かばん関西歌会

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2015年 12月 13日

11月歌会報告

■かばん関西2015年11月オンライン歌会

★参加者一覧(五十音順)>> 雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、岩井曜、岩崎陸(購読)、泳二(ゲスト)、小野田光、黒路よしひろ(ゲスト)、ガク(購読)、佐藤元紀、塩谷風月(未来、レ・パピエ・シアンⅡ)、橘さやか(ゲスト)、雀來豆(ゲスト)、土井礼一郎、とみいえひろこ(選のみ)、東こころ(かばん/未来)、福島直弘、ふらみらり、兵站戦線(購読/塔)> (計19名)> ※所属表記なしは「かばん」正会員です。

 今回有田女史から出されたテーマは「あ」で始まって「る」で終わる歌。さて、かばん関西のメンバーは何を始まりとし、何で終結させたのだろうか。

アップリケ大きな膝にはずかしさ隠せないまま冬がはじまる  小野田光
 「大きな膝」ということは、大人の人なのだろう。ああ、またこのアップリケズボンの季節かとうなだれる大柄な男性。アップリケは人の手によって施されるものなので、膝の部分に針を通した人(母親?妻?)の存在も浮かび上がらせて、あたたかい気持ちになる。

アンタレスなくなったからきみはもう蠍じゃないよ初めての夜  有田里絵
 アンタレスがなくなって蠍じゃなくなった元蠍って?星座の話なのか、ゲームの世界なのか、初めてとは何が初めてなのか?たくさんの謎を内包しているが、かわいい人にささやいているような不思議な歌。

「あの人はどこへ行ったの」菜園で茄子を掴んだまま、固まる  岩井曜
 あの人とは誰か。そしてこの状況は置き去りにされて深刻なのか、それとも畑で立ちすくむ女性の滑稽さなのか、読んだ印象は人によって異なっていたけれども、奇妙さが味わい深い。読点の使い方で面白いバランスになっている。

あきらめたことひとつあり、白くまのうんちは白くないことを知る  土井礼一郎
 白くまの白いうんちが見たかった子どものかわいい願望と成長の歌という解 釈が多い中で、白いものから黒いものが生み出される不思議さと驚きの歌なのでは、という読み方も。

足音もなくだーれだと目を隠す遊びのようにさよならは来る  泳二
 どういう別れなのかいろんな想像が寄せられた。四句目までの説明のようなひとつながりの表現が、結句のさよならという一語に向かっている。「だーれだ」というあまい言葉遣いに着目(疑問、肯定とも)した読み手が、多数あった。

安静にしときなさいと先生に言われた夜に月はまんまる  福島直広
 具合が悪い日の満月。満月だから出かけたかったのだろうか、という読み方もあった。ただ安静にしていた日ではなく、「先生に言われた」という縛りが効果を上げている。

アフォリズム「 安保イズム」はかたすぎる「アホなリズム」ですっと覚える ふらみらり
 リズムは悪くないが歌意がよみとれない、前半の固さに比べて「アホなリズム」がくだけすぎ、俗っぽさが際だっているという意見が出た。「安保イズム」は唐突で浮いているという評も複数あった。

愛なれば八十路の坂も気遣ひて生きたればこそけふのゆるゆる  兵站戦線
 前半のきまじめさに比べて結句のくだけたかんじが面白くて、ふっと心がほぐれる。
他者なのか自分自身なのか、対象を思いやりながら、坂道を上がるように生きてきたから、見晴らしのよいところでゆっくり身体をのばせる「けふのゆるゆる」という意味だろうか。

ありし世のなごりばかりを山風にとざし檀の紅葉しぐる る  佐藤元紀
 百人一首に出てきそうな歌。檀【まゆみ】の木に何かを象徴させたかったのだろうか。
「ありし世のなごりばかり」とははかなげな息づかいを感じる。美しくて幻想的な歌。

あの夜の歌がきこえてしまうから12月だけスクロールする  東こころ
 やはり、クリスマスソングのことだろうか。いやな思い出があるのか、クリスマスソングそのものが嫌なのか。即座に思い浮かぶ条件反射のような連想を跳ね返すぐらいの異分子のような言葉が入れば、もっと面白い歌になると思う。

あてどなく空のまほらで鳥たちは終の棲家を探しつづける 雀來豆 
 飛ぶ鳥たちの姿が目に浮かぶ、情景的な歌。自由を謳ったのか、ゴールのない旅に絶望してい るのか。人生や難民を連想する読み手もいた。手に入らないものを手にいれようとする悲しさでは?という鋭い見方も。ただ、「まほら」とは「すぐれた良い場所」という意味なので、そういう場で終の棲家を探し続けるとは、違和感があるという意見もあった。

あめ玉を口と口とで口移し舐れば君のれもん味する  黒路よしひろ
 「口」という言葉が三回も繰り返されるのは意図的なのだろうか。「口移し」「舐れば」などの気持ち悪さと「れもん味」のさわやかさがあいまって何とも不思議な味わいの歌。

あなたには失望しました。幼児が母に言われて見るアルタイル  塩谷風月
 大人びた幼児だと思う。ただ叱られているのではなく、「失望しました」という言葉を母親 に投げつけられ、漠然と星空を見るのではなくアルタイルという一点の星を凝視している。ただ庇護されているのではなく、思考する幼児の心の裡を読み手に探らせる歌。

あいしてるそれだけでいいナンテコト砂漠のうえ泡のままでいる  岩崎陸
 自分が「あいしている」という事実だけでいいとうそぶく気持ちを、ナンテコトというカタカナでちゃかして、「砂漠の上の泡」のようにはかない自分の存在を客観視している。切ない歌だけれども、芯の強い女性像だと思う。

