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かばん関西歌会

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2024年 02月 26日

かばん関西歌会へのお問い合わせ

かばん関西歌会では、月に一度メーリングリストを使用したオンライン歌会を行っています。
また、年に数回実際に顔を合わせてオフラインの歌会も。
歌誌「かばん」の関西在住会員がおもなメンバーでしたが、
現在は「かばん」会員ではない方も、関西在住ではない方も多くみえます。
歌を詠みたい、読みたい、という方ならどなたでも
お気軽にお問い合わせください。


[追記]2024年2月26日
2024年現在もかばん関西歌会は活動を続けております。
・メーリングリストによるオンライン歌会
・実際に集まってのオフラインの歌会
いずれも年に数回開催しております。
「はじめて歌会に参加します」と仰る方もよく来て下さいます。
どうぞお気軽にお問い合わせ下さい。

kansai●kaban-tanka.jp (担当:有田)
※●を@にかえてください


# by kaban-west | 2024-02-26 21:24 | お問い合わせ
2023年 10月 27日

2023年 神無月歌会 報告

かばん関西神無月歌会記
             
とき・・・十月二十九日(日曜日)午後一時半から五時まで
ところ・・・大阪府立江之子島文化芸術総合センター ルーム6
 
◆参加者
雨宮司、有田里絵、小坂恵(所属なし)、雀來豆(所属なし)、十谷あとり(所属なし)、蔦きうい(所属なし、詠草のみ参加)、雛河麦、渡邊千歳(詠草のみ参加)
お名前の後に何も記載がない方は、かばん正会員です。

ハロウィンに合わせて兼題は「かぼちゃ」としました。詠み込み指定にはしませんでしたが、連想しにくい兼題だったかもしれません。〆切前に有田から「かぼちゃください」という件名のメールが送られてきたため、急ぎ詠草を提出してくださった方もおられます。当日参加は六人でした。広々とした会場にて、みんなで椅子と机をコの字型につなげて歌会を行いました。なお、今回は十谷あとりさんのご紹介により、小坂恵さんが初めて参加してくださいました。

以下に詠草一覧を掲載します。詠草の後の会話文は当日の意見交換の様子です。関西イントネーションにて脳内音読が可能な方は、ぜひお試しください。

◆兼題「かぼちゃ」

・ハプスブルク邸の小庭の南京はいつもの皺だマリーが死んでも       蔦きうい

「この漢字の南京って中国の国名なのでは?」
「ああ、これは京でも瓜でも、かぼちゃのことですよ」
「いつもの皴っていうのは、アントワネットが遠く離れた地で首を切られても、実家の畑には淡々といつも通りのかぼちゃが実っているということなんでしょうね」
「そう、関西人の、いもくりなんきん」
「普通の、なんきんのたいたん(=かぼちゃの煮物)」
「そうですね、人が一人いなくなっても日常が続くということを詠みたかったのかなあ」
「ハプスブルクだったら、小庭ってどんな広さなんでしょう。学校の運動場より広い?」
(一同笑い)
「そりゃ広いでしょ」
「たぶん広いでしょう、知らんけど」
(一同再び笑い)

・一度だけ魔法で馬車になりましてガラスの靴を知っております       雛河麦

「この歌は本歌取りかなと。あれですね、山崎方代の・・・、一度だけ本当の恋がありまして南天の実を知っております、の」
「あ、それ違う。南天の実が、ですね」
「ああ、そうか、そうでした」
「かぼちゃは、馬車になって、身体の内側をシンデレラに踏まれたんかな」
「え・・・、ああ、それはまあ、踏まれたかもしれませんけど」
「え、踏まれたい」
(一同笑い)
「確かガラスの靴って、灰かぶりだったシンデレラが、ドレスの姿になってから、最後の仕上げとして魔女にもらったんじゃなかったかな。だから、馬車になったかぼちゃは、シンデレラが足を入れるところを見ていた、という意味かな、と読みました」
「ああ、そうか、それはそうかもしれないですね」

・かぼちゃから抜けなくなった包丁にうつるあなたと私の恋路        渡邊千歳

「これは、実際に二人の人がいるのでしょうか?」
「うん、これはいるでしょう。台所でかぼちゃを切ろうとしたら、『ああ、包丁抜けへんわ、ごめんちょっと来てー』ってなって、『えー、もう、しゃーないなー』ってもう一人が助けに来て、苦笑いしつつなんとかかんとかする、っていう感じじゃないでしょうか。」
(複数名頷く)
「日々のことを、わちゃわちゃしつつも楽しんでそうで、いい関係の二人かな、と思います」
(一同微笑む)

