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2019年 07月 01日
かばん関西水無月歌会記 【とき】二〇一九年六月二十三日(日曜日)午後一時半から午後五時まで 【ところ】大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco) ルーム6 【参加者】雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵・・・司会進行担当、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(所属なし)、佐藤元紀、沢田二兎(所属なし)、雀來豆(未来)、とみいえひろこ、福島直広 以上十一名。かっこ内に所属先について記載のない人は全てかばん会員。 【進行日程】 六月四日(火曜日)午前 案内を配信 六月二十日(木曜日)正午 詠草提出〆切 六月二十三日(日曜日)歌会当日 六月二十四日(月曜日)午後 選歌結果一覧を配信 【歌会当日の進め方】 開会、会費(ひとり五百円)を集める → 詠草一覧レジュメ(作者名なし)を配る → 披講と選歌 → 選歌提出と集計 → レジュメに沿って意見を述べ合う → 詠草一覧レジュメ(作者名あり)を配る → 口頭にて得票数を発表する → 作者への質問タイム → 閉会 今回の兼題は「七夕に」としました。思い出を詠み込んだり実景を描いたりした十一首が集まりました。当日配布した詠草一覧の順に紹介します。 天の川見たことがない少女らはプールの青に飛び込んでゆく 有田里絵 助詞「が」と「は」の使い方に焦点が当たっていました。「少女らが」とすると限定に過ぎるという意見や、濁音の連続を避けたのではという意見がありました。 きんとぎんのかみに書いてん「おりひぬ」と「ひこまし」その夜逢えたでしょうか 小川ちとせ 幼児の書き間違いを題材にした一首です。大阪弁を交えてユーモラスに歌い、「逢えたでしょうか」と丁寧に結んでいます。作者が幼稚園のころ実際に書いた短冊を、ご家族が大事にしまっていらっしゃるのだそうです。 歩み板踏み継ぎ継ぎ踏み天の川ふみ文月の夜会いにいく 福島直広 韻を踏む効果を考えた歌です。音読してみると発音しにくくて、どうしてもたどたどしくなってしまいます。それが、うまくいかない逢瀬の様子を表しているという評がありました。 すきですと告げあう湖に火がうまれ空洞がうまれ星がうまれ とみいえひろこ ふりがなはついていませんが、漢字「湖」は「うみ」と読みたいです。「告げあう」と表現するだけで人が二人以上いることがわかります。 七夕(しちせき)をたなばたと読めばあかるくて今宵ふたりでする星祭り 久保茂樹 「七夕」「たなばた」「星祭り」と同じことを一首の中で三回も言っているおもしろさ。二人のささやかなお祭りを、星たちも静かに見守っているのでしょうね。 ひと妻のきみを想えどしあわせは織女(たなばたつめ)のように遠いよ 黒路よしひろ 「織女」の語は美しく、手が届かない雰囲気があります。ベタな内容だという声はあったものの、叶わない恋の歌に対してはみなさんそれぞれ思うことがあったようです。 さくらんぼの種を飛ばせば星ひとつかがやきはじむ祈りと癒し 沢田二兎 「さくらんぼ」と「祈りと癒し」の取り合わせには評価が寄せられました。兼題に対して「星ひとつ」だけで足りるのかどうかという違和感を感じる人もあったようです。 惜しの夜のいくとせわかね降る星に何の夢見てゐる牽牛花 佐藤元紀 「わかね」は「わかれる」が元になっています。「何の夢」ではなく具体的に書いたほうがいいという意見がありました。歌の中に「何か」「何の」という表現があると、歌会の席上では「もうひとつ具体的に」「ヒントが欲しい」という声がだいたい出てきます。具体的な単語を入れるにしても、曖昧にするにしても、歌の全体像を見たときに読者を納得させる力を持っていること(必然性)が重要になってくると思いました。 