かばん関西歌会

kabanwest.exblog.jp
ブログトップ
2018年 07月 02日

2018年6月 水無月西区民センター歌会

かばん関西 水無月歌会 
とき:二〇一八年六月二十四日(日曜日)
ところ:大阪市 西区民センター 第二会議室

◆参加者 合計十四名
あまねそう(詠草のみ)、雨宮司、新井蜜(塔、詠草のみ)、有田里絵、泳二(ゲスト)、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀(詠草のみ)、塩谷風月(未來/レ・パピエ・シアンⅡ)、雀來豆(未來)、十谷あとり(日月)、福島直広、ミカヅキカゲリ(詠草のみ)
*表記のない方はかばん正会員。当日参加十名、詠草のみ参加四名、司会進行は十谷あとりさんでした。

今月のお題は「水」です。六月十八日に大阪北部を中心とした大きな地震があり、歌会当日はまだライフラインの不都合が続いている地域もありました。参加者の中でお題の持つ意味合いが変わったのか、詠草にも読み方にも、変化が見られたように感じます。水無月とは言いながら、潤いのある日々の暮らしのありがたさを実感する歌会となりました。
 提出する詠草は一人合計二首まで、兼題または自由詠としたところ、提出結果は次のようになりました。
*兼題一首+自由詠一首・・・九名
*兼題二首・・・三名
*自由詠二首・・・一名
*自由詠一首・・・一名
集まった歌は、兼題が合計十五首、自由詠が合計十二首です。抜粋して紹介します。


◆兼題「水」

豪雨明け水軋む音はどこまでも耳障りなまま海まで続く     雨宮司

 梅雨明けはあるが豪雨明けという語はなさそうだという指摘はあったものの、歌の内容には豪雨という濁音の入った言葉は合っていて、「水軋む」「耳障り」との釣り合いはとれている、という意見がありました。造語でも歌全体の意味が通っていて響きが良ければ違和感なく読者に受け止められる場合もあります。

こころざし清しくあれよ水に切るインカの百合の茎のひとすぢ  十谷あとり

 今回の高得点歌です。「インカの百合」という固有名詞が与えるイメージに好感を持つ人が多かったようです。状況はどうあれ、心持ちの清々しさを讃えようとする気持ちが伝わります。視覚的にもカタカナが効果を上げています。あまりに巧みで嵌まりすぎた印象を受ける気がするという意見もありました。


映るものすべていたわる水であり地震の夜を湯舟に満ちる    小川ちとせ

 助詞の使い方について意見が集中しました。「夜を」の「を」を「に」に変えるほうが文脈上は良さそうだが、「湯舟に」の「に」と同じになるから避けたのではという意見がありました。地震のあった夜だから、自分が浸かるための湯ではなくとりあえず非常時用の水を満たした家も多かったということを言いたいのだろうという読みもありました。溜まった水を眺めていると感慨が湧きます。


透明度確かめながら水筒の蓋を閉めゆく もう憎くない     有田里絵

結句の「もう憎くない」は、自分に言い聞かせているようですが実際はまだ憎いんですよね、という声に笑いが起こりました。水筒にお茶ではなく水を入れることへの疑問や、平易な語句なのに歌の真意が掴みにくいという指摘もありました。


灰掃いた夜また噴火する御鉢【おはち】フェロカクタスの根が水を吸う   福島直広

 これも固有名詞が楽しい歌です。「御鉢」は九州の霧島周辺の火山群を指す語であると同時に、一般的な火山を表す語でもあるそうです。それを知らなくても、鉢に継承がついていることで大いなる自然を表しているイメージを受け取ることができました。「御鉢が回る」という慣用句もありますね。初句「灰掃いた」は音読しにくいですが駄洒落のような面白さは「フェロカクタス」との相性も良いです。いろいろあるけれど身近な自然は今日もがんばっているよと励ましてくれているようです。

水走を過ぎれば長きトンネルの彼方はぐれた星のような家   塩谷風月

 「水走」は地名です。「みずはい」と読み、東大阪市にある阪神高速道路の東側出入り口のことを指します。また、古代から中世にかけて河内国で活躍した一族の氏でもあるそうです。地上にある家を「はぐれた星」と表現したのが良い、トンネルの先にある生駒山中腹に見える家々だからでは、という読みがありました。


ほしいままに統辞できない悦びの向かうに流れゐる水      新井蜜

大胆な破調と「統辞」という語が印象的ですが、抽象的でわかりにくい歌でもあります。詠み手の意のままにはならない作歌のおもしろさを提示して、更にその先の手の届かない所には水(到達したい最終目標の象徴)が流れているという読みや、字足らずは気になるが作者には理由があるだろうし決意も感じるという意見がありました。「向かう」はよく読むと曖昧な表現であるという指摘もありました。参加者は、戸惑いながらもこの歌を取り込もうとしていました。