・名を知らぬとほき縁者のかほをしてバターナッツは卓にころがる      十谷あとり

「一読して、巧みな、つくりの上手な歌だなあと思いますね。卓にころがる、がすごくおもしろい。バターナッツという固有名詞に頼りすぎていない、というのもいいし」
(一同頷く)
「バターナッツって、検索したら、細長くて白っぽくて、つるんとしてるんですね。いわゆる和風のかぼちゃと全然見た目が違いますね」
「ああ、なんか顔みたいな見た目ですね」
「普通にスーパーでも売ってるんですけど、ねっとり甘いというか、食感がね、日本の和食のかぼちゃとはだいぶ違うんですよ」
「とほき、かほ、という旧仮名も、視覚的におもしろく見えます」
「食べたくなってきますね」
「ハロウィンにかぼちゃ食べましょうか」

・灰かぶり姫が姫ではなかったときに南京パイを贈った彼氏         蔦きうい

・歯を見せて笑い続けたパンプキンポタージュになる晩が来るまで      有田里絵

・旨ければいいが昼餉の煮かぼちゃはハロウィンの夜のハレを残して     雀來豆

・ねっとりと深い黄色がパリパリに閉じ込められてパンプキン・パイ     雨宮司

「おいしそうですよねえ。ねっとり、深い黄色、パリパリ、というのがとても良いです」
「素直に書いてあるだけに、伝わりやすいですね」

◆自由詠

・カナブンを追い出し数日経った頃玄関の戸に止まるカメムシ        小坂恵

「なんか、こういう面倒なことってありますよね。今年は黄緑のやつが多いし」
「ものすごい困るってほどでもないんやけど、うわ、ってなりそうですね」
「あの、これは、玄関の戸の、どっち側だったんでしょうか。家の中のほう?外?」
「うーん、中かなと思います。カナブンを追い出して、戸を閉めて、家の中が安全になってほっとした。だから、数日後カメムシが中にいて、うわ、ってなったんじゃないかなあ。あ、でも、帰って来てドアノブ辺りについてても、こうなるかもしれないですね」

・してあげたことは忘れてしてくれたことは忘れぬ母でありたし       渡邊千歳

・秋の朝黒板消しで消しかけてやめたかたちの月が出てゐる         十谷あとり

・飲み終えたペットボトルを踏みつぶす怪獣あるいは神の地団駄       雛河麦

「地団太は怒りからくるものみたいですけど、どんな人でしょうね」
「まあ実景としては、リサイクルに持っていくとか、ゴミに出す前に踏んでるんでしょうね」
「子どもだと考えて読んだら、怪獣でも神でもあてはまりそうだなと思いました」

・磯竿が満月となる倒してはまた竿を立て糸巻き上げる           雨宮司

・この歌はこの歌屑はみんな(賢治忌の)真っ暗がりからもらってきたのです   雀來豆

「これ、歌屑が、いいですよねえ。私もいっぱいあります、そういうの」
「リズムは取りにくいというか、ちょっとわかりにくいです」
「うん、そうですねえ。とはいえ、賢治だから、結句は、何かの童話作品から引いてきてるかもしれないですね」
「私は、みなさんが自然に宮沢賢治の世界観を共有できていることに対して、なんというか、ああ短歌の人だなあって思ってしまいました。なかなか、日頃から、・・・まあ純文学だけが文学じゃないしそれぞれのジャンルに良さはあるでしょうけど、賢治忌の一言で、その雰囲気をみなさんが掴んでいるというのが、いいなあ、って」

・初めての電気スタンド一冊の本開きつつ首を曲げし日           有田里絵

 詠草は以上です。
歌会記というものには、議事録として残すために何らかの形式があるのかもしれませんが、今回は実際の会話ができるだけ伝わってほしいという願いから、このように記載しました。短歌の話がリアルでできる貴重な場所です。特に難しいことはありません。その時の自分にできる読み方を教えていただければじゅうぶんです。場の力が働いて、一人で読むときには得られない気づきがあり、参加者はそれぞれ心地よい疲労感と共に家路につくことができます。不定期ながら、これからも歌会を継続してまいります。みなさんのご参加をお待ちしております。         有田里絵・記