ありありとあなたの顔が星のない碧い夜空にはりついている  橘さやか
 シンプルで強い気持が伝わる。ただ、憎しみや恨みはないのか、夜空に見える顔はどういう表情かなど、作者と「顔」との関 係に手がかりがあれば、もっと深みが出たと思う。

あなたから離れたくない秋の夜の月の明かりがしんしんと降る  ガク
 「しんしんと」とは雪を連想させるので、雪のように灯りが降り注ぐ様子が浮かんで来る。並び歩く二人も何も喋らず、静寂が二人を包んでいる。

紅い花流されてゆくせせらぎをニーソックスが凝視してゐる  新井蜜
 「紅い花」「ニーソックス」という名詞によって歌の世界に入りやすく、ニーソックスに人物を象徴させて心情を語らせている。つげ義春の「紅い花」を連想する読み手も複数いた。

青空へアルマジロ投げあざとさにああもう嫌とあなたを殴る  雨宮司
 全句が「あ」で始まる不条理歌。もやもやとした言いよ うのない感情を「あ」で始まる言葉を選んでつなげて表現されている。

 わたしはいつもどんな兼題が出るのか、楽しみにしている。そして、テーマのとらえ方が人によって全く違うことに毎回驚いている。そんなかばん関西をこれからもご注目ください。

(ふらみらり 記)
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# by kaban-west | 2015-12-13 15:32 | 歌会報告
2015年 11月 08日

10月歌会報告

■平成二十七年十月かばん関西オンライン歌会

〈参加者一覧〉あかみ(ゲスト)雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、伊庭日出樹(購読(仮))、岩井曜、岩崎陸(購読)、泳二(ゲスト)、黒路よしひろ(ゲスト)、ガク(ゲスト)、佐藤元紀、塩谷風月(未来、レ・パピエシアン・Ⅱ)、雀來豆(ゲスト)、杉田抱僕(ゲスト)、土井礼一郎、十谷あとり(日月)、とみいえひろこ、浜田えみな(購読)、福島直弘、ふらみらり、文屋亮(玲瓏)兵站戦線(購読/塔)(計二十二名)

※所属表記なしは「かばん」正会員。
※伊庭さんの(仮)は購読会員に復帰予定のため。ご本人の希望表記。

 今回は塩谷風月さんの出題で「扉」および自由詠。特選歌一首、通常の選を四首、それぞれ決めねばならない。参加者二十二名の盛会となった。どうなることか、まずは御一読を。

◇兼題「扉」

 閉めないで閉じ込めないで窒息する! 寝汗を掻いた午前二時半  伊庭日出樹
 蟷螂と追憶、きみは待つてゐる黄泉への扉あける時間を  新井蜜
 やわらかな風のあえぎの 影のみがおそらく飛田の暖簾くぐりぬ  とみいえひろこ

 一首目。悪夢を見たという点では皆の意見が一致したが、辛い評価が目立った。下句が説明になっているのか物足りなさが残る、寝苦しそうな状況は分かるが何かもう一捻り欲しい、日記のようで読む側が想像を広げる余地がない、下句ももっとハジけてもいいのでは、等。一方、「窒息する!」の一言があるおかげで一首が見事に輝いたように感じた、夢のなかで部屋に閉じ込められる/夢そのものの中に閉じ込められる二重の風景が見えてきそう、「窒息する」という表現からは部屋の扉というより棺桶のようなもっと狭い場所の蓋を想起させるという意見も。二首目。黄泉への扉をあける覚悟が出来ている様で気持ちがしっかりして落ち着く、絶望的な結果を招きそうな計画が動き出す時刻だったりするのかもしれない、上の句は過去を振り返りながらも未来を切り開きながら進んでいくという事だろうか、一読して気に入ってしまったがなんとなく「死への憧れ」を感じさせる危険な感じがする歌、等の高評価も目立った。一方、蟷螂以外がすべて抽象的な言葉で示され各語のもつイメージが軽くなってしまう気がする、蟷螂が死神のカマのイメージならば黄泉につき過ぎな気がする、等の批判的な意見もあった。三首目。スペースや四句八音のリズム、結句の「ぬ」のどれも入念な選択をしている、という好意的な意見があった。一方、遊郭として有名な飛田を扱いながら曖昧な表現に終始して魅力を引き出せていない、一字空けの意図が解からない、イメージが掴めそうで掴みきれない、等の批判もあった。

 忘れてたこの砂の下埋められているんだったね 夏はまた来る  岩崎陸
 戸を開けよおのづからなる魂の名残の月に青深みゆく  兵站戦線
 第四の扉を開ければ風すさぶ雪景色なり「見てしまったね」  雨宮司
 ドアノブの辺りに浮かぶ年輪は生きただろうか花降る森を  雀來豆

 一首目。「扉」と情景との関連性に争点が集中する。死んで埋めた動物に思いを馳せながらも「扉」との関連性に首をかしげる者、「夏への扉」が埋められているのではと推測する者、「死」という扉だろうかと考える者、地下に遺跡が埋まっているのかと想像する者がいた。一方で、詠み方に作為を感じて抵抗を覚える者、夏への期待なら明るい強さに、悲しい記憶が根底にあるのなら結句は切なくなり、どちらにも取れるのが弱点と指摘する者もいた。二首目。「おのづからなる」が大仰で歌にユーモアを与えている、「魂の名残の月」「青深みゆく」という言葉が冴え冴えとしてかっこいい、という肯定的な意見があった。一方で、「戸を開けよ」は大げさ、「深みゆく」に少し違和感がある、順序立てた筋道の立った詠い方に単純さを感じる現代歌人の苦悩はよくわかるが、意図的な曖昧さを生み出す表現が常にその解決策になるとは限らない、との批判もあった。三首目。『見るなの座敷』に触発された短歌。雪景色と「見てしまったね」の言葉だけで人の気配がないところがより寂しさを感じさせる、との肯定的な意見があった。その一方、少々月並み、日本の昔話に扉は不似合い、四つ目の扉を選んで開けたのか順に開けていったのかが不明確、等の批判もあった。四首目。ドアの木がどんな場所に生きていたのか分かるはずもないにも関わらず「花降る」と詠われることで花の降るなかに立っていたと確信を持って想像される、ドアノブが古木だった頃の情景が花吹雪とともに浮かぶ、「花降る森」とはこの世界が花降る森のようだという感慨だろうか、リアルな情景から結句ひとつだけで幻想的な情景に強引にジャンプするには「花降る森」ぐらい過剰気味の方が活きるのかも知れない、童話の世界のよう、との高評価が目立った。一方、発想がいいが結句が少し甘く感じる、「年輪は生きただろうか」という表現は「そりゃそうでしょ」と思ってしまう、等の意見もあった。

