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かばん関西歌会

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2021年 10月 04日

2021年 長月歌会 報告

かばん関西長月オンライン歌会記

◇スケジュール記録
進行係・・・有田里絵
九月二日 詠草募集案内
九月十二日正午 詠草提出〆切
同日午後 詠草一覧の配信、選歌案内
九月二十三日正午 選歌〆切日だったが、〆切の延長を発表した。
九月二十六日 選歌最終〆切
九月二十九日 選歌結果の配信
九月三十日 選歌の修正版を配信

◇参加者一覧(お名前の後に何も記載がない人は、かばん正会員)
雨宮司・新井蜜(塔)・有田里絵・小川ちとせ・黒路よしひろ(所属なし)・佐藤元紀・雀來豆(所属なし)・白辺いづみ・瀧川蠍・雛河麦・美富うをみ

一か月先が本当に分からない今の世の中において、それぞれの過去を歌に乗せてもらおうと考えて、お題を「過去」にしました。かばん関西の歌会では、兼題はだいたい進行役が決めていますが、どなたか(前月に得票数が多かった人、新しく来られた人など)に頼んで決めてもらったこともあります。詠草一覧の掲載順に挙げます。

◆詠草一覧 兼題「過去」◆

大切に隠されていた羽衣に火をつけている君が死んだ日    雛河麦

羽衣と死を結びつけた歌に惹かれた人が多かったようです。何かの比喩として羽衣が使われているのでしょうけれど、わかりません。それでもはっきり「君が死んだ」と書くことで本来氏と離れたところにいるであろう存在が死に至ることを表しているように読めました。

朝顔の種落つるころよみがえる終わりし人の些細な言葉    有田里絵

わたくしを殺した影か満月のひかりのなかを風に揺れるは   新井蜜

わたくしとはどんな人だったのでしょう。戦死した兵士、宮中の女性、社会的に抹殺された人など、いろいろな読みがありました。生きているうちの最後の記憶が漂っているような歌です。

きょうしつではにほんごだけではなしましょう形容詞過去否定形まちがえていいから  小川ちとせ

ひらがな表記と字余りが易しく、そして優しく見えます。間違えたっていいものは、他にもいろいろあります、という声がありました。

過去世より現世へ向かう人々よ楽を選ばず充実目指せ    雨宮司

辻を抜けことこと怖い辻を抜け妖怪電車はゆっくり走る   雀來豆

ひんやりした空気が漂っていそうな電車ですが、実際はごく普通の電車に乗っていたのでしょうか。古い路面電車などに乗ったら(京都の嵐電には妖怪電車のイベントがあるそうです)、窓の外に薄暗い辻が見えそうですね。過去に運ばれていくような。

ひとの棲む場所に文明は生まれ幾百年をたたずむ遺跡    黒路よしひろ

精髄を煮つめてにがきクレイオーのゆめをふふみてなほ美しき日暮れ    瀧川蠍

クレイオーとはギリシャ神話の女神だそうです。歌が詠めなくて(何らかの表現の道に行き詰まりを感じ)、何とかしようともがいている感じだという意見がありました。ていけいにおさまっていないのはもどかしさの表れのようでもあります。

天高く鱗雲風にくづほれて我も見ぬ世に埋もるべきを     佐藤元紀

読み進めると、過去、現在、未来それぞれに想いを馳せることになっていく歌です。

バーベナに烏揚羽の脚の触る沢田研二はジュリーであった    小川ちとせ

結句「ジュリーであった」に評価が集まりました。バーベナ、烏揚羽との取り合わせがあっているかどうかは読み手それぞれですが、過去というお題にぴしっとはまっている歌です。

いつまでも生きていかねばならぬとはクラーク記念館の耐震   美富うをみ

形あるものはいつか壊れるという原則に、耐震工事をして抗っているのでしょうか。クラークさんはのぞまないかもしれませんね。死ぬことさえ許されていない、失うことを受け入れがたいのでは、などの意見がありました。

◆詠草一覧 自由詠 

白鷺が浅瀬を歩く真似をする涙を見られそうな気がして    美富うをみ

この夏のすべてを目にして立ち枯れる向日葵から抜くSDカード    雛河麦
,
高得点歌です。今はあまり使わなくなった記録媒体で、これだけで今回の兼題にも入れますね。情景を思い浮かべやすい歌というのは、読み手にとって気持ちを乗せやすい歌です。

