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かばん関西歌会

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2020年 03月 01日

2020年 2月歌会記

かばん関西如月歌会記
              
◆とき 令和二年二月二十三日(日)午後一時半から午後五時まで
◆ところ 大阪府立江之子島文化芸術創造センター ルーム6

◆参加者・・・雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、小早川翠(玲瓏)、沢田二兎(所属なし)、塩谷風月(未来)、蔦きうい(玲瓏)、福島直広
以上の十一名。
*新井さんは詠草のみ参加
*かばん以外の結社に所属されている方はかっこ内に記載。

◆歌会の進行経過(進行係・有田)
二月二日(日)歌会案内を配信し、詠草募集開始
 事前募集の詠草は、兼題「早春」または自由詠。兼題だけ・自由詠だけでの提出も可、一人合計二首まで提出可とした。
二月十四日(金)歌会案内の再掲と補足を配信
二月二十一日(金)朝八時 詠草提出〆切
二月二十二日(土)歌会の最終告知

 新型コロナウイルスに伴って不要不急の外出を避けるようにと言われている中、時間どおりに十名が集まりました。参加者のほとんどはマスクをして集まりましたが、室内ではややほっとしてマスクを外していました。筆者は、開場する前、ドアノブに向かって消毒液をスプレーする黒路さんの姿を目撃しました。初めてお会いした小早川翠さんは大変端正な方でした。かばん東京歌会にも参加されたことがおありだそうです。お名前と、前日に何を食べたかを教えて頂いてから、歌会を始めました。

まず兼題の詠草を掲載します。

◆兼題の部「早春」 
                     
萌え出づる早蕨のなか魂はいづこへ運び去られ行くのか         新井蜜

 古典的ながら丁寧で読むとほっとするという声がありました。「魂」は作者本人のものであるという意見、時節柄コロナウイルスの犠牲者の魂であるという意見、魂と言ってはいるがもっと大きな、大いなる存在を表そうとしているという意見など、方向性は似ていましたが各自で読みの詳細は分かれました。


おしなべて二月 ひかりが濃くなればふざけた模様の服欲しくなる  小川ちとせ

初句「おしなべて」が何にかかるのか明示されてはいません。「二月」「濃くなれば」「欲しくなる」のどれにでもかかっていると読めます。冬のあいだの鬱屈した気持ちが「ひかり」によってゆるやかに開かれていく楽しさがあります。ちなみに「ふざけた模様」というのは、ナマケモノ模様だったそうです!いつもモダンな小川さん(当日は新調されたばかりだというサングラスを持参されていました)なら着こなせそうです。


白梅と紅梅開きあくびする話し相手のないものどうし         有田里絵

 「あくびする」の主語は誰か、「話し相手のないものどうし」とあるが誰と誰なのか、と参加者からは絞りきれない疑問の声が多くありました。白梅と紅梅の擬人化であると同時に、梅を見ている作者(人間)ではないかという読みが主流でしたが、たまたま作者の近くに座っていた人、知人だけれど事情があって話が弾まない人、など、いろいろな想像を呼びました。

たこ一でついつい買った大入りの玉筋魚でくぎ煮をつくる朝      福島直広

 下の句のリズムは気になりますが、軽やかで楽しい歌です。「玉筋魚」とはイカナゴのことで、関西でイカナゴの釘煮といえば春の訪れとともに売りに出される食べ物です。筆者は玉筋魚という呼び名を知りませんでしたが、知らないまま読みました。参加者に挙手してもらったところ、全く知らない語が出てきた場合に調べる人と調べない人とは半々でした。「たこ一」という固有名詞は明石市のようでおもしろいという声もありました。

「メジロって東京なんや」「メグロって鳥もいるんや」環状線にて   有田里絵

 電車の環状線内で聞こえてきた会話ほぼそのままを、短歌形式に放り込んだ歌です。これで短歌にしてもいいのだろうかと筆者は考えましたが、素直に詠みました。見た目もリズムもぶつぶつと切れていてなめらかではありません。しかしながら、その会話のかみ合わなさ・ぎこちなさをおもしろく感じる効果にも繋がっているという意見がありました。
 

