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2012年 06月 05日

5月歌会報告

二〇一二年五月かばん関西メーリングリスト歌会

[参加者]雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、黒路よしひろ(ゲスト)、塩谷風月(ゲスト)、十谷あとり(日月)、月下桜(コスモス)、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子(ゲスト)、那由多(選歌のみ)、野埜百合、文屋亮(玲瓏)、三澤達世、山下りん(ゲスト、選歌のみ)

■兼題の部「紙」

積み上げた書類の束がさらゆらと谷風はらむ見上げれば雲  ガク

 「さらゆら」というオノマトペに対する賛否、谷風と書類の束のギャップへの戸惑いはありましたが、結句で視線が空へさらわれるさわやかさが好評でした。

新聞で折った兜と刀もち少年がゆく夏の決闘  黒路よしひろ

 今ではあまり見かけなくなった光景です。「夏」が動くかも、という評もありつつ、イメージが明確で素直に心に落ちてくるゆえに、それぞれの思い出に結びつけて親密な評があつまりました。

来世には美しき詩集の縁【へり】歩く一匹の紙魚でもよいかも知れぬ  文屋亮

 最高得点歌。詩集への思いがストレートに歌われた点が、共感を呼びました。「紙魚」は本好きにとっては害虫のはずなのに好意的な評が多かったのは、書物への愛が深いメンバーだからかもしれません。一部、本より団子という意見もありました。新川和江さんの詩に着想を得たとのことです。

紙きれにメモした電話番号をなくしてしまふ 揺れる紫陽花  紀水章生

 失われた電話番号は、無意識に付き合いが面倒だなと思っている人、あるいはかつて憧れた同級生のものでしょうか。気の重い、または掛けようにも掛けられない電話番号が失われた安堵を、紫陽花の揺れに託しています。紫陽花の花ことばには『移り気』もあるそうです。

三百人分の資料をまとめたらハリナックスに指紋が染みた  有田里絵

 「ハリナックス」という固有名詞については、調べた方が多かったようです。針なしのステープラーで、ヒット商品であるとのこと、調べてわかる楽しみがあります。「一番たくさん紙が出てきたで賞」進呈。

鍼のごとき紙縒をつくる用務員石本さんのそののちを知らず  十谷あとり

 上句の明確な描写で「石本さん」のイメージが立ち上がり、そこに「用務員」さんに対する個々の思いがほどよくミックスされて郷愁を誘いました。実際に石本さんという知り合いがおられる方はうまく歌に入れなかったとのことで、固有名詞の使い方の匙加減はなかなか難しいと感じます。その後、歌志内のスナックで見かけたという目撃情報も。

節穴に切符かざして蝕映す出会いも別れもなき停車場で  蔦きうい

 日蝕をピンホールを用いて観察した際の歌です。「出会いと別れ」と「停車場」の組み合わせから、懐かしのメロディーが連想され、「停車場」という昭和的ニュアンスの単語の強さに、詠み手も読み手もひきずられた感があります。

あのひとの遠き吐息のとまりつつ、とまりつつ染む薄きたとう紙  冨家弘子

 「たとう紙」、男性は調べ、女性はすっと読んでいました。「と」音の呪文のような繰り返しが美しく、歌としてはどのような状況なのか明確にはわからないまでも、着物を受け継いだ「あのひと」への思いや距離、切なさなど意欲的に読み込まれました。

■自由詠の部

末つ子の吾【あ】守るごとく帰り道照らす小さな星は母かも  野埜百合

 「末つ子」と母の関係に、微笑ましさを感じた人もあり、そうでない人もあり。末っ子は、早く大きくなってほしいような、離れがたいような、という母の心理を読み取った母もありました。

珈琲を飲みおえたあとのおしゃべりがはるかに長い女性ふたりは  月下桜

 男女問わず、あるある、と共感をあつめました。間に入った長いひらがなの表記が、とりとめのない長いおしゃべりと響きあいます。

マテ茶には肉が合うって書いてあるこれから肉を食わねばならぬ  雨宮司

 本末転倒しているおかしさ。肉ではなくて鯖缶にする、などの捻りがあってもいいかもしれないという意見も。

ハリエンジュ何処から匂う夜半の風てまり持つ子を見た気がしたが  塩谷風月

 ハリエンジュはニセアカシア。梅雨前の一時、なんとも甘い香りを漂わせます。かぐわしい夜気と下句のミステリアスな雰囲気が響きあい、魅力的な歌。

白銀【しろがね】の月をとらへた水たまりひとさし指を差し入れてみる  紀水章生
台風ののちの浜辺のやうな部屋額髪【ひたひがみ】張り付かせて吾子は眠れり  文屋亮
昇りゆく色とりどりの風船の数だけ幼い悲しみはある  三澤達世

 今月も読み応えのあるコメントがボリュームたっぷりに寄せられました。本MLは関西在住の方に限りません。なかなかリアルの歌会には参加できない方や、近くで歌会がない方、お気軽にご参加ください。ほぼ一月かけてゆっくり進行しますので、お忙しいかたにもおすすめです。見学だけ、選歌だけ、という参加の仕方も可能です。日本のみならず、メールが届く場所ならどこからでも、ご参加をお待ちしています。 (三澤達世記)
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by kaban-west | 2012-06-05 10:26 | 歌会報告