 あをによし寧楽【なら】の京【みやこ】の朱雀門潜れば涼しいにしへの風  黒路よしひろ
 できるだけ優しく扉をノックして 連れ出さないで 横に座って  杉田抱僕
 五万回開けたとなれば碑であろう薄茶色したわが家の扉  有田里絵

 一首目。夏の盛りに奈良に遊びに行った時の一陣の風が鮮やかに蘇ってきた、本歌取りの部分と作者独自の部分が無理なく融合されてじっくり味わえる、歴史への謙虚さが読みとれる、等の評価が相次ぐ。一方、門は扉になるのだろうか、きれいだがサラッとしすぎているように感じた、キャッチフレーズみたいでスキッと格好いい、独特な漢字の使い方による風情のみで活かされている歌かもしれない、等の意見もあった。二首目。「優しく」「連れ出さないで」は反語で本当は荒々しく暴力的に攫って行って欲しいのではなかろうか、甘えすぎでわがままなところが面白くて良い、なんてことのない言葉の羅列がその奥の感情の震えを豊かに伝えている、ポップスやワルツの様なリズムがあって工夫されている、結句がいい、等の肯定的な評価があった。一方で、一字空けとひらがな表記のせいかポイントがつかめない、甘いようで制約が多い、どんなに強い人間の心の中にもじつは弱さが隠されているものではないか、「弱っているときにどうしてほしいか」がとても率直に詠われていてグッとくる、等の意見もあった。三首目。日常の無意識とも言える動作と年月の持つ特別な作用への気づきが秀逸、この扉は碑の様に作中主体の家族の歴史を見続けた存在なのだろう、大げさな表現に古くなったわが家への愛着が感じられる、五万回開けたら碑だという勝手な解釈がなんとも面白い一首、「薄茶色」のもとの色はもう少し明るい色だったのだろう、等の肯定的な意見があった。一方、「碑であろう」というのはどういうことだろうか、碑は記念物であって実用性を失くしているから「扉」とはそぐわない気がする、「であろう」がよくわからない、昔ながらの日本家屋みたいに扉が独立してついている家だったら扉を碑に例える気持ちになるのかもしれない、等の批判的な見解もあった。

 自動ドア開き背後の街並みが割れた中へとしずしず入る  ふらみらり
 合羽着た門衛さんに守られる鉄扉の相合傘の落書  福島直広
 転がった携帯電話がドアに見え跪き乞う「連れていって」と  浜田えみな

 一首目。「割れた」の解釈に幅が出た。自動ドアが開き空間が割れたという解釈、「街並みが割れる」という表現がリアルで歌に力を持たせているという解釈、街並みなどなくなってしまえという世界への悪意を感じる解釈。オノマトペ「しずしず」については、効果に疑問を感じる意見が多かった。二首目。雨、門衛、鉄扉という陰鬱な雰囲気と相合傘の落書きとの落差にユーモアやヒューマニズムを感じる意見が多かった。「落書」は「落書き」のほうが落ち着く気がする、「の落書」はなくても通じる、ちょっと説明的な感じもする、という批判もあった。三首目。携帯電話とヒトの結びつきが強固な現代ならではの歌、という肯定的な意見もあったが、辛口の意見も目立った。特に、「携帯電話がドアに見え」がどういう状況なのかついて行けない者が多く、結果として下句の謎も充分に解けずじまいとなった。

 ジム・モリソン突き抜けし闇に閂をかけて余生は納戸に染まる  佐藤元紀
 そこからはお前のとびら 入学式の校門前でそっと手を放す  塩谷風月
 くちびるを尖らせきみはいつだって20の扉を残らずひらく  あかみ

 一首目。ジム・モリソンはドアーズのメンバーで、27歳の若さで亡くなったらしい。硬軟のバランスが巧み、という意見もあったが、多数の意見は「納戸に染まる」がどんな状況を指すのかに集中した。大半は、よく解からないという見解に帰結した様だ。二首目。親心だ、どちらかというと親自身の為に心の中で唱えて手を放したのだろう、こんなことを何回も経て子も親も成長していくのか、という共感が多かった。一方では、「お前のとびら」が「そこからは」とうまく合っていないような感じを受ける、三句目以降の破調は出来ればもう少し定型に近づけてほしかった、等の技巧に関する意見もあった。三首目。作中主体にはできないことをしてしまう強引な「きみ」に憧れている気持ちがあるように思える、二十歳の肉体の扉を残らずひらくことで性行為を詠んでいるととった、「くちびるを尖らせ」や「残らずひらく」など「きみ」のキャラクターが可愛くて好き、等の好評価があった。一方、「20」が何を指すかについては意見が割れた。「20の扉」というヒントゲームもある様だが。

 出戻れば天高き秋亡き母の衣装箪笥を整理しようか  岩井曜
 幾千の扉がならぶ書架に射すひかりオレンジ市立図書館  泳二
 もう二度と開かぬドアが閉じるとき通園バスは光に埋もれ  土井礼一郎