ひんやりと触るる造花の笹の葉に二つの星を引つかけてゐる 雀來豆 下の句がおもしろい、軽いようで考えられているという意見が出ていた歌です。造花の笹はディスカウントショップなどでもよく売っているそうです。 今年また七夕が来る待ったとてあなたの笑みには二度と会えない 雨宮司 内容がそのままでベタであるという意見が複数ありました。それでも作中主体(または作者)には七夕を区切りにしなければならない、もしくはせざるを得ない理由があったのでしょう。そのこだわりポイントが伝わるようにするのは、難しいですが。 夜が明けて天の川より帰り来る織姫を待つ朝粥炊いて 新井蜜 朝粥を炊いて織姫の帰りを待っていてくれる人とは、どんな人でしょう。彦星に会えたかどうかは聞かずに、そっと「おかえりなさい」と言うだけでしょうか。物静かで清楚な雰囲気が高評価でした。 以下、自由詠を挙げておきます。 そのまへを行つたり来たりしてみてもふしあはせな犬は吠えない 雀來豆 直線でダダダっと縫ってワンピースその胸元に飼ふ青い鳥 沢田二兎 本日も秋篠川をたゆたりと尾鰭くねらせ魚影が動く 雨宮司 風に飛ぶ穂絮(ほわた)のやうな恋だつた二十になつた麦秋の頃 新井蜜 星はある、ほんとうにあるいつか死ぬまだここからは見えないだけで 有田里絵 身寄りのないボーイング737が離陸するほら、森がざわめく 福島直広 大丈夫だろうかデモの前線の女の子何か言ってる 長く とみいえひろこ 梅雨空の瞳つやめくおまへへと漆黒の夜をずぶぬれてゆく 佐藤元紀 ズッキーニがかぼちゃの仲間であることの一生言わないほんとのきもち 小川ちとせ 星達が眠るこの夜(I believe)、来世ではきっときみの隣に 黒路よしひろ 遅れたり並んできたりする月を高槻に着くまでは見てゐた 久保茂樹 かばん関西歌会では、発言する機会が多くありますが、人前で話すのが苦手な方は指名されてもパスすることができます。「パスは三回まで」なんて言いません、どうぞお気軽にご参加ください。集中して短歌のことを話したり聞いたりする機会は滅多になく、充実感で満たされながら家路に着くことができます。この気持ちが次の作歌につながっていくと思います。これからも貴重な集まりを継続していきたいです。 (有田里絵/記) #
by kaban-west
| 2019-07-01 22:24
| 歌会報告
2019年 06月 01日
かばん関西皐月オンライン歌会記 【進行スケジュール】令和元年 五月一日午前九時、案内配信 → 五月十四日午前七時、詠草提出〆切、詠草一覧配信 → 五月二十七日午前七時、選歌提出〆切 → 五月二十九日午前、結果発表配信 ・・・以上、かばん関西メーリングリスト上において、有田の進行にて開催。 【参加者】あまねそう・雨宮司・新井蜜(塔)・有田里絵・黒路よしひろ(無所属)・佐藤元紀・沢田二兎(無所属)・東こころ(かばん/未来)・ふらみらり・文月栞・文屋亮(玲瓏)・本田葵・ミカヅキカゲリ・・・・・以上十三名 *所属について記載のない方はかばん正会員、複数所属の方はかっこ内に/にて併記。 元号が令和に変わってはじめての歌会ということで、兼題は「時」、漢字の詠み込み指定としました。十三首が集まりましたが、[時]と[時計]を歌に入れる人が多く、偏った印象も受けました。筆者は詠み込み指定があると熟語から連想をしていきますが、単純で身近な歌に留まってしまいました。もっと遊んでも良かった、と後から考えた参加者も複数ありました。詠草一覧の順に、そのまま記載します。 ◆かばん関西皐月歌会詠草一覧、兼題「時」◆全十三首 連休で時が止まった自動巻時計に命与えてる夜 本田葵 見覚えのない腕時計昨日から私の腕に嵌っています 有田里絵 時を知る蝶はあやまたず野辺を舞ふあやまちたる我には白髪数本 文屋亮 五月晴れ長い休みを持て余し外した時計またつけてみる 文月栞 共感する人が多かった歌。 