1 2016年 04月 07日
かばん関西オンライン歌会 二〇一六年三月 【参加者】雨宮司・新井蜜(かばん/塔)・有田里絵・岩崎陸(ゲスト)・うなはら紅(兵站戦線改め・購読)・小野田光・ガク(購読)・黒路よしひろ(ゲスト)・ 佐藤元紀・雀來豆(ゲスト)・十谷あとり(日月)・杉田抱僕(ゲスト)・足田久夢(購読/玲瓏)・土井礼一郎・浜田えみな(購読)・東こころ(かばん/未来)・福島直広・ふらみらり・文屋亮(玲瓏)・ミカヅキカゲリ・村本希理子 (以上出詠者21名)、※選歌のみ: 塩谷風月(未来/レ・パピエ・シアンⅡ) ※所属表記なしは「かばん」正会員。 題詠の二十首(進行役の雨宮さんから出された兼題は「山」)から十二首、自由詠の十八首から九首を取り上げました。 【題詠から】 この先はもう行けないとバス停でするりと逃げた木霊の気配 浜田えみな バス停が木霊の棲息する山と人間界の境界になっているということなのだろう。バス停という言葉により山の霊的な雰囲気が却って際立つように思える。 春霞卒業式の音がする校歌に出てた山なんだっけ 有田里絵 地域の山や川をよみこむのが校歌の定番だが、地元を離れたり時間が経ったりすると忘れてしまうということなのだろう。「卒業式の音」はこなれていない表現に思えるが、プラスに働いているという評もあった。 はじめつから無かつたみたい あをぞらが隠してしまふ春の恵那山 村本希理子 「あおぞらが隠してしまふ」には複数の人から「分からない」という反応があった。恵那山の青い色が青空にとけ込んで見えなくなってしまうと解すべきなのだろう。「あをぞらが」なのだから春霞と読むのは無理があるだろう。「はじめつから」については賛否両論があった。 せせらぎにとけてゆく雪ちゅるちゅると峠の茶屋で饂飩をすする 福島直広 「ちゅるちゅる」のオノマトペが好評。上句は「ちゅるちゅる」を介して饂飩を導くための序詞的にも働いているが、上句・下句ともにこの歌の情景で、それを「ちゅるちゅる」が繋いでいるのだろう。雪解けの春ののどかな様子がよく表現されている。 心電の波形【はけい】にそそり立つ山に木々を描いてゆく春の指 土井礼一郎 心電図の波形に山を見るという発想が良いと好評な歌。「春の指」については、子供の指、医師の指などの読みが出されたが、実景ではなく、春という季節の指と読むほうが詩情があるのではないか。 わけもなく自転車でゆく山沿いの少女の家を越えて海まで 雀來豆 海や少女から寺山修司や永田和宏の青春の歌が連想される。「わけもなく」の読みがポイントとなる歌であろう。わけもなく海へ行きたいという気持ちの中に、作中主体には明確に意識されていない淡い恋心が隠されているのではないだろうか。 われはあるそらとくもとにうみがよるほしをみているあさがひろがる 岩崎陸 歌意は読み取りにくいが「る」「る」と続くリズムが良い、という意見が多数。一般に「われ=作者」と解釈されるが、この歌の場合、兼題の「山」を考え合わせると「われ=山」であり、山の立場から自然の情景が詠まれた歌なのではないだろうか。 「ただいま!」と叫べば山は「おかえり」と笑う ここには夏だけがある 杉田抱僕 夏に帰省したということだろう。故郷の山に夏だけを純粋に感じているのだ。「ここには夏だけがある」という把握がユニーク。若者らしい爽やかさを感じる。 全山が風に笑っているばかリ芽吹き間近を陽に撫でられて 雨宮司 「全山」という表現に注意が集まった。「すべての山」とも「山全体」とも取れる。春の雰囲気が伝わってくる歌。 厳かに声を響かす役として賢治童話に岩手山はあり 文屋亮 宮澤賢治の童話の中で厳かに裁定を言い渡す役として岩手山が描かれている、ということだろう。現実の岩手山も作者に、あるいは、人々にそのような山として受け止められているのだろう。結句の「は」はない方がいいという意見も出されたが、作者は岩手山が主題であることを示すため承知の上で八音の表現を選んだのだと思う。 きぬぎぬの黒髪山をくしけづる陽に山菅の花粉の粘り 足田久夢 「きぬぎぬの黒髪山」は「後朝の女性の黒髪のような黒髪山」ということか。「黒髪山」の色っぽさと「花粉の粘り」の独特な表現が好評。 神奈備の山は霞に隠れつつ里吹く風にゆれるなの花 ガク 上句と下句の対比がいいと好評。「なの花」の表記にも注意が集まった。 【自由詠から】 太陽に負けてしまった北風が口笛を吹くときの唇 ふらみらり 「太陽に」から「吹くときの」までの「唇」以外全部の表現が唇を描写する比喩表現になっている。好評な歌。出典がイソップ寓話のせいか唇の持ち主は少女かあるいは子どもかという読みが出されたが、いずれにしても純真な存在のように思える。 ゆく川のひとひもろとも流れむとおまへを待つてゐる淀屋橋 佐藤元紀 心中の相手を待っている歌かとの読みが出されたが、「ひとひもろとも流れむ」は、一日を一緒に川の流れのように当てもなく過ごそう、ということではないだろうか。「ゆく川」や「淀屋橋」からしっとりとした情趣が感じられる。 此処に在りて大和は何処【いづく】未通女【をとめ】らが二上山【ふたかみやま】のやうな乳房 黒路よしひろ 二上山はとても良い形の山で、「二上山のやうな乳房」にはリアルな感触が感じられる。不明なのは「此処」とはどこか、「未通女ら」と複数になっているのは何故か等、この歌の背景だ。なお、音数から考えると「乳房」は「ちちふさ」と読ませたいのだろう。 「そんな予感こんな悪寒どんな時間あんな蜜柑」って云ふ呪文。 ミカヅキカゲリ リズム感と無意味さが良い。楽しく面白い歌だと肯定的に受け容れる読者と疑問を感じる読者とに分かれるようだ。 かなしみは球根としてここにありここにあるからかなしいのです 小野田光 「かなしみは球根としてここにあり」がとても良い。その良さに惹かれた人が多く高得点を集めた。下句は少し弱いという評もあった。 「おもしろい音を拾っておいたのよ」とびはねながら告げるともだち 東こころ 普通に考えると、何らかの音を録音した、と考えられるが、音そのものを手で拾ったような不思議な感覚が生じる。「とびはねながら告げる」という表現からは、このともだちが妖精であるような感じさえ受ける。この歌も好評だった。 ナリユキノジジツカタレバイイジャナイ?マダハイランシモウモイラヘン うなはら紅 すべてカタカナ表記されているところが面白い。一首として散文的なまとまった意味を捉えようとしなくても良いのではないか。「言葉が浮かんだり消えたりしながら一つの意味へとたどり着くまでの快楽」という評の通り楽しんだらいいのではないだろうか。 窓辺なるホワイト・ゴーストお手上げのかたちに育つ幾年を経て 十谷あとり 「お手上げのかたちに育つ」が好評。「ホワイト・ゴースト」という名前もいい。「結句がややあっさり」との評も。 たこ焼きを食べながらそとをぼんやりと見てゐるうちにみぞれとなりぬ 新井蜜 「そのままを詠っただけの歌」を評価する人と評価しない人とに分かれた。 (新井蜜/記) ▲
by kaban-west
| 2016-04-07 13:14
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