 一首目。亡き母の衣装箪笥だけで秋だと感じる、人生の辛苦を味わったからこそ母の内面が分かる、亡き母の衣装箪笥を整理するのは母との思い出に触れたいとの願いもあったのかも知れない、亡き母と対話するように衣類を広げたりたたみ直したりしながら気持ちに区切りをつけていくのか等、作中主体の内面に言及した評が多かった。その一方、「出戻る」のだとすると「天高き秋」とか「整理しようか」とかアッケラカンとしているような感じがする、「天高き秋」の慣用的な言い回しや「亡き母」の説明的なところが玉に瑕、等の批判もあった。二首目。今回の最高得点歌。漢字やかながおとなしく並ぶ列に突然入り込んでくる「オレンジ」という言葉が不思議でなぜか魅せられた、光がオレンジ色でほっとする空間だ、オレンジは市に係るのか上のひかりに係るのか、「扉」を本の扉と捉えたところが新鮮、沢山の本が並ぶ書架にオレンジの光が射している光景は近未来の人類滅亡後の図書館の光景のように感じられる、上句からヨーロッパの古い図書館の光景を思い浮かべた、作家ボルヘスが好きだから「オレンジ市立図書館」を推す、架空の感じがいい、「オレンジ市立図書館」という固有名詞だと思ったらファンタジー系の児童文学、落ち着いて見返してみれば夕方の図書館の幻影的な風景、等の肯定的な意見が相次いだ。一方で、たいがいの図書館の蔵書は幾千よりもっとある、上の句が説明的で退屈な印象があるのがもったいない、じつは図書館には行ったことがないので書架に扉があるという情景があまり具体的にはイメージできない(!)等の指摘や意見もあった。三首目。通園バスが現役なのか引退する瞬間なのかで話が一八〇度変わってくる、との指摘の通り、読みようによってはホラーじみてくる。二度と開かぬ通園バスのドアは後戻りできない過去の象徴なのか、上句の言い回しは不吉、上句は何か喪失感を感じる、卒園や事故で落命したことが背景にあるのか、上句はこう読んでほしいという意図が見えすぎ、上句の印象が減殺されるのは結句「光に埋もれ」が浄福の効果をもたらしているため、現実に起きた事故や事件を連想してしまうとなかなか選びにくい、「二度と開かぬドア」が象徴するものとこれから扉を開けていくであろう園児の乗ったバスの対比は何を表しているのだろうか、等、各人の意見も割れた。

 もうひとつの人生あらむか夕焼けに輝くドアをまた探しゐる  文屋亮
 シャッターの波に漂う赤提灯木戸を潜ればふるさとに出づ  ガク
 「鳴つてゐるのはわたしかもしれないね」鉄扉に触るる塩谷姉さん  十谷あとり

 一首目。中年の男が疲れや諦めとともに探しているような雰囲気に満ちている、後悔ではないものの過去の岐路で横のドアを開けていたら全然違う人生だったと思う時はある、瞬間毎に輝くドアを選択し開けて暮らして行くのが人生なのかも知れない、ものすごい夕映えを見ると蜃気楼のようにもう一人の自分が暮す町が映っているのではないかと目を凝らす、今まで歩んできた人生を肯定し財産としつつさらにその人生への新しい渇望がある人生に前向きな短歌もできるはずだ、こんな消極的な動機だと再就職先として見つかるものも見つからない、きれいなのだがきれいに流れてしまっている、裏を返せばもうひとつの人生なんて結局ないのだということかもしれない、輝くという表現は過剰な気がする、等の意見があった。二首目。扉は空間を超えるだけでなく時間を超えることもできる、郷里の哀愁とあたたかみが感じられる、「シャッターの波に漂う赤提灯」がすごく目に浮かぶ、等の肯定的な意見も散見される一方、「ふるさと」は木戸の内か外か、わかりやすいがそれゆえに平凡さも感じてしまった、上の句の表現を工夫してもう少し下の句を補足した方がいいのではないか、「シャッターの波」が閉まっている店ばかりの所謂シャッター商店街のことなら波に見えるのか疑問だ、等の批判も出された。三首目。出題者の塩谷さんと同姓の人物が出てくるため、通常以上に読みが白熱した。「鳴つてゐる」のは電話だろうが「わたし」が鳴っているようにも読める、「塩谷姉さん」とは塩谷さんの姉だろうか、「鳴っているのはわたしかもしれないね」とは誰かの携帯電話が鳴ったら日常的によく出るフレーズだがこれだけ取り出すと怖い、身体のパーツが鳴っていると読みたい、「塩谷姉さん」からは飯田有子の枝毛姉さんを思い出す、塩谷さんの「ゲイじゃない」発言を受けての変化球か、塩谷姉さんとは塩谷さんの彼女の事か、内輪ウケっぽいところは好まないが哀しみの情緒や不可解な感情があっていい、ぜひ作者の方の解説を頂きたい、等の意見があった。

◇自由詠

 誌面も尽きてきた。自由詠の高得点歌を挙げてコメントに代えておく。


 制服とクールミントガム十七の君は翳りを見せたがつてゐた  文屋亮  九点

 退屈の入り口として洗いおり三十六度七分のからだ  泳二  九点

 「りんごあめ舐めてるときに刺されたから」天界で舌が赤いままのひと  あかみ  十三点

 遠砧おまへを抱く地下室に水の香のあえかに流れつつ  佐藤元紀  九点

 秋風にホッと息つくマルタイの棒ラーメンに卵を落とす  福島直広  九点

 まだ暗い海に飛び立つ燕らにチャントを贈る玩具の笛で  雀來豆  十点


※以上、十月のオンライン歌会の要約をここに記しました。

 かばん関西は年齢・性別・職業・居住地不問の自由な集まりです。興味を持たれた方はお気軽にメールでお問い合わせください。

(雨宮司・記)
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# by kaban-west | 2015-11-08 22:23 | 歌会報告
2015年 10月 08日