この帽子どうして買ったものなのか時系列では追えない記憶 ふらみらり あるあるの歌は、そのままになりがちだが「時系列」という語が他の歌と違っていておもしろいという声があった。 ダリの描く時計のようにバスマットの干された空き家どう見ても空き家 あまねそう 絵画「記憶の固執」を扱っているのだろう。シュールな世界観がある。 花壇には蜜蜂の飛ぶ時がきて、膝を抱へて思ひ出してる 新井蜜 あのひとが来たのだと知る夕方の風からたばこの匂いする時 東こころ いまふたり隔てる時がほどかれてついに会えるね再びの日だ 雨宮司 我にはや時なし来鳴けほととぎす暁闇の山越さむ身に 佐藤元紀 よみがなは「暁闇(あかつきやみ)」。 年越しならぬ時代越し わたくしは代わり映えなく彼女が好きで ミカヅキカゲリ 移りゆく時間を忘れてきみと乗る躑躅の蜜もスワンのボート 黒路よしひろ あたらしき時代が確と追いかける眠さうなあいみょんみちょぱにも 沢田二兎 小さい「ょ」がかわいらしい。 ◆かばん関西皐月歌会詠草一覧、自由詠◆全十三首 二度ベルを鳴らすのが良いムクドリに悪いいたづらされないうちに 新井蜜 おまへへと熾るほのほの檸檬一顆自ら毀つ日々へ抛ち 佐藤元紀 よみがなは「熾烈」の熾で「熾(おこ)る」、「毀(こぼ)つ」、「抛(なげう)ち」。 好きなこと続けていれば星が降ることもあるらし初夏のころ 有田里絵 「まき子ロス」嘆いたところ一様に「巻き殺す」だと思われザワリ。 ミカヅキカゲリ 雑草が伸びほうだいの角の家すくすく育つヤマボウシの樹 ふらみらり 血管の破裂動画を見るようだ山手線が人を吐き出す あまねそう 今回の最高得点歌。淡々と詠むことによって怖さとリアリティが出ていると評価された。血管だけではなく「破裂」にインパクトがあり、動画の影響が強い昨今の世相についても考えられている。 真夜中のチーズタルトのなかにある孤独な海をさまよっている 東こころ 葉桜の隣で笑うハナミズキ初夏の陽射しに柏餅食む 文月栞 理不尽な事情にみらい逆流すハチミツ知らぬ間に濁りたるやうに 沢田二兎 六畳の隅にころがる憂鬱と名付けられたるグラスがひとつ 本田葵 嗚呼、俺の令和元年は霧のような雨に包まれ始まった 黒路よしひろ 太陽と緑の芽吹きと微笑みと他にいったい何が必要? 雨宮司 めざしたのはここではなかつたかも知らぬ夕闇に灯る他者の生活 文屋亮 かばん関西は、いろいろな所属の方が参加されています。穏やかに、緩やかに、歌の集まりを続けています。メーリングリストへのご登録だけでも歓迎いたします。お待ちしております。 (有田里絵/記) #
by kaban-west
| 2019-06-01 22:19
| 歌会報告
2019年 04月 01日
かばん関西 二〇一九年三月オンライン歌会記 【参加者】雨宮司・新井蜜(塔)・有田里絵・黒路よしひろ(無所属)・佐藤元紀・沢田二兎(無所属)・蔦きうい(玲瓏)・とみいえひろこ・ふらみらり・本田葵・ミカヅキカゲリ *所属について記載のない方はかばん正会員 今回のお題は「一人二首並べることを承知して詠む」というものでした。雛人形を見て思いついた出題です。十一名から合計二十二首集まりました。詠草一覧のみ掲載します。 ほほ笑みが苦手なことをぬけぬけとその根は赤く光を待ちぬ 沢田二兎 さわさわとほうれん草は濃き色へケの水脈に耳澄ましつつ 沢田二兎 ドクターの本当の名前を尋ねたらそこから先はもう引き返せない 本田葵 ぼくはきみをぼくはきみをと口に出して永遠なんて多分こないし 本田葵 山躑躅【やまつつじ】の蜜を吸はむと中腹の見晴らし台への細き道ゆく 新井蜜 きれぎれの汽笛が聞こえ山裾を貨物列車が遠ざかりゆく 新井蜜 狭庭(さにわ)にはよく刈り込まれたローズマリー早春の朝花を咲かせて 雨宮司 表皮朽ちしらじらとせる茎さらす皇帝ダリアの終(つい)の姿は 雨宮司 恐るべき都市に籠りて我が生は知るも知らぬも足りにけらずや 佐藤元紀 墓地、港、競馬場見ゆる窓辺にはおまへとの旅いざなふ雲が 佐藤元紀 