かばん関西歌会

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2017年 11月 01日

2017年10月歌会記

[二〇一七年一〇月かばん関西オンライン歌会記]

<今回の参加者 16名>
雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、和泉海風(購読)、戎居莉恵、小川ちとせ、黒路よしひろ(ゲスト)、河野瑤、佐藤元紀、雀來豆(未来)、杉田抱僕(ゲスト)、橘さやか(ゲスト)、土井礼一郎、とみいえひろこ、ふらみらり、本田葵
★所属の記載がない方は、かばん会員。

今回は有田里絵さんの進行。いつもは兼題と自由詠各一首の組み合わせだが、今回は兼題二首で自由詠なし。兼題は名月に合わせて、「丸いもの」と「四角いもの」。興味深い詠草が集まった。

●丸いもの●

 できたての朝日を車輪にからませてまだほの暗い改札めざす  ふらみらり
 全面で支えないのは優しさかニトリで選ぶ円座クッション  有田里絵
 ふたりっきりでオレオつまんだ日を想い怪獣テムラはマンホール食む  土井礼一郎ㅤㅤ

 一首目。健全でエネルギッシュな感じが良い、端正な短歌だが下の句はリアルの表現としては少し弱いのではないか、比喩表現が適正な量、車両やそれをまもる人たちの営みへの一種の愛情を感じる、など、留保付きながらも好評価が相次ぐ。重複を感じる、との意見もあった。二首目。「ニトリ」ならと納得させるところが上手、上句が周囲の誰かのことと感じられる、下句は軽く流した感があって物足りない、等の意見があった。三首目。そう言えばオレオはマンホールの蓋に似ている、という意見、多数。怪獣テムラは創作らしい。「昭和の香りのする名」という意見も。一方で、同じテンションの言葉が並んでいるのが惜しい、という声も。

 ちはやふる神はおらねど白き声 点字ブロックに杖を響かせ  とみいえひろこ
 ドーナツの穴は食べずに取つて置き海の底ひのおまへをのぞく  新井蜜
 「あんまんほどまるいものはないよね」と笑う君とのコンビニ帰り  杉田抱僕  

 一首目。白い声とは白杖が放つ音か、点字ブロックの存在そのものを指すのではないか、等の意見があった。一字空けとカタカナ表記の為に上句と下句の表記が違う様に読めた、という意見も。二首目。知的で余裕があり、こちらが「のぞかれた」ような不思議な不安感、ほのかなあたたかさを持続させてくる、じつはドーナツの穴っていろんなことに使われているのかもしれない、成り立たない条件だからこそ空想としての面白さが活きている、ドーナツの穴は食べられないといふことを逆手にとつた一首、という好意的な評価の一方で、既視感がある、ドーナツの穴の歌には食傷気味との辛い評もあった。三首目。自身の中高生の頃と重ね合わせた評のある一方、上句にひねりがあってもいいのでは、という指摘も相次いだ。リズムのとりにくさを指摘した評もあった。

 ふたりきりふたりきりでも夏の夜をぼくらはまるい輪になって歩く  雀來豆 
 丸い丸い団子をずっと見ていたら総身に剛【ルビ:こわ】い毛が生え始め  雨宮司 
 夕焼けをまあるくつつむレガートがいざなへる宵のハンク・モブレイ  佐藤元紀

 一首目。リフレインがひらがなで、丸い感じを出せている、幼稚園児のような無垢な感じを受ける、輪は多人数でできるといふ観念が猶のこと初句のリフレイン「ふたりきり」を強調する、等の肯定的な意見が多かった。一方で、世界観の甘さが強調されすぎてしまったとの辛口の意見もあった。二首目。不条理短歌、なんか怖くて良い、前川佐美雄ちっくでぐいぐい引っ張られてしまう、等の肯定的評価があった。一方、面白いが結句の言いさしがうまくきまっていない、「剛い」はルビを付けてしまうと「怖い」とのダジャレ感が強調されてしまう、つまりなんなんだろう、等の辛口の意見もあった。個人的には、昔の少女漫画のテイストを採り入れたつもりだったが。三首目。音読すると四句目の字余りがなかなか良い、楽曲を知ったのちに読むと短歌の中にテナー・サックスのベルやトーンホールが光るイメージが浮かぶ、レガートという言葉はとてもまろやかで優しい響き、という言葉が相次ぐ。一方で、「まあるく」がやや甘い、もう少し音楽であることのヒントが歌の中にあればさらに良かった、との意見も。

