かばん関西歌会

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2009年 09月 06日

8月歌会報告

かばん関西8月歌会記

【参加者】雨宮司、有田里絵、十谷あとり(日月/玲瓏)、ひな菊、福田貢一(北摂短歌の会)、三澤達世、山下りん(ゲスト)、山田航

今月の兼題は季節にちなみ、「『な』で始まって『つ』で終わる歌」といたしました。が、参加者のみなさんから「音を指定されると詠みづらい……」とのお声がちらほら。暑い中、けったいなお題でみなさんを悩ませてしまいました。ごめんなさい。いつもと違ったアプローチから生まれた作品をご紹介いたします。

・七階のゆりちゃんちからプチトマトもらってきたと右手にひとつ  有田里絵

シンプルでストレートだけれど、読み手の中で世界がゆたかにふくらむ歌。七階だから、マンションに住んでいるのかな。ベランダ菜園でようやく実ったプチトマト、もらえたっていうことは、ゆりちゃんとこの子はとっても仲良しなのかな。「ママ、見て!」と差し出すてのひらの温度まで伝わってきそうです。

・南京に私の部隊がいたことは子にも孫にも死ぬまで秘密  雨宮司

終戦記念日のある8月は、戦争の記憶を語り継ぎ、平和への誓いをたてることに思いをいたす時期でもあります。戦争を知らない世代の作者が「南京」というテーマに果敢に挑みました。読者からは「実感が薄く、軽くしか伝わらない」との意見も。短歌で嘘をつく(=なりかわりの歌を詠む)のはなかなか難しいようです。

・凪続く鏡のごとき水面(みなも)からぬーっと顔出し波を打つ  ひな菊

最後の一文字まで緊張感が途切れない歌。頻出するナ行の音も、不気味なものの出現という内容と相まって効果的です。結句の字足らずが気になるという意見も。顔を出したのは一体何だったのでしょう。

・なんという不思議なことだ秀次の落とされし首白鷺となりつ  福田貢一

講談調の、ごつごつとした詠みぶりで、武将の死と魂の再生の一瞬をとらえています。口語と文語のぶつかり合いも、かえって力強く読者に迫ってきます。作者の秀次への愛惜がひしひしと感じられました。

・長雨の室内プールは縁日のスーパーボールのごとき混雑  三澤達世

夏の日常からの一首。プールにひしめく人たちを、スーパーボールすくいの水槽に浮かぶカラフルなボールに見立て、読者に無理なく伝わります。「長雨の」は特に必要ないのではとの意見もありました。

・波音が突如途切れて凪となる古くて暗いこの映写室  山田航

映画の効果音の波音が途切れ、室内が静まりかえる。これを「凪となる」と表現したことで、読者のイメージの中の映写室の床が湿った砂に、室内によどむ黴臭さが潮の匂いへとメタモルフォーゼしてゆきます。ことばひとつから詩が生まれる瞬間に立ち会った気持ちになりました。

・泣いてゐるひとのこころとおもふまで星のひかりを見つめてをりつ  十谷あとり

山下りんさんは、8月1日生まれの笹井宏之さんを偲んで、三首の歌を詠んで寄せて下さいました。歌会では無記名詠草を作る都合上、ばらばらにせざるを得ませんでしたので、ここに一連としてご紹介いたします。悼みと祈りで貫かれた、分かちがたいひとつの作品です。

・泣いてもいいと赦されている八月は君の絵本を胸に抱きつつ  山下りん
・懐かしいといつかは時に馴染むのか故人となりし君なぞりつつ
・夏生まれの君のケーキにロウソクは永久に変わらず二十と六つ

          (十谷あとり記)
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by kaban-west | 2009-09-06 13:39 | 歌会報告