マラソンの最後尾のあと、ずんずんと白バイ2台に足切りのバス ミカヅキカゲリ 足切りのバスにはこころの傷癒やすカウンセラーが常駐らしい ミカヅキカゲリ 動物の肩をしだいに思い出す何度も同じ嘘を告げ合えば とみいえひろこ 動物の肩にもどれば雪は来るひとことひとことほんとうのこと とみいえひろこ 難破した船が黄泉路を漕ぐ夢に荒男荒男【あらをあらを】と呼ぶ女性【ひと】の声 黒路よしひろ 蹴りたるは毬か生首 少女らの袖吹き返す春はまぼろし 黒路よしひろ きみに強いた捌けぐち幾度きみをくたす自ぼれ幾度ふねで漕ぎだす 蔦きうい 旅だねと云ったひとにもこゝろにも旅をさがして去る象の存り 蔦きうい 私の「あのとき」なるは今から来自転車の鍵二回落とした 有田里絵 問わぬ花ひらきはじめたそのときも鈍い重りは沈めたままに 有田里絵 同窓会かつてのあだ名で呼び合うもそっとその名を払う人あり ふらみらり 沈みなよ沈みなさいよと責めたてる 思い出たちがとてもうるさい ふらみらり (有田里絵/記)
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by kaban-west
| 2019-04-01 22:11
| 歌会報告
2019年 03月 01日
かばん関西 二〇一九年 如月歌会記 【とき】平成三十一年二月二十四日(日曜日)午後一時半から五時まで 【ところ】大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco) Room6 【参加者】雨宮司・有田里絵・小川ちとせ・久保茂樹・黒路よしひろ(所属なし)・佐藤元紀・沢田二兎(所属なし)・雀來豆(未來)・蔦きうい(玲瓏) 【詠草のみの参加者】佐藤元紀・ミカヅキカゲリ *所属について記載がない方はかばん正会員 今回の兼題は「春と言わずに春を詠む」です。漢字「春」を使わないことを決まりとして一人二首まで提出しました。 ★兼題「春と言わずに春を詠む」 ちょっとうぬぼれていました午後の陽に鉢植えの梅うっすら匂う 小川ちとせ 「ちょっと」と「うっすら」は一緒に使うと常套な感じがする、作者の心が反映されて、抑えた表現になっている、という意見がありました。二句で切れていますが、三句目までの時間経過がけっこう長くあるようにも読めます。 変えようもなく乗る堺筋線に鬢付け油がふわっと匂う 福島直広 「変えようもなく」は通勤の事を言っているのだろうけれども力のある表現、結句は甘さを感じる、この油は椿油だから兼題に対して椿という漢字を考慮して詠んだのかもしれない、という意見がありました。歌全体を通して読むと空間に広がりを感じて良い、という声もありました。 連れて行ってあげる あなたを星の夜に、さ蕨たちの萌える世界に 黒路よしひろ 観念的な要素が強く、全体がファンタジーの世界であるように見えます。いちばん具体的なのは「さ蕨」ですが、ともかくふんわりとした読後感があります。蕨だからといって、この歌の中で歌われているのが春なのかどうかは限定できないと思います。定形から離れているので、単独で読むと自由詩のような印象を受けそうです。 花を買うほどにもあらず法蓮草三束抱えて祝いとすらむ 有田里絵 とてもささやかな幸せを表現しているという読み方が多かった歌です。「法蓮草」の漢字にやや違和感を覚える、「三束」を「みたば」と読ませるのは良い、結句の「すらむ」は軽く終わりすぎでは、などの意見がありました。 こじらせる度に引く身やみづぬるむ蘆湖につゞく雪のほそ径 蔦きうい 心象風景が描かれているようで、全体的にやや難しい歌であるという印象を受ける人が多かったようです。「や」までの内容とそれ以降とのつながりを想像しようとすると、初句「こじらせる」は人間関係を表していると読めてきます。固有名詞の「蘆湖」に目が行きますが、芦ノ湖の古い名前だそうです。人間関係の難しさは昔も今もそれぞれありますね。 