 ゆさゆさと重たきものを抱えつつ青きひかりに照らされ歩く  橘さやか
 また喋りすぎて悔やんでわたくしは発狂しそうなベレーをかぶる  小川ちとせ
 見つけた!と生鮮売り場ではしゃぐきみ白雪姫のかじる林檎よ! 戎居莉恵

 一首目。まんまるな満月の光だったのでしょうか、という好意的な評もあったが、多くの評は丸いものが何なのかに集中した。イメージが湧かない、青きひかりの正体がわからない、LEDライトの照明か、妊婦の時にお腹に手を添えて歩いたのを思い出した、等、議論百出。ところで何だったのでしょうか。二首目。ベレー帽は自意識の象徴か、発狂しそうなベレーとは何か、繊細過ぎる者にとっては恥ずかしさや悔やみを隠すための必須アイテムでは、しゃべりすぎて自己嫌悪に陥る気持ちはよくわかる、なんだか食い違った感じがまたおもしろい、上句の切実且つ深刻な後悔が速度もて四句目に流れ込むところが出色、等、共感が相次ぐ。措辞はとても面白いが歌の中では何かおさまりが悪く感じる、発狂はなるのも治るのもそんなに生易しいものではない、という意見もあった。三首目。​個人的には面白いとは思うのだが、辛口の意見が相次いだ。誰の言葉か分かりにくい、主体の年齢が確定できない、毒林檎という物騒なものでなぜはしゃぐか、白雪姫の林檎は物語の中にあふれていてそんなに驚けない、等。

 世の中に色んな仕事あるものだ草間彌生の丸を塗るひと  本田葵 
 土曜の朝駅のホームですれ違う君のうなじの大きなほくろ  和泉海風 

 一首目。検索したら本当にいるらしくて感心した、わたしもそんな芸術の一端を支える仕事がしたい、問いかけに対し読み手のイメージを大きく越えているのが好印象、など、好評価が集まる。一方で上句には、「色んな仕事があるものだ」とだけで終わらせるのは惜しい、等、辛い評価が目立った。二首目。うなじのほくろが色っぽい、という意見、多数。土曜は休日出勤で、気だるさと非日常感が混在する時であるのを上手く活かしている、という意見もあった。一方で、いつもほくろ等を注意して見ている人はどうなのか、又、既視感がある、等の意見もあった。

■四角いもの■

 さふ言へば若い人にはポストつて聞けば四角と答へるだらう  本田葵
 鳥の眼で四角い空を飛ぶ俺は四角い扉をいつ開け放つ  雨宮司
 晩秋の銀杏並木の輝きへゆっくりのぼる地下鉄出口  河野瑤

 一首目。視点が面白い、という意見があった。一方で、そのままな印象、そんなに若くない者にもポストは四角いという認識があるからかなり年配の作者か、等の指摘もあった。二首目。空の四角さに納得しない人が多かった。ドローンで録った映像を室内で観ている引きこもりのイメージだったのだが。「いつ開け放つ」に切ない呟きや静かな諦念を感じる者や、お題に合わせて頭の中で作った(間違いではない)と感じる者もいた。三首目。地下鉄出口という空間を見つけた目に感服した、地上の出口が明るく光って見える感じが伝わる、情景がイメージしやすいきれいな歌、地下鉄の出口から銀杏並木の輝きの中へと登って行く美しさ、等、好評価が相次ぐ。「輝き」はぼかして言った方がいいかも、という意見も。

 僕よりもずっとしっかりしているねA4用紙の束をはじいた  有田里絵
 姉さんが資格取るため読んでいた『臨床看護スキル大全』  橘さやか
 雨ばかり降って切手が駄目になる君に手紙を書かない土曜日  杉田抱僕