ふたりともベテルギウスに無自覚で暗さも甘さも東風の威の白     蔦きうい

結句「威」が辞書的にも歌意としてもわからないという意見が複数ありました。超新星爆発の日では、などの声もありましたが決め手はありません。おそらく兼題に対して東風(こち)を使っています。結句以外はすんなりと情景が浮かぶので、結句に迷う人が多かったようです。

ひつそりとやがてわらわら絡みあひ暴力的な春がまた来る       久保茂樹

 「暴力的な」と「また来る」から、春に対して嬉しくない思い出があって否定的な気持ち(トラウマ)が表れているのでは、という意見がありました。「わらわら絡み合ひ」から春先の人事異動を連想する人、全体を通して猥雑なまでの生命力を感じるという人もいました。春はうつくしい始まりの季節というだけでは、ないですね。

梅の枝にあそぶメジロの二羽三羽、ぴーちゅるちーち 僕も混ぜてよ 黒路よしひろ

 作者の孤独感を感じ取る人が多数いました。オノマトペについては、文字数を多く使っていることやひらがな表記に対して評価が分かれました。結句は全くの口語です。どうしても幼い、やや舌足らずな印象は与えてしまいますが、それでも素直な気持ちが表れていて良いという意見がありました。

朝市のひかりの隅にふきのとう触れるとき帯び つめたい電気     沢田二兎

 まず「帯び」に目がいきます。静かな、まだまだ寒い時期の情景が浮かんできます。結句の「つめたい電気」を帯びるのだと考えるのが自然ですが、「帯び」は連用形であるため(連体形ではなく)、はっきり判断できないところがあります。「ひかりの隅」と細かく描写しているのが良いという意見がありました。

まんさくの(四恩の)花が咲き始め北の国へと早春兆す         雨宮司

 「四恩」は仏教に出てくる用語で、人がこの世で受ける四種類の恩(一説には父母の恩・衆生の恩・国王の恩・三宝の恩)のことだそうです。「まんさくの花」という東北を舞台にしたドラマがあったそうで、作者がそれを意図しているなら「北の国」とも通じるという意見がありました。また、北国にはそれほど深い意味はなく、単に作者が顔を上げて(北のほうを向いて)なにか特別な思いを新たにしているのでは、という読みもありました。

以下、自由詠をひととおり掲載します。 

わたしたち滅びるのかなみぎひだり肺に仄めかされて春霞      小川ちとせ

わたしからの話は聞かないささめくとさざめくの違い語るばかりで   塩谷風月

一時間四十五分後わたくしは大口を開けて歯科の椅子のうえ      塩谷風月

銭湯の壁のタイルの白い目地洗髪料金百円払う            福島直広

十五日チョコの類は投げ売りで男としては断固買わない         雨宮司

パトカーは一旦停止した後に宇宙の音で過ぐプリウスで        沢田二兎

曽多さんの幽霊が出て逃げて来たと意気地なし警備主任の日誌に  黒路よしひろ

歳を取ると行けない処がふえるでせう函に隠れてまたいらつしやい   久保茂樹

咲きながら朽ちてゆく花陽のなかに何を残してきたのか俺は       新井蜜

どおしてもツンケン貌が好きですと猫にいのれば蜜柑沢山       蔦きうい

                                 (有田里絵/記)



# by kaban-west | 2020-03-01 22:40 | 歌会報告
2020年 01月 01日

2019年 12月歌会記

かばん関西師走歌会記
            
◆とき 令和元年十二月一日(日)午後一時から午後五時まで
◆ところ 大阪市 福島区民センター 二階 三〇四号室

◆参加者・・・雨宮司、有田里絵、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、雀來豆(未来)、沢田二兎(所属なし)、塩谷風月(未来)、福島直広、文月栞、以上の十名。
*文月栞さんは詠草のみ参加
*かばん以外に所属の方はかっこ内に記載。

◆歌会の進行経過(進行係・有田)
十一月四日(月)、歌会案内を配信し、詠草募集開始
 事前募集の詠草は、兼題「希望」または自由詠。一人合計二首まで提出可能とした。
十一月二十六日(火)歌会案内の再掲と補足を配信
十一月二十七日(水)二十二時、詠草提出〆切