雛祭り「Girl's Party」云うらしい ダイソーによる英訳ならば ミカヅキカゲリ 「ダイソー」のイメージが読み手に備わっていることによっておもしろく読める歌だと思います。歌の意味はわかりやすいのですが、助詞がほとんどないのでぷつぷつ切れた感じがする、という意見がありました。助詞を入れると字余りになってしまう場合にどれくらいまで許容できるでしょうか。歌の中で合計二文字程度なら良いという意見がありましたが、定形・歌意・リズム・歌の主眼など、どの点をどれだけ重視するかによって変わりそうです。 芥子菜を漬け込む厨しらじらと明けそめあえかおまへの寝息 佐藤元紀 四句目の「明けそめあえか」がとても印象的です。「あえか」の前まではすべて結句にかかる序詞のように見えるという読みがありました。からし菜も厨もそれぞれ情緒のある語ですが、恋人のかすかな寝息を感じる場所にふさわしいのかどうか、どこで眠っているのだろうかという声もありました。 かといって溢れるほどの菜の花を(鳥は夢見る)きみに隠していたわけじゃない 雀來豆 パーレンが真ん中に入り込んでくる作りに驚きますね。大胆さを感じたのはもちろんですが、定形を揺さぶる作り方に不穏な印象を受けたりもしました。作者にとって必要だったから使われている表現なのでしょう。「かといって」という歌い出しには惹きつけられます。 花なければしをるることもなき沖におまへと俺の棲む蜃気楼 佐藤元紀 つまりは何もない、無になるという内容の歌で、参加者は程度の差こそあれ救いのなさと突き詰めた気持ちを感じていたようです。「どこまで行っても二人のいるところは蜃気楼なのだ。それでも」という気持ちです。何も明るくないのですが、世界感には強さがあります。 地面からわずかに顔をのぞかせた土筆を「これが美味いよ」と採る 雨宮司 素直に上から下まで読める歌です。土筆を実際に採って食べたことがある人は少なくなってきたでしょうけれど。シンプルな良さがありますが悪く言えば平凡だという意見がありました。そういえば春といえば土筆と答える人があまりいないのにひ、文学表現では割と見かけるというのは、なぜでしょう。学校で配られる手紙に添えられたイラストに使われていることも多いですね。良くも悪くも、実生活と創作との間には乖離があるということでしょうか。 湧水は溶けた硝子ぞひやひやと婚姻色のイトヨが泳ぐ 久保茂樹 とてもよく練られた歌です。「溶けた硝子ぞ」と「婚姻色のイトヨ」という語に評価が集まりました。「でも、溶けたガラスって熱いものですよね」という指摘が出るまで、私は「湧水」と「溶けた硝子」のふさわしさにじんわりと浸っていました。 あきらめることのシアワセ菜の花のお浸しわたしにほろほろ苦い 小川ちとせ 平易な言葉で書いていますが、読みの幅がかなり広い歌であるとも言えそうです。「シアワセ」の片仮名表記は「苦い」と相まってシニカルな読みもでき、小さいながら純粋な幸せとも読めます。また、これは二句切れの歌ですが、順接か逆説かはっきりとは定まりません。作者自身にとっても、いろいろなことがはっきりしないのではないでしょうか。曖昧なことを曖昧なままに暮らすのは、漂う余地があるということ。菜の花を噛みしめて味わうにはちょうど良さそうです。春はそういう季節なのかもしれないと思いました。 落ちているマスクが風に舞ひ上がり時効を告げぬ青い約束 沢田二兎 「時効」には犯罪を連想させるのに「青い約束」は青春歌の常套句と受け取るので、同じ歌の中で使うにはアンバランスでは、という意見がありました。この約束の内容は全くわかりませんが、過ぎてしまった青年期の、まだ未熟で不安定な約束だったのだろうと想像されます。「マスクが、告げたんです」という読みは大変クールですばらしかったです。 次に、自由詠の歌を詠草一覧の順に挙げておきます。 ★自由詠 言霊は(靡けこの山)時を越え、手をふるきみは波のメロディー 黒路よしひろ わたしらしくのらしくって何スヌードのとぐろは肩に棲む厚いくも 沢田二兎 鱈干して月日の腐敗をまぬかれり頭中将うみべにひとり 蔦きうい ダイソーが不思議なことをやっている 今治タオルを売るキャンペーン ミカヅキカゲリ 天そばのホームの端(はた)の天そばのずるずるになった衣うまいなあ 福島直広 「天そばの」の繰り返しは作者独自の使い方です。文法を考慮していないのにしっかりと読み手の中に入ってくるおもしろさがあり、好評でした。 ポケットにシャトルの羽根の欠片ありどんな大人になりたかったの 有田里絵 とびきりのフェイクニュースを書くゆふべ漫画喫茶の水ぬるかりき 雀來豆 (有田里絵/記) #