9月歌会報告

かばん関西2015年9月オンライン歌会記

★参加者一覧(五十音順)
あまねそう、雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、岩井曜、岩崎陸(購読)、小野田光、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、十谷あとり(日月)、杉田抱僕(ゲスト)、橘さやか(ゲスト)、土井礼一郎、とみいえひろこ、浜田えみな(購読)、ぱん子(ゲスト)、東こころ(かばん/未来)、福島直弘、ふらみらり、兵站戦線(かばん/塔)、三澤達世、山下りん(ゲスト)

今月も前月に続き兼題一本勝負。初の本歌会進行となる岩崎陸さんから出された「石」の題は、かばん関西の面々の技巧を導き出すごとくオンライン上に見事に置かれた。その石を打ち鳴らす二十二首は次の通り。

青丹よし奈良の都に秋の雨賽の河原に石積むいのち 兵站戦線
河原に石を積むという内容が軽やかながら丁寧に表現された一首。言葉がきれいだが力点がわかりにくいという意見も。

目鼻立ちすでに朧ろな石地蔵背負って歩く次の守【も】り番 雨宮司
懐かしい情景が浮かぶ、物語がある一首。説明的な表現がないにもかかわらず、表現以上のものを語っている。

街があり流れゆくことなんだってつぶて言葉と血の合いの子の とみいえひろこ
どこで切れるのかを楽しむことができ、重層的な読み応えも評価された。一方で、意味が取れないという声も。

木津川の河原で拾つた真つ黒な石はわたしの親父ではない 新井蜜
高得点歌。不思議な味わいに魅力を感じたという意見多数。肉親に対する愛憎に思いを馳せる読みもあった。

深海に青いひかりがとどくときわたしは透明な石となる 橘さやか
「深海」に神秘的な魅力を感じる一首。きれいな表現への評価の声がある一方で、作中に決定打がないという意見も。

石ころといえば石ころなのでしょうきみにもらったひかりのかけら 東こころ
高得点歌。透き通ったまっすぐな気持ちが伝わってくる一首。他人にとっては石ころに見えるという冷静な視点も備える。

実家にはいつもの猫が石段に香箱作る帰ってきたよ 有田里絵
「香箱」は猫のうずくまるポーズ。実家に帰ってきた実感が伝わるという意見が多く、あたたかい気持ちになれる。

千六百万年前と五億年前の地層の間【あい】をゆく蟻 三澤達世
写生のお手本という評価もあり、上の句の巨大な年数と下の句のミクロの視点の対比が魅力の一首。

ぶつかって痛い痛いをくり返し残りしものよ君がてのひら 山下りん
しみじみと感じ入るという評価がある一方で、いまひとつ像が結びにくいという声も。

みどうすじウルフクリニック犬田医師、俺の腹から岩を取り出す 土井礼一郎
荒唐無稽の力強さなどからくる楽しさを評価する声が多く、石を「岩」と表現した点にもユーモアを感じる一首。

山道のお地蔵様のなだらかな頬に紫陽花影を落とせり 岩井曜
シンプルにきれいな描写が胸に響く美しい叙景歌。「お地蔵様」の頭、「頬」、「紫陽花」から丸い気持ちになれるという意見も。

熱々の石をまぶたに押し当てて「謎はすべて解けた」と言ってよ 岩崎陸
不思議に惹きつけられるという評価あり。「名探偵コナン」や結句から東直子の「電話口で~」を思い出すなどの意見も。

西よりの風に吹かれて笛が鳴る石焼き芋に夕暮れていく 福島直広
夕暮れの情景がとてもきれいな一首。素直な実景に評価が集まる一方、もう少し表現を整理できたのではという意見も。

台風の後から石売りやって来る今年の石を購いにゆく ふらみらり
つげ義春「無能の人」や寺山修司の虚構を思い出す意見やファンタジーとして評価する声など世界観がポイントの一首。

未通女【をとめ】らが腰掛けてゐし磐石【いはいし】を見ればふやけた顔に見えたり 黒路よしひろ
「ふやけた」に意見集中。固い石との対比に面白さを感じる意見の一方、乙女に失礼だ、スケベ親父の顔だという声も。

手にのせた剥がれて碧い結晶にあなたは地球だったねと訊く 浜田えみな
大きなスケールが手にのせられる発想が評価された一首。映画的な時間感覚だと評する声も挙がった。

家移りの荷に見つけたり曽て子が二上山に拾ひし石鏃【やじり】 十谷あとり
地味ではあるが、石の持つ時間的価値を表しているという評価も。歴史やロマンを想起させる一首。

文明はあるけどなくて限りなく野蛮でだから ”最初”はグー だよ 杉田抱僕
今月の最高得点歌。理知と感覚の巧みな融合で読み手をノックアウト。穂村弘の「驚異=ワンダー」を想起したという感想も。

敷石を一刷毛ほどに濃く染めて通り雨ゆく紅葉修善寺 あまねそう
通り雨が敷石を濡らしていく表現に関して評価の声が挙がった一首。繊細さが秋の修善寺と引き合う。

鉱石のごとおしだまり肩寄せてきみのジョバンニになりたいのです ぱん子
初句がばっちりはまっているロマンチックな一首。「銀河鉄道の夜」という外部作品を持ち込んだだけに、新たなイメージを創る難しさも。

霜降を焼いた河原で胸焼けていよいよ石の丸みに気づく 小野田光
ユーモアがあるのがいい、なんだか面白いという意見の一方で、下の句の意が取れないという声多数。

白砂に石と語りてぽつかりと胸のうつろの秋ぞ深まる 佐藤元紀
言葉の選択が巧みな一首。特に「ぽつかりと」と「うつろ」の響き合いに評価の声が。白砂に枯山水を連想する感想も。