 今年最終の歌会は、福島さんが予約してくださった福島区民センターにて開催しました。初めて利用する会場です。駅からまっすぐ進んだ場所にあったのですが、なぜか通り過ぎてしまう人が複数いました。筆者もその一人です。歌会後は忘年会を開くことになっており、会場に来た人は全員が忘年会にも参加しました。
 
兼題の詠草一覧をレジュメの記載順に掲載します。

◆兼題の部「希望」
自転車の少女の背負うアリエルの鞄が朝の辻を曲がりぬ            雀來豆

 アリエルは天使またはディズニープリンセスのどちらでも読めるという意見がありました。少女ではなく鞄が辻を曲がるところに評価が集まりました。

ミンチカツコロッケ海老天アジフライきらきら月が濃くあがるころ      沢田二兎
 高得点歌です。揚げ物のセレクトと並び方、月の出と「濃くあがるころ」をかけたところも洒落の要素はあるけれども巧みであるという声がありました。

癒えないが癒えないなりにはたらいてちょっと体重が増えたりもする    小川ちとせ

 素直な詠い方に共感する人が多かった歌です。体重が増えることをマイナスに捉える人もプラスに捉える人もいました。

きんじきのひとかはらないものいひに希望しますつて言ははりました    久保茂樹

 「きんじきのひと」は天皇陛下のことを指しています。今年は即位にまつわる儀式が多くありました。私も短歌が続いていくことを希望します。

蝋燭が消えれば灯す灯される火があることをそっと伝える          塩谷風月

「灯す灯される」がポイントになっています。動詞の多さを指摘する声もありましたが、それほど気にならずに読めるのは、やさしい言葉遣いと濁音の少なさ、リズムの良さのおかげでしょうか。

ポリープを切って二十日ぶりの酒ええ風に年食ってきたいね          福島直広

 後半の「ええ風に年食って」に好感を持つ人が多かったようです。口語の使い方がはまっていて、楽しくなります。ポリープを切った体で飲んでも大丈夫なのか心配する人もいましたね。
   
いちど手にとった希望は投げだすなたとえどんなにささやかであれ     雨宮司

 その通りの、真面目な歌で、作者の性格が出ているのでは、という意見がありました。作者糸っての意見や事実を述べているにとどまっているようで、詩情を感じにくいという指摘もありました。

抗えず起こる事柄数あれど朝は希望と共にあり                文月栞

 この歌もとても素直です。「きっと作者は、いろいろあるけれど今日も頑張ろうと毎朝思っているのだろう」という感想が出ていました。下の句の字足らずはもったいないという意見も、勢いを大事にしているのではという意見もありました。

もしイブに雪が降ったらその間だけは私がいると思って             有田里絵

 「私」は故人もしくはもう会えない人という読みが多かったようです。ロマンチックではあるけれど、Jポップの歌詞のようだという意見がありました。「これを実際に言われたらちょっと嫌かも」という声には参加者がみんな笑っていました!実際の歌会ならではの楽しみです。

希望のように星は降りますこの丘に墓守たちの声は消えても      黒路よしひろ

 童話のような滑り出しで、優しい気持ちになれます。「漠然としすぎている」、「お題にちょっと引きずられたのではないか」という意見もありました。作者が題材として思い描いていたのは奈良の古墳だそうです。


 次に自由詠を掲載します。

手のかかる木の碑を守る令子さん普通の人の普通の話         有田里絵

銀の帯荻の穂先が快速の風に揺れゆく平城宮祉             雨宮司

中空につめたい空気ひとひらミントチョコ色をした揚羽蝶       沢田二兎

チラチラと朝日が光るカーテンの隙間から見る街は箱庭        文月栞

外つ国の若きらに日本語を教へゐてときにタミル語を浚ひてをりぬ  久保茂樹

 ところどころ字余りがあります。音読したときのリズムが気になるという意見がある一方で、事実を忠実に表現しようとした結果、字余りを選択したのではないかという意見もありました。

おもむろに空を指さす美しきインフィールドフライの宣告        雀來豆

固有名詞 「インフィールドフライ」がとてもすっきりとした響きを持っていて、評価を集めました。特に野球に詳しくなくても、「宣告」の語を見ると特別な動きであることが伝わります。また「美しいものを美しいという言葉をそのまま使って詠むのは難しいところがあるが、この歌は成功している」という意見がありました。

