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2024年 06月 24日
かばん関西水無月歌会記 とき ・・・ 令和六年六月十六日(日曜日)午後一時から五時 ところ ・・・ 大阪市中央公会堂 第二会議室 ◆歌会当日までのスケジュール 会場予約、日時の予告 ・・・ 四月二十二日 会場費振込 ・・・ 四月二十八日 会場からの利用許可証の受領 ・・・ 五月八日 正式な案内配信、参加申し込み、詠草募集開始 ・・・ 五月二十三日 詠草提出〆切 ・・・ 六月十三日 詠草一覧配信 ・・・ 六月十八日 当日参加された方だけに選歌結果配信 ・・・ 六月十八日 ◆参加者 雨宮司、小川ちとせ(詠草のみ)、久保茂樹、小坂恵(所属なし)、佐藤元紀、雀來豆(所属なし)、十谷あとり(所属なし)、蔦きうい(所属なし)、雛河麦、有田里絵 以上の十名です。筆名の後に特記事項のない方は、かばん正会員です。 平年よりも梅雨入りが遅れて連日三十度越えの暑さが続く中、八名が会場に集まりました。お菓子を差し入れてくださったり、自作の本や歌集を配布してくださったり、お気遣いありがとうございました。有田の思い付きにより、ホワイトボードに一人ずつお名前を書いていただいたのですが、筆跡だけでなく、赤ペンと青ペンのうちどちらを選ぶかにも個性が感じられました。 開始時の挨拶では、有田が「今日、最初に口に入れたものを教えてください」とお願いし、順に答えていただきました。牛乳、バナナ、炒った豚肉、湯冷まし等々、それぞれの暮らしの一端が伺えました。ちなみに有田は常温の水です。かばん関西では「短歌だけではないけれど、かなり短歌である」集まりを続けることを心がけています。もちろんメインは短歌なのですが、その歌を詠んだ人がどんな人なのかを感じる場所でもある、と捉えています。 詠草は兼題「かさ」で、以下のように配信しました。 ☆ 事前募集の詠草について ☆ 当日来られない方も、詠草だけ参加可能です。ひとりにつき、兼題と自由詠の合計二首まで、提出できます。どちらの部に提出するか、書き添えてください。 兼題・・・「かさ」の音を詠み込んでください。 「かさ」には、アンブレラ以外にも、けっこういろいろな語句があります。漢字・ひらがな・カタカナ表記は可能ですが、常用以外の文字や英字はナシです。新聞や雑誌で目にしたとき、ルビなしでも読める語句を目安にしてください。 この結果、兼題に十一首、自由詠に八首が集まりました。 参加者は詠草一覧が印刷されたレジュメと、選歌用紙を受け取ります。レジュメには、作者名は書かれていません。歌会の最後まで、作者名は伏せられています。 まず、レジュメを音読し(司会者がその場で依頼します)、十分ほど選歌の時間を取りました。今回は兼題・自由詠ともに、三首ずつの選歌としました。選歌は記名の上で用紙に書いて提出します。記名するのは、だれがどの歌を選んだのか分かるようにするためです。ただ、記名のある選歌結果は、当日の参加者のみに直接メールにて送っています。 その後、司会(有田)が参加者を指名しながら一首ずつ読み進めていきます。 ◆兼題「かさ」 美津子さんの子孫ら二十五人なりかさかさの手に守られていた 有田里絵 「二十五人という数字が具体的ですね。あ、子孫だから、子どもと孫だけじゃないんだ」 「でもまあまあ多いですね。ひいおばあさんって感じで」 「こうやって、親戚が集まることって少なくなっていますけど、改めて考えると、一緒に住んでいない人でも、守ったり守られたりしてるんだなあと思いますね」 なぜかしら小首をかしげるようにして考える傘 地軸の角度で 雛河麦 「なぜかしら、が優しい。素直な歌だなあ、と」 「地軸の角度で、がいいですね。開いた傘を地面に置いて乾かしていると、地軸の傾きと同じ角度になって、それが考えているように見える、と」 「えっ」「あ、そうか」(何人かがはっとした顔をしたり、眼を見開いたりする) 「あの、これ、地面に置いた傘なんですか、私は傘をさして、普通に、手に持って歩いているのかと思って読んでいました。でも地面に置いた傘も、確かにそのとおりですね。地軸ですね」 「うん、そうですね、私も先程の読みを聞くまで、傘をさしていると思ってました」 「なるほど。景ががらっと変わりますね」 「わー、歌会に来て良かったですねえ」(一同笑い) 「挙手をしてみましょうか。