かばん関西歌会

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2017年 04月 01日

2017年3月歌会記

かばん関西 三月オンライン歌会記
             

【参加者】(敬称略、五十音順、表記なしは「かばん」所属会員)雨宮司、新井蜜(かばん/塔)、有田里絵、泳二(ゲスト)、戎居莉恵、ガク(購読)、黒路よしひろ(ゲスト)、河野瑤、漕戸もり、佐藤元紀、雀來豆(未来)、十谷あとり(日月)、杉田抱僕(ゲスト)、足田久夢(玲瓏/購読)、土井礼一郎、東湖悠(ゲスト)、とみいえひろこ、東こころ(かばん/未来)、ミカヅキカゲリ
余寒厳しきなかで泳二さんは「早春」の題を出した。しかも「春」の字の詠み込みの禁止といふ条件付で。これは各自の早春感が一首に表れるといふ点で実に魅力的な出題であり、実際の出詠も多岐に亙るをもしろいものとなつた。オルガナイザアとしての泳二さんにまづは感謝したい。
以下、その兼題の部の歌を取り上げる。
雲を押す風のにほひと黄水仙新聞紙に包みて呉るる      十谷あとり
終バスも去った団地の街灯に鬼まかり通り花冷えの夜       河野瑤
手袋を外せば風に撫でられて花びらとなりひらひらと手は    漕戸もり
まだ息が白いうちは冬だって笑えば光の差す通学路       杉田抱僕
入試まであと二週間消しゴムのケースの端をぐっと折りこむ   有田里絵
おひなさま古い木箱に仕舞うのを娘の胸で見ているジェニー    雀來豆
絶賛評の嵐となつた一首目。上二句の美しさと早春を象徴する黄水仙の強いイメージに新聞紙の具象性が加はり、風のにほひと黄水仙を新聞紙に包んで相手に渡す、といふ見事な抒情で読み手を魅した。今回の最高得点歌である。二首目も高得点歌。四句目が印象深いとする評が多かつた。抑へた表現と幻想的な情景が胸に沁みる、とも。ただ「花冷え」が早春ではないとする指摘もいくつか見られた。三首目も手袋を外した手を風が撫で、下句との見事な続けがらによつて早春の表象と結びつけられてゐるのが美しいとする評が相次いだ。かういふところへの着目にはつとさせられる。「キラキラしてて、とにかくキラキラしてて」といふ評も寄せられた四首目は、上句に早春を浮かばせて下句の「通学路」に繋げるところが評価された。五首目は共感が続々と集められた一首。早春の風物詩、否、一大事である入試が迫る上二句の切実感と結句の緊張感が絶妙に結びついてゐる。六首目、ジェニーについて人形か別のものか読みがわかれたが、やはりここはタカラトミーの人形としてジェニーを読みたいか。雛人形とジェニーの対比を評価するものが多かつた。
憶良らも旅人も居りし万葉の巻五は楽し梅の宴【うたげ】の    黒路よしひろ
軽くなれ衣とともに心まで陽射しのなかに憂いを溶かす        戎居莉恵
やわらかなパステルカラーの新作がまぶしい二月末のデパート      東こころ
一千万台目のこたつを片づける僕らのおばあちゃんのまばたき    土井礼一郎
三ヶ月歩いた桜並木咲く季節を前にここを去ります            東湖悠
深夜二時 山に登れば雪はまだ見られるだろう コーヒーを飲む     泳二