今回も多様な歌が集ったかばん関西は、全世界から参加可能なオンライン歌会を毎月開催中。ぜひ、皆様も奮ってご参加ください。

(小野田光/記)
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# by kaban-west | 2015-10-08 22:20 | 歌会報告
2015年 09月 12日

8月歌会報告

かばん関西8月オンライン歌会記

〈参加者〉あまねそう、雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、岩井曜、岩崎陸(購読)、泳二(ゲスト)、小野田光、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、塩谷風月(未来/レ・パピエ・シアンⅡ)、杉田抱僕(ゲスト)、橘さやか(ゲスト)、蔦きうい(玲瓏・選歌のみ)、土井礼一郎、とみいえひろこ、浜田えみな(購読)、ぱん子(ゲスト)、福島直広、ふらみらり、兵站戦線(かばん/塔)、山下りん(ゲスト・選歌のみ)

※兼題は「少年」。夏は少年が活発に動く季節。あまねそう氏の出題に、二〇首の短歌が寄せられた。今回は五首選だが、そのうち一首のみは特選歌として二点を入れねばならない。予想に違わず、多様な読みが提示された。

01 磐ヶ根に少年のごと腕組めば大地を舐る野火の広がり  兵站戦線
02 恋をしに行くのは蝶を捨ててから あなたも争いも父も憎んだ  とみいえひろこ
03 僕の中の十五の少年だけが君のことを今でも好きだと言った  土井礼一郎

一首目。少年の持つ野望や根拠なき自信などが伝わるという意見と、挙動からは少年らしさが伝わらないという意見に二分された。壮大な感じを評価する声もあった。
二首目。下句の座りの悪さを気にかける意見と、幼年期との別れと愛憎の芽生えを評価する意見があった。やっぱり、憎むのは愛するからでしょうかね。
三首目。大人の仲間入りの準備をする年齢のみが愛情を残しているのを評価する意見もあったが、変則的なリズムに異を唱える者が多数を占めた。リズムを意味ではなく文節で切れば、まだ読みようはあると思うのだが。

04 りゅうせいは水鉄砲へまっしぐら自分が少年だとは知らずに  有田里絵
05 少年は少年同士愛し合い美少年はもう残っていない  橘さやか
06 ときつかぜ巫女吹く笛のねもころに少年よわが腕【かひな】に眠れ  黒路よしひろ
07 いつだつてBでしかない僕だつた少年Aには決してなれず  新井蜜

一首目。「りゅうせい」は流れ星と男の子の名前を掛けているのだろうか。迷いに迷う者が続出。自分は少年だという自覚がないのが少年の証、との意見も多かった。
二首目。BL的という意見も少なくなかったが、世界的に同性愛が認められつつある時期にこの短歌を詠む意義は何かという提言もあった。美少年といえば竹宮恵子や萩尾望都を連想する世代からは、類似性を感じるという意見もあった。
三首目。いつもは趣味の世界に走りがちな作者がついに本気を出した。文語を使いこなした流麗な短歌だが、残念なことに佐佐木幸綱氏の「泣くおまえ抱けば髪に降る雪のこんこんと我が腕に眠れ」との類似を指摘する声があった。
四首目。主役になれなかった人物を詠んだ短歌との考察が相次ぐ。「少年A」との記述から、犯罪や時事との関連を踏まえる意見もあった。

 もうどこか行ってしまった 木洩れ日をうけた心に立っていたのに  岩崎陸
 倒れないよう押しあって僕たちは真夏さびしい思念となりぬ  ぱん子
 いたずらに飲んだビールが美味くなり未来の縁は遠く離れた  ふらみらり
 少年は荒野を目指すものなんだたとえ幻の地であっても  雨宮司

一首目。上句と下句のどちらを重視するかで意見が分かれた。一字空けの効果を疑問視する意見もあった。
二首目。具体がほとんどない点、また「さびしい思念」という語をどう評価するかで意見が割れた。
三首目。上句と下句の結びつきに納得できない者が多かった。特に下句でなぜ「遠く離れた」のか理解に苦しむ者、多数。
四首目。フォーク・クルセダーズの「青年は荒野を目指す」を思い出す者が多かった。まあ、知らなくてもベタなフレーズなわけですが。断定の受け取りようで評価が変わるとの指摘あり。

 着替えだすプール授業の五時間目「うわ!つよっちゃんちん毛生えとる」  福島直広
 初めての夢精で醒めた夏の朝それが何かも知らずに恥じて  塩谷風月
 産毛とも陰ともつかぬ淡いひげ不意に気づいて二度見する朝  浜田えみな

性徴三首。一首目。直截的なまでにストレートな表現をどう評価するか。一大事件の瞬間だけに終わっては勿体ない、妙にぼかすよりはいい、状況説明に終わったのが惜しい、明るいのがいい、等の評価があった。
二首目。夢精をどう詠むかが問われる。醒めた眼で記憶を掘り起こしている、題材の割には爽やか、下句が少年期特有の軽い混乱を記している、等の肯定的な意見に対し、下句でもっと混沌を表現できないか、どこかで聞いた感じ、等の意見があった。
三首目。髭がうっすら生えてきた。作中主体は男子当人でも男子を見る大人でもいい強みがある、との指摘の一方、男子ならほとんどあるある系の短歌、髭ではインパクトに欠ける、髭は成長した感慨よりも面倒くささが先に感じられる、等の意見があった。

 夏いろは坂のいきぎれ見あぐればまはる日傘の笑顔の匂ひ  小野田光
 ぬかるみで発見された少年の靴跡は僕ではなかったか  泳二
 ツバメ高く飛び去るように朝は来て今日はナツ子と遊ぶ、砂場で  岩井曜