差し向かうたたずまいには惹かれても囲碁と将棋が混ざってしまう   有田里絵

「ねえ、あめふりよる」はるか雲よりまつすぐに落ちてはじけぬきみへと ぼくも   瀧川蠍

ガンダムは思想なのだと嘯いて思想無きぼくの長月の夕餉     黒路よしひろ

ガンダムが思想でぼくは思想ではない、という発想がおもしろいです。最終的に自分の日常詠になっています。

法師蝉鳴く叢林に抱かれてああわたくしは生かされている     雨宮司

下の句の読み方によって、主体がどのような環境にあるのかいろいろ想像できますね。深刻な、というより、神妙な、神聖な。今のごたごたした世相において、ふとしたときにこのような感慨がわくのかもしれません。

はつあきの部屋ひそやかにからみあふ俺とおまへに咲く彼岸花    佐藤元紀

「はつあき」の「彼岸花」が良いという評がありました。あの世とこの世の境目、いつかは来る別れを知ったうえで会う二人の切実さが出ています。

百番を過ぎても止まぬ宇治橋で出會つた少女らのあそび歌     雀來豆

二度ベルを鳴らしてみたが目覚めないあなたはどこへ行つたのだらう    新井蜜

不思議な物語のようで、考え始めるとますます分からなくなり不思議さが増してきます。

 詠草は以上です。
緊急事態宣言が終わったとはいえ、しばらくはオンラインでの歌会となりそうです。それでも、ゆっくりと、状況は動いています。短歌に親しむ心を持ち続けて、お会いする機会を楽しみに待ちたいと思います。
   (有田里絵 記)


# by kaban-west | 2021-10-04 23:58 | 歌会報告
2021年 08月 31日

2021年 葉月歌会 報告

■かばん関西葉月オンライン歌会記■

◇スケジュールなど
令和三年八月六日 詠草募集開始。今回は自由詠のみ、ひとり二首まで提出可能としました。
提出〆切は八月十三日午後九時。
八月十五日 掲示板に詠草を掲載、意見交換の開始(八月二十九日まで)。今回は選歌をせず、それぞれが〆切時間までに自由に掲示板に出入りして、評や意見を書き込む形式を取りました。やり取りの流れを感じる掲示板となりました。

◇進行係 十谷あとり

◇参加者(名前の後に記載がない人はかばん会員)
雨宮司・新井蜜(塔)・有田里絵・黒路よしひろ(所属なし)・佐藤元紀・雀來豆(所属なし)・十谷あとり(所属なし)・白辺いづみ・蔦きうい(かばん/玲瓏)・雛河麦・美富うをみ

◆詠草一覧(順序は配信時と同じ)

仏間に大百足来てかすかなる土のにほひす午後のうすやみ   雀來豆

燦々と光とともに大粒の雨が降りだす 夏のいたずら   雨宮司

架空のオペラならざるはありや熱帯夜おまへのみだれひたと抱きしめ   佐藤元紀

運命を分け合うように午前五時四十五分のプラットホーム    美富うをみ

歩くほどその差がひらく背の高い君がよかったはずなんだけど   雛河麦

炎天下プールサイドの散水に蛙誘われたちまちうだる   雨宮司

温暖化防止基金がついている白くまアイスなら百個買う   有田里絵

サイレンが集まつてくる救急車「右へ曲がります」パトカーもくる    新井蜜

音だけが聞こえる花火さつきから 隣りの町の祭りかけふは   新井蜜

千年の空とつながるためにある五重塔の祈りの時間     美富うをみ

聖なる光識らぬ身の永遠はいさ秋の陽の我が一期五十五    佐藤元紀

beep-beep美術館の売店にミュージアムショップなどとルビをふらないでくれ  雀來豆 

草笛を、ぷぅーーぷぷぷーーと夏空に while文、涙は無限のループ   黒路よしひろ

夕闇に見えがたかりしものいくつ 花火のけむり、いたみ、波音   十谷あとり

詠草は以上です。

私事ながら、職場でコロナビールを扱う機会があります。コロナビールには瓶やら缶やら何種類かあるのですが、どの商品も外箱が薄くて持ち運びにくいのにずっしり重いという点では共通しており、作業者の中ではあまり人気がありません。しかしながら日々確実に売れていきます。この商品が飲み尽くされるころ、コロナウイルスも収束してくれるのではないか、などと考えてしまいます。
お会いする歌会にかなうものはまだ見つけられそうになく、参加者それぞれに想いのある中で、様々な試みがもうしばらく続くことになるでしょう。それでも、短歌にしかない「こころ」を感じるのはとてもとても大切で、うれしい時間です。どなた様もお気軽にご参加ください。                               (有田里絵/記)