# by kaban-west | 2023-10-27 16:16 | 歌会報告
2023年 09月 24日

2023年 長月歌会 報告

かばん関西長月歌会記
             
とき・・・九月二十四日(日曜日)午後一時から五時まで
ところ・・・大阪市中央公会堂 第六会議室
 
◆参加者
雨宮司、有田里絵、佐藤元紀(詠草のみ参加)、雀來豆(所属なし)、十谷あとり(所属なし、詠草のみ参加)、蔦きうい(所属なし)、雛河麦、渡邊千歳(詠草のみ参加)

お名前の後に記載がない方はかばん正会員です。本当に厳しい残暑が続き、どうなることやらと思いながら、当日は五人が集まりました。会場にはエアコンが控えめにしか入っていないのですが、石造りの建築であるためか、快適に過ごせます。

事前募集の詠草は、兼題「満月」限定で、詠み込み指定なしとして出題しました。今年の仲秋の名月は、九月二十九日でしたので、歌会で満月を集めてみよう!という意図に基づいています。自由詠草と合わせてひとり二首としたところ、提出された歌には個人差が見られて、興味深く受け取りました。

詠草一覧の一部を掲載します。

☆ 兼題「満月」

空腹の君の脳に満月はホットケーキか いいよ作るよ             有田里絵

二十時のダブルスチールあざやかにオーロラビジョンの上の満月        雀來豆

追いだした男の遺品。卓上に溢す梅酒に映るまんげつ             蔦きうい

漕いでゆく海に浮かんだ満月へただひたすらにただ懸命に           雨宮司

道長もこんな気持ちか「アメトーーク!」見つつビールとえび満月と     渡邊千歳

君と僕ふたりの月を足してみてバナナも足して今日は満月          雛河麦

望月十六夜立待居待臥待の身の行くすゑをおもふ待宵          佐藤元紀

満月の夜に生まれた子どもらは眠る黄色の眼を閉じて            渡邊千歳

「黄色の目ってあんまりないですよね。あっさり読んでしまいましたが、違和感が残るのではなく、不思議で面白い表現だと思いました」
「月だと、金色とか銀色なら、ありそうですけどね。満月の色が目に映っているのかな。ちょっと絵本的なイメージ」
「大潮に出産が多いっていう話を思い出した」
「あっさり、眼という漢字をまなこと読めてしまうのは、短歌の人だからかな」
 
このように、当日の参加人数が少なめの時は、ほぼ一人一回言及しつつ、意見交換が進んでいきます。リアクションも交えつつ、和やかに進行していきます。自分一人で取り組むときには到達しない発想があり、やはり歌会という場所の力を体感できます。

◆今回の歌会のキーワード「言いさし」
 筆者は、その日の歌会独自のキーワードを捉えようとしながら進行しています。今回は「言いさし」でした。これは関西弁に属し、言いかけた表現のままにしている、という意味で使っています。
 言いかけたまま読者に解釈が委ねられている歌が出てくると、だいたい以下のような反応があります。
1「何が言いたいのかわからない。ヒントがほしい。誰か教えて」
2「これは分からないまま、雰囲気を楽しめばいいタイプの歌だ」
3「自分で、書かれていない部分を補足して読む歌だと思う」
当日の参加者は2と3に分かれました。もっと多くの人に同じ質問をするとどうなるかは分かりませんが、かばん関西では1を選ぶ人は少ない傾向にあります。答えのない文学表現に取り組む以上、いつまでもなくならない問いでしょう。

☆ 自由詠

渡船より自転車を押し降りる人らけんけん乗りに途を急げり        十谷あとり

抱きしむるまにまに俺とおまへには短き秋と冴えゆく冬を           佐藤元紀

もらもらと雲湧き上がる地を離れ錦秋の地を歩き続ける            雨宮司

すぐにまた転校していく子のようにヤクルト1000を見ているヤクルト    雛河麦

凶眼の副園長の眼を盗みぼくらは月兎を解き放つ                雀來豆



# by kaban-west | 2023-09-24 16:12 | 歌会報告
2023年 08月 31日

2023年 葉月歌会 報告

かばん関西八月オンライン歌会記
             
◆参加者
雨宮司、有田里絵、ガク(購読)、雀來豆(所属なし)、雛河麦、渡邊千歳
・・・お名前の後に記載がない方はかばん正会員です。

◆兼題「中」
ひとり二首まで、漢字の詠み込み指定としました。読み方は問わず、しかし常用以外は読み仮名を書き添えることにしました。あまりにも自己流の当て字は目立ちすぎてしまうという難点がありますので、飛び抜けた歌は詠みにくいだろうと推測して出題しました。

