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2017年 05月 08日
かばん関西 四月オンライン歌会記 【参加者】あまねそう、雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、岩井曜(ゲスト)、戎居莉恵、ガク(購読)、黒路よしひろ(ゲスト)、河野瑶、漕戸もり、佐藤元紀、雀來豆(未來)、杉田抱僕(ゲスト)、足田久夢(かばん/玲瓏)、土井礼一郎、とみいえひろこ、福島直広、ふらみらり、本田葵 ※所属表記なしは「かばん」正会員。 桜や桃の花が心惑わす、かばん関西四月メーリングリスト歌会。歌会係の福島氏より提示されたお題は、エイプリルフールを念頭に置いた「嘘」。普段、滅多に嘘などつかない者や、嘘しか言わない者など、個性豊かなかばん関西メンバーが織りなす「嘘」の競演をお楽しみください。 イメージで今日はさんにん殺したわガストの窓にわらってみせる 足田久夢 まずは足田氏による女性の強がりの「嘘」を詠った一首。「二つのカタカナ語、ひらかなへの開き方」の巧みさへの評価、「いたずらっぽい女の子が主人公の冒険物語のオープニングのようなわくわく感も読む者に抱かせる」など、好意的な評が集まった。「さんにん殺した」との表現には残忍さを感じ取るとの意見や、あくまでもイメージ、心象として楽しむ意見など評が分かれたが、街詠な感じがすごく合っている歌と言えるのではないだろうか。 一方で、「初句で上句が作り物になってしまっている。下句のチープ感のリアリティを活かすにも初句はもっと鋭い嘘にしてほしい。」など、「イメージで」と言わなくても嘘だと十分に伝わる初句への問題を指摘する意見もあった。 高速の下は潮騒 鳩の糞飛び散る数の嘘を吐ききて とみいえひろこ つづいて、とみいえ氏による嘘の数を飛び散る「鳩の糞」に喩えた感性が秀逸な一首。 「上二句が夢のようなつまり嘘のような感触であり乍ら音を伴ううつくしいリアリティがあり引き込まれる」、「腰以降の対照的な卑近粗雑な描写と抒情が結びついて題を活かした見事な一首」、などの好意的な評を集めて、今回の兼題の部における最高得点歌二首のうちの一つとなった。 一方で、上の句から下の句の激変ぶりの面白さを評価しながらも、描いている景のイメージの掴みにくさや、初句、二句のやや雑な感を指摘する意見も出て、様々な評が集まる歌会の魅力も感じさせられた。 吸殻と右の眉毛に気を付けてそういうトコで見破られてる 本田葵 今回初参加の本田氏による、プロファイリング的な内容が魅力の一首。「あるいは浮気などの嘘かとも思われるが、吸殻はともかく右の眉毛という意外性のある組み合わせでこの歌もまた見事に成功しているように感じた」、「嘘をつくと右の眉毛(まぶた)がぴくぴくと動く癖のある人物なのだろうと解釈出来るが、その様を想像してみるのもまた楽しい歌のように思う」など、想像力を掻き立てられたとの好意的な評が集まった。 一方で、面白い視点を評価しながらも、「嘘」の歌としてはストレート過ぎであるとの指摘や、「もっとフェティッシュな仕草でも面白そう」との意見もあった。 嘘をつこうどんな嘘をと思ううち四月一日の夜更けとなれる 雨宮司 こちらは雨宮氏による、そのものエイプリルフールを詠った一首。雨宮氏のことを少なからず知る筆者としては、四月一日の毎年の雨宮氏がそのまま歌に表れていて微笑ましい。 そんな「誰もが共感できるエイプリルフールの内容だからこそ、歌としては驚きの部分が欠けてしまっているように感じる」、「歌としては、やや平板、もうひとつ、要素が足りない」など、そのまますぎる部分への指摘もあった。一方で、「嘘が思いつかなかったというより、嘘をつく相手がいなかったんじゃないかなあ」との主体のさみしさを読み取った好意的な評もあり心に残った。 本当に嘘だつたのか「うそよ」つて言つたのがウソと思つてゐたが 新井蜜 嘘、うそ、ウソ、の使い分けと旧仮名がたのしい雰囲気の新井氏の歌。発言そのものが嘘なのか、それを否定する「うそよ」こそが嘘なのか、正確に判断できないエイプリルフールの思わぬ落とし穴。そんなおそらく深刻な状況でありながらどこかユーモラスを感じさせる作風を楽しむ評が集まった。 反面、面白い措辞を評価しながらも、「しかし、ひとつ要素が足りない。或いは、具体的なイメージを伴う言葉をひとつ補って欲かった」との意見もあった。 