# by kaban-west | 2021-08-31 15:20 | 歌会報告
2021年 07月 31日

2021年 文月歌会 報告

かばん関西文月オンライン歌会記      

◆日程 
詠草募集・・・七月五日から十一日午後九時まで
選歌案内・・・七月十二日
選歌受付・・・七月十二日から十五日午前九時まで
意見交換・・・掲示板上にて、七月十六日から二十六日夜九時まで
選歌結果と作者発表・・・七月二十七日

◆進行係  十谷あとり

◆参加者  雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、小川ちとせ、ガク(購読)、黒路よしひろ(所属なし)、佐藤元紀、塩谷風月(未来・選歌のみ参加)、雀來豆(所属なし)、十谷あとり(日月)、雛河麦、美富うをみ、三舟月子 ・・・以上十三名

 以下に詠草一覧(全十九首)を記載します。詠草の順序は配信時のとおりです。

■かばん関西 文月歌会 詠草一覧■

観覧車急に止まりてしづかなる蒼穹のなかにいだきあふのみ    佐藤元紀

少年は左手上げて歌いだすジャングルジムは青いガレオン      有田里絵

くちなしの匂い確かめ停めていた筋斗雲に飛びのってまた行く    小川ちとせ

甥っ子の乗り物としてぼくはあり みぎゆけひだゆけ、ぱかぱかお馬   黒路よしひろ

今日ケンタッキーにしない?チラシでつくる折り紙の自転車、サドルから燃えてゆく    雀來豆

1メートル上の世界へ連れていく倉庫の隅のアルミの脚立      有田里絵

タタンタンタタンとT2のリズムを刻み鉄橋渡る急行    雨宮司

ゆつたりと鉄路に眠気ただよひて軽便鉄道なる我が余生    佐藤元紀

車窓から吹き込む風のなまぬるい この身あるいは夏のパラレル    三舟月子

窓側にいつもわたしを座らせる電車のなかは危険みたいで    雛河麦

SLの展示車両、ブルトレの展示車両、観喜寺町黄砂に埋もれり    雀來豆

朝霧のみだるる湖面にしじみ取る櫂の音静か妹が袖振る    ガク

舳もて水をおもたくめくりつつ艀は来たり雨後の水路を    十谷あとり

航跡波だけを残して船はゆく心の揺れのリズムのように    美富うをみ

つぶやきはそのうち沈む泥の舟むしろ沈んでほしくてつぶやく    雛河麦

川下り終えたのだろういくつもの舟のぬけがら運ぶトラック    美富うをみ

きのつバスに乗つてファミマの百円のコーヒー飲みに僕の土曜日    新井蜜

アクセルを静かに踏みこみ雨の道空走距離を余分にとる日    雨宮司

その上に何も付かない「三丁目」「五丁目」といふバス停がある    新井蜜

オンライン歌会にもさまざまな方法があり、今回は進行役と有田の裁量にて「喜久屋レンタル掲示板」を利用しました。実験的な試みだったかもしれません。
詠草一首を一件として投稿し、各自がそれぞれの詠草の下に意見など書き込んでいくことにしました。自分の前に書いた人の評を読みながら書き込むことになるため、詠草一覧だけを見て得ていた感覚とは違ったことを書き込む可能性も多々あります。〆切時間までは何度でも出入りできるため、自分の書き込みを修正することもできます。その結果、進行役に提出するメールのみ(いわば一回だけの勝負)で行う歌会とは印象が違ってきます。
感想は様々でしたが、歌会の開催方法を何種類か持っておくことは、今後のためにも必要だと考えています。静かな試行錯誤を続けていきたいです。   (有田里絵/記)


# by kaban-west | 2021-07-31 15:14 | 歌会報告
2020年 03月 01日

2020年 2月歌会記

かばん関西如月歌会記
              
◆とき 令和二年二月二十三日(日)午後一時半から午後五時まで
◆ところ 大阪府立江之子島文化芸術創造センター ルーム6

◆参加者・・・雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、小早川翠(玲瓏)、沢田二兎(所属なし)、塩谷風月(未来)、蔦きうい(玲瓏)、福島直広
以上の十一名。
*新井さんは詠草のみ参加
*かばん以外の結社に所属されている方はかっこ内に記載。