『万葉集』巻五の楽しさを、旅人宅の梅花宴の歌に早春を託し同巻で大活躍する憶良も絡めた一首目は、評価は集まつたが過去を示す「居りし」へのひつかかりと結句の安易さを指摘する声も少なくなかつた。因みに有名な「憶良らは今は罷らむ」は巻三所載である。冬服の重みからの解放を心の解放へと結びつけた二首目は、キャンディーズの「春一番」を想起させるといふ意見があつたが、暖かさを感じさせる下句の抒情に評価が集まつた。早春の百貨店の情景を爽やかに詠じた三首目は、その爽やかさを示す言葉の組合せに物足りなさが感じられるといふ評も一方で目立つた。四首目は強烈なイメージを与へる初句に込められた長大な時間と結句との対比に面白さを見るか一首の内容への戸惑ひを感じるかで評が分かれた。初句の「三ヶ月」がドラマを感じさせて印象深い五首目は、その初句から様々のドラマを読み手に想像させる一方で「桜並木」と「咲く季節」が着きすぎて窮屈になつてゐるといふ指摘もあつた。一字あきが二つ置かれた六首目は、その設定や二句目から四句目までの心情への理屈つぽさや唐突さが気になるものの、そこに思ひつきのリアルさやぶつきらぼうさを魅力として感じるといふ読みも提出されたことが趣深い。
萌え初めしあはき翳りはさやさやとさびしき丘に吹かれゆれをり   新井蜜
葉を揺らす風はさやかに縁側の猫はひねもす夢の彼方へ          ガク
リスタートできる気がして新しい講座に色気今は全能     ミカヅキカゲリ
まだ耳に3.11の風の便りペットボトルが易しく光る       とみいえひろこ
耕したばかりの田へと嫋々と雨降る夜明けつややかな土         雨宮司
須磨塩屋垂水と走る浜風の青めるなかをさゆるさざなみ      佐藤元紀
 早春に萌え始めた翳りといふ感性の冴えが光るモティフが詠はれた一首目は、その独特の感性と表記の美しさに惹かれる評とともに、四句目の「さびしき」が気になるといふ意見も出された。縁側の猫が夢の彼方へ行つてしまふ暖かさが心地よい二首目は、綺麗ながらも常套的・詠みつくされた既視感と題である「早春」の弱さが多く指摘された。上二句に活き活きとした早春を感じさせる三首目は、それが「色気」を経て結句の「全能」へと続いてゆくところに面白さが感じられるが、その表現で解釈に悩んだりその速度にどたばた感を抱いてしまふといふ評もあつた。四首目は点数は別として様々な読みが寄せられた一首。ペットボトルといふ極めて卑近なものと東日本大震災との結びつきへの評価は勿論のこと、「優しく」ではない「易しく」に違和を見るか被災地との温度差を読むか、更には上句の甘さなど、様々な角度からの指摘が相次いだのが印象深い。いきいきとした土の匂ひを感じさせる抒景が好感を呼んだ五首目は、腰の「嫋々と」がその景色にあふかそこに頼りすぎてゐるかといふところで評が分かれた。
今回の題の指定は、古典和歌以来の季題といふ強い縛りの一方で、今日の短歌としてそれぞれの個性をそこに思ひきり込めることで、実にバラエティに富んだ歌が満ち、それに対する読みも実に興味深いものが多く、盛会を導くものとなつた。また、「春」といふ広いものでなく「早春」といふことでどれだけ繊細な季節感を各自が持つてゐるかが問はれたのも確かである。冒頭に記したが、その意味でも泳二さんの今回の題指定は実に絶妙だつた。また、それだけの幅広い読みが提示されることで、自分の読みが如何に粗かつたかを反省させられたのも自分には大きな収穫となつた。今後ともかういふ歌会が活発に続くことで、それぞれの歌の力は確実にあがつてゆくとおもふ。更に多くの方の参加を願ふ次第である。
最後に、自由詠の高得点歌を挙げておく。
まひるまのピラフにスプーン突き刺してきみはきみどりいろだけを抜く   東こころ                 
からからに乾いた冬の街中で目立たず座れそうな月だよ          有田里絵
深夜まで朝刊を置くコンビニで一日遅れて世の息をつく            河野瑶
妣はだんだんひろがつてゆくがらんどう 陶の匙もて苺をつぶす     十谷あとり                              
(記/佐藤元紀)


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by kaban-west | 2017-04-01 14:21 | 歌会報告


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