一首目。夏の日の美しいひとコマを切り取っているという意見、多数。おそらく日傘の主には憧憬に近い感情を持っているのだろう。二句と結句で体言止めが使われているのが標語のようだという意見もあった。
二首目。靴跡が何を意味するのか。作中主体はもう少年ではない、問いかけ文体に弱い、ぼんやり考えるには合った文体、揺らぐ心こそ少年のもの、という肯定的な意見があった。「僕」が何かに巻き込まれているのではないかという意見、複数。
三首目。言葉にするよりもずっと速く確信する少年の生命力に惹かれる、ナツ子は女子であると共に夏を擬人化したものか、「砂場」で少年より幼く思える、上句の比喩が気持ちいい、等の意見があった。

 夭く稚く熱く冷たき夏がある理屈ぢやないと叫ぶ眸に  佐藤元紀
 カルピスのイメージカラーは茶色だと瓶で育った叔父さんと夏  杉田抱僕
 窓二枚隔てた我と少年と夕立見つつたまに目が合う  あまねそう

一首目。自分で処理しきれない世界を懸命に見ようとしている、恋愛を知ってしまったのか、言葉にできない灼熱の塊を内包していてぎらぎらしている、との意見があった。「夭」という字は若死にという意味があり不吉、わかったようなわからないような表現、読みが難しい、上句の言葉の並列の必然性・関連性がつかみにくい、等の指摘もあった。
二首目。上句の爽やかさと茶色や叔父さんのイメージとのギャップが面白い、イメージは青と白だった、ジェネレーションギャップの捉え方が面白い、等の意見があった。一方、夏がとってつけた感がある、広告のコピーみたいな感じが気になった、等の指摘もあった。
三首目。最高得点歌。我と少年とのシチュエーションがいい、「我」が少年と同年代の少女か年上の男性かで印象が変わってしまう、向かい合う二軒の建物の窓から外を眺めているのか、「我」と少年との間に色々な関係性が想像できる、「我」は女性か、自身の少年期との邂逅か、等の意見があった。一方、これからドラマが始まるのでは、ボーイ・ミーツ・ガールの典型、等の指摘もあった。

 以上、八月のオンライン歌会の要約をここに記しました。

 かばん関西は年齢・性別・職業・居住地不問の自由な集まりです。興味を持たれた方は、お気軽にメールでお問い合わせください。(雨宮司・記)
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# by kaban-west | 2015-09-12 23:28 | 歌会報告
2015年 08月 07日

7月歌会報告

◆◇◆ かばん関西七月オンライン歌会記 ◆◇◆

<参加者> 雨宮司、新井蜜(かばん・塔)、有岡真里(ゲスト)、有田里絵、岩崎陸(購読)、泳二(ゲスト)、小野田光、ガク(ゲスト)、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、杉田抱僕(ゲスト)、十谷あとり(日月)、橘さやか(ゲスト)、蔦きうい(玲瓏)、土井礼一郎、とみいえひろこ、浜田えみな(購読)、ぱん子(ゲスト)、福島直広、ふらみらり、兵站戦線(かばん・塔)、文屋亮(玲瓏)、山下りん(ゲスト)

黒路歌会進行役から「黒路さんへの恋歌」という、職権乱用…じゃない、斬新で、楽しいお題が出されました。参加者の黒路さんへの想いや如何に。

好きなふり見せたばかりに黒犬につきまとわれるソックスな僕 橘さやか

「ソックスな僕」が 効いている。「僕はボクっ娘ならソックスよりも学校の上履きが似合うと思うんだけど…ああ、上履き履いたボクっ娘に踏まれたいなあ。」黒路氏談。

よし野にてひろひし仔犬鞭打てばもつともつとと擦り寄りてくる 新井蜜

「擦り寄りてくる」がいじらしすぎる。「『よしひろ』の名を分解して詠み込んだ上の句が面白い。この仔犬は黒路さんをイメージしてのものなのだけれど、『もつともつとと』の表現がなんとも可愛くて素敵です。」黒路氏談。

ずぶぬれになりても今は山川の滾つこころに茅の輪潜らせ 兵站戦線

茅の輪くぐりというモチーフに、真摯な想いが伝わる。「黒路さんへの恋の涙に『ずぶぬれ』になる様と、恋ごころの『滾つ』激しさを山川の様に譬えて素敵な一首。」黒路氏談。

沓脱によしひろの沓傘たてによしひろの傘 戦争遥か 蔦きうい

あるべき処にあるべき物があって、それが平和。「おそらくは女性の家…どこか学生運動的な危険な香りもして、その怠惰な雰囲気に惹きつけられる。」黒路氏談。

嘘をつく君が好きだよ 隠してることがほんとの真実だから 岩崎陸

矛盾したロジックが恋の深刻さを表している。「隠している真実…それはたぶん、黒路さんの人間としての一番弱い部分なんだと思う。そんな弱い部分を隠さずに見せられる女性に、いつか出会えるものでしょうか。」黒路氏談。

燃やしましょうあなたとずっと共にいるこの部屋以外の存在を今 雨宮 司

これくらい情熱的な人の方がいいのか。「自分たち以外のすべてを排除しようとする狂気は恋の究極なのかも知れない。そう思う一方ですべて燃やされても困るなあ~と思う冷静な黒路さんも居たりする。」黒路氏談。

羽根があれば、と万葉人も詠んだでせう やさしいあなたは西国の人 文屋亮

「山上憶良ですね。正確には『翼があれば』」雨宮氏談。「『やさしいあなた』の表現に世辞っぽいものや、誰に対してでも贈れる歌のようなものを感じながらも、こう詠われて悪い気はしない黒路さん。」黒路氏談。