お向かいの田んぼにフラップ板がつき時間貸駐車場になった       福島直広

うつくしく夕陽が夕陽を染めるころあなたは鳥になったと聞いた   塩谷風月

ぶしつけな恣意の視線にさらされて短歌よおまえ辛かっただろう  黒路よしひろ

バーベキュー禁止エリアに秋の陽が満ちて芝生で靴下も脱ぐ      小川ちとせ


 自由詠まで読み進めた後、それぞれが「今年読んで良かった歌」を発表しました。持参したメモなどを当日大きな紙に貼り付けてコピーし、レジュメを作成しました。仲間と読んだり詠んだりすることで、いつも発見が得られます。個人的に筆者は、その場での作業があると、歌会に人が集まる意義をより多く感じることができます。これからも臨場感のある集まりにしていきたいです。

 会場からは時間ぴったりに退出しました。そして一同は、福島宴会部長に細い道をくねくねと導かれ、忘年会のお店へ移動しました。藁で焼いた食材をメインにしている和風居酒屋で、ボリューム満点、どれも美味しくいただきました。一同が座っている様子を見ても、短歌の集まりだと分かる人はまずいないでしょうね。短歌の話ができてとても幸せになり、お腹も満たされて、それぞれが帰途につきました。
                                 (有田里絵/記)



# by kaban-west | 2020-01-01 22:38 | 歌会報告
2019年 10月 01日

2019年 9月歌会記

かばん関西長月歌会記           

◆とき 令和元年九月二十九日(日)午後一時から午後五時まで
◆ところ 大阪市 天王寺区民センター 二階 和室

◆参加者・・・雨宮司、有田里絵、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、雀來豆(未来)、沢田二兎(所属なし)、福島直広、文月栞、ミカヅキカゲリ、以上の十名。
*小川ちとせ、久保茂樹、ミカヅキカゲリの三名は詠草のみ参加。
*かばん以外に所属の方はかっこ内に記載。

◆歌会の進行経過(進行係・有田)
九月三日(火)、歌会案内を配信し、詠草募集開始
九月二十五日(水)二十一時、詠草提出〆切
九月二十八日(土)歌会前日の案内を配信
九月二十九日(日)、歌会当日

 消費税増税前最後の歌会は、初めて利用する会場にて行いました。台風が近づいて暑さが厳しい中、七人が集まりました。和室に座るのはやはり脚が疲れますね。しかしながら長机と座布団を並べて座り、顔が見える距離で短歌について話す時間は、とても楽しいひとときでした。今回は文月栞さんが初めて参加してくださいました。
 事前募集の詠草は、兼題「月」と自由詠とで「合計二首まで」としました。それぞれ一首ずつではなく、どちらかに二首出しても良いという決まりは以前からときどき採用しています。お題があるほうが詠みやすいという人と、何もなく自由なほうが詠みやすいという人がいるという意見があったからです。今回は結果として各自が兼題と自由詠それぞれ一首ずつ提出していましたが、これからも継続する方向で考えています。

 今回のお題はシンプルに「月」としました。今まで何度か出題した経験から感じているのですが、お題に「月」と出されると、なぜか満月または三日月を詠みたくなる人が多いようです。単に月というより情緒や風情が感じられやすい語ではありますし、詩歌の世界には欠かせないものだからでしょうか。
 
まず、兼題の詠草一覧を掲載します。

◆兼題の部「月」
スーパームーン鏡のごとく磨かれて今宵天井画より花の降る    沢田二兎

 満月の、さらにスーパムーンなら花ぐらい降ってくるかもしれない。イタリアの教会の天井を思い浮かべた人が何人かいました。

産み月の君にしあれば満月も梨も葡萄もより丸く見ゆ       有田里絵

 わかりやすいと言われていた歌です。結句「見ゆ」の主語は作者、夫、妻のいずれでも読めるという意見がありました。

満月は俺と水槽を照らしてタラップ上る水位警報         福島直広

 仕事の歌だと参加者はみんなわかりました。しかし、「水位警報」で終わっていることについて、実際とは違うのではないかという意見がありました。台風の影響でビルの屋上の防火水槽の水位が上昇し、警報が出て、それからタラップを登るというのが実際の順序だそうです。その職業に固有の言葉はおもしろみがありますね。

