2015年 09月 12日
かばん関西8月オンライン歌会記 〈参加者〉あまねそう、雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、岩井曜、岩崎陸(購読)、泳二(ゲスト)、小野田光、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、塩谷風月(未来/レ・パピエ・シアンⅡ)、杉田抱僕(ゲスト)、橘さやか(ゲスト)、蔦きうい(玲瓏・選歌のみ)、土井礼一郎、とみいえひろこ、浜田えみな(購読)、ぱん子(ゲスト)、福島直広、ふらみらり、兵站戦線(かばん/塔)、山下りん(ゲスト・選歌のみ) ※兼題は「少年」。夏は少年が活発に動く季節。あまねそう氏の出題に、二〇首の短歌が寄せられた。今回は五首選だが、そのうち一首のみは特選歌として二点を入れねばならない。予想に違わず、多様な読みが提示された。 01 磐ヶ根に少年のごと腕組めば大地を舐る野火の広がり 兵站戦線 02 恋をしに行くのは蝶を捨ててから あなたも争いも父も憎んだ とみいえひろこ 03 僕の中の十五の少年だけが君のことを今でも好きだと言った 土井礼一郎 一首目。少年の持つ野望や根拠なき自信などが伝わるという意見と、挙動からは少年らしさが伝わらないという意見に二分された。壮大な感じを評価する声もあった。 二首目。下句の座りの悪さを気にかける意見と、幼年期との別れと愛憎の芽生えを評価する意見があった。やっぱり、憎むのは愛するからでしょうかね。 三首目。大人の仲間入りの準備をする年齢のみが愛情を残しているのを評価する意見もあったが、変則的なリズムに異を唱える者が多数を占めた。リズムを意味ではなく文節で切れば、まだ読みようはあると思うのだが。 04 りゅうせいは水鉄砲へまっしぐら自分が少年だとは知らずに 有田里絵 05 少年は少年同士愛し合い美少年はもう残っていない 橘さやか 06 ときつかぜ巫女吹く笛のねもころに少年よわが腕【かひな】に眠れ 黒路よしひろ 07 いつだつてBでしかない僕だつた少年Aには決してなれず 新井蜜 一首目。「りゅうせい」は流れ星と男の子の名前を掛けているのだろうか。迷いに迷う者が続出。自分は少年だという自覚がないのが少年の証、との意見も多かった。 二首目。BL的という意見も少なくなかったが、世界的に同性愛が認められつつある時期にこの短歌を詠む意義は何かという提言もあった。美少年といえば竹宮恵子や萩尾望都を連想する世代からは、類似性を感じるという意見もあった。 三首目。いつもは趣味の世界に走りがちな作者がついに本気を出した。文語を使いこなした流麗な短歌だが、残念なことに佐佐木幸綱氏の「泣くおまえ抱けば髪に降る雪のこんこんと我が腕に眠れ」との類似を指摘する声があった。 四首目。主役になれなかった人物を詠んだ短歌との考察が相次ぐ。「少年A」との記述から、犯罪や時事との関連を踏まえる意見もあった。 もうどこか行ってしまった 木洩れ日をうけた心に立っていたのに 岩崎陸 倒れないよう押しあって僕たちは真夏さびしい思念となりぬ ぱん子 いたずらに飲んだビールが美味くなり未来の縁は遠く離れた ふらみらり 少年は荒野を目指すものなんだたとえ幻の地であっても 雨宮司 一首目。上句と下句のどちらを重視するかで意見が分かれた。一字空けの効果を疑問視する意見もあった。 二首目。具体がほとんどない点、また「さびしい思念」という語をどう評価するかで意見が割れた。 三首目。上句と下句の結びつきに納得できない者が多かった。特に下句でなぜ「遠く離れた」のか理解に苦しむ者、多数。 四首目。フォーク・クルセダーズの「青年は荒野を目指す」を思い出す者が多かった。まあ、知らなくてもベタなフレーズなわけですが。