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2016年 07月 15日
かばん関西5月オンライン歌会記 参加者】雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、岩井曜、うなはら紅(購読)、泳二(ゲスト)、小野田光、ガク(購読)、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、塩谷風月(未来/レ・パピエ・シアンⅡ)、雀來豆(未来)、十谷あとり(日月)、杉田抱僕(ゲスト)、橘さやか(ゲスト)、足田久夢(玲瓏/購読)、土井礼一郎、とみいえひろこ、ぱん子(未来)、ふらみらり、ミカヅキカゲリ、村本希理子 進行役の塩谷風月さんが提示した兼題は「風」。今回は参加者それぞれが正選五首のほか逆選三首をえらぶという形式で進められ、いつもより辛口のコメントも多かった。 港から山の街電車たちにもキスをしてゆく風の唇 うらはら紅 はつなつの風を支ふる柱なれ中央分離帯の欅は 十谷あとり さびしげな風景見せられ眼球に風受けて出る〈すまいる眼科〉 村本希理子 はじめに街の情景を詠みこむ三首。うらはら紅さんの歌では、まず海から港を通じ「山の街」へと風が吹き抜け、人の住む街中で「キス」をする。「港、山、風、といったら神戸を思います。阪急電車。でも阪急電車のシックな感じよりもっと爽やかな印象」(とみいえ)。「風の唇」といった率直な表現は高評価だったものの、結果としては案外逆選が多く、リズムの乱れ、特に句跨りの効果が不明だとする意見が多かった。二首目。街に吹き寄せた風は大通りに入り、「中央分離帯の欅」に支えられながらさらに進む。この把握の仕方は短歌ならではだろう。「立体としてとらえる発想、分けるものではなく支えるものとしてとらえる発想に新しさを感じた」(岩井)。三首目。街に吹く風はやがて人々の暮らしのそばを巡る、などと書きたいところだが、この歌の、眼球に吹き付けられるという風に対しては「眼圧検査ですね」(小野田)といった指摘が複数あり、なるほど納得。「さびしげな風景」は焦点距離の検査の際に見せられる映像のことだろうか。 春風に君のイヤホン抜け落ちて僕と目が合うはじまりの朝 岩井曜 正座せし汝のあしうらに風とまる五月闇 攫われてしまうの とみいえひろこ 恋愛感情を描くのがこの二首。風のいたずらに恋の芽生える岩井さんの歌。コメントを見ると高校生の恋愛をイメージしたという方が複数おり、それは「春風」とした効果か。ただ「下の句はベタと言えばベタ」(黒路)、「漫画の一場面のようで『どきどき』に欠ける」(足田)といった意見も。一方のとみいえさんの歌では同じ恋を扱うにしても雰囲気ががらりと変わる。「汝のあしうらに風とまる」というとそれはもうきっと「風」ではなく風に託された視線か感情なのだろうか。四句目、五句目の句跨りを通じ一気に感情が高ぶらせていく。「激しい恋の予感」(足田)、「着物に慣れた女性を想像します」(有田)。 波の上【へ】を跳ぶ兎たち見るのだと髪なびかせて磯に立つきみ 新井蜜 西からの生ぬるい風髪に受け鬱々と浮かぶ妹が横顔 ガク 生ぬるい風にふかれて歩く日のあれは筑波の山だねきっと 橘さやか 一首目は弾け飛ぶ白波に兎のかたちを見出そうとしているのか。風の存在は波とともに「髪なびかせて」で示される。「〈自分にとってのかわいい者〉への目線のやさしさ、敬意を感じさせます」(とみいえ)。好奇心旺盛な年若い女の子の印象か。二首目も髪に風があたるのだが、「西からの生ぬるい風」だという。「妹」は「いも」と読ませ、妻を指しているのではとの指摘多数。一首目には「君」に対する羨望にも似た眼差しがあるが、二首目に見出すのは出口の見えない鬱屈した感情だ。「生ぬるい」は風の温度とともに、ふたりの将来に対する失望の象徴のように読める。