◆歌会の進行経過(進行係・有田)
二月二日(日)歌会案内を配信し、詠草募集開始
 事前募集の詠草は、兼題「早春」または自由詠。兼題だけ・自由詠だけでの提出も可、一人合計二首まで提出可とした。
二月十四日(金)歌会案内の再掲と補足を配信
二月二十一日(金)朝八時 詠草提出〆切
二月二十二日(土)歌会の最終告知

 新型コロナウイルスに伴って不要不急の外出を避けるようにと言われている中、時間どおりに十名が集まりました。参加者のほとんどはマスクをして集まりましたが、室内ではややほっとしてマスクを外していました。筆者は、開場する前、ドアノブに向かって消毒液をスプレーする黒路さんの姿を目撃しました。初めてお会いした小早川翠さんは大変端正な方でした。かばん東京歌会にも参加されたことがおありだそうです。お名前と、前日に何を食べたかを教えて頂いてから、歌会を始めました。

まず兼題の詠草を掲載します。

◆兼題の部「早春」 
                     
萌え出づる早蕨のなか魂はいづこへ運び去られ行くのか         新井蜜

 古典的ながら丁寧で読むとほっとするという声がありました。「魂」は作者本人のものであるという意見、時節柄コロナウイルスの犠牲者の魂であるという意見、魂と言ってはいるがもっと大きな、大いなる存在を表そうとしているという意見など、方向性は似ていましたが各自で読みの詳細は分かれました。


おしなべて二月 ひかりが濃くなればふざけた模様の服欲しくなる  小川ちとせ

初句「おしなべて」が何にかかるのか明示されてはいません。「二月」「濃くなれば」「欲しくなる」のどれにでもかかっていると読めます。冬のあいだの鬱屈した気持ちが「ひかり」によってゆるやかに開かれていく楽しさがあります。ちなみに「ふざけた模様」というのは、ナマケモノ模様だったそうです!いつもモダンな小川さん(当日は新調されたばかりだというサングラスを持参されていました)なら着こなせそうです。


白梅と紅梅開きあくびする話し相手のないものどうし         有田里絵

 「あくびする」の主語は誰か、「話し相手のないものどうし」とあるが誰と誰なのか、と参加者からは絞りきれない疑問の声が多くありました。白梅と紅梅の擬人化であると同時に、梅を見ている作者(人間)ではないかという読みが主流でしたが、たまたま作者の近くに座っていた人、知人だけれど事情があって話が弾まない人、など、いろいろな想像を呼びました。

たこ一でついつい買った大入りの玉筋魚でくぎ煮をつくる朝      福島直広

 下の句のリズムは気になりますが、軽やかで楽しい歌です。「玉筋魚」とはイカナゴのことで、関西でイカナゴの釘煮といえば春の訪れとともに売りに出される食べ物です。筆者は玉筋魚という呼び名を知りませんでしたが、知らないまま読みました。参加者に挙手してもらったところ、全く知らない語が出てきた場合に調べる人と調べない人とは半々でした。「たこ一」という固有名詞は明石市のようでおもしろいという声もありました。

「メジロって東京なんや」「メグロって鳥もいるんや」環状線にて   有田里絵

 電車の環状線内で聞こえてきた会話ほぼそのままを、短歌形式に放り込んだ歌です。これで短歌にしてもいいのだろうかと筆者は考えましたが、素直に詠みました。見た目もリズムもぶつぶつと切れていてなめらかではありません。しかしながら、その会話のかみ合わなさ・ぎこちなさをおもしろく感じる効果にも繋がっているという意見がありました。
 

ふたりともベテルギウスに無自覚で暗さも甘さも東風の威の白     蔦きうい

結句「威」が辞書的にも歌意としてもわからないという意見が複数ありました。超新星爆発の日では、などの声もありましたが決め手はありません。おそらく兼題に対して東風(こち)を使っています。結句以外はすんなりと情景が浮かぶので、結句に迷う人が多かったようです。

ひつそりとやがてわらわら絡みあひ暴力的な春がまた来る       久保茂樹

 「暴力的な」と「また来る」から、春に対して嬉しくない思い出があって否定的な気持ち(トラウマ)が表れているのでは、という意見がありました。「わらわら絡み合ひ」から春先の人事異動を連想する人、全体を通して猥雑なまでの生命力を感じるという人もいました。春はうつくしい始まりの季節というだけでは、ないですね。

