2017年 07月 01日
かばん関西 六月オンライン歌会記 【参加者】雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、岩井曜(ゲスト)、泳二(ゲスト)、ガク(購読)、河瀬ゆう子(自由詠のみ)、河野瑤、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、雀來豆(未來)、杉田抱僕(ゲスト)、足田久夢(かばん/玲瓏)、とみいえひろこ、ふらみらり、本田葵、ミカヅキカゲリ *表記なしはかばん正会員。複数所属の場合は( )内に斜線で区切って記載した。 毎月恒例のかばん関西オンライン歌会。その時々の季節を取り入れた歌をタイムリーに楽しめるのも醍醐味のひとつ。ようやく梅雨らしくなってきた六月歌会のテーマは「水」。司会進行を務める雨宮氏の叱咤激励のもと、今月も個性的な歌が集まった。 初夏【はつなつ】の水面に光る若鮎の姿さやかに風は吹きつつ ガク みなづきの水無瀬さみどりふたりきりはてなくかはす句にみなぎらふ 佐藤元紀 梅雨空は小さき影持つ水墨画 逸翁美術館の蕪村の 有田里絵 水たまり軽く飛び越えられたからもうすぐ梅雨が明ける気がする 泳二 季節を感じる歌四首。一首目、川面に光る若鮎の姿が美しい。既視感がある、作者独自の視点がないといった意見もあったが、浮かぶ情景の圧倒的な爽やかさは大いなる魅力。二首目、上句のリズムが心地よい。ふたりきりの世界の充足感に恋愛歌としての普遍性を感じたり、さみどりの世界に遊ぶ妖精のファンタジーを読み取った人も。三首目、梅雨の「雨」ではなく「空」に注目し、水墨画に見立てる視点が面白い。下の句は逸翁美術館(大阪府池田市にあるそう)に行っていないと共感しづらいという意見もあった。四首目、季節の移ろいを素直に詠んだ一首。理屈よりも気分を優先する軽やかさに、読み手も自然と明るい気持ちになる。 水鳥の行方知らぬが湖は面を閉ざし美しく待つ ふらみらり かはせみのあをに水沫【みなは】を思ふ陸地がどこまでもあかき惑星 足田久夢 鳥の歌二首。一首目、水鳥のいなくなった湖の凛とした美しさを擬人化して捉えた。静かだが緊張感のある世界が魅力だが、上の句がやや説明的、「美しく」が直接的すぎるという意見もあった。「『行方知らずに』というような表現だったら、擬人化された主語としての湖がこの一首を通しての主語になり『美しく待つ』に素直に繋がると思うのだが、今のままだと、『行方知らぬが』は湖の状態についての作者の判断と読めてしまい説明的な感じがしてしまう」(新井)など。二首目、「かはせみのあを」と「あかき惑星」の対比がダイナミック。「かはせみから俯瞰に転じて惑星へと視点を移すという展開、 あをとあかの対照、どちらも巧みで且つうまく効いている」(雀來豆)。「陸地」の句切れには賛否が分かれた。 体育は三人組が作れずに飽和水溶液の思い出 杉田抱僕 覚めぎはに歩く水際うちよせる波にひらりときみのあしうら 新井蜜 妹が家出した日はアスパラになりたいきれいな水だけ飲んで 岩井曜 青春を感じる歌三首。一首目、「飽和水溶液」という懐かしい言葉に惹かれた人が多数。三人組がつくれずにつらい思いをするという自身の体験を思い出した人も多かった。二首目、「覚めぎは」「水際」「波」「きみのあしうら」が夢のようにつながり、恋人とのかけがえのない日々を思わせる。癒されたり、死のにおいを感じたりと受け取り方は様々。「早朝の隣家から聞こえくるFMのような・・・なんだろう、癒される。というか、癒しをうたに求めている己を不意に見出して戸惑う」(足田)。三首目、アスパラのまっすぐさに「妹が家出」したことへの複雑な気持ちを見た人が多数。時制がややわかりにくいという意見も見られた。 河岸から石を投げれば連々と跳ねゆく水の上の葬列 雀來豆 さらわれた水蜜桃とパナマ帽知っているのは檳榔樹のみ 本田葵 水底【ルビ:みなそこ】に眠る墓標は沈船の姿を借りて我らに語る 雨宮司 喪失を感じる歌三首。一首目、石の水切りに「葬列」を見出した視点が見事。「水切りはいつときその姿を鮮明に焼付け、去つた後はなにもなかつた静まりにかへる。葬列も即ち人の死もそれを弔ふものも亦しかり」(佐藤)。二首目、南国を歌いながらその情景は不穏。すぐさま漱石の「夢十夜」を連想した人も多く、かばん関西メンバーの教養深さを感じた。三首目、戦艦大和を思わせる。「沈船は墓標のよう」ではなく、「墓標は沈船の姿を借りて」という表現がユニーク。結句の「我らに語る」は読者に委ねすぎという意見も。 国防を担ふるヘリの爆音に紫陽花の水玉は震へり 黒路よしひろ うたごえがかなしい国の水面【みなも】には紫陽花色が染みついている 河野瑤 憂国を感じさせる歌二首は、どちらも紫陽花が登場。一首目、紫陽花の水玉に注目した表現の繊細さが魅力。「担ふ」は四段活用なので「担ふる」は間違い、といった指摘があるのも、文語が苦手な身としてはありがたい。二首目、「うたごえがかなしい国」は様々な解釈が可能だが、読み手を惹き付ける力がある。紫陽花のはかなさ、色の移ろいやすさも似つかわしい。「読み手側に今素直にこの歌の世界に『浸る』いろんな余裕がない気がして、どこか読み手と詠み手のあいだにずれが生まれそうな歌だとも思いました」(とみいえ)という意見も。 水の中ここにいればあたたかいねつもはきけもきりはなされる ミカヅキカゲリ 手を濯ぐ水の音で目覚めゆきたり鞘を収める鈍痛のする とみいえひろこ 独特な感覚を詠んだ歌二首。一首目、ひらがなを多用しており、自らが水の中に溶けていくよう。水の中なのに「あたたかい」、熱や吐き気が「きりはなされる」という表現はユニークだが、作者の実感のこもった表現と感じられる。二首目、歌意はややとりづらいが、読み手が想像を働かせて読むことのできる一首。時代劇のワンシーンを思い浮かべる人がいる一方、ヘルニアの痛みを表現した歌という解釈も。 以上、かばん関西六月歌会記でした。かばん関西では関西在住者に係わらず広く仲間を募集しています。ご興味のある方はぜひご連絡ください。 (記/岩井曜)
by kaban-west
| 2017-07-01 14:46
| 歌会報告
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