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かばん関西歌会

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2008年 05月 31日

5月歌会 吟行詠草

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――2008年5月24日 奈良駅近辺にて吟行。戒壇院、奈良公園などを題材に詠む。

雨宮司

淡色の楠の蕾がふくらめば我は夏へとモードを変える

うねうねと小腸のごとくとりとめもなく曲がりゆく小径【こみち】を歩く

気がつけbがぽつりぽつりと降りだした君の言葉が勢いを増す

もういいよ君の涙がまたひとつこぼれたとしてもそのままでいる

冷たいね これから夏に向かっても雨が鎖骨を濡らすとしても

雨の中二人は歩く紫の煙をたとえたなびかせても

鮮やかな過去は幻 今はただこの街の中で暮らしていたい

列車内これから何が起ころうとi-pod shuffle手離さぬ男

俥屋は幌を上げたり下ろしたり気まぐれ雨に天を見据える

戒壇院増長天に踏まれいる邪鬼は双目焦点合わず

黒々と含める墨は固まって広目天は何を書き留む

仏塔と錫杖を手に多聞天何を願って邪鬼を踏みつける

持国天に首を寝違えられたのか足下【そっか】の邪鬼は叫びの形相

黄菖蒲の花が水辺に咲き乱る池の中では睡蓮ねむる

吹く(さわわ)鳴く(ホーホケキョ)投げる(パキョン)古破【や】れ寺の昼のひと時

古民家でアーティチョークが壁際に咲くのを見たり依水園前

天高く仏塔よりも高く咲け民家の庭のアーティチョークよ



有田里絵

曇りでも真っ赤な傘をさしながら歩く女性の靴ひも緑

制服の着こなしもまたそれぞれに脱いで久しき吾にはまばゆし

産むシカを期待しながら奈良公園目を合わせたらつとそらされる

半袖の黄色着た君さきほども見かけたみたい互いにひとり

霊柩車一の鳥居の前を過ぐ足元のアリまだ生きている

奈良道は鹿も豹でもライオンも走り廻ってバスになりゆく

三人の休憩中のバスガイド膝と白い歯見せて過ぎゆく

阿修羅より幼い子らの連れられて興福寺には晴れ間ぞ出づる

無意識に人は左を選ぶとの説思い出し右へと進む



十谷あとり

雨が雨を濡らすのを見た中庭を規矩と占めたる甃のうへ

風に揺るるたかむらの末みてをれば海星【ひとで】のこころに近づかむとす

はらからは心安けく笑まひつつ相似る口に紅を差しをり

遠窓に映りてあれば音もなく回旋はつづくふたりのをどり

公民館の窓に五月の雨は透きソシアルダンスをどるひとかげ

おとこおみな手をとりをどる一室の窓のむかふに青葉のひかり

かのししの角ひとわかれふたわかれメールも書かぬなつかしきひと

天平ホテル大食堂の椀鉢の並びを統【す】ぶる箸立ての箸

はつなつの風きれぎれに運びくる雨、椎の花、街宣のこゑ


by kaban-west | 2008-05-31 17:39 | 歌会報告


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