◆選歌方法
今回は「星三つ、使い切り方式」での選歌としました。一首に☆三つでも、一首に☆一つずつでも良いことにしました。

以前からの懸案事項として、選歌数と詠草の数のバランスということがあります。多いほうが選ばれる確率が高くなり、参加者の方には喜んでいただけそうなのですが、そう単純でもないのです。選ぶことは、選ばない歌を決めることでもあるためです。「あと一票あったらこの歌も選んでいたのに」というコメントをたびたびいただくのは、参加者のみなさんそれぞれのご配慮でしょう。
そのために、持ち点ならぬ「持ち星方式」をときどき利用しています。同じ人間が係を続けることによるマンネリ化を避けるためにも、細かくあれこれ試行錯誤しております。ちょっとしたアイデアが歌会に新風をもたらしてくれますので、試してみたい方がおられましたら、お声をお聞かせください。

◆ 八月オンライン歌会「中」詠草一覧 ◆ 

詠草一覧の順に挙げています。

・『硝子戸の中』を読むたび牛になる必要性に思い当たりぬ    有田里絵

 夏目漱石の随筆集『硝子戸の中』です。また、若い作家に宛てた手紙に「牛になる事はどうしても必要です」と書き送っています。

・我が胸の想いは消えず夏の夜の夢の中にて逢わんとぞ思う。   ガク

星の多かった歌です。読んだことのある語句がいろいろ使われており、つっこみを入れやすいにも拘らず、最後の読点までおもしろく読めます。

・鍋の中のぞく時間は一人きり逃げ込むための真夏の角煮     有田里絵

・見てあれが「中の人」だよ普段ならしちゃダメなこと全部やってる   渡邊千歳

つい何をしているのか聞きたくなります。作者の願望ではないだろうか、ダメなことのほうが生きている実感がある、という読みも寄せらせました。

・願わくは小さな輪っかの美しい中古で廉い土星がほしい     雀來豆

星を集めた歌。漢字「廉い(やす)」を初めて知る人も多かったようです。土星は地球よりも巨大な天体だから作者の中でどんな大きさを希望するのか知りたいという声がありました。

・水銀柱上昇中の路駐車でチュートリアルをいま通読中     雨宮司

・御中と書くたびWantYou! ごきげんなシャウトで跳ねる中のひとB  雛河麦   

狂騒曲のようだ、Bは一個人の中の別人格ではないか、という意見がありました。実際にこういう書き間違いをする人もいるらしいですね。ともかく笑えれば、次へ進めそうです。

・うろの中に釦光れりあえかなるK植物園のかくろえ     雀來豆

・熊蝉の合唱の降る只中に我立ち尽くす 深い青空     雨宮司

結句の「深い」は色の濃さではなく距離感である、心の奥深くにある空ではないか、玉音放送を聞いているのでは、などのコメントがありました。立ち尽くす理由は書かれていません。

以上、九首です。


# by kaban-west | 2023-08-31 16:03 | 歌会報告
2023年 07月 07日

2023年 文月歌会 報告

かばん関西七夕中之島歌会記
       
◆とき  七月二日(日曜日)午後一時から五時
◆ところ  大阪市立中央公会堂 第六会議室 

◆参加者
雨宮司、有田里絵、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、沢田二兎(所属なし)、雀來豆(所属なし)、ちば湯、蔦きうい(所属なし)、雛河麦
・・・お名前の後に記載がない方はかばん正会員です。

詠草の後のカッコ内にあるお名前は、その歌を選んだ人です。とはいえ、みんなで詠み進めるうちに評価が変わる歌もありました。「あれ、どうしてさっきこの歌を選んでいなかったんだろ」という声も聞こえてきました。場の力が働くと、それぞれの歌の読み方や印象が一気に変わることがしばしばあります。

今回の兼題は、とあるボサノバ歌手の訃報を聞いた日に決めました。当日配布した詠草一覧の順に挙げています。

◆兼題「夏の音」

・ダクダクと水風船の水ゆれて天地創造前夜は嵐   雛河麦
(雨宮、有田、久保、雀來豆、蔦)
夏祭りで売っている水風船の揺れ方をみなさん思い出しながら手を揺すっていました。「ダクダク」という表記はとても分かりやすいです。手の中に天地創造が入っているスケールのおもしろさにも評価が集まりました。

・水の音塩素の匂い眼下から挙がる喚声「俺も入りてぇ」   雨宮司
(なし)
一読してプールだと理解できます。にぎやかな歓声ではなく「喚声」であることに対して、職場の辛さや苦笑いするほどの暑さが伝わるという声がありました。