世を避ける言葉はうまくなったけど空気に少し朱色がまざった 河野瑤 自罰がこころに血を流すのか、次々と死んでいく真理の妖精たちが大気に滲んでいくのか…そんな青にまじわる朱色の無残な様を詠った河野氏の一首。「下句が微妙な感覚を表している。真つ赤な嘘とまではいかないヴァーミリオンが上句と照応して共感を生む」など、下句の個性ある表現を中心に好意的な票を多く集めた。 一方で、上句の「世を避ける言葉」のわかり難さを指摘する意見もあり、歌の中の表現における個性と違和感のバランスについても考えさせられた。 盛り過ぎと嘘の境目空き箱がダウトを叫ぶまで止められぬ 有田里絵 盛り過ぎと嘘の境目を詠った有田氏による愉しい一首。就職活動の面接をイメージした歌だろうか。他にも、「盛り過ぎ」という表現には化粧も想起するとの意見や、「空き箱がダウトを叫ぶまで止められぬ」という措辞に魅せられたとの、好意的な評を得た。「空き箱」を選択したことに対する疑問は多かったが、ただ、そんなチープな感じも好きだとする参加者もいて、読み手の心に残る歌となったようだ。 鳥籠に幕を被せて嘘の夜【よ】に目蓋を見せる青い小鳥は 漕戸もり つづいて漕戸氏による、幕を被せた鳥籠の嘘の夜と鳥の目蓋に焦点を当てて詠んだ発想が魅力の一首。 「青い鳥は世の嘘に眠らされているだけかもしれない」との想像を広げる者や、「青い小鳥の姿が、句が倒置されていることにより、読者の眼にくっきり浮かんでくる」などの評価を得た。他方、「題材はすごくいいのだけれど理屈っぽくなってしまっている」とする指摘や、「どこにも逃げられない青い小鳥が苦しそうで辛い」との共感を示す者もいて、その不思議な魅力に読みが広がった。 真意など問わず迎える新上司愛想笑いで十八時半 福島直広 福島氏による、異動の時期のタイムリーな歌。かばん関西には、あまり働き者がいないのか、今回この種の歌が少なかったように思うのは気のせいだろうか。サラリーマン短歌のコミカルな雰囲気を楽しみながら、愛想笑いをしている主体への同情の評が集まった。 一方で、「問わず、迎える、愛想笑いするの主語が新上司なのか主体なのか」をこの歌だけからでは読み取れないことに対する指摘や、「全体に、説明口調になっていて、そこで終わってるのが惜しい」、「もうすこし、歌のひろがりが欲しかった」、などの意見も出た。 僕たちは常に正しく生きるけどカラオケ店で偽名を記す 戎居莉恵 下句は個人情報保護の理由からか、自分もたまにやるとの共感が多く出た戎居氏の一首。 歌人の筆名にも同じ効力を託しているとの意見も多く、あるいは、われわれの多くが筆名(偽名)で短歌を詠んでいるということへのアイロニーと考えてもいいのかも知れない。 「一見、真実のように詠われている上句こそが嘘であり、下句こそが真実である」、との読みもあり、一首を掘り下げて読み解いて行く楽しさを感じさせてくれた歌でもある。また、「内容がそのままに近いために全体的に幼い印象を受けてしまう」、との指摘もあった。 「信じる」の裏の「疑う」程度には種が出てくる種なし葡萄 あまねそう 「信じる」という言葉の裏には「疑う」気持ちがわずかに込められているのだとの気づきを、種なし葡萄の種に喩えた表現が魅力の、あまね氏による一首。 大きな裏切りではないのだけれど、「あ、そうなの」という程度の残念な空気に陥ることは日常生活の中で結構ある、などの共感の票を集めた。また、「下句のリアリティが上句の説明調を救っている」との意見もあり、一方では、どちらかというならこの歌の場合は、「種なし葡萄」のほうを喩えにするほうが活きたように思う、との意見もあった。 夕影が静かに侵す図書室の嘘の記憶にばかり惹かれる 雀來豆 図書室は歌人に馴染みのある場所だからだろうか、短歌に詠みやすく、印象深い歌になること多いような気がする。 そんな夕影が静かに侵す図書室を詠った雀來氏の一首。「嘘の記憶」については、「自分が実際に経験したことではないのに、経験したことのように思えることをいうのだろう」、「美しく見えるものは全て虚構ということでもあるようで、その図書室の光景すらも嘘、という雰囲気を感じた」など、様々な読みが広がり、好意的な票が集まった。その一方で、「浪漫化した物語に想像は広がるが、その拡散が難といえば難」との指摘などもあった。 ロキソニン錠剤飲みて目を落とす史書に今宵も欺かれをり 黒路よしひろ 椎間板ヘルニアを患う黒路の一首。 ロキソニンで自分の体調を騙しつつ歴史書に逃げこむ。