この歌、傘を地面に置いていると読まれた方は?」(挙手二名) 「ありがとうございます。では、その他の方は傘をさしている、と。うんうん」 (注釈★ここで、参加者全員に挙手を求めるということは、作者本人も挙手するということを意味します。これは私の歌です、とは言わずに進めます。) 上野着の夜汽車に星の馨して母子の傘は霧の入谷へ 蔦きうい 「これは、蒸気機関車かなあ。東京行きの夜行の」 「たぶんそうですね。入谷駅というのが、関西に住んでいる人だと知らないかもしれないけど、上野駅のすぐ近くだったかな」 「上野駅の、一つ隣の駅ですね」 「母子というからには、たぶん母子家庭で、経済的事情のためか何かで、地方都市から上京して働かざるを得なくて、霧の、たぶんごちゃごちゃっとした街中へ消えていく、と読みました。ただ、だからと言って、この歌からはそこまで暗い感じは受けませんでした」 「そうですね。背負っているものは辛いのかもしれないけど、歩いて行こう、みたいな」 「作者の記憶が二重に映し出されていると思いました。蒸気機関車の記憶と、母子の記憶と、それぞれがある。でも全面的なロマンチックじゃなくて、現実感もあるのが良いです」 蹴つた子も転がつてゆく松毬も梅酒色したゆふやけのなか 久保茂樹 「これ、転がっていくのは、松ぼっくりと子どもと両方ですね。梅酒色が何ともいいですね」 「ノスタルジーですねえ」(一同しみじみ頷く) 「結句の平仮名表記がいいなあと思いました。梅酒の色が、ひらがなに開くことで、やわらかく広がっていくのを想像しました。空に染みて広がっていく感じで」 「この『松毬も』の後には、『転がつてゆく』が省略されていて、文法的には一字空けが必要かも、と気になりました。でもそれでも、いいなあ、と」 (今回の最高得点歌。参加者らは何か蹴りながら帰った記憶を辿っていたようです) きぬずれの闇にもしるきいのちもておまへと俺の襲(かさね)の夜を 佐藤元紀 「この『しるき』は反語ですかね」 「闇に対する反語になっているでしょうね。『しるし』は、はっきりしている、明白だ、という意味ですから」 「私は、やらしい歌だと読みたいですねえ。かさねを着たままなので、着衣のままだからよけいにその下の裸体を想像するわけですよ、~、~。」(もうしばらくその場の雰囲気を持っていく読み方が展開されましたが省略しています。支配する絹、という語は印象的でした) 「重ねるのは、絹の着物、逢瀬、お互いの身体と心、でしょうか」 「まあ、ごちゃごちゃ言わずに黙って読みたい歌ですね」(一同笑い) 大きめの傘持ってきたよというきみといくつもいくつも鳥居をくぐつた 雀來豆 「これは相合傘をしたい女性の歌で、歌い出しは、持ってきた相手の台詞」 「ストレートな歌ですねえ。場所は、京都の伏見稲荷かなあ。あの鳥居って、あまり大きめの傘だと、すーっと通れないかもしれないけど」 「観光客も多いし」(一同やや苦笑い。オーバーツーリズムは本当です) 「相合傘にできなくても、この二人の仲は良さそうですよね。みずみずしい感じがします」 木星に暈かかる朝 妻子もつ男の邸に落書きあらた 蔦きうい 「この漢字、『邸』は、やしき、てい、いえ、どう読むんでしょうね。文字数から考えると、いえかな。上下のつながりがよく分からないのですが」 「木星は、浮気男の象徴でもあるんですよね」 「へー」「そうなんですね」(一同興味を惹かれる) 「とすると、落書きは具体的に何が書いてあったんでしょうか。書いたのは、女性?」 「それもあるし、『邸』ということはまあまあのお屋敷でしょうから、大きい壁もあって、そこに近所の子どもが文字じゃなくてざーっと線を引くとか・・・」 「朝、木星に、かさがかかる(月の笠みたいな)ことって実際にあるんでしょうか?」 (いろいろと細かな不明点を残しました。しかし、それはそれで、まずは楽しんで受け止めようという場の力がありました) ペデストリアンデッキのうへにすれちがふ開いた傘、畳まれた傘、西寄りの風 十谷あとり 「作者は、街中の路上にいて、上の、デッキを行ったり来たりする人を見上げている、と。人の動きを、傘の描写だけで伝えているのがうまいですね」 「開いた傘と、畳んだ傘は対になっていると思いますが、最後の、風は、別物ではないでしょうか。並べてあるのはなぜだろう、って。傘、傘、と来て、その次に風だから・・・」 (この問いに対して、風は孤独を表しているという意見や、雨が上がるみたいに心もそのうち晴れると励ましているという意見が出ました。