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2013年 04月 28日

4月歌会報告

[かばん関西4月オンライン歌会]

〈出詠者〉あまねそう、雨宮司、有田里絵、ガク(ゲスト)、黒路よしひろ(ゲスト)、紀水章生(中部短歌会/塔)、十谷あとり(日月)、久真八志、蔦きうい(玲瓏)、冨家弘子、那由多、文屋亮(玲瓏)、兵站戦線、鈴木牛後、ふらみらり、田中ましろ、福島直広

今回の兼題は「新」。松岡修造ばりの気合いと情熱で多数の参加者を引っ張りまとめてくださった雨宮さん、ありがとうございました。全十七名の短歌を、対決形式でご紹介します。

〈新生児対決!〉
新生児室には海のにおい残り旅人たちがまどろんでいる / 冨家弘子
まだ何も踏んだことのない新生児 グミみたいな足舐めてもいいかな / ふらみらり

一首目、「海のにおい」とは羊水のにおいか、「母なる海」を下敷きにしたものか。新生児室にいる赤ちゃんたちを旅人たちに見立て、まどろんだ時間が広がり、詩的です。第三句の字余りは、助詞の省略も含め要検討かもしれません。
二首目、「グミみたいな」という比喩が印象的で、しかもかなり的確です。また、舐めてみたいという素直(変態的)な好奇心の意外性が面白い歌。上句と下句でテーマがずれてしまったのではないか、字余りや一字空けはもう少し整理できたのではないかという指摘も。

〈新聞対決!〉
ひさかたの朝の光に新聞の活字に映る君の抜け殻 / ガク
切り抜いた新聞記事の空白にガラスの窓から差し込む陽ざし / 紀水章生

一首目、朝日を背景に新聞を読む主体の影が抜け殻のように新聞に落ちているのか、疲れきった君を見ている誰かがいるのか。それとも新聞が、起き抜けの抜け殻のような君を見ているのかもしれません。ユニークな雰囲気が醸し出されていて魅力的です。「に」が二回 続き意味がとれなくなる点は、改作の余地がありそうです。
二首目、「空白」を歌うという着眼点と、歌の持つ静謐さや深み、暖かさが評価されました。切り抜かれたのが悪いニュースではなさそうなイメージは、切り抜いた「誰か」の存在が近くに感じられるからかもしれません。「ガラスの窓から」は「ガラス窓から」「窓ガラスから」で定型となり、すっきりします。

〈新妻(エロス)対決!〉
新妻の冷たいゆびがランボオのペヱジを焦がす 月にそよかぜ / 蔦きうい
春の月絹をまとひし双ツ丘道は険しきあゝ新妻よ / 福島直広

一首目、新妻とランボーという異色の組み合わせ。ランボーの詩の灼熱のイメージが「焦がす」に凝縮されています。めくられるペヱジ と、月を包むそよかぜが呼応して神秘的でアンニュイな印象です。雰囲気のいい言葉に頼っている、歌意がとりにくいとの意見もありました。
二首目、文字面から正統派近代短歌のような叙情で読み手を引っ張って行きますが、意味を追っていくとかなり官能的。古典的でストレートなエロスからはコミカルな印象すら漂いました。「双ツ丘」は乳房でしょうか。歌意をどう解釈すべきか迷った読み手も多かったようです。

〈「新しき」「新しい」対決!〉
新しいクラスメートの名前には「光」と「枝」と「一」の文字あり / 有田里絵
てのひらははだかいつでもわたくしは新しい砂を探す 探せる / 十谷あとり
新しき世は本当は今ここにある不幸せから見つけ出す / 兵站戦線
雲間より光は垂れて新しき家族増えむとふ御告げ【ルビ:みつげ】ならむか / 文屋亮

一首目、想像の膨らむ、なぞなぞのような仕掛けです。新しい季節へ向かっていく明るさや清新な印象を受けました。「光」、「枝」、「一」がつながって何か具体的なものを表しているのかもしれない、三字で有機的なイメージを立ち上げるには弱いのではという意見がありました。
二首目、「探す 探せる」から力強く一途な希求が伝わってきます。「てのひらははだか」という把握の新鮮さ、「新しい砂」の持つ叙情性が雰囲気をぐっと高めていますが、すべてが比喩で印象があやふやだという意見もありました。希求する対象とは逆の、捕らわれた何かが裏に存在しているのではという読みも。
三首目、格言めいた実直さが光りますが、歌の力の弱さも指摘されました。自らの内にある不幸せをあらためて探し見つめなおすことにより新たな幸せの芽が出るのではないか、という自身の確立の必要性を問う歌です。「は」の重なりや句跨がりから、意味が伝わりにくいという意見もありました。
四首目、受胎告知の場面でしょうか。荘厳で神々しい雰囲気に徹していて、天使や光に包まれた絵画を彷彿とさせる歌です。この「光」はきっと月光なのでしょう。「増えむとふ」「ならむか」と推量が続きまどろっこしい、違和感があるとの意見、雰囲気に圧倒されてしまいどこか乗り切れなかったという意見も。