そんな「歴史もまた、現世の都合に良いよう書かれたものであるけれど、それに欺かれるのは心地よいことだ」など、作者の深層心理を読み解く好意的な評を多く頂いた。反面、「三句が、ただの繋ぎになっているのが勿体ない気がする」との表現の甘さを指摘する意見も出て、自分自身でも気になっていた部分だけに今回もまた良い勉強となったように思う。 もう何が本当なのか嘘なのか饒舌なひと瞳まん丸 ふらみらり 虚言癖のある人物を詠った一首だろうか。「瞳まん丸で饒舌ってすごく怖い」、「笑えないけど笑ってしまう」、など、ふらみ氏らしいそのユーモアな表現で参加者の印象に残った一首だ。他にも、「兼題の展開がストレート過ぎた感もあるが、これはそこが魅力だとも思う」との意見や、「瞳まん丸」がいかにも嘘くさい、などの評で読み手をとことん楽しませてくれた。一方、「四句目に共感がくるかどうか」を指摘する意見もあり、ユーモアと格調さのバランスの難しさについても考えさせられた。 我は衛門督の裔にてはつなつの空高々とくすむ緑よ 佐藤元紀 衛門督は禁裏の警備・巡検を司る役職だったらしいが、その末裔を名乗るという一首そのもので嘘をついた佐藤氏による歌(なお、柏木の末裔との本人談)。 「その嘘の壮大さに惹かれた」、「嘘を堂々と歌にしたこの手法は見事」など、いかにもな胡散臭い嘘の内容に評価が集まった。た、下句についても「広々とした、静かな景色を感じる」との評価も。一方では「我は衛門督の裔にて」はあり得ないことではないので、これだけの表現で嘘だと判断させるのは無理なのでは、との指摘もあった。 嘘なんてついたことない顔をして紺碧の空見上げるあいつ ガク 「紺碧」は吸い込まれるような深い青色のこと。そんな紺碧の空見上げる友人、あるいは恋人か?を詠ったガク氏の一首。 「実際に嘘などほとんどついたことのない相手だからこそ、主体にはそう感じるのだと思う」、「本当に嘘をついたことのない人なんじゃないかな、と思ってしまう」など、その青春ドラマのような爽やかさを評価する意見が集まった。 反面、そんな青春ドラマの定番の材料或は裏材料に対する物足りなさの指摘や、「紺碧」が作為的に感じられてしまった、との意見も出て、評の分かれる部分となった。 嘘をつくたび雪の降る街のあること幼な子に教える窓辺 土井礼一郎 土井氏による、今回の兼題の部最高得点歌二首(もう一首はとみいえ氏の歌)のうちのひとつ。 「嘘つきが多いと、雪かきするのが大変」、「春の今、この歌を読んだからか、とても響いた」など、少し癖のある題をきれいに読みこんだ作風、教訓から作られる物語とはちがう、物語のための物語が持つ美しさ、を評価する意見が多く集まった。一方で、歌としての魅力を認めながらも「句跨りの連続が、悩ましい。ここまでする意味は何か」との、表現への指摘もあって、ただ誉めるだけでは終わらない歌会参加者たちの真剣な姿勢が感じられた部分でもあった。 UFOを見たって電話は君からで(あっちの空には飛んでるのかな) 杉田抱僕 杉田氏によるSF風味の遠距離恋愛短歌。 「君がUFOを見たことを信じている、これくらいの受け取り方が気持ちいい」、「あっちの空には飛んでいるのかなと思うところに優しさを感じる」など、その主体(この場合は杉田氏自身と取るべきだろう)の純粋な心に共感する評が集まった。また、「電話のきっかけが欲しくて無理矢理な嘘をついたのだろう」との読みもあって、ほのぼのとした恋愛短歌を楽しませてもらった。 嘘だね、と跳ねた金魚に切り返す言葉うしない静寂が来る 岩井曜 岩井氏による一首。この歌も歌全体が嘘あるいは虚構の歌と読むべきか。「水槽の中にまで響き渡るような嘘に動物たちは耐えられない」、「上句でかわいらしく始まるのが、下句で静寂、と生真面目に閉じていてアンバランスさも魅力」など、 金魚に図星を指された主体の動揺に多くの票が集まった。 他方、「言葉うしない」=「静寂が来る」という意味なので、どちらかを省いたほうが静けさが立ったのでは、との意見も出て、複数の読み手によって提出歌が磨かれて行く歌会の魅力も感じさせられた歌でもある。 以上、春の花舞い散るかばん関西、狂乱の四月歌会記でした。 かばん関西では関西在住者にかかわらず広く仲間を募集しています。見学も自由ですので、興味のある方は是非、ご近所さまお誘い合わせの上係までご連絡ください。 (記/黒路よしひろ)
by kaban-west
| 2017-05-08 14:36
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