かばん関西歌会

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2017年 10月 01日

2017年9月歌会記

かばん関西 九月オンライン歌会記
             
【参加者】 雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、泳二(ゲスト)、河野瑤、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀、塩谷風月(未來/レ・パピエ・シアン2)※「2」はギリシア文字、雀來豆(未來)、杉田抱僕(ゲスト)、とみいえひろこ、ふらみらり、本田葵(かばん/塔)、計、十三名
※所属表記なしは「かばん」正会員

九月歌会、題詠のテーマは「残」、題詠の面白さというのは、同床異夢のようなものと言えばいいだろうか。奥行きのある題に、いつも以上に多彩で、面白い詠草が集まった。また、選歌で正選に加えて逆選を採用したこともあり、よりスリリングな評が集まったようにも思う。

糸雨 糸雨 糸雨 残りの月が透かしおりコンビニの白き袋なまやか  とみいえひろこ

えび天の直広も居りき夏の夜の実験塔に月の残照  黒路よしひろ

吹き飛ばす秋の夜すがら野分果てて残りの露を吸ふ閨の窓  佐藤元紀

※まずは、自然の景を詠んだ三首。
雨と月を背景にコンビニの白い袋のなまやかさを詠んだ一首目。「糸雨」の繰り返しが、心を打つ。抒情と抒景の美しい融合、という評も。
 実験塔と月の残照という景を切り取って夏の夜を詠んだ二首目。棟ではなく、塔。どうもこの「塔」のファンが関西MLには多いようだ。その聳えるようなシルエットがこころに響くのだろうか、それとも別の要因があるのか。
 露を吸う閨の窓、という妖しい景を見せてくれる三首目。野分の荒々しさと名残りの雨露を吸う窓という対比が鮮やかだ。「閨」の文字からなまめかしさを感じる、という評も。
 ・・・三者三様、まったく違う景を見せてくれるのだが、同時に、いずれも「残」というテーマが淡く、且つ効果的に詠まれていると感じた。


ああきっと残像 光が強すぎるせいで夏は思い出まみれ  杉田抱僕

息の根を止めそこなった残党が古いコートのポケットにいた  ふらみらり

残量が10パーセントで伝えきり僅かに再起動される息  河野瑤

残菊も電照菊もとりまぜて君の身体【からだ】をうずめていくよ  雨宮司

もう二度と電話は鳴らず真夜中に 残、惨、懺、と窓を打つ雨  塩谷風月

※「残」という文字、「残」を含む語句が持つ力とイメージを巧みに示してくれた五首。
 「残像」という語の持つ強さを生かして夏の記憶を詠んだ一首目。独特の口調と韻律で詠まれた下の句がなかなかのくせもの。果たしてこの思い出に実体はあるのだろうか。実体のなさを感じさせるのが面白いという評も。
 「残党」という語の持つ魅力を歌の中で復権させた二首目。上の句はいったい何の比喩だろうか。これを考えるだけで、ご飯が進む。評者たちも、この歌については多弁であった。
 デジタル世界においては「残量」という言葉が新たなイメージを持ちえることを示す三首目。デジタル用語を連ねたあとに、突然登場する「息」。まさにここで息づかいが聞こえた気がした。
 「残菊」と「電照菊」という似て非なる二つの語を並列し、対照し、衝突させた四首目。告別の刻の光景だろうか。菊に身体をうずめた「君」を見送る切なさが美しいという評も。
 「残」の音を使い、巧みに聴覚を映像に転じてみせた五首目。
後悔の念と重なる激しい雨音。残、惨、懺、と画数が多くなる文字が、読み手にも迫ってくるように感じさせる。
 ・・・「残」という文字、「残」を含む語句が内包することばの深みを改めて感じさせてくれた五首であった。
 

やり直す決意で席を立つ僕のカップの底に残るコーヒー  泳二

戦争はどうして起きる食べ残し片づける手に水は冷たい  有田里絵

残り香にまだまどろみて春の宵ゆらりゆらゆら夢な忘れそ  本田葵

乳白のウェッジウッドに残された口紅の色のやうな憎しみ  新井蜜

ゆうぐれの駅、階段ですれ違う少女が残してゆくビート音  雀來豆

※ありふれた日常の中にふと残されてゆく異質なものを詠んだ五首。
 一首目、「僕」を見送るカップの底に残ったコーヒーを描く。暗く冷めたコーヒーだけが未来を知っているかのよう、という評も。
 二首目、「戦争」と「台所」のあいだにいつも存在する食べ残し。日常と、非日常のはざまでのちょっとした「気づき」の感覚なのだろうか。初句、二句の軽さが、逆にリアルな怖さを感じさせるという評も。
 三首目、春、まどろみの中の「残り香」。この香りは、主体にとって異質なものかそれとも調和を感じさせるものか。あっけらかんな恋の歌か、それともこの先の悲恋を暗示しているのだろうか。
 四首目、カップのふちに残されている「憎しみ」。白い陶器と口紅の対照、口紅と憎しみの対照が、鮮やかな歌。医者の話のように長い長い形容詞も面白い。
 五首目、階段ですれ違い際に残されてゆく音。イヤホンからの音漏れか、あるいは足音とか心音のようなものか。その少女独特のリズムがたしかにあることを感じる、という評も。
 ・・・それぞれの詠草のなかで残されているのは、ありふれたものばかりなのに、そこになにやら畏怖を感じるのはなぜだろうか。そんなことを思わせる五首だった。


※自由詠(十三首)は、紙面の都合上、詠草と作者名だけを記します。

ローマ法王のトイレの音を知る蟋蟀が鳴くトレビの泉  塩谷風月

雲のわく南の島に帰れない電気クラゲに刺された朝も  新井蜜

簪の頃の記憶を懐かしむ空のかなたにいる赤い薔薇  本田葵

September 折鶴の羽くたびれて。つかまれそうビル映えの夕焼け。 とみいえひろこ

ドアノブを見て思い出すあの人も首を小さく左右に振った  有田里絵

犠牲革命さあれ燃え尽きむ時知らに俺とおまへの斜陽が昇る  佐藤元紀

牛の首なる支流へは立ち入るな言ったは父か亡祖父だったか  雨宮司

夕刊に秒針が降りつもるほど静かな朔に星を奏でて  河野瑤

缶ビールの泳二が去りし公園に佇めばもうヒグラシの頃  黒路よしひろ

立ち食いのうどんを箸でつかむとき隣の男のシンクロさける  ふらみらり
よーいどん!で駆け出す親子に右折車の運ちゃんも笑む夏の夕暮れ  杉田抱僕

学校を休んだ朝のテレビには見たことのないヒーローがいた  泳二

四色で塗り分けられた世界図に銀河のような数のピン穴  雀來豆


以上、かばん関西九月歌会記でした。
かばん関西では関西在住者に係わらず広く仲間を募集しています。ご興味のある方はぜひご連絡ください。

                            (雀來豆、記)


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by kaban-west | 2017-10-01 14:58 | 歌会報告