断定の受け取りようで評価が変わるとの指摘あり。 着替えだすプール授業の五時間目「うわ!つよっちゃんちん毛生えとる」 福島直広 初めての夢精で醒めた夏の朝それが何かも知らずに恥じて 塩谷風月 産毛とも陰ともつかぬ淡いひげ不意に気づいて二度見する朝 浜田えみな 性徴三首。一首目。直截的なまでにストレートな表現をどう評価するか。一大事件の瞬間だけに終わっては勿体ない、妙にぼかすよりはいい、状況説明に終わったのが惜しい、明るいのがいい、等の評価があった。 二首目。夢精をどう詠むかが問われる。醒めた眼で記憶を掘り起こしている、題材の割には爽やか、下句が少年期特有の軽い混乱を記している、等の肯定的な意見に対し、下句でもっと混沌を表現できないか、どこかで聞いた感じ、等の意見があった。 三首目。髭がうっすら生えてきた。作中主体は男子当人でも男子を見る大人でもいい強みがある、との指摘の一方、男子ならほとんどあるある系の短歌、髭ではインパクトに欠ける、髭は成長した感慨よりも面倒くささが先に感じられる、等の意見があった。 夏いろは坂のいきぎれ見あぐればまはる日傘の笑顔の匂ひ 小野田光 ぬかるみで発見された少年の靴跡は僕ではなかったか 泳二 ツバメ高く飛び去るように朝は来て今日はナツ子と遊ぶ、砂場で 岩井曜 一首目。夏の日の美しいひとコマを切り取っているという意見、多数。おそらく日傘の主には憧憬に近い感情を持っているのだろう。二句と結句で体言止めが使われているのが標語のようだという意見もあった。 二首目。靴跡が何を意味するのか。作中主体はもう少年ではない、問いかけ文体に弱い、ぼんやり考えるには合った文体、揺らぐ心こそ少年のもの、という肯定的な意見があった。「僕」が何かに巻き込まれているのではないかという意見、複数。 三首目。言葉にするよりもずっと速く確信する少年の生命力に惹かれる、ナツ子は女子であると共に夏を擬人化したものか、「砂場」で少年より幼く思える、上句の比喩が気持ちいい、等の意見があった。 夭く稚く熱く冷たき夏がある理屈ぢやないと叫ぶ眸に 佐藤元紀 カルピスのイメージカラーは茶色だと瓶で育った叔父さんと夏 杉田抱僕 窓二枚隔てた我と少年と夕立見つつたまに目が合う あまねそう 一首目。自分で処理しきれない世界を懸命に見ようとしている、恋愛を知ってしまったのか、言葉にできない灼熱の塊を内包していてぎらぎらしている、との意見があった。「夭」という字は若死にという意味があり不吉、わかったようなわからないような表現、読みが難しい、上句の言葉の並列の必然性・関連性がつかみにくい、等の指摘もあった。 二首目。上句の爽やかさと茶色や叔父さんのイメージとのギャップが面白い、イメージは青と白だった、ジェネレーションギャップの捉え方が面白い、等の意見があった。一方、夏がとってつけた感がある、広告のコピーみたいな感じが気になった、等の指摘もあった。 三首目。最高得点歌。我と少年とのシチュエーションがいい、「我」が少年と同年代の少女か年上の男性かで印象が変わってしまう、向かい合う二軒の建物の窓から外を眺めているのか、「我」と少年との間に色々な関係性が想像できる、「我」は女性か、自身の少年期との邂逅か、等の意見があった。一方、これからドラマが始まるのでは、ボーイ・ミーツ・ガールの典型、等の指摘もあった。 以上、八月のオンライン歌会の要約をここに記しました。 かばん関西は年齢・性別・職業・居住地不問の自由な集まりです。興味を持たれた方は、お気軽にメールでお問い合わせください。(雨宮司・記)
by kaban-west
| 2015-09-12 23:28
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