結句の『風』を淋しい感じに捉えることも、明るい感じに捉えることも、両方可能であることに気付きました) 「自分に対しての、周りの人の行動のことかもしれない。この私に対して、開いている人も、閉じている人もいるけど、好きにしていいんだよ、と言っている歌なのでは」 「そうすると、孤独も大切なものだ、悪くないよ、と読めてきますね」 「歌の構造としては、その孤独にいちばん重きを置いているから、その上に、傘二種類を持ってきた、と考えることもできそうですね」 (こんなに建設的な!読み方ができるのは、歌会の席上ならではです。大げさではなく、私は感慨を覚えます。一人では、できないことですから) 持っていて良かったけれど差すけれどかたかた揺れる折り畳み傘 小坂恵 「この歌は、『けれど』が二回出てくるところが、実にうまいなあ、と。深刻過ぎない描き方ですね」 「もうちょっとこうだったらいいのになあ、っていうことって、日常生活でよくありますね。妥協というか。でも困りすぎていないところが良いです。淡々と、からっとしている」 「『かたかた』は、すごくよく分かります。買ってから何年も経っているのか、買ってみたもののいざ使ったらかたかたと音がするのか、はっきり分かりませんけど、大切にしているんだな、って」 地面から突き出た茸が開きゆき風もないのに傘反り返る 雨宮司 「散歩の定番ルートなのかなと思って読みました。定点観測を楽しんでいる人。あの、傘がお椀になってしまうのって、おもしろいですよね」 「時間の経過が分かりやすくて良いと思いました。茸についての動詞が三つありますね」 (この歌には、茸を主語にした動詞が三つ、更に風を主語にした動詞が一つ、一首の中に動詞は合計四つあるが、多いとは感じなかった、という意見がありました) 「風もないのに、が肝ですね」 (この辺りで、「安い腐葉土」を使って茸を育てる話題が出ました。一同笑い) うつむいてユリ科ユリ属夕暮れのカサブランカが考えている 小川ちとせ 「音読すると『ゆ』の音の並びが気持ちよくて、リズムがありますね」 「擬人化ですね。ここまでの、一連の詠草を読んで思ったのは、『うつむいて』という角度の物を見ると、それが『考えている』という発想に行きやすいのかな、と」 (意見を聞きながら、水仙が咲いているのを見たり、トロンボーンが置いてあったりしても、この発想が浮かぶかもしれない、と考えました) 「作者は、カサブランカを見て、さてところで自分は、という想いが沸いてきたのだと思いました。夕暮れが実景かどうかは分かりませんけど、物思いにふけりそうです」 「花弁の厚みや、こっくりとした白さを想像すると、そう感じられますね」 兼題は以上です。ここで十分ほど休憩をはさみ、自由詠を読みました。レジュメの掲載順に挙げます。 ◆自由詠 この春はお婆ひとりで世話をするかぼちやは花を朝に咲かせる 久保茂樹 空を見れば大小の熊眠りおり ひかりはきっと答えではない 雀來豆 六月の夏日半袖短パンでこんにゃく炒ってきゅうきゅう鳴かす 小川ちとせ 日曜に『別れの曲』の降りかかる雨粒 おたまじゃくし 帰るよ 有田里絵 子も猫も蔓のあばれる薔薇の木も育ちし五月忘れがたしも 十谷あとり まだ生きてゐていいんだどしやぶりの五月雨に傘なき身をば歩ませてゐる 佐藤元紀 皿・茶碗・猫・日本海プレートを片っ端からぶん投げている 雨宮司 鈴なりの耳をふるわせどの耳も分かりませんと告げるスズラン 雛河麦 会場の利用終了時間七分前に、選歌の結果(それぞれの歌に何票入ったか)を口頭で伝え、作者名の入ったレジュメを別途配布しました。その後、時間の許す限り「作者さんに質問コーナー」と称して、作者に歌の真意を聞くことができます。退出時間ぎりぎりまでやりとりをして、全員で会場を片付けました。 会場を後にすると、タイサンボクの手のひらほどの大きさの白い花が四つ、見事に咲いていました。大阪市中央公会堂の隣には、大阪万博のキャラクターとして有名な(はずの)ミャクミャクが出迎えてくれる大阪市庁舎があります。しかし、ミャクミャクのことはすっかり忘れて帰途につきました。次回の歌会の時には、手を振りに行くつもりです。
by kaban-west
| 2024-06-24 21:50
| 歌会報告
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