一首目。A4用紙を「はじいた」とはどういう動作か、意見が集中する。「僕」とA4用紙を比べて自分を謙遜・卑下するのはよく見かける、角が立つ嫉妬の感情の道具となっている、A4用紙の束はよほどしっかりしていそう、等の意見があった。二首目。「四角」と「資格」をかけている、本が四角くて分厚くて重そう、連想が巧み、という肯定的評価の一方、ダジャレ感を何とかした方がいい、姉さんなりの工夫を知りたい、「資格取るため」が説明的、等の指摘もあった。三首目。いまどき手紙はなかなか書かないから一時代前の話と感じられる、どうして土曜日に手紙を書かないのか、毎週の様に「君」に手紙を書いているのか、そもそも定期的に手紙を書いて投函する方がどれほどいるのか、不思議に思う評が多かった。

 イチニッサンスコティッシュフォールド滑り込む私が捨てた小さな 空き箱  和泉海風
 腑に落ちぬ話であるがきみのいふことであるから愛は四角だ  新井蜜
 ゆく夏を海を知らずに5インチの液晶モニタを泳ぐクマノミ  雀來豆

 一首目。初句のかけ声と後の展開との関係が読み解けないという意見が続出する。私は「フォー」と掛けているのではと思ったが、少数派だった。スコティッシュフォールドは折れた耳が特徴の猫の品種。小さな空き箱に入るほどだからまだ子猫だろうか。空き箱がティッシュの箱ではないかという推測、多数。二首目。恋愛の四角関係とする読み、多数。四角い紙幣やプラチナカードでないことを願う、という意見もあった。三首目。手堅い作風。「夏」「海」に重複が見られるという意見、複数。クマノミにセンチメンタルな感性をみるのがいかにも歌人的、という意見も。

 トーストにマーガリン塗るジャムも塗る今日を拒んでゆっくり動く  ふらみらり
 幾枚のはんぺん要るかはんぺんを部屋の障子にはめこむならば  土井礼一郎
 ああこれはいつかの夜明けの地平線トーストにマーマレードひろげ て  小川ちとせ

 一首目。毎日のルーチン化された生活を受け止めたくない思いをトーストに託したところが、多くの共感を呼ぶ。「ゆっくり動く」がだるい朝を表現できていていい、という意見もあった。二首目。なぜはんぺんを障子の桟にはめ込むかは不明ながら、大きさがほぼ同じだという意見が複数見られた。「はんぺん」の音の反復がコミカルだという意見もあった。三首目。マーマレードと夜明けの親和性が明確で、その地平線が手の上のトーストに収斂されて主体に認識されてゐる ところがをもしろい、「トーストにマーマレードひろげて」の雰囲気が幸福かつ孤独で、マーマレードの黄色と感触が心に切なく残る、テレビで見た地平線の美しさを思い出した、どこかで見たことがある、等、共感多数。一方で、「の」がやや冗長、見立てか実景か、地平全体が色づき始めはほんの一瞬、主体の感傷が美しい、等の意見もあった。

 祈っても雨がやまないこんな日は深呼吸してブラウニーでも  戎居莉恵
 腰骨に響くアドリブ叫ぶらく“No room for squares【ルビ:お堅い奴はお断りだよ】”  佐藤元紀
 どろどろにビルを染め上げる夕焼け忘れ去るべき秋の話だ  とみいえひろこ

 一首目。雨にも負けず、チョコレートケーキであるブラウニーを食べて気分転換を図ろうとする姿勢に好感を持つ者が多かった。「祈っても」よりも「願っても」ぐらいがいい、という意見もあった。二首目。ハンク・モブレイの曲らしい。「腰骨に響く」に実感があるという指摘、多数。下句のルビの肯定派と否定派にきっぱりと分かれた。三首目。この夕焼けは秋でなければならない、という意見、複数。一般的に美しいと思えるものを「どろどろに」と負の表現をする思いきりに、共感が相次ぐ。

以上である。なお、読んで不快になる者が出た詠草を、作者本人の強い意向で不掲載にしている。個人的には掲載してもいいと思ったが。
かばん関西では、随時、参加者を募集している。垣根の低い活動をしているから、気軽に参加していただければと思う。(雨宮司・記)


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by kaban-west | 2017-11-01 15:03 | 歌会報告


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