はすのはなちるひとひらのしづむまでゆきませうひるのひぢのみなもを 十谷あとり

すべて開いたところに、相手へのやさしい心が表れている「『ひぢ』は『秘事(ひめごと)』のことだろうか。『蓮の花』が散って沈むとはなんだか不吉な気もするが、共にあの世までもとの思いが感じられて素敵な恋歌のように思う。」黒路氏談。


万葉の言の葉たどる明日香路の花の名前を君は教えむ 浜田えみな

「黒路さん花の名前とか知ってんのかなあ。」福島氏談。「未来を想像して詠んだ一首なのだろう。一緒に明日香路をデートしましょうとのお誘いな訳だが、ただ、残念ながら僕は花の名前をまったく知らないので、人に教えることは出来ないかも。」黒路氏談。

ぬばたまのポメラ携え君はまた道なき道を照らして歩く 泳二

ポメラニアンかと思ったら。「『ポメラ』とはキングジム社が開発した乾電池駆動の携帯ワープロのような文章入力マシンなのだ。うん、『道なき道』が『わが道を行く』みたいでなんとも自分勝手な黒路さんらしくって素敵です。」黒路氏談。


はにかまずとも赤い頬をまもりたくプラネタリウムに祈るいのるよ ぱん子

黒路氏の「リンゴ病」を「赤い頬=庇護される幼き者」として詠み込んだ反射神経が見事。「『まもりたく』に年甲斐もなく黒路さんはキュンとしてしまいました。ああ、ほんと、女の人にまもってもらいたいなあ。って、男としてあかんやろそれでは。」黒路氏談。

破りたいのに破れない液晶に浮かぶ微笑をデリートしない 小野田光

「おそらくこの作者はパソコンの液晶に黒路さんが微笑する写真をいつも表示しているのだ。そして毎晩、黒路さんにお休みのキスをしてからパソコンを閉じて眠るのだ。って、なんだか自分で書いていて恥ずかしくなってきたのでこの辺で止めときます。」黒路氏談。

『あなたから愛してくれれば愛します』初恋未満の私の宣誓 杉田抱僕

自分を守る気持ちが先に立っている感じがリアル。みんな、愛したくないけど、愛されたい。「わおっ、僕も愛してくれたら愛しますよ~~って、二人ともそんなこと言ってたらいつまで経っても恋に発展しませんがな。」黒路氏談。

眠くなるほど君が好き 道玄坂下りればそこが渋谷だったね 土井礼一郎

「地名の入った歌はその地への想像が広がっていいですね。上の句はなぜ好きになると眠くなるのかよくわからないけれど、それが個性と言えば個性のようにも感じられて面白い恋歌のように思います。」黒路氏談。

空想の路地に逃げても見えてるよちゃんと見つめて よしひろのバカ 福島直広

「バカ」に愛情がこめられている。最高至高の告白用語。「空想の路地だが妄想の路地だかは知らないけれど、隠れている黒路さんをも見つけてしまう恋のセンサーが素敵な一首。」黒路氏談。

恋知らぬ人うらやまし心臓を押しつぶされることもなければ ふらみらり

「恋知らぬ人を『うらやまし』と言いながら、作者はそんな心臓の押しつぶされそうな恋をしている自分を幸せに思っているのだ。ああ、こんなにも女性を苦しめる黒路さんて罪な男やなあ。」黒路氏談。

うつむける笑顔の翳の奥深くにほふ君こそゆかしかりけれ 佐藤元紀

黒路さんのシャイな部分がよく出てる。「『ゆかし』は気品、情緒などがあってどことなく心引かれる様。そんな、まさに黒路さんへの恋心をそのまま詠った素敵な一首だ。と、冗談でも自分で書くと恥ずかしいなあ…」黒路氏談。

黒鍵の半音あがるキー探し未知の声色かき鳴らす君 山下りん

「『半音あがる』や『未知の音色』、『かき鳴らす』などの何気ない言葉の連なりがどことなくエロスっぽくて素敵だ。ああ、僕もいつかほんとに君という名の楽器の黒鍵をかき鳴らしてみたいものです。」黒路氏談。

暗き路たどれば届く我が思いひとよばかりの月にはあらじ ガク

余裕と切実がごっちゃになっている感じ。「『ひとよ』は『一夜』と『一世』の両方の意味か。一時の恋心ではなくずっと思い続けてきた恋の切なさを表現しているのだろう。そんな黒路さんへの一途な恋の思いが月夜の暗き路を通して素敵に詠われている。」黒路氏談。

ぬばたまの「黒路さま」とわが背子の名を幾たびも呟ゐて恋ふ 黒路よしひろ

「どストレートの恋歌オブ恋歌というところですね。」泳二氏談「『わが背子』はちょっとくどいです。ともかく黒路さんが喜びそうですね。で、喜んで終わる。」有田氏談。

「弘子」って呼んでくれてもいいけれど下の句をくれるように、だったら とみいえひろこ

「自身の名を呼ぶ相手の声を『下の句をくれるように』と表現した感性が素敵に思います。たしかに下の名前を呼び捨てって、やはりちょっと特別な感じがしていいですよね。あと、短歌に自分の名前を入れてくるこの自己主張の強さも素敵。」黒路氏談。

黒ならばもてる時代は終わったとから騒ぎして女は眠る 有田里絵

「歌としては面白くて素敵なんですけど、どこらへんが恋歌なのかがちょっと分からなくて判断に困ってしまった。まあ、ほんとに困ったのは今回のお題を出されたみなさまのほうだったとは思うけどね。」黒路氏談。「あはは、ふられてやんの!黒路時代の終焉だなー。」蔦氏談。

と、こんな風に、他では味わえないエキセントリックな歌会が、繰り広げられる、かばん関西ML。皆様も一度、しびれてみませんか。って、今回のお題、まとめづらいわっ!

有岡真里/記
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# by kaban-west | 2015-08-07 21:19 | 歌会報告