朝、ゆずの木に水をやる一本の木とともに歳をとるということ  雀來豆

 穏やかでやさしい気持ちになれる歌です。生活の中に一本の木が自然に存在していて、歳を重ねるのも悪くないと言ってくれているようです。「朝、」という出だしは、力の抜けた主体の心の在りようを想像させます。子どもが生まれたときに木を植える人もいますね。「短歌を、もうちょっと無作為にやりたい。さらっとしていてもいいのではないか」という意見がありました。
 
平成に馴染まないまま次がくる水森亜土は息災なりや      久保茂樹

 作者は昭和の人で、平成に馴染めていないのだろうという声に、一同はうなずいたり苦笑いしたりしました。水森亜土という選択はちょうど良い、「次がくる」は平易且つ乱暴な表現だけれども水森亜土には釣り合っているという評がありました。「息災なりや」もどこかコミカルで、実際に水森亜土がどうしているのか特に知りたいわけではないのでしょう。飄々とした雰囲気に和みます。


たまきはる救ひあらめや牧水よ甘露一滴とほき我が涯      佐藤 元紀

若山牧水の名前が示すように「甘露の一滴」はお酒そのものを指すのでしょう。自分もお酒を嗜んでいるけれど、牧水がなし得ていたお酒との親しさにはほど遠い自分がいて、さらに自分の忙しない日々はまだまだ続いていく、という読みが参加者の中では主流でした。
梅雨晴れのパーティー素麺を茹でてゴム長靴にお菓子を詰めて  泳二

 ファンタジックな歌です。かわいらしい雰囲気を楽しむ歌だという意見が最初にありました。「梅雨晴れのパーティー」は意味はわかるものの省略しすぎではないかという指摘や、雰囲気を楽しむためにはリズムを最高する必要があるのではという指摘もありました。おそらく作者は新鮮さとわけのわからない感じとが入り混じっているという指摘を予想した上で、きめすぎない歌として提示しているという読みも聞かれました。
 

諍いて靴音遠く聞く夜に蛇口ひねればぬるき水出る        塩谷風月

 「ぬるき水」が心の様子を示していると評価されました。実際は特にぬるいわけではなくごく普通の水道水だったのでしょう。人の心と水は切り離せないものですね。「諍いて」「ひねれば」と仮定に通じる語を使ってある点にはやや甘さも感じるという意見もありました。


水の影素足を揺らし名も知らぬ貝の欠片とつながる記憶     あまねそう

 「水の影素足を揺らし」はとてもきれいで良いという評がありましたが、「名も知らぬ」は何度も目にしてきた表現であり、安直でもったいないという指摘が複数ありました。
記憶については曖昧さを感じる参加者が多数いました。
一、素足を揺らす行為が、貝の欠片の記憶を呼び覚ます
二、貝の欠片が、何らかの記憶を呼び覚ます(素足を揺らすのはたまたましていた行為)
三、きらきらした光が素足にうつっているのを見て、貝の欠片の記憶が呼び覚まされる
など、様々に解釈できます。でも、この「記憶」や「つながり」は当事者にとって重要だと分かるから、中身は漠然としたままでもいいのではないかという意見がありました。



◆自由詠
愛情を負債の側に仕訳して総務課鵜野乃【うのの】さららの春は     黒路よしひろ

なんともすてきな名前の女性が登場します。「仕訳」とクールに言い切ってしまう楽しさが良いです。雨宮さんがあっさりとこの女性はとある歴史的有名人だと種明かしをされて、「知らないほうが面白かったのに」とか「知識が歌を読む目を眩ませる」だという声が上がりました。一応、答えは本文の最後にお知らせします。


「ふくらはぎ、揉んでください、ふくらはぎ」「えっ、おぎやはぎ?」「いや……ふくらはぎ……」  ミカヅキカゲリ

 会話文そのままで、実際になされた会話だろうかと思いながらも二人の関係性を想像してしまいます。このようなやりとりでも気まずくならない関係なら、かなり親しい間柄でしょう。通い慣れた整骨院か病院、家族間などの読みがありました。


落下傘背負った真っ赤なたくさんのタコさんが降る明日の確率   福島直広

 「さん」の音が重なってリズミカルです。「落下傘」「負った」「真っ赤」にもそれぞれ促音便が使われています。この落下傘に兵士を想像する人もいましたが、全体的には明るい童話のような歌意で、社会詠ではなさそうだという意見に賛成する人が多かったようです。

 今回の歌会は満員御礼となり、時間ぎりぎりまで詠草を読み進めました。筆者は十年以上こちらでお世話になっていますが、いまだに意見や評を述べるのは難しいです。でもみなさんの雰囲気に救われながら続けています。自分なりに短歌を受け止める、短歌に近づこうとする、その姿勢を保ちたいです。これからもどうぞよろしくお願いします。
*答え* 鵜野乃(うのの)さらら・・・持統天皇の即位前の名前
                                 (有田里絵/記)


[PR]

by kaban-west | 2018-07-02 15:23 | 歌会報告


     2018年5月歌会記 >>