2009年 05月 31日
かばん関西5月歌会記 かばん関西5月オンライン歌会は、14人が参加の大盛況。兼題の部へ30首、自由詠の部へ12首、合計42首の作品が集まりました。兼題は「魚」「緑」。参加者も増え、フレッシュな新緑を思わせる歌が多数集まりました。 [参加者] 安部暢哉、天昵聰、雨宮司、有田里絵、岩本久美(購読)、十谷あとり(日月/玲瓏)、関川洋平、月下燕(購読)、西井美子(購読)、法橋ひらく、福田貢一(北摂短歌の会)、文屋亮(玲瓏)、山下りん(ゲスト)、山田航 ■兼題の部「魚」「緑」 ●張られた頬のやうに色づくゆふぞらに魚村晋太郎の青鷺 関川洋平 「もう二日メールが来ない青鷺をはじめて見たと言つた人から」(魚村晋太郎)が下敷き。魚というお題に魚村晋太郎をもってくるアイデアには「骨太」という声も。 ●深海を群れなす魚の灯が通りあとはしずかな廃駅である 雨宮司 イメージ豊かで美しい歌。電車の明かりを群れなす魚の灯にたとえているという解釈もできるが、幻想的な海底の実景ととりたくなってしまう。 ●繭になる/光る魚の群れになる/揺らぐ月まで手をとり昇る 法橋ひらく スラッシュが分かち書きを意味するのか一行としての修辞なのかで見解が分かれた。流麗なリズムが印象的。 ●さかなという抽象画のなか天地のなく漂えるオレンジのひれ 岩本久美 海の中には天地の区別がないのかもしれないという鋭い考察が。パウル・クレーの絵を思い出すという意見も。 ●口中の赤いぽつちを見せに来るSF好きな魚座の恋人 文屋亮 ある人にとってはチャーミングで、ある人にとってはエロティックだというこの恋人。SF好きで魚座というディテールがキャラクターを掘り下げてくれている。赤いぽつちは口内炎のことか。 ●鬱々の日々の裏手に隠し持つ飛魚閣下の大滑空を 西井美子 「飛魚閣下」という表現が戯画的、漫画チックなインパクトがあると好評。 ●非常口の緑の男が永遠に逃げ続けてゐる回廊をゆく 山田航 暗い精神状態、都市の迷宮を表現しつつも、切れ味あるユーモアという声もあり、多くの票が集まった。 ■自由詠の部 ●人ごみは嫌いだ似てる背中とか見つけてしまう(まだこんなにも!) 法橋ひらく 強烈ないらだちを発した歌だが、最後をカッコでしめるユーモアが強い自意識の抑制となっていてうまく詩情を導いている。 ●人間は宿命について無力だと低くつぶやくお釈迦さまなり 福田貢一 仏教思想が色濃くにじんだ一首。啄木調の「なり」という語尾の難しさが指摘された。 ●ただ一人元の位置に残されし我はここに二十年前に 安部暢哉 謎めいた歌。破調にたまらない焦燥感をみるという鋭い意見も。 ●会うことも会わないこともできたのにその日はずっと雨がふってた 月下燕 愛らしく、感傷的な歌。切ない思いを人に伝えたいという姿勢がレトリカルな技巧を超えて伝わってくる。 ●甲斐のない彼氏だったと二回目の話聞きおりセンター街に 有田里絵 雑然とした都会の乾いたガールズトーク。啄木の換骨奪胎とみる説も。 ●遠足で弾むホームに励まされ笑って言えたサヨナラサヨナラ 山下りん 上句が少し整理しきれていないものの胸にくる切ない一首。「サヨナラサヨナラ」は淀川長治からきているのではという説も。 ●たんぽぽは白髪になつたら飛ぶんだね爺ちやんももう飛べるんだよね 山田航 子供の無邪気な言葉を借りて死を仄めかしているところに、一筋縄ではいかない怖さを感じるという声が多くあがり、最多票を獲得。 (山田航 記) #
by kaban-west
| 2009-05-31 10:04
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2009年 05月 04日