月なんてあてにならない翳ったり雲間に消えるやさしいけれど  ミカヅキカゲリ 

ツンデレの歌だという評があり、笑いが起こりました。作者は日によって見え方が違う月がとても好きで、見えなくなるところがまたいいのでしょう。

なぜ月に水がないのか手紙ではそういうことを書こうと思う    雀來豆

「手紙」だからこその歌であるという意見がありました。確かに、はがきでは書ききれなさそうですし、メールやツイッターなどの短文でも伝わらなさそうな内容ですね。

立つたまま啜るうどんの汁澄みて汚さぬやうに月を呑みたり    久保茂樹

 「この歌会で、うどんや立ち食いそばの歌はときどき見ますよね」という声に笑いが広がりました。「啜る」や「呑む」というやや粗野な表現に共感する人もいました。

トレッドミル検査室から零れ出たひかりは月の泪にも似て     黒路よしひろ

初句「トレッドミル検査」に参加者が惹きつけられていました。運動をしながら行う心電図検査のことで、安静時では分からない値の変化を見て、運動中の心臓の状態を検査するものだそうです。音読すると語感がちょっと固めでハードボイルドのような雰囲気にもなります。「月の泪」はややありきたりでもったいないという評もありました。

無月の夜残念だったと語り合う楽しみがあるそれが日本だ     雨宮司

満月が見えないことを無月というそうです。「それが日本だ」には大げさだと感じる人が多かったようです。月が見えなかったことを残念に感じられるのは、イベント時に関わらず空を見る習慣がある人でしょうね。

欠けること知っているのか知らぬのか君が財布を振る満月よ    文月栞

 「満月の時に財布を振るとお金が貯まる」というネットで流行っていた事柄を詠み込まれた歌です。ネットの情報に便乗する人(もしかしたら自分も)を見て苦笑しながらも、現代的な面白さを興味深く眺めている作中主体の姿を想像します。

輪郭のふざけた月が遠ざかる中近両用眼鏡という選択       小川ちとせ

 ふざけた輪郭とはどんな輪郭でしょうか。おそらく、月は普段通り出ているけれど、自分の見え方(視力)が変わって以前よりも更にはっきり見えなくなってきて、自嘲気味に表現しているのだろうという読みがありました。また、遠近両用ではなく中近両用であるところも、微妙な年齢の人を想像できておもしろいという意見がありました。最後の言葉が「選択」ですから、どんな月であれ、その見え方を選んだのは結局自分であると作中主体は認識しているとも言えそうです。


以下、自由詠を詠草一覧の順に掲載します。

◆自由詠の部
ざお!ざお!と真似て返せば秋高くゆーちゅーばーの華僑の少女  黒路よしひろ

ほんたうのこと知らぬまま整然と補充されゆくリカちゃんファミリー  有田里絵

血管が脆弱らしく点滴や採血のときに苦労される        ミカヅキカゲリ

かたすぎずやわらかすぎずすばらしく茹でられたブロッコリーはなかなかあらず  小川ちとせ

まひるまの戸を叩く音に出でゆけば神のことばをのたまへる人   久保茂樹

ダンベルは微動だにせず艶めいて足の小指を紫紺に染める     福島直広

店頭に並ぶ秋色手に取れば半袖のシャツ色あせた夏        文月栞

漆黒の毛並を綺麗に見せようと馬の身体にブラシをかける     雨宮司

庭の兎けふも動かぬ仄暗ききみのメガネの墓あるあたり      雀來豆

描きつつときをり会話らしきこと鸚鵡とわたしぼっちの真昼    沢田二兎

                                                   



# by kaban-west | 2019-10-01 22:35 | 歌会報告
2019年 09月 01日

2019年 8月歌会記

かばん関西 二〇一九年八月オンライン歌会記
              
◆参加者・・・雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、小川ちとせ、黒路よしひろ(所属なし)、佐藤元紀、沢田二兎(所属なし)、杉田抱僕(所属なし)、東こころ(かばん/未来)、文月栞、ふらみらり、本田葵、ミカヅキカゲリ、以上の十三名。かばん以外に所属の方はかっこ内に記載。

