瓢箪  観音

  ペットボトルのラベルはがそう  里絵

裏庭の桔梗をいちりん挿にして  きうい

  ひしと抱きしむ信長の妻  貢一

夏の蝶石の仏を越えゆけり  あとり

  誰が置いたか手拭い一本  司

駆け出した子どもの指からなびくリボン  きうい

  あえてビキニの襟元に巻く  里絵

ゆえもなく老子は果てなき海を見て  貢一

  「蛸地蔵まで」「710円」  あとり

フォーチュンたこ焼初彼のため焼いてみる  りん

  味わい深し一茶の俳句  貢一

北京にて翻訳中にブルドーザー  司

  二十歳の彼女ソファに降ろす  里絵

癇症のチワワの眠り妨げて  あとり

  ミキサーのまま冷やすガスパチョ  きうい

遠雷は昨夜【よべ】の怒りの谺かな  朋子

  老子説きたり悠久のタオを  貢一

ポン・ヌフの下をあまたの水流れ  あとり

  黒いパックをゆるゆるはがす  里絵

秋が来て日蓮の命日も近づきて  貢一

  由比ヶ浜には残像の夢  そう
 
ひっそりと砂文字は波さらわれて  りん

  麦藁帽にとおく手を振る  あとり

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by kaban-west | 2007-10-08 09:32 | 自由に連歌
2007年 10月 04日

9月歌会報告

*関西歌会  二〇〇七年九月 オンライン歌会*

【参加者】天昵 聰、雨宮司、有田里絵、笹井宏之(購読・未来)、十谷あとり(日月・玲瓏)、関川洋平、蔦きうい(玲瓏)、福田貢一、棉くみこ

◆兼題「磨く」

芸術の秋→芸→磨く? から決定! 歯磨き、靴磨きなど日常詠から感覚的なお歌まで、バラエティー豊かに22首そろいました。新会員の天昵 聰さん、関川洋平さんにもさっそくご参加いただきました。

日曜の晩の玄関 夫磨く六年モノのリーガルシューズ  有田里絵

〈磨く〉まで二百万年かかったと石器は語る 妻はガムかむ  天昵 聰


☆趣の異なる夫婦詠。
一首目、「日曜の晩」が仕事に備える夫像を浮かびあがらせて効果的。「地味だけどしっかりと存在しているもの」を感じる、と好意的な意見を集めた。助詞(玄関に、夫の磨く/夫は磨く)の省略が気になるとの指摘もあった。
二首目、場面は博物館? テレビの特集? と確定されていないものの、石器に夢中になっている夫と、妻の無関心ぶりが面白いと好評。「妻はガムかむ」のリズムも印象に残る。

球体のあなたが床に転がっていたのでかるく磨いてやった  笹井宏之

夏の陽を率(ゐ)る一輌は音たかく川のおもてを磨きすぎたり  十谷あとり


☆今回の高得点歌。
一首目は、笹井ワールド全開で5得点。「球体のあなた」は月などのモノ派と、優しくてまろやかなヒト派に分かれたものの、いずれも“いたわり”を感じさせるとの評。「磨いてやった」は、羞恥心からぶっきらぼうになった、サンドペーパーで軽く傷つけるように磨いたという声もあり、この歌の持つ“フクザツなやさしさ”が歌評からも伝わってきた。
二首目、真夏日に鉄橋を渡る一輌が鮮やかに浮かぶ作品。読後も爽やかで4点歌に。日差しも、列車も、川面もまぶしい!

宿命論的粘液におほはるる護謨【ゴム】の樹の葉を磨く 独夜に  関川洋平

歯を磨き顔を洗ふ所作ごとに仏法定むる道元禅師  福田貢一


☆「ハ」を磨く歌。
一首目、歌い出しの漢字が印象に残る。独夜に葉を磨く行為、ねばつく感覚が独特の雰囲気を生んでいる。
二首目、フツーの生活に突如、道元が出現する迫力に打たれとの意見も。日々修行と考えている作者の姿を想像させる。

五匹中器量の悪い一匹をことさらブラシで念入りに磨く  雨宮司

寒天でベリーを固めるみずいろの帽子をかぶる おとこをみがく  蔦きうい


☆話題をさらった歌。
共感を呼ぶ一首目、ほとんどの人が犬と判断したものの、ゴキブリを浮かべたとの意見も。その理由として「ゴヒキ」という音からの連想、「念入りに磨く」が油光りをイメージさせるから、と十谷さんから指摘が寄せられて、納得。
二首目、女性陣は上句に注目。「寒天ベリー」と「みずいろの帽子」をポップな「おとこのみがき方」と受け取ったのに対し、殿方からは反発が……。「それを言っちゃあおしまいよ」的反応、「汗臭さは不要ということなのか」という意見が見られた。それらを受けての作者メール「異性に媚を売るのが気に入らないというのはトーゼン」に、アタシは深くうなずきました。

◆自由詠

今回は題詠に話題が集中しましたが、自由詠から数首を。

大量のキダチアロエの夕暮れは触手を伸ばす海星【ひとで】らに似て  雨宮司

液晶に照らされて毛は細長く肌薄白く イグアナを飼う  天昵 聰

百二十二字を一気に省略しテフロンのようにひびくテロトク  棉くみこ

                                         (棉くみこ記)
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by kaban-west | 2007-10-04 20:25 | 歌会報告