by kaban-west
| 2019-03-01 22:28
| 歌会報告
2018年 09月 01日
かばん関西 八月歌会記 ◆とき:二〇一八年八月二十六日(日曜日) ◆ところ:大阪府立江之子島文化芸術創造センター Room6 ◆参加者 合計十三名 雨宮司、新井蜜(塔)、有田里絵、泳二(ゲスト)、小川ちとせ、久保茂樹、黒路よしひろ(ゲスト)、佐藤元紀(詠草のみ)、雀來豆(未來)、十谷あとり(日月)、とみいえひろこ、福島直広、山縣彩夏(かばん/未来) *表記のない方はかばん正会員。複数所属の方は/にて記載。当日参加十二名、詠草のみ参加一名、司会進行は十谷あとりさん。 今回は兼題「火」と自由詠を募集しました。また猛暑日となりましたが、時間通り始まりました。 まず兼題「火」について、レジュメの番号順に挙げます。 ★いつまでをつなぐ手だらうひしひしと燠火のいろに夕日がしづむ 久保茂樹 「燠(おき)火(び)」は炭火のこと。炭火の外観は静かですが中身は熱く長く燃えるエネルギーを持っているので、激しくも読めますし、軽やかにも読めます。人生の長い時間を過ごしてきた男女であるという読みが主流でした。 ★遠花火車窓の隅へ通り過ぎ後は無音の山野が続く 雨宮司 電車の車窓を思い浮かべる人が多かったようです。花火の音はほとんど聞こえず、たまたま目に入っただけだと想像されます。どこか乾いた、淡々とした書き方が情景をあらわすのに適しています。主眼点の「無音の山野」は人口の少ない地方なのか、擬人化した静けさなのかもしれません。 ★言ってはいけない思いの熟れる火影かな夜更かしに見るバンブーの葉 とみいえひろこ 「火影」は実景なのか心象の火なのかという点で読みが分かれました。実景だとすると、結句のバンブーの葉が軽くなってしまうという意見がありました。「思いの熟れる」「夜更かしに」の助詞の使い方が、改めて読むとやや不思議な用法でありながらも意味の伝わる個性的な語句になっています。作者によると、バンブーの葉の先が火のように見えたそうです。 ★その先は俺もおまへも不知火の心つくしの闇をにほはせ 佐藤元紀 「不知火」を「知らない」とかけているという意見や、「心つくし」と「闇」は言葉通りの意味で良いのか迷って検索する人が多くいました。行先はあまりよくない道になるだろうことはお互い分かっているけれど、それでも相手のために心を尽くそうとしている、という読みに落ち着きました。この闇が煩悩を含んだ闇であるとすれば、動詞「にほはせ」とマッチしてきます。 ★ヘルニアの腰の痛みや天(あめ)の火を求めて放つ言霊もあり 黒路よしひろ ヘルニアと「天の火」を組み合せたおもしろさがあります。放ったあとに言霊になるのではという意見があり、それに対して主体は心身に痛みを抱えている(「や」を使っている点も理由になりうる)から既に言霊ではないかという声がありました。『万葉集』巻十五にある狭野茅上娘子の歌「君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも」を思い出す人もいました。 ★火を借りたことがきつかけ昼飯をふたりで食べたあとはずるずる 新井蜜 「”火を借りた”は煙草のことだとわからない世代がいるかもしれない」という声がありましたが、今回の参加者は全員クリアしていましたね。「昼飯」の語が加わっていることで昭和レトロを感じます。この「ふたり」は男同士にも男女にも読めて、それぞれ後日談が広がりそうな歌です。 ★暗がりにまばたきの音響くとき脳裏にあがる打ち上げ花火 山縣彩夏 「まばたきの音」に意見が集中しました。普通は聞こえない音だから、男女がぴったり寄り添っていることを表そうとしている、「脳裏に」とあるから主体は一人でいて花火の思い出を描いている、心拍数がものすごく上がっている、などの読みがありました。 ★どなたかを呼ぶ火でしょうか暮れ方をおしろいばながほつほつ点る 小川ちとせ お盆の情景を表す、リズムの良い歌です。真夏に咲く赤や紅色の花がご先祖様につながっているという感覚に共感を覚えます。「ほつほつ」の音が可愛らしく花の様子を表現しています。やさしい気持ちになれますね。 ★するとあなたは腹を立て本を奪へり焚火の中で燃えてゆく薪 雀來豆 出だしの「するとあなたは」は新鮮な驚きを持って受け止められました。「腹を立て」「奪へり」もスピードと強さのある動詞です。ドラマのようでシュールだ、燃えるのが本でなくて良かった、下の句はまるごと心象ではないか、など、展開に惹かれる声が多く聞かれました。どういう状況なのか詳しく書かれておらず、かなりの破調ですが、それらがあまり気にならないのは物語性の力でしょうか。 ★一本の花火のために火をつけたろうそくが燃え尽きるのを待つ 泳二 花火が一本しかないという状況について、「実際には一本で買わないからこの花火は恋心の象徴として使われていて、且つ大人の冷静な恋心であろう」という読みがありました。一方で「残っている花火なら一本(もしくは数本)という場合もあるから、残りの花火を終わらせるため蝋燭に火をつけたのではないか。その場合は花火よりも蝋燭が目的になり歌の内容とも合う」という読みがありました。 ★大文字一度も見ずに祖父は行く糺の森を抜け海を越え 有田里絵 祖父は亡くなっていて、歌全体にどこかこの世のものではないような雰囲気がある、などの感想が出ました。動詞「行く」について、全体が過去の事象であるから現在形には違和感を感じるという人と、当時は確かにこれから行くという状況だったのだから現在形でも良いと考える人がいました。 ★手渡した花火触れた指先岩田耕治の熱すぎた夏 福島直広 数年前にかばん関西ではやっていた架空人物「岩田耕治」を取り入れた歌です。青春の一コマでわかりやすい内容ですが、「上の句はプチプチ切れている印象を受けるから助詞を補うほうが良いのでは」という意見が出ました。そうですね、「指ではなく花火に触れたから熱すぎたのかも?」と冗談のコメントがありましたものね。 以下、自由詠十二首を掲載します。 ふたりけふひとひのくらし揺られつつ路面電車は唸りをあげぬ 佐藤元紀 城山に狐火ゆれる夏の宵下駄を残してきみは帰りぬ 新井蜜 人の子よ熱を冷まそうこのままではドラえもんにも逢えそうにない 有田里絵 読みかけの本を返した帰り道今年最後の夕立が降る 泳二 名神で鈴鹿ナンバープリウスと豊田アコード何だお前ら 福島直広 東京でオリンピックが終わってもまだ食べられるこのサバ缶って 小川ちとせ 鼻歌を聞けばその子の煩悩が全てわかってしまうカマキリ 山縣彩夏 おもひでも減価償却されてゆき少女の向かうに立つ雲の峰 黒路よしひろ ふつつりと蝉のなかない朝がきてふたつの耳がかなしんでゐる 久保茂樹 住宅の影を盗んで一歩また一歩と進む 陽射しが重い 雨宮司 庭の餌台にパンくづ残されて静もる夜のやはらかい月 雀來豆 作者発表の後は、時間いっぱいまで「作者さんへの質問・回答コーナー」を行いました。お菓子の音を合わせながらの穏やかな空気ですが、毎回頭を使って、充実しています。当日の晩は満月でした。まあるく収まる短歌なんてなさそうですが、月のように変わったり変わらなかったりしながら、まだまだ歌を続けていきたいと思います。 (有田里絵/記) #
by kaban-west
| 2018-09-01 21:20
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