◆歌会の進行経過(進行係・有田)
八月二日(金)、詠草募集開始
八月十五日(木)二十四時、詠草提出〆切
八月十六日(金)、詠草一覧と選歌案内配信
八月二十五日(日)二十四時、選歌提出〆切
八月二十八日(水)、選歌結果とコメント集の配信

 今回の兼題は「夏休みの宿題」としました。大人になってから見えることもあるだろうと考えたからです。かなり具体的なお題だったので、みなさん題材にできる事柄はたくさん見つけられたようです。しかし、ストレートな内容をどうやって短歌の領域まで持ってくるかという点において、実際にやってみると難しいお題だったのかもしれません。選歌は星五つの持ち星方式(どの歌に何個の星を入れても良いが、星五個を使い切る)としたところ、やや星が偏る結果となりました。
 「もし星を使い切らなくてもいい選歌にしていたら、どうなっていただろうか」と進行係をしながら考えました。歌会を進めていく際に感じるのは、”作業効率>選歌”にならないようにしたいということです。選歌や評には参加者の心(当然、そのときそのときの)が作用しますから、作業効率というシステマチックなものさしとはそもそも相容れない、と考えるからです。かといって、選歌の決まりがゆるゆるでは、選ぶ・選ばないのせめぎあいを楽しむ部分が減ってしまうように思います。この点は、今後の有意義な歌会のためにも、継続して考えていきます。

詠草一覧を配信した通りの順に掲載し、何首か添え書きをします。

◆兼題「夏休みの宿題」

画用紙の中で泳いでいる僕をくるくる巻いて九月を待った  ふらみらり

一目瞭然で今回最多の星、二十六個を獲得していた歌です。夏休みの自分を描いた回想の歌であるという読みはだいたい共通していました。ユーモアやおかしみを感じる人と、しみじみとした夏休みの思い出であると読む人、紙の上の自分(平面)と実在している自分(立体)がいると読む人など、読者に想像のひろがりを与えてくれました。切なさはあるけれど、立ち直れないほどの深い悲しみでもない、それでもやはり心を捉え続けるような大切な夏休みの思い出なのでしょう。その切なさには、もう大人になってしまった切なさも加わっているのでしょう。

宿題をしないことこそ健全な子どものしるしと自分をごまかすな!  雨宮司

今生の宿題ならめ短夜のおまへとの双方向性授業【アクティヴ・ラーニング】 佐藤元紀 

八月に遠くへ引っ越ししゅくだいをうやむやにしたひと夏ありき  小川ちとせ

書きそびれた絵日記ひとつ、逃げ水のように夏が来るたび揺れる  杉田抱僕

トム・ソーヤ読書感想夏休み蝉追いかけろそれが答えだ  本田葵

課題図書読みたいものが見つからずまずは「りぼん」とアイスクリーム  文月栞

宿題は漢字の書き取り 愛生死飲食排泄攻撃防御  新井蜜

夏までに自分に課した宿題は今度の詩集の目処をつけること  ミカヅキカゲ
 
あさがおの観察日記は空白のまま戻らない友だちのこえ  東こころ

絵日記にひと月の候さかのぼる晴れ晴れ晴れ晴れココロウラハラ  沢田二兎

アプリオリ自由研究してみよう大人の夏が終わらぬうちに  有田里絵

おっちゃんの髪の毛くるんくるんって甥っ子が描く観察日記  黒路よしひろ

 絵日記を題材にした歌は何首かありましたが、甥っ子の選んだ観察対象がほほえましいです。音読したときのリズムも愉快。素直でほっとする、オーソドックスである、などの意見がありました。
 でも単なるシンプルさだけでは短歌として読んだときに印象が薄くなってしまいがちですから、詠み手としては、ひねりや意外性を盛り込みたくなります。その結果が、いかにも「手を加えました」とか「明らかにフィクションだと分かる(分かりすぎる)」とかいったことになってしまう場合もよくあります。難しくも面白いところで、今回のお題のやりにくさはこの点にあると思いました。