〈さまざまな「新」対決!〉
新雪は根雪になれず我もまた父の故郷の冬知らぬまま / あまねそう
茶髪から黒色に髪染め直し新バージョンのわたし始まる / 黒路よしひろ
春風を纏いふくらむ新緑を、壊れそう、とあなたは指し示す / 田中ましろ
鞄には不安と爆弾隠し持つ新入社員になった弟 / 那由多

一首目、おとなしい印象ながらせつせつとした余韻のある歌。父のふるさとがじわりと浮かび、親子の複雑な想いも匂います。本格的な冬を知らない新雪と主体、根雪と父の印象が重なり積もっていくような深さが、実感を持って迫ってきました。「雪」の読みが音読みと訓読みである点からどこかずれた印象になってしまった、一読して読み解けず難しいという意見も。
二首目、音数律や歌意からスパッと「新」が伝わってきました。あえて黒髪にするというところに主体の気迫が感じられます。「新バージョン」という言葉には自分への期待と客観視している感覚が込められています。「茶髪」から「黒色」は物から性質への変化であり違和感があるとの意見、イメチェンとして髪色の変化はありきたりではないかとの意見も。
三首目、「あなた」は男性で、繊細な感覚を持つ彼への母性的恋愛が見え隠れするという読み。「あなた」は女性で、彼の気持ちも壊れそうなほど高まっているという読み。恋人同士の関係を暗示しているような、脆さや危うさが漂います。「壊れそう」の後の読点でわずかに音が切れ、不安感を演出します。読点の必要性は感じられない、「指し示す」に違和感があるとの意見も。
四首目、「爆弾」のインパクトが強く、想像をかきたてます。キレる可能性としての爆弾か、大きく成長する起爆剤としての爆弾か。弟の爆発しそうな不安感、見守る身内の心境が迫ってきました。漢字が多く凝縮されたような緊張感が感じられるとの意見、結句の「なった」が余分ではとの意見も。

新型のワクチン開発できないと笑い死にしかないぞ、わしらは / 雨宮司
制服の糸をすみずみ光らせて新語はつねに彼女らのもの / 久真八志
革新は革命ぢやないと言つた君の見たこともない苺の食べ方 / 鈴木牛後
一首目、「笑い病」でしょうか。切羽詰まった状況に対して「笑い死に」などという言葉が出てくるため、全体が異化されてシュールな歌になっ ています。また、今の時代を揶揄しているようにも読めます。突き抜けた感じが漂い、不気味な魅力があります。やや説明的な点が気になるという指摘もありました。
二首目、「新語」とはいわゆるギャル語でしょう。糸に着目し、すみずみまで「光らせ」る「彼女」らのパワーや生き生きした感じが伝わってきます。繊細で豊かな表現が評価されました。「糸をくまなく」「糸みずみずと」など、「すみずみ」という表現には推敲の余地がありそうです。具体的にぎょっとするような新語が入っていてもおもしろいという意見も。
三首目、どんな苺の食べ方だったのかがとても気になります。「革新」、「革命」ときて「苺」という、上句と下句のギャップが面白い歌。「言つた」は「言う」とした方が日常のひとコマが感じられて良い、リズムが悪くもたついた印象であるとの意見もありました。「君」の性格分析がなされ、盛り上がりました。

自由詠のうち、高得点歌を紹介します。
氷点下とは静寂の単位なり雪を踏む音だけが聞こえて / あまねそう
蜘蛛の巣を払えば軒のその向こうに天球ひらくような朝焼け / 久真八志
我の意に沿はせむと荒く子を抱けば手足ばたばたかぶと虫のごとし / 文屋亮
モビールが揺れてる つぶが ひかってる なきごえ なきごえ なきごえ  やんだ / 冨家弘子

(冨家弘子/記)
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by kaban-west | 2013-04-28 10:04 | 歌会報告