「かばん関西四月歌会 歌会記」 <参加者> 安部暢哉、雨宮司、有田里絵、岩本久美(購読)、十谷あとり(日月/玲瓏)、月下燕(購読)、蔦きうい(玲瓏 選歌のみ)西井美子(ゲスト)、山下りん(ゲスト)、山田航 今月のお題は「鞄」でした。 新しい物事に触れる機会が多い四月、それぞれの思いを詰め込んだ二十首が集まりました。 順不同でおひとり一首ずつ紹介します。 ☆道化師の鞄を盗む計画をぺらぺらとミルクまみれの舌は 山田航 ぞくりとするという意見と赤ちゃん・幼児の歌という意見に分かれた。 猫という読みも。 不気味なだけではなくコミカルな味を加えている下の句は魅力的で、高得点歌となった。 ショートストーリー仕立ての連作になりそうで、読み返すたび想像が膨らむ。 ☆手品師ふたり手を取りあふて駆け落ちす裏地の紅き鞄の裡へ 十谷あとり 道化師の次は手品師。江戸川乱歩をイメージする人が複数あった。 ファンタジーとマジックの融合で、漢字使いもまさに作者ならではの滑らかさ。 鞄の中へ入って行く動作を表現しているのもさりげないようで個性的。 ☆「遊覧ボートあります」とありジッパーで閉められそうな池のほとりに 岩本久美 ジッパーのインパクトに評価が集まった。 遊覧するほどの広さの無い池であろうという読みと、作り物めいた池という読みとがあった。 ありそうとなさそうのバランス感覚とモチーフの使い方が面白い。 ☆右肩下がる通学鞄に入り交じる思いは同じ 15の君も 山下りん 後半の読みに不透明な点はあるものの、結句と青春の爽やかさが残る歌。 作中主体と鞄の持ち主との関係によっていろいろに読める。今回の出題者。 ☆とりあえずキューブバッグで家を出る来ていなければそれだけのこと 有田里絵 たいしたことないのよというドライな読みぶりではあるが、内容はそうではない。 (男性の票をいただいて嬉しかったです。) ☆容疑者が通勤電車でぶちまけた鞄にぎっちり詰め込んだ桜 月下燕 どうも今回はミステリアスな雰囲気の歌が多かった。この歌もそのひとつ。 いったい何の容疑者なのかヒントは無いが、無実を祈っている。 詰め込まれた桜同様に文字がしっかりはめられているという意見があった。 ☆バスケットケースにサンドウィッチ入れ今日もゆらりと古寺巡りゆく 雨宮司 さりげない詠み方とのんびり感覚に共感する意見が複数。こんな休日を送りたいものですね。 皆様のゴールデンウィークはいかがでしたか。 ☆教室に置いたまんまの君の鞄 もうちょっとだけ残っていよう 西井美子 切ない恋の一幕。現役を過ぎ去ってしまった参加者が多いせいか(申し訳ありません)、 かわいいという声が多数。 歌でなら何歳になっても詠めるのに、なかなかできないものである。 以下、自由詠をいくつかご紹介します。 ☆木に凭れ目を閉ぢてゐるしばらくを花は揺れをり前髪のごと 十谷あとり ☆チューリップを歌うくちびる懐かしく昔ながらの真っ赤を植える 山下りん ☆後ろから「待つて」と君にマフラーを引つ張られつい新雪を踏む 山田航 ☆陽春のコーヒーショップの陽だまりに我探す君が言うおもしろき味 安部暢哉 新参加者の方もいらして、フレッシュな歌会になりました。今年度も新鮮な風を楽しんで参りましょう。 (有田里絵/記) #
by kaban-west
| 2009-05-04 22:25
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2009年 04月 06日