◆自由詠
風邪をひく前兆だろう鈍くさい手品師夢で笑顔の手品  ふらみらり

残高がラッキーセブンの通帳を「或る意味すごい」誇りて明日へ  ミカヅキカゲリ

Tシャツを絞つて窓に干したのはアリスかアンかそれともローラ?  新井蜜

NYのリュックを背負ったJKはベーブ・ルースも松井も知らぬ  本田葵

伸びすぎた背は揺れやすく向日葵に攫われぬまま何度目の夏  杉田抱僕

カミサマはつやつやとして神棚の対の榊の緑に在【おわ】す  小川ちとせ
      
夏休み明るめの髪少しだけ大人になって観るアンパンマン  文月栞

分け入つて分け入つて越えゆく峠いよよ濃き青山とおまへと  佐藤元紀

(~チルダ~チルダ)風に吹かれて揺れている合歓木の花やさしくて  黒路よしひろ

初句の表記がおもしろくて目を引きます。「~」が風の動きを視覚的に表しているという読みがあって、なるほどと思いました。

半月の滲む夜更けのはりねずみ振り回しても脱げないんだね  有田里絵

風死す 俺はまだまだ生きたいぞ脂汗にじむ突堤の上  雨宮司 

傘屋にはたくさん空があり星のあふれる夜をひとつえらんだ  東こころ

「傘屋」に「空」があるという表現に惹かれた人が多かったようです。ひらがなの使い方も考えられています。傘を開くたびに、星でいっぱいの夜が広がる。いいですね!実際にこんな傘も販売されているのでしょうか。

にじいろの魚がいました星柄のカメがいました図書館の海に  沢田二兎

淡々と「いました」と並べた歌い方に海の波のようなリズムを感じます。物語にあふれた図書館を海にたとえているのも好意的に受け止められていました。童話のようでかわいらしい、実在の魚と亀かもしれないなど、読者はそれぞれに想像の海を泳いでいました。
(有田里絵/記)





# by kaban-west | 2019-09-01 22:32 | 歌会報告
2019年 07月 01日

2019年 6月歌会記

かばん関西水無月歌会記
              
【とき】二〇一九年六月二十三日(日曜日)午後一時半から午後五時まで
【ところ】大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco) ルーム6

【参加者】雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵・・・司会進行担当、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、佐藤元紀、沢田二兎(所属なし)、雀來豆(未来)、とみいえひろこ、福島直広
以上十一名。かっこ内に所属先について記載のない人は全てかばん会員。

【進行日程】
六月四日(火曜日)午前 案内を配信
六月二十日(木曜日)正午 詠草提出〆切
六月二十三日(日曜日)歌会当日
六月二十四日(月曜日)午後 選歌結果一覧を配信

【歌会当日の進め方】
開会、会費(ひとり五百円)を集める → 詠草一覧レジュメ(作者名なし)を配る → 披講と選歌 → 選歌提出と集計 → レジュメに沿って意見を述べ合う → 詠草一覧レジュメ(作者名あり)を配る → 口頭にて得票数を発表する → 作者への質問タイム → 閉会

 今回の兼題は「七夕に」としました。思い出を詠み込んだり実景を描いたりした十一首が集まりました。当日配布した詠草一覧の順に紹介します。

天の川見たことがない少女らはプールの青に飛び込んでゆく    有田里絵

助詞「が」と「は」の使い方に焦点が当たっていました。「少女らが」とすると限定に過ぎるという意見や、濁音の連続を避けたのではという意見がありました。

きんとぎんのかみに書いてん「おりひぬ」と「ひこまし」その夜逢えたでしょうか  小川ちとせ

 幼児の書き間違いを題材にした一首です。大阪弁を交えてユーモラスに歌い、「逢えたでしょうか」と丁寧に結んでいます。作者が幼稚園のころ実際に書いた短冊を、ご家族が大事にしまっていらっしゃるのだそうです。

歩み板踏み継ぎ継ぎ踏み天の川ふみ文月の夜会いにいく      福島直広

 韻を踏む効果を考えた歌です。音読してみると発音しにくくて、どうしてもたどたどしくなってしまいます。それが、うまくいかない逢瀬の様子を表しているという評がありました。