梅の枝にあそぶメジロの二羽三羽、ぴーちゅるちーち 僕も混ぜてよ 黒路よしひろ

 作者の孤独感を感じ取る人が多数いました。オノマトペについては、文字数を多く使っていることやひらがな表記に対して評価が分かれました。結句は全くの口語です。どうしても幼い、やや舌足らずな印象は与えてしまいますが、それでも素直な気持ちが表れていて良いという意見がありました。

朝市のひかりの隅にふきのとう触れるとき帯び つめたい電気     沢田二兎

 まず「帯び」に目がいきます。静かな、まだまだ寒い時期の情景が浮かんできます。結句の「つめたい電気」を帯びるのだと考えるのが自然ですが、「帯び」は連用形であるため(連体形ではなく)、はっきり判断できないところがあります。「ひかりの隅」と細かく描写しているのが良いという意見がありました。

まんさくの(四恩の)花が咲き始め北の国へと早春兆す         雨宮司

 「四恩」は仏教に出てくる用語で、人がこの世で受ける四種類の恩(一説には父母の恩・衆生の恩・国王の恩・三宝の恩)のことだそうです。「まんさくの花」という東北を舞台にしたドラマがあったそうで、作者がそれを意図しているなら「北の国」とも通じるという意見がありました。また、北国にはそれほど深い意味はなく、単に作者が顔を上げて(北のほうを向いて)なにか特別な思いを新たにしているのでは、という読みもありました。

以下、自由詠をひととおり掲載します。 

わたしたち滅びるのかなみぎひだり肺に仄めかされて春霞      小川ちとせ

わたしからの話は聞かないささめくとさざめくの違い語るばかりで   塩谷風月

一時間四十五分後わたくしは大口を開けて歯科の椅子のうえ      塩谷風月

銭湯の壁のタイルの白い目地洗髪料金百円払う            福島直広

十五日チョコの類は投げ売りで男としては断固買わない         雨宮司

パトカーは一旦停止した後に宇宙の音で過ぐプリウスで        沢田二兎

曽多さんの幽霊が出て逃げて来たと意気地なし警備主任の日誌に  黒路よしひろ

歳を取ると行けない処がふえるでせう函に隠れてまたいらつしやい   久保茂樹

咲きながら朽ちてゆく花陽のなかに何を残してきたのか俺は       新井蜜

どおしてもツンケン貌が好きですと猫にいのれば蜜柑沢山       蔦きうい

                                 (有田里絵/記)



# by kaban-west | 2020-03-01 22:40 | 歌会報告
2020年 01月 01日

2019年 12月歌会記

かばん関西師走歌会記
            
◆とき 令和元年十二月一日(日)午後一時から午後五時まで
◆ところ 大阪市 福島区民センター 二階 三〇四号室

◆参加者・・・雨宮司、有田里絵、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、雀來豆(未来)、沢田二兎(所属なし)、塩谷風月(未来)、福島直広、文月栞、以上の十名。
*文月栞さんは詠草のみ参加
*かばん以外に所属の方はかっこ内に記載。

◆歌会の進行経過(進行係・有田)
十一月四日(月)、歌会案内を配信し、詠草募集開始
 事前募集の詠草は、兼題「希望」または自由詠。一人合計二首まで提出可能とした。
十一月二十六日(火)歌会案内の再掲と補足を配信
十一月二十七日(水)二十二時、詠草提出〆切

 今年最終の歌会は、福島さんが予約してくださった福島区民センターにて開催しました。初めて利用する会場です。駅からまっすぐ進んだ場所にあったのですが、なぜか通り過ぎてしまう人が複数いました。筆者もその一人です。歌会後は忘年会を開くことになっており、会場に来た人は全員が忘年会にも参加しました。
 
兼題の詠草一覧をレジュメの記載順に掲載します。

◆兼題の部「希望」
自転車の少女の背負うアリエルの鞄が朝の辻を曲がりぬ            雀來豆

 アリエルは天使またはディズニープリンセスのどちらでも読めるという意見がありました。少女ではなく鞄が辻を曲がるところに評価が集まりました。

ミンチカツコロッケ海老天アジフライきらきら月が濃くあがるころ      沢田二兎
 高得点歌です。揚げ物のセレクトと並び方、月の出と「濃くあがるころ」をかけたところも洒落の要素はあるけれども巧みであるという声がありました。