〈かばん関西三月歌会 歌会記〉 [参加者] 安部暢哉(選歌のみ)、雨宮司、天昵聰、有田里絵、岩本久美(購読)、十谷あとり(日月/玲瓏)、月下燕(購読)、蔦きうい(玲瓏 選歌のみ)、福田貢一(北摂短歌の会)、文屋亮(玲瓏)、美里和香慧、山田航、山下りん(ゲスト) 今回のお題は、文屋亮さまからいただきました「いとこ」。親や兄弟姉妹よりも淡い関係は、歌に生命を吹き込むにあたって相当な困難があったことと思います。 《身体》 ●ばあちゃんの死んだ夜には正座するいとこの足の指を見ていた 月下燕 「足の指」が絶妙なリアリティ。身近な死に直面した心理をうまく描ききって、今月の最高得点を獲得した歌です。 ●芸能人にいとこがいると自慢するあの子の赤い舌のさきっちょ 美里和香慧 「赤い舌のさきっちょ」が、どうも嘘つきらしい「あの子」に鮮烈な形象を与えています。「いとこ」でなければ成り立たない歌。 《結婚と出産》 ●親の意に染まぬ男と結婚する所だけ似てイトコとわたし 文屋亮 よくありそうと納得できる類似点。きっぱり、さっぱりした人物像に好感がもてます。 ●八月にいとこができる大輪の向日葵ひとつ心にひらく 有田里絵 いとこの誕生をうれしく待ち遠しく思うわくわくした気持ち。その喜びを向日葵にたくして読み込んだ点が秀逸。 《集まる》 ●同じ苗字のこども五人【いつたり】ぎこちなく指に抜きあふスペードのA 十谷あとり 兄弟にはない微妙な居心地の悪さ。権力や悪役を象徴するスペードAという札がそれをうまく表現しています。 ●いとこの数をかぞえていたらひもぐつにぶつかって右へ左へ右へ 岩本久美 何かの会合でのユーモラス、またはシュールな情景。「ひもぐつにぶつかって」がよくわからないという意見も。 自由詠のなかから何首か紹介します。 ●触れないでいることがそう溢れ出るキモチとキモチで満ち足りる道 山下りん ●置き去りにされたぼくらはいつまでも屋上に辿り着けないままに 山田航 ●荒川を日がなポカポカさんぽするトタン工場【こうば】のてんぽにあわせ 天昵聰 ●方代の嘘と真を知りたくて「こんなもんじゃ」を十三回読む 福田貢一 ●鳥影を映してもなお静かなる湖面を風はかすかに揺らす 雨宮司 (蔦きうい 記) #
by kaban-west
| 2009-04-06 08:43
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2009年 03月 05日
〈かばん関西二月歌会 歌会記〉 [参加者]天昵聰、雨宮司、有田里絵、白辺いづみ、月下燕(購読)、蔦きうい(玲瓏 選歌のみ)、福田貢一(北摂短歌の会)、文屋亮(玲瓏)、松山真実(購読)、山下りん(ゲスト)、山田航、十谷あとり(日月/玲瓏) 今回は総勢十二人で、合計四十二首の歌を読むという、ボリュームのある歌会となりました。個人的に印象に残った歌をご紹介します。 ○兼題の部 「生」 私とは生命線の交わらぬこいびとの手をなぞるぬくもり 月下燕 錯誤するものの一つとしてだけに受け取る学生集会のビラ 天昵聰 さみどりの布生地を裁つ左手に揺れるポプラの葉影もみどり 山田航 どこまでも君に向き合う顔上げて花かんざしの教える春よ 山下りん いつまでも生ぬるいからひとくちも含まれぬまま座りておりぬ 有田里絵 くすぐったいみたいだアムールヒョウの子の誕生を聞くカーテンさわさわ 白辺いづみ 生き物の満ちるにほひに西日さす子どもの部屋の水槽ひかる 文屋亮 好きも嫌いも黙つてぎゆつと包み込め生春巻に透ける香菜【シャンツァイ】 十谷あとり ○自由詠 校庭につむじ風見ゆさらばさらばさらばとヘリコプターが過ぎゆく 山田航 アルパカの目つきでガムを噛む女おもむろにかばんから本を出す 雨宮司 「ほんにゃほんにゃおりゃ知らねえ」と唄いたる植木等は大衆の原像 福田貢一 スイッチを切れば互いは暗闇に吸収されるだけの半身 松山真実 * 一月に笹井宏之さんが旅立たれたあと、新しい季節が巡ってこようとしています。今回の兼題「生」は、笹井さんへの祈りをこめて、天昵聰さんが選んで下さいました。感謝も、悲しみや悼みも、少しずつ歌にして、天に供えるしかないのかもしれません。 A4のコピー用紙に描かれたアイスランドにふる雪の影 笹井宏之(かばん関西一月歌会詠草より) 目覚めない君のラストは真っ白な雪化粧という最高の歌 山下りん 言葉無き歌引き連れて流星の様なあなたのさよならでした 山下りん 星という星との距離をしみじみともう痛みさえ傍らに無い 山下りん 歌会にあの風は吹かないけれどROM派になっただけですよねえ 有田里絵 (十谷あとり) #