・カルピスの氷を突つくマドラーに駄メン逹(ズ)ごのみと語りかけにき   蔦きうい
(有田、黒路)
空っぽのぼくたちがいて三ツ矢サイダー遠い過去から聞こえる夏の音  黒路よしひろ
(久保、雀來豆)

・炭酸水ばしゅばしゅ鳴らすひねる度ペットボトルに夏を閉じ込め   ちば湯
(小川、雀來豆)
遠くからいらしてくださったちば湯さん、ありがとうございました!擬音に頷きながら手元のペットボトルを触る参加者がいました。「結句は、閉じ込めて、にするのもいいのでは」という意見がありました。

・とけながら小さく呼べり水出しのコーヒーのグラスに氷は  小川ちとせ
(有田、黒路、沢田、雛河)
「小さく呼べり」と倒置法によってやさしく控えめな印象になり、抒情性が増しています。

・風に乗りとぎれとぎれに聞こえくる笛と太鼓に耳が踊るよ   久保茂樹
(有田、沢田、ちば湯)


・風なくて涼しさを買う街々に花火が咲いてやっと八月  沢田二兎
(雨宮、蔦、ちば湯)
「涼しさを買う」はあまり見ない表現です。「街々とあるから、ビル街とかオフィス街で、買うというはっきりした表現が合っている」という意見がありました。結句の「やっと八月」もその通りです。暑さに対しても、年月に対しても実感が伝わります。

・素麺を締めるけはいは簾ごしに男の拗ね息におわせてくる    蔦きうい
 (黒路)
「拗ね息」とは拗ねて気だるい溜息をついているけれど、たぶん仲は良いのだろうという考えで参加者は一致していました。
またその場にいた全員が「簾ごし」を「みすごし」と読んでいましたが、一般的な読み仮名は「すだれ」です。短歌に触れている人が集まるとこういうことが起きるのだという、ささやかながら興味深い例でした。

・かき氷少し黙って食べようかしゃくしゃく音もそれぞれ違う   有田里絵
(久保、沢田、ちば湯、雛河)
登場人物は何人でどんな人間関係かを各自が想像していました。恋人同士、部活帰りの学生たち、家族、どれでも読めます。

・しろたえの泰山木のあかるさに満ちて夜禽は声たてており   雀來豆
(雨宮、小川、蔦、雛河)
「しろたえの」は枕詞ではあるものの、タイサンボクと夜禽が織りなす光景に白は似つかわしく、絵本のような情景を好感を持って受け止める人が多くありました。

以上十一首

◆自由詠

・しづかやしきれいけどちよつといけずかな阪急電車夙川越える   久保茂樹
(黒路、雀來豆、雛河)
久保さんご本人の声で披講してもらうのがいちばんふさわしい歌です。「いけず」と「夙川」の選択がぴったりです。

・汗しとど力にまみれ清掃を続ける身にはまあありがたい  雨宮司
(ちば湯)

・両の手は花火に合わせ開かれり 薄紫の浴衣、補聴器   有田里絵
(小川、沢田、雀來豆、雛河)
身体的にそういう立場の人がいるのだとは伝わったものの、詳細は詠み手の想像に任されることになった。

・ごめんねの代わりにくれた甘栗の赤い袋をかかえて帰る  雀來豆
(有田、小川、久保、沢田、蔦、雛河)

・見え透いた恋の駆け引きにも嫉妬してチョロいおとこになってしまった  黒路よしひろ
(雨宮、蔦、ちば湯)
 「自虐的なようで、さみしさが強く出ている」「チョロいは何度か読んでいるとおもしろくなってくる」という意見がありました。

・クチナシの花の黄色く萎れてはドジソン先生アリスを失くす   ちば湯
(雨宮、有田、雀來豆)

・ドーナツのまん真ん中をぬけていくあの日の匂い甘い夕焼け   沢田二兎
(黒路、蔦)

・ワレワレハ、ウチュージンダの宣言を笑って聞いている扇風機   雛河麦
(雨宮、小川、久保、沢田、ちば湯)
「これ、やったことある人?」と質問するとみんなイエスと答える参加者でした。

・世界中の悲しみ映す窓を閉じ歯ぐきのための歯みがきをする  小川ちとせ
(有田、久保、黒路)
窓については、「パソコンの画面でしょう。テレビだと弱いかな」という意見がありました。それでも、せめて、自分一人の健康は何とか守ろうとする姿勢にしみじみと共感が沸きました。

以上九首


# by kaban-west | 2023-07-07 15:54 | 歌会報告