癒えないが癒えないなりにはたらいてちょっと体重が増えたりもする    小川ちとせ

 素直な詠い方に共感する人が多かった歌です。体重が増えることをマイナスに捉える人もプラスに捉える人もいました。

きんじきのひとかはらないものいひに希望しますつて言ははりました    久保茂樹

 「きんじきのひと」は天皇陛下のことを指しています。今年は即位にまつわる儀式が多くありました。私も短歌が続いていくことを希望します。

蝋燭が消えれば灯す灯される火があることをそっと伝える          塩谷風月

「灯す灯される」がポイントになっています。動詞の多さを指摘する声もありましたが、それほど気にならずに読めるのは、やさしい言葉遣いと濁音の少なさ、リズムの良さのおかげでしょうか。

ポリープを切って二十日ぶりの酒ええ風に年食ってきたいね          福島直広

 後半の「ええ風に年食って」に好感を持つ人が多かったようです。口語の使い方がはまっていて、楽しくなります。ポリープを切った体で飲んでも大丈夫なのか心配する人もいましたね。
   
いちど手にとった希望は投げだすなたとえどんなにささやかであれ     雨宮司

 その通りの、真面目な歌で、作者の性格が出ているのでは、という意見がありました。作者糸っての意見や事実を述べているにとどまっているようで、詩情を感じにくいという指摘もありました。

抗えず起こる事柄数あれど朝は希望と共にあり                文月栞

 この歌もとても素直です。「きっと作者は、いろいろあるけれど今日も頑張ろうと毎朝思っているのだろう」という感想が出ていました。下の句の字足らずはもったいないという意見も、勢いを大事にしているのではという意見もありました。

もしイブに雪が降ったらその間だけは私がいると思って             有田里絵

 「私」は故人もしくはもう会えない人という読みが多かったようです。ロマンチックではあるけれど、Jポップの歌詞のようだという意見がありました。「これを実際に言われたらちょっと嫌かも」という声には参加者がみんな笑っていました!実際の歌会ならではの楽しみです。

希望のように星は降りますこの丘に墓守たちの声は消えても      黒路よしひろ

 童話のような滑り出しで、優しい気持ちになれます。「漠然としすぎている」、「お題にちょっと引きずられたのではないか」という意見もありました。作者が題材として思い描いていたのは奈良の古墳だそうです。


 次に自由詠を掲載します。

手のかかる木の碑を守る令子さん普通の人の普通の話         有田里絵

銀の帯荻の穂先が快速の風に揺れゆく平城宮祉             雨宮司

中空につめたい空気ひとひらミントチョコ色をした揚羽蝶       沢田二兎

チラチラと朝日が光るカーテンの隙間から見る街は箱庭        文月栞

外つ国の若きらに日本語を教へゐてときにタミル語を浚ひてをりぬ  久保茂樹

 ところどころ字余りがあります。音読したときのリズムが気になるという意見がある一方で、事実を忠実に表現しようとした結果、字余りを選択したのではないかという意見もありました。

おもむろに空を指さす美しきインフィールドフライの宣告        雀來豆

固有名詞 「インフィールドフライ」がとてもすっきりとした響きを持っていて、評価を集めました。特に野球に詳しくなくても、「宣告」の語を見ると特別な動きであることが伝わります。また「美しいものを美しいという言葉をそのまま使って詠むのは難しいところがあるが、この歌は成功している」という意見がありました。

お向かいの田んぼにフラップ板がつき時間貸駐車場になった       福島直広

うつくしく夕陽が夕陽を染めるころあなたは鳥になったと聞いた   塩谷風月

ぶしつけな恣意の視線にさらされて短歌よおまえ辛かっただろう  黒路よしひろ

バーベキュー禁止エリアに秋の陽が満ちて芝生で靴下も脱ぐ      小川ちとせ


 自由詠まで読み進めた後、それぞれが「今年読んで良かった歌」を発表しました。持参したメモなどを当日大きな紙に貼り付けてコピーし、レジュメを作成しました。仲間と読んだり詠んだりすることで、いつも発見が得られます。個人的に筆者は、その場での作業があると、歌会に人が集まる意義をより多く感じることができます。これからも臨場感のある集まりにしていきたいです。

 会場からは時間ぴったりに退出しました。そして一同は、福島宴会部長に細い道をくねくねと導かれ、忘年会のお店へ移動しました。藁で焼いた食材をメインにしている和風居酒屋で、ボリューム満点、どれも美味しくいただきました。一同が座っている様子を見ても、短歌の集まりだと分かる人はまずいないでしょうね。短歌の話ができてとても幸せになり、お腹も満たされて、それぞれが帰途につきました。
                                 (有田里絵/記)



# by kaban-west | 2020-01-01 22:38 | 歌会報告