偶然にも同じ「生ぬるい風」を詠んだのが橘さんで、しかしこちらは遠くの「筑波の山」を見やりながらのむしろさわやかなやり取りだ。「生ぬるい風の不快感、友達とのとりとめない話、ここではないどこか遠くに行きたい気持ち……そういうものが一体となったノスタルジーを感じます」(岩井)。 足早に歩める我を追い越して風がゆつくりなぶる夏草 泳二 草の原むせぶみどりのこくうすく心にぞしむ風のあけぼの 佐藤元紀 風薫る五月、あなたはこの風のなかにいますか。そのものですか。 杉田抱僕 一首目。「我」を追い越した風は、さらにその存在を裏付けるかのように夏草を揺らす。逆選のコメントは「足早」「追い越して」「ゆっくり」の整合性を問うものだが、「『足早』になっても追い越されてしまう、つよい『風』からの圧倒的な暴力の匂いが恐ろしくていい」(ぱん子)と、このズレを積極的にとらえるむきも。二首目は広い草原。「風の撫でる草の原をみどり色の色彩の変化で表現した」(黒路)。ただ「こくうすく」という色の濃淡が出るのは日中のはずで、「風のあけぼの」とした違和も指摘された。三首目。「『千の風になって』を思い出した」(岩井)というように、これも広々とした空間を吹き抜ける自由な風だが、具体的なモチーフは見あたらない。「短歌というより自由詩の雰囲気」と有田さんも言うとおり、杉田さんの「風」は短歌を心地よく裏切る。 油凪 風のひとつも吹いてくれぼやきながらも餌を取り替える 雨宮司 たまづさの君に恋文かきつばた甘樫池【あまかしのいけ】のそよ風に揺る 黒路よしひろ 一首目。釣りだろうか。「油凪」はあぶらを満たしたようにまったく波の立たない様子。「風のひとつもふいてくれ」との重複を指摘するむきがあるが、とぼけたおもしろさも感じられる。二首目。この歌には雨宮さんが「ずいぶん古典的なレトリックを用いているが、たまにはこういった短歌も必要」とおっしゃる。「たまづさの」は手紙を運ぶ使者であるところの「使」や「妹」、あるいはその届け先の「君」にかかる枕詞として知られる。さらには「恋文書きつ」「かきつばた」と掛けことばを採用。技巧的な上の句から池のほとりのカキツバタが風にそよぐ下の句へ至り、清涼感が強調される。 室内用鯉のぼりセット売られおり泳がなくても子がいればよい 有田里絵 向かい風 おのれの力量ためすごとのしのし歩き叫ぶおさなご ふらみふらり 誘われて出かけなかった日の暮れに風呂場の猫を洗って遊ぶ 雀來豆 こちらの一首目も、泳がない「室内用鯉のぼり」=風の不在を巧みに用いる。「純粋に子供への愛情が感じられるこの歌は評価されていい」(黒路)。ただ歌の内容は至極真っ当な反面、ひねりがないという指摘も。この歌、鯉のぼりを泳がす庭がなくとも子どもがいる幸せをしみじみと感じているととる方が多かったが、例えば子が欲しいのになかなか授からない夫婦が主体とみれば、あえて正論のみの詠いようにも深みが感じられる。二首目。同様に子どもを詠むが、こちらは向かい風を正面から受け「のしのし歩き叫ぶ」という愚直ともいえる表現が子どもの生命力を強調している。最後の歌は必ずしも子どもが主体ととらえなくてもよいのだが、毎日がとてつもなくゆっくり過ぎていった子ども時代に引き戻されるような不思議な魅力がある。今回、正選はこの歌が最も多かった。「誘われて出かけなかった心残り、そう思いながら日が暮れてしまったさみしさ、後ろめたさ」(泳二)。「風呂場」に兼題の「風」を見出すが、村本さんの「家の中は無風で、出かけていたら会っていたはずの風はここにはない。心のわだかまりが外の風を作中主体にかすかにイメージさせている」との指摘にはなるほどと思う。 (土井礼一郎 記)
by kaban-west
| 2016-07-15 21:03
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