by kaban-west
| 2009-03-05 22:40
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2009年 02月 03日
[二〇〇九年一月かばん関西オンライン歌会] 参加者 天昵聰、雨宮司、有田里絵、笹井宏之(購読/未来)、十谷あとり(日月/玲瓏)蔦きうい(玲瓏)、文屋亮(玲瓏、選歌のみ参加)、松山真実(購読)、山下りん(ゲスト、選歌のみ参加)、山田航〔五〇音順〕 お題は「自動」「地図」。選歌発表直前に、笹井氏の訃報が届く。享年二十六歳。俊英のあまりにも若い死に、しばし瞑目。彼岸への一路平安を祈りつつ、本稿を執筆している。 A4のコピー用紙に描かれたアイスランドに降る雪の影 笹井宏之 知る限りでは笹井氏の遺作となる。初参加当時と較べると、具象の扱いに長け、より自然で叙情もより深く湛えるようになっている。深められた白のイメージに共感する者も多かった。合掌。 耳の大きな男古書肆に地図を購ひ角を曲りて埃と消えつ 十谷あとり 緻密な舞台設定とミステリアスな終わらせ方への賛辞が多数。ここにきてまた一段と腕前を上げてきた感がある。 ピンクよりブルーが好きという少女地球の色に染まっているね 有田里絵 下句がやや凡庸だが単語の連なりが気に入った、最近の女子小学生はピンクより水色が好きという子が多い、など、活発な意見が出された。意見の源となるのは歌が豊かな証拠。 心臓は勝手に動いて勝手に止まるレンドルミンは夢への薬 天昵聰 お題に対するモチーフの切り取り方が面白い、生に対する独特な諦念を持っているのかもしれない、など、作者の着眼点に関する評が多かった。 白地図を展げ未踏の地を目指すやうにボタンは外されてゆく 山田航 性愛の場面と受け止める点で皆の意見が一致。エロスに嫌らしさがないという意見も相次ぐ。 とっぷうが狼藉する日の散歩にはグリコビスコと小春分布図 蔦きうい 「とっぷう」の「狼藉」、「小春分布図」「グリコビスコ」など、言葉の選択や造語に強烈な説得力を感じる者が多かった。いつも小道具を使うのが上手い。 いつか見た風景みたいな白地図に若草色をぬっていくひと 松山真実 荒削りながら、白地図と若草色との色彩感の逆転に好感を持った人が多かった。期待のルーキーの誕生か。 自動ドアタッチ式だと気づかずにやや間の抜けた数秒を待つ 雨宮司 共感する者、多数。みんな失敗してるんですね。「やや」に作者の優しさを感じる、という評もあった。う~ん、正確を期しただけだったんですが。 最後に、自由詠から何首か紹介したい。 後ろ髪はねさせたまま走り来る白いコートの幼なのぬくみ 有田里絵 噴水に腰かけ授乳してゐたる女はみづのつばさをまとふ 山田航 ゆたかなる髪、紺色のオペラグラス ここにはまもりたいものばかり 笹井宏之 きみの目のなかをおよいでいるさかな ぼくを見ていた だから見つめた 松山真実 ロッカーを蹴り倒したらロッカーがカリスマになるロッカーは蹴るな 雨宮司 くちびるに髪を触れしめ橋のうらがはのひかりをみつめゐるひと 十谷あとり 空間の制約を解消してしまうのがネットの強み。思えば、笹井氏が華々しく登場したのもネット上だった。ネット空間を縦横に泳いだ氏に、この文章を献花に代えて捧げたい。 (雨宮司 記) #
by kaban-west
| 2009-02-03 23:08
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