すきですと告げあう湖に火がうまれ空洞がうまれ星がうまれ  とみいえひろこ

 ふりがなはついていませんが、漢字「湖」は「うみ」と読みたいです。「告げあう」と表現するだけで人が二人以上いることがわかります。

七夕(しちせき)をたなばたと読めばあかるくて今宵ふたりでする星祭り    久保茂樹

「七夕」「たなばた」「星祭り」と同じことを一首の中で三回も言っているおもしろさ。二人のささやかなお祭りを、星たちも静かに見守っているのでしょうね。

ひと妻のきみを想えどしあわせは織女(たなばたつめ)のように遠いよ    黒路よしひろ

「織女」の語は美しく、手が届かない雰囲気があります。ベタな内容だという声はあったものの、叶わない恋の歌に対してはみなさんそれぞれ思うことがあったようです。

さくらんぼの種を飛ばせば星ひとつかがやきはじむ祈りと癒し   沢田二兎

「さくらんぼ」と「祈りと癒し」の取り合わせには評価が寄せられました。兼題に対して「星ひとつ」だけで足りるのかどうかという違和感を感じる人もあったようです。

惜しの夜のいくとせわかね降る星に何の夢見てゐる牽牛花     佐藤元紀

「わかね」は「わかれる」が元になっています。「何の夢」ではなく具体的に書いたほうがいいという意見がありました。歌の中に「何か」「何の」という表現があると、歌会の席上では「もうひとつ具体的に」「ヒントが欲しい」という声がだいたい出てきます。具体的な単語を入れるにしても、曖昧にするにしても、歌の全体像を見たときに読者を納得させる力を持っていること(必然性)が重要になってくると思いました。

ひんやりと触るる造花の笹の葉に二つの星を引つかけてゐる     雀來豆

下の句がおもしろい、軽いようで考えられているという意見が出ていた歌です。造花の笹はディスカウントショップなどでもよく売っているそうです。

今年また七夕が来る待ったとてあなたの笑みには二度と会えない  雨宮司

内容がそのままでベタであるという意見が複数ありました。それでも作中主体(または作者)には七夕を区切りにしなければならない、もしくはせざるを得ない理由があったのでしょう。そのこだわりポイントが伝わるようにするのは、難しいですが。

夜が明けて天の川より帰り来る織姫を待つ朝粥炊いて       新井蜜

朝粥を炊いて織姫の帰りを待っていてくれる人とは、どんな人でしょう。彦星に会えたかどうかは聞かずに、そっと「おかえりなさい」と言うだけでしょうか。物静かで清楚な雰囲気が高評価でした。


以下、自由詠を挙げておきます。

そのまへを行つたり来たりしてみてもふしあはせな犬は吠えない   雀來豆 

直線でダダダっと縫ってワンピースその胸元に飼ふ青い鳥     沢田二兎

本日も秋篠川をたゆたりと尾鰭くねらせ魚影が動く         雨宮司

風に飛ぶ穂絮(ほわた)のやうな恋だつた二十になつた麦秋の頃        新井蜜

星はある、ほんとうにあるいつか死ぬまだここからは見えないだけで 有田里絵

身寄りのないボーイング737が離陸するほら、森がざわめく   福島直広

大丈夫だろうかデモの前線の女の子何か言ってる 長く   とみいえひろこ

梅雨空の瞳つやめくおまへへと漆黒の夜をずぶぬれてゆく     佐藤元紀

ズッキーニがかぼちゃの仲間であることの一生言わないほんとのきもち   小川ちとせ

星達が眠るこの夜(I believe)、来世ではきっときみの隣に  黒路よしひろ

遅れたり並んできたりする月を高槻に着くまでは見てゐた    久保茂樹


 かばん関西歌会では、発言する機会が多くありますが、人前で話すのが苦手な方は指名されてもパスすることができます。「パスは三回まで」なんて言いません、どうぞお気軽にご参加ください。集中して短歌のことを話したり聞いたりする機会は滅多になく、充実感で満たされながら家路に着くことができます。この気持ちが次の作歌につながっていくと思います。これからも貴重な集まりを継続していきたいです。
                             (有田里絵/記)



# by kaban-